■(中学校) 宿題は出さない…、とはいえ
執筆者 市川 慶太(さいたま市立白幡中学校)

勤務校の地域環境や生徒の事態によって異なりますが、結論を先に述べると「夏休みの宿題は出さない」になります。
勉強を「分からないものを分かるようにすること」だとするならば、宿題を出すという行為は、分からない生徒は一向に分からないままになり、社会科嫌いを助長させ、分かる生徒にとっては、ただの作業でしかないので、時間の無駄でしかありません。
中学生という時間は貴重ですし、塾・部活動と非常に忙しいです。プライベートの時間をどれだけ確保してあげられるかが、今後の中学生には必要なことだと個人的には考えています。
ただ、学校事情や学年の意向によって、足並みを揃えて夏休みの宿題を各教科から出すことの方が十分あり得ると思いますので、「もし出すとしたら、どんな宿題を出すか?」を考えてみます。まず、宿題の条件としていくつか挙げてみます。

⑴やりたいなという好奇心が立ち上がること
⑵やらないという選択肢も選べること(全員提出を求めない)
⑶評価・評定の材料にはならないものにすること

3つの条件を踏まえた上で、もし今年度に宿題を出すとしたらどんなものを出すのかを提案します。
1つ目は映画です。普段の生活ではゆっくり時間が取れないので、長期休みだからこそ気兼ねなく観ることができるかと思います。膨大な作品があるため良い作品を探し出すことが難しいので、1学期までの授業や2学期以降の授業のヒントになるようなものを厳選してあげるのが良いかと思います。
1・2年生:「ブラッドダイヤモンド」「きっとうまくいく」「風の谷のナウシカ」
3年生:<歴史>「この世界の片隅に」「風立ちぬ」「アルキメデスの大戦」「島守の塔」・・・戦争単元終了後に見るからこそ歴史的な見方・考え方が働きます。
<公民>「風をつかまえた少年」「マネーボール」・・・国際社会や経済の基礎知識が多く盛り込まれています。

2つ目は旅です。「百聞は一見に如かず」で、実際に行ったことがあるかないかは学びの深さに雲泥の差があります。普段なかなか行くことができない場所に、学校で学んだことと現実とを結びつけて、社会的な見方・考え方を働かせながら、パンフレットや写真を撮ってくるという宿題は好奇心が立ち上がると思います。学校所在地周辺から他地域区分などいくつかリストアップしていくのがよいです。

3つ目は本です。図書館司書さんとコラボしながら、学校の図書館にある本や市内図書館に蔵書があるものを選書してリストアップして発信します。映画と同様に良書を選ぶのがいちばん難しいので、質の高い本をピックアップすることで国語科との相乗効果も生まれるかもしれません。
経済教育ネットワークのメルマガなので、経済に関する書籍のみピックアップしました。
⑴『行動経済学 ヘンテコノミクス』2017年 佐藤雅彦 マガジンハウス
⑵『経済の考え方がわかる本』2005年 新井明 柳川範之 新井紀子 e-教室 岩波ジュニア新書
⑶『三千円の使い方』原田ひ香 2021年 中央公論新社
⑷『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』2018年 高井浩章 インプレス
⑸『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』2019年 中野剛志 KKベストセラーズ

最後に、もしどうしても評価をしなければいけない場合、夏休みの宿題で「主体的に学習に取り組む態度」をどのように評価するのかについて考えてみます。
「主体的に学習に取り組む態度」は2つの側面(自ら学習を調整しようとする態度+粘り強く学習に取り組む態度)で見取ることになっています。しかし、夏休みの宿題を強制・もしくは与えられたものをこなすという意味であれば、本質的な「主体性」は表れにくく、どちらの側面にも馴染まないことが多いように思います。
各教師の評価の基本が「減点方式か加点方式か」によって大きくことなりますが、上記の3つの条件で夏休みの課題を評価するならば、広い意味での「主体的に学習に取り組む態度」の表れとして、加点してあげる程度のおおらかな評価の方が、宿題に取り組んだ生徒にも、「主体的に判断して」取り組まないという判断をした生徒にとってもベターな評価の仕方ではないかと個人的には考えています。

■(高等学校) ユニバーサルデザインの視点を意識した課題を
執筆者 中山 義基(京都府立洛東高等学校)

 そろそろ夏休みの課題の準備に取り掛かろうとされている先生もいらっしゃるのではないかと思います。
どうせ取り組ませるなら、長期休業中だからこそ取り組ませたい課題を設定したいものですね。そして、どの生徒にもやりきらせて提出させたいものです。そのような、いわば「ユニバーサルデザインの視点を意識した夏休みの課題」を出すための提案をしたいと思います。

*新聞は厳しいが…
 新聞のスクラップは夏休みの課題として定番ですが、近年は新聞をとっていない家庭も多くなってきました。しかし、新聞は読ませたいのが社会科教員の性というものです。
本来、生徒一人一人に興味・関心のある記事を選ばせたいところですが、それが難しい場合、それぞれの学校の生徒の実態に応じて、これくらいの内容やレベルの文章は読めるようになって欲しいという難易度で、生徒にとって身近で、且つ考えさせることができる内容の記事を教員側で選んで課題とすることも一考かと思います。
課題の内容ですが、いきなりその記事についての意見を述べさせる課題を出しても、ユニバーサルデザインを意識した課題とは言えないかもしれません。ここではまず、記事をそのまま書き写す課題を設定します。これは漢字を書くことが苦手な生徒も含め、誰でもできる課題です。そして、意味の分からない語句の意味を調べさせリストアップさせます。
ここまでできれば、その記事の内容を大筋で理解できていると考えられますので、ここで初めて、意見を書かせたり、さらにその記事の内容に付随する探究的な課題を出したりすることが可能になります。

*CMを使った課題
 バラエティやドラマを、テレビやYouTube、サブスクリプションでどうせ見るのなら、合間に流れるCMを使った課題を出すのはいかがでしょうか。
たとえば、好きなアイドルや俳優が出演しているCMについて、その人物をその企業が起用しているのはなぜかを考えさせます。自分が好きなのですから、そこから想像できるでしょう。それが正しいかどうか、企業のホームページで調べさせたり、商品のラインナップ等から考えさせたりします。
企業のホームページを見たついでに、その企業の歴史や経営理念、IR情報等についても調べさせます。ただし、専門的な内容も掲載されていますので、どのコンテンツにどのような情報が掲載されているのか事前に学習しておく必要があるでしょう。
また、CMのキャッチコピーから、その企業が売りとしていることはどのようなことなのか、今後どのような商品を出していきそうか考えさせる、探究的な課題を設定することも可能かと思います。
さらに、曜日や時間帯によって流されるCMの種類が異なりますが、どの曜日のどの時間帯にどのような種類のCMが多いかを調べさせることによって、そのことに気付かせる課題を設定することもできます。
また、海外のCMと日本のCMの比較をさせる発展的かつ探究的な課題を出すこともできると思います。

*乗り物から
 鉄道や航空機に乗る機会があるなら、その機会も課題として設定できます。
特に東海道新幹線では、各車両の両端部に各種案内がスクロールする表示がありますが、その合間に企業のCMが短く流れます。どのような企業のCMが多いか、東京~新大阪間で調べてみるのも面白いでしょう。短い言葉に込められた企業の思いを考えさせることも可能かと思います。
また、空港にはどのような企業がどのような広告を出しているでしょうか。発着空港で比較してみると新たな発見があるかもしれません。

*自由研究のアポリア
 子どものころ、自由研究は何をしようか思い悩んだものです。
しかし、ユニバーサルデザインの視点を重視すると、何をしようか思い悩む以前に、何から手につければよいかモデルが示された経験がないので分からない生徒も一定数存在することに気付かされます。
「何を研究するかなんて自分で考えなさい。それも研究の一環なのだから。」と言われたものですが、それでは通用しない時代になってきたのかもしれません。

Tags

Comments are closed

アーカイブ
カテゴリー