執筆者  行壽浩司(福井県美浜町立美浜中学校教諭、兵庫教育大学連合大学院生)

(1)公民分野の悩み
中学校の公民的分野では憲法の条文に則り、自由権や社会権、参政権などの学習を行う単元が設定されています。授業者としてはどうしても憲法の条文の解説に多くの時間を割いてしまいますが、これは避けたい。
法という抽象的な概念から、私たちの生活における様々な場面、具体的な事象へとつなげてゆける授業が求められていると思います。

(2)社会権を切り口に
 社会権の学習では生徒の目が輝くような、魅力的なネタが多くあります。
例えば、団体行動権では、「野球のメジャーリーグで素人を集めて試合をした球団があるか?」。(答え、ある。選手がストライキをして出場を辞退したため。-フジTV『トリビアの泉』より)
教育を受ける権利では、「明治時代の小学校の出席簿、この<黒ちょぼ>はなに?」(答え、<黒ちょぼ>は欠席マーク。このクラスでは25人中皆勤はたったの3名。女子は全休が18人中13人。-福井県教育博物館より)
こんなネタによって具体的な事象へと学習が展開してゆきます。

河原和之氏のクーラーと生活保護の関係が問題になった「桶川事件」を扱った実践に触発されて、筆者がこのネタを福井県の公立中学校三年生に対して行いました。
「ガラケーなら固定電話があれば必要ないのではないか」
「スマホがあるなら検索機能があるのでパソコンは必要ないのではないか」
「電子レンジは冷凍食品を食べなければよいのではないか」
「いや、冷凍食品を食べることができないのは健康で文化的な最低限度の生活に反しているのではないか」
「冷凍食品は文化的かもしれないけれど、健康的かというと…」と、教員の想定していた以上のものが出てきました。

(3)もう一歩深めるために
このような社会権を扱った後に、生存権の考え方や、生活保護という制度について生徒に聞くと、おおむねこの制度に賛成します。しかし、本当にそう思っているでしょうか。それは「予定調和」的な答えであり、教員のオーダー(言ってほしい模範解答)に応えている「おりこうさん」な答えではないかという疑問が浮かび上がります。

ここでもう一度資料を提示して、生徒の価値判断を揺り動かしたい。
「もしも先生が働けなくなって生活保護を受けたとしたら、健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な金額っていくらだと思う?」という問いをなげかけます。
「健康で文化的な最低限度の生活」をすべての国民が送ることができるのはよい事(善)であり正しい事(正義)であると生徒は思っていけれど、では具体的にどの程度の金額が必要なのか、とさらに問うてゆきます。
インターネットのサイトで計算したところ、20代後半の独身男性であれば月約13万円とのことでした。

このネタからさらに二つの問いを導き出すことができます。
一つは、具体的に月13万円が必要だとして、目の前の先生が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むためにそれだけの税金をかけることに、あなたはやはり賛成ですか、反対ですか?と問い直す発問です。
「行寿先生だったらクーラーじゃなくて扇風機でよくない?笑」という意見が出てくると教室が盛り上がります。
みんなで笑い合いながら、「そのように人によって判断は変わっていいのかどうか、それこそ人種の違いや性別の違い、身分で判断は変わっていいのか」と、追求していくことで生徒は「う~ん」と考え、近くの生徒とミーティングを始めてゆくのです。
生徒にとって「話し合いたい」と思える問いということだったのでしょう。この問いは、より正義や公正について考え、深めるきっかけになります。
このような学習法は高等学校「公共」の学習にもつながるはずです。

(4)ダメ押しの問い
もう一つの問いは、月13万円という金額が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要であるとしたら、それ以下の金額で生活している若者の存在は、憲法が保障している生存権の考え方に反しているのではないか、政府はこのような貧困世代を救済する政策をとるべきではないか、という問いです。
そこから絶対的貧困率と相対的貧困率を説明してゆきます。「日本は先進国で豊かな国」という授業を小学校の頃から受けてきた生徒にとって、「日本は貧しい国である」という新しい事実は刺激的なはずです。

抽象的な内容理解に終止しがちな公民的分野の学習を、ネタという具体的な事象を通して深めていく。そして「予定調和」的な価値判断意思決定を超えるために、生徒自身の価値判断が揺れるような重層的な問いをたてる。
社会権以外にも魅力的なネタやそこから派生する問いはたくさんあるはずです。それを発見しながら授業をつくってゆければと思っています。

(メルマガ 141号から転載)
 

執筆者  大塚雅之(大阪府立三国丘高等学校)

(1) 高校生の一番の関心は?
高校生の一番の関心事はなんでしょう。受験やクラブ活動と言う回答もあるかもしれませんが、本音では恋愛ではないでしょうか。どんな生徒であっても、それなりに興味をもって聞く話といえば、まずは恋愛、そして結婚といっても過言ではないでしょう。
今回は。最近結婚した私の知人の話などを参考に、恋愛の先にあるかもしれない結婚に関する事例を二つとりあげて、それらの活動がいかに経済概念と関連するか、社会科や公民科の授業での題材になりうるかを考えてみたいと思います。
そもそも恋愛から結婚にいたるまでにはさまざまな過程があります。

(2) 結婚相手を探す過程
昔はお見合い、戦後は恋愛結婚が主流したが、現在では結婚相手を、SNSを活用して見つけることが増えてきているようです。
『「家族の幸せ」の経済学』(山口慎太郎、光文社新書)では、現在の日本のカップルの2割がマッチングサイトで出会っているというデータが紹介されています。また、『オンラインデートで学ぶ経済学』(ポール・オイヤー著、安藤至大解説、NTT出版)よると、アメリカ人の三分の一超が結婚相手をネット上で見つけ、しかもそのようなカップルの方が結婚後の幸福度が高いという結果が出ているとのこと。
実際に、日本国内でも怪しげで要注意な出会い系サイトばかりでなく、ペアーズなどといった無料登録のマッチングサイトを多くの人が活用しているようです。また、楽天オーネットなどの有料サイトになるとそれだけ本気度の高い人たちが集まる傾向にあり。成約率も高いようです。
例えば、それぞれのマッチングアプリやサイトがどのようなビジネスモデルで行われているのか、実際はどうなのか、問題点は何かなどを考えさせてはどうでしょうか。
そのような活動を通して、最近注目されているシグナリングやネットワーク外部性の理論の概容を紹介したり、学校選択や臓器移植のような恋愛や結婚以外の具体的事例を探させ、関心を広げさせたりする活動につなげる授業が可能になるのではと思います。

(3) 指輪選びと交渉
ここでは結婚指輪を購入しようとしている某カップルと店員さんのやりとりを再現してみます。

店員さん:「当店では、はじめて来られる方限定で○○%割引させていただきます。」
彼女:「とりあえず見に来ただけなんですけど」
店員さん:「多くのお客様が、初めて来た際に指輪を購入しております。こちらの指輪をご覧ください。」
彼女:「めっちゃきれい。」
彼氏:「他とも色々比べてからの方がいいよ。他の店に行ってから戻ってきても、割引は適用されますか?」
店員さん:「いいえそれは困ります。初めてご入店いただいた方のみ割引が適用されます。」
彼氏:「でも、やっぱり違う店の指輪も見た方がいいよね。」
店員さん:「分かりました。上の者と相談してみます」
店員さんはバックヤードに行き数分後
店員さん:「上司と話し合いまして、今回は特別にまた戻ってこられたときにも同じ割引を適用させてもらいたいと思います。」

このようなやりとりを提示し、交渉教育を取り入れるというのはどうでしょうか?
『話し合いでつくる中・高公民授業 交渉で実現する深い学び』(野村美明他、清水書院)では交渉する際の指針として、以下の7つを示しています。
1、人と問題を切り離そう
2、立場ではなく利害に焦点を合わせよう
3、双方にとって有利な選択肢を考えだそう
4、客観的基準を強調しよう
5、最善の代替案(BATNA= Best Alternative to a Negotiated Agreement)を用意しよう
6、約束(コミットメント)を用意しよう
7、よい伝え方を工夫しよう

上の事例の場合は、どの指針を特に重視するかを話し合わせたり、実際に交渉のロールプレイをさせたりするというのはどうでしょうか。
そうすると、5つめの指針であるBATNAを意識し、他店の指輪をきちんと確認し、その価格等をもとに交渉に臨むのが適切ではないかという意見がでるかと推測します。
ここでも、交渉教育で終わらず、そもそも取引はwin-winの関係であることを教えるといったことも考えられます。また、他にも人間の心理についての知見を取り入れた行動経済学の理論を紹介したり、消費者問題に発展させたりすることも可能ではないかと思います。

(4) 多面的・多角的に
今回は結婚を題材にした経済学習の提案をしてみました。結婚というと同性婚や別姓の是非など政治分野で法的問題として取り上げられることが多いと思います。また、家族の在り方やその変化という文脈で社会学的に扱うことも多いかと思います。そんななかで、今回の提案のように、経済からの切り口もあり得るということで、参考にしていただければ幸いです。
ただし、この提案、実際に授業化するには、生徒の状況や学校の教育方針、プライベートでセンシティブな事情を扱っているという点を考慮する必要があるなど、様々な留意点があることにもご注意ください。

(メルマガ 140号から転載)
 

執筆者 山﨑辰也(北海道北見北斗高等学校)

(1)二つの栃木
 北海道佐呂間町に栃木という地名があります。なぜ、北海道に栃木なのか。そこには鉱毒事件を巡る歴史の暗部があります。
この地区の歴史を掘り起こし紹介したのは、私が今勤務している高校で50年ほど前に社会科教師を勤めていた小池喜孝さんです。

 小池さんはもともと東京の小学校教師で、草創期の社会科に関する討論会に、当時32歳で現場教師の代表として参加された人でした。しかしGHQによって公職追放にあい、公職追放解除後、1953年から教職に戻ることになりますが「東京だけは絶対お断り」として北海道の北見北斗高校で社会科を教えることになりました。小池さんは北見の地で地域の民衆史掘り起こし運動で活躍し、数々の本を残しました。その中の代表作が『鎖塚―自由民権と囚人労働の記録』(岩波現代文庫)です。この本の「あとがき」に、次の文章が記されています。

  「(北見の)北方に、ひときわ高い仁頃山が見えます。山の向こうには、足尾鉱毒移民が、『奸策』をもって、明治44年に入植させられた栃木部落があります。」

(2)二つのカリキュラム
 なぜ、小池さんの紹介をしたか。それには、経済教育をめぐる二つのカリキュラムの対立と相克の歴史があるからです。

 アメリカの経済教育には大きく2つのカリキュラムがあることが指摘されています。それは「学問中心カリキュラム」と「社会問題中心カリキュラム」です。
 学問中心カリキュラムとは、学問知(経済学)によって教育内容が規定されるものです。それに対して、社会問題中心カリキュラムとは、教える側の先生が社会の中から学習内容となりうる教材を選択し、生徒はその中から興味・関心に基づいて学問知を取り入れて社会的行動につなげるものです。
日本で言うならば、前者は系統学習の系譜に属し、後者は問題解決学習の系譜に属するものとして位置付けることができます。この両者は、これまでの社会科の歴史のなかではシーソーのようにゆれてきました。

私は、この「学問中心か、社会問題中心か」を二項対立にするのではなく、どちらの立場でも取扱われる学問知を大事にして、2つのカリキュラムの両立を図ることを目指しています。
このため、基本的には「学問中心カリキュラム」の発想で授業を展開しつつ、テーマによって「社会問題中心カリキュラム」の発想を使って、学んだ学問知が問題分析の道具として役立つという実感を持てるような学習活動をおこなうようにしています。そのためには、教師による社会問題の事例選択が大きなカギとなってきます。生徒に社会問題を自分ごととして捉えてもらうには、地域の事例を用いることが一番だと思っています。
 その一つが、最初に登場させた、公害と栃木地区の話です。

(3)公害と地域社会
 公害は、外部不経済の問題です。その影響は、地域社会、地域経済に負の影響を与えます。経済の授業ではここで普通は終わります。
 しかし、それだけでは生徒に問題を十分に自分事として捉えさせることはできないと思います。

 佐呂間町栃木集落は、足尾銅山の鉱毒対策として渡良瀬遊水地を造営するために、この遊水池に沈む栃木県谷中村の人たちの移住先として政府が用意した場所だったのです。明治政府は稲作農民たちに、こんなオホーツク海からの寒風吹きすさぶ山あいの土地で何をさせようとしたのでしょうか。
鉱毒問題を治水問題にすり替えた明治政府と、その背後の古河財閥にたたかいを挑んだ田中正造の政治家としての生き方は公民科の教科書にも書かれています。しかし、それだけでは、地域社会に引き起こした深刻な亀裂と、政府の政策にしたがった元村民たちの苦難の歴史は浮かび上がりません。
経済活動の背景やその結果まで伝えて、考えさせる。そこまでやってはじめて生徒にとっての問題意識や課題意識が生まれるはずです。

 この栃木集落への移住事例を公害問題に関連させて、経済の授業で紹介したことで、生徒たちは教科書に出ている公害問題を自分とは遠くにある一般的なものから、自分たちとは無縁でない出来事と捉えてくれたようです。そしてこのような地域の事例に対して、学問知である経済概念(外部不経済)を使って、外部不経済を内部化するために明治政府はどのような方法を取れば良かったかを考察する活動を行ったことで、「何が問題かを考えることができた」「考える手がかりがつかめた」との生徒の声がでてきました。

(4)両立を目指して
 人の価値が多様であるように、カリキュラムにも政治的思惑や社会に対する基本的な捉え方の対立が存在すると言われます。
だからこそ、学習指導要領を無自覚に是とし、上意下達で学習内容を生徒に受け流すだけになっていないか、それは果たして世の中の仕組みを理解し、課題に立ち向かう主体的な主権者を育てるものとなっているか、ということを教師である私自身が自問自答していく必要があると思っています。
そのなかで、地域の課題や隠された歴史などを掘り起こしながら、学問をベースとした社会問題を追究する経済の授業がつくりあげてゆければと考えています。

(メルマガ 139号から転載)

執筆者 杉浦光紀(東京都立井草高等学校)

(1)授業再開と新たな課題
緊急事態宣言が解除され、各地で臨時休業となっていた学校が再開しました。
生徒は久々に友達と再会して、元気一杯です。こちらも「ようやく教室で授業ができる」と気合が入りますが、密集・密接を減らすために、グループ・ワークなど話し合いを中心にした授業の制限が課題となり、頭を抱えてしまいます。
そこで、これまでと完全に同じスタイルの授業に戻すのではなく、オンライン授業で利用した手法も取り入れて生徒の意見を還元し、「対話」のある授業を考えます。

(2)オンライン授業の意図せざる効果
 オンライン授業では、ウェブ会議システムを利用した双方向型の授業と動画配信システムを利用した映像型の学習に大別されます。勤務校はこのうち、動画配信を採用しました。
映像視聴後の学習を充実させようと、ウェブ上でアンケートを作成するシステムの利用を試みました。そのシステムを用いて、生徒に毎回「事後課題」の提出と「授業や課題で考えたこと、疑問に思ったこと」を記入させるのです。
すると、教室で取り組ませる時以上に、よく考えられた論述や、本質的だと感じる質問が出るのです。生徒の具体例と質問への授業者の応答をまとめ、PDFで閲覧できるようにしたところ、「他の生徒の論述のすばらしさに驚かされた」という意見もありました。
事後課題やフィードバックにより、じっくりと考えること(自己との対話)、自分以外の人の意見を読んで再び考えること(他者との対話)が実現されていました。オンライン授業の意図せざる効果です。

(3)教室とウェブ選挙を考える
 東京では授業再開早々に、公民科としては見過ごせないイベントが迫っています。それは、都知事選です。
候補者の主張を比較して自らの判断基準を考え、投票の体験をする模擬投票も大事ですが、経済教育の視点から選挙を考えさせる主権者教育もあります。
投票行動のライカ―・オードシュックモデル(以後、意思決定モデル)を用いて、まず、ウェブ上で考えさせてみるのはどうでしょうか。

 先生:なんで投票に行く人と、行かない人とがいるのでしょうか?
 生徒A:行く人は、義務感を持っているのと、投票により暮らしがよくなると思っているからです。
 生徒B:行かないのは、めんどうくさいし、何をしても変わらないと思っているのでは。

生徒の発言内容を意思決定モデル「R=P×B-C+D」(期待利得=確率×利益-投票コスト+義務感)に整理し、このRが>0では投票し、≦0では投票しないと考えられることを示します。
意思決定モデルで考えると、投票日に雨が降っていたらC(コスト)が高いので投票しないと考える人がいるかもしれない。大勢が投票する場合、自分だけの投票で当選するとは考えづらく、候補者選びも「機会費用」が高いと考えれば、行かない方が合理的という「合理的無知」という考え方もあります。
一方で、自分の影響力や利益、義務感を高め、投票コストを減らすような対策により、投票行動を増やすことができる可能性も意思決定モデルから考えることができます。

(4)アンケート集計と教室での話し合いの準備
先生:意思決定モデルの「P(確率)」「B(利益)」「C(コスト)」「D(義務感)」のいずれか2つに着目して、投票者を増やす「声かけ」を考えてください。

ウェブのアンケートシステムで回答させ、次回の教室での授業で生徒が共有できるように生徒の解答はまとめておきます。
教室での話し合いをする場合は、距離をとって、回数や時間を絞ることが求められます。事前に内容を共有することで、短時間で話し合いが済むことにもつながります。また、「D」を単に義務ではなく、Democracy(民主主義)の価値の重視でもあると補足します。

(5)「新しい日常」の中の学び
 学校の「新しい日常」として、マスクの着用徹底、生徒の健康観察、手すりやドアノブの消毒などの取り組みにより、感染予防を進めていることでしょう。学校行事や部活動の大会が延期や中止となり、様々な制約が今後も継続するとともに、感染者数が急増すれば休校となることがあるかもしれません。
そのような状況でも、学校で「集団で」学ぶことの良さとは、ある問題について「どう思う?」と問いかけ、他者の「こう思うのだけど」を共有し、自己の意見を相対化することにあります。
学びがいのある問題とオンラインも利用した手立てを用意して、直接の対話に限らず、多様な生徒が共に学べる場をつくることができたら素晴らしいと思いませんか。

執筆者  塙 枝里子(東京都立農業高等学校)

(1)はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大で学校が臨時休業となり約3ヶ月が過ぎようとしています。この間,「学びを止めない」を合言葉に全国の学校でオンライン授業など先進的なの取り組みがされてきました。
しかし,オンラインの有無に関わらず,今後求められるのは「学校で学習するリアルな授業」内容を精選することによって,効率的かつ深い学びを目指していくことではないでしょうか。
そこで,今回は経済分野でどのような単元学習が可能かを提案したいと思います。

(2)教材案 「なぜ,市場に任せているとうまくいかないのか,考えてみよう!」
・科目:「現代社会」(対象:第1学年)
・単元名:現代の経済社会と経済活動の在り方〜市場経済の機能と限界,政府の役割
・学習内容の全体構成:
ステップ1~学習内容について,ワークシート等で基本事項を確認する【学外】
ステップ2~ワークシートの提出,確認テスト,三密を避けたリアルな授業【学校】
ステップ3~単元のまとめとなるレポート(1枚程度)を作成【学外】
*次の単元でステップ1に戻る
(この繰り返し,リアルな授業は何回確保できるのかで単元構成も考慮)

・ステップ1 リアルな授業の展開例
 先生:「皆さんには,市場経済の機能と限界,政府の役割についてワークシート上で考えてもらい,先ほど確認テストをました(ステップ1の確認)。今日は,なぜ市場に任せているとうまくいかないのか,じゃんけんを通して考えてみましょう。」
*じゃんけんルールのスライドを示す。

先生:「皆さんは,パーとグーしか出せません。パーで勝てば11点,グーで負けたら1点がもらえます。ただし,グーであいこなら10点ずつ,パーであいこなら2点ずつがもらえます。もちろん,点数が高い方が勝ちです。かけ声は私がかけるので,皆さんはエアーじゃんけんですよ。」
*再開後,生徒の座席は市松模様に配置する予定で,発言を想定していません。

先生:「さぁ、じゃんけんをしてみよう!!じゃんけーんっ」
*4回で区切り,繰り返し行う。得点の確認,優勝者の決定

先生:「優勝者の人,おめでとうございます。さて,この場合,最も勝つためにはどうすれば良いでしょうか(一方がパーを出し続ける)。では,二人の合計が高くなるようにするにはどうすれば良いでしょうか(二人でグーを出し続ける)。」
*囚人のジレンマについて説明し,公共財,寡占市場における値下げ競争などの市場の失敗,国際政治における軍縮の例につなげる。また,トイレットペーパーや買い占めなどの話に展開しても良い。
*なお,厳密には買い占めは囚人のジレンマではなく,鹿狩りゲーム協調ゲームで説明出来るそうです。

先生:「このように,市場に任せてそれぞれが利益を最大化しようとしてうまくいかない場合,政府が登場します。実際,皆さんが目にする経済活動にはこのようなケースが多いのですが,他にどのような事例が考えられるでしょうか。これまで学習した内容でも構わないので,今日の授業や教科書を参考にしながらレポートを作成してきましょう。」(ステップ3へ)。

(3)あの手この手で効率的で深い学びを目指せ
 日本全国で進むオンライン授業やホームルームの話を聞くたびに,私の生徒たちは大丈夫だろうかと不安と焦りばかりが募っていました。でも,やっと顔を見ることが叶いそうです。
ただ,当面の間,対話を伴う活動を避けるため,生徒による発表や話し合い,ディベートには制限がかかります。それでも,会えない時間が長い分,会えた時の授業では,そこでしか出来ない学びを追究したい。
リアルな授業では,他者と共に学ぶ喜びを分かち合う教室を目指そうと思います。

 (メルマガ 137号から転載) 

執筆者 金子幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校)

(1)はじめに ~私たちの前にある道~
 2020年春、社会が大きく変わってしまいました。二ヶ月前には「在宅勤務」、「オンライン授業」が話題の中心になるとは思いもしませんでした。本稿では,2020年春,多くの教師が一番困っているであろう「オンライン授業」と経済教育とをセットで皆さんと一緒に考えてみたいと思います。前提としてはパソコン中級者の先生(私も同じ)を想定しています。
 このような中、私たちの前には大きく四つの道が用意されています。
 第一の道は、パワーポイントのようなソフトに学習内容を掲載して私たち教師の声をのせて配信するという道です。昔のラジオ講座のようなイメージでしょうか。
 第二の道は、カメラで授業を実際に撮影し、録画したものを配信するという道です。これは放送大学のイメージです。
 第三の道は、リアルタイムで、端末を介して多くの生徒と授業を進めるという双方向の道です。
 第四の道は、学校のホームページなどに課題や解説を提示して各生徒に学習してもらうという道です。
 このなかで筆者は第一の道であるパワーポイントに教師の音声をのせての経済学習を試みることにしました。対象は高校3年生の「政治・経済」を想定しています。

(2)教材案「マスクはどこに?」
 顔も見たことのない生徒が対象です。教室で呼吸を感じることもありません。まさに手探りです。不安の中、次のような授業案を考えました。

a)今起こっていることを確認する
 パワーポイント第一枚目のスライドにマスクの絵を大きく映し出します。その絵を見ながら二人の教師による次のような会話をパワーポイントにのせるのです。
A先生 「なかなかコンビニエンスストアではマスクが売り出されませんね。」
B先生 「そうですね。いつも品切れですと書かれていますね。」
A先生 「国内にはたくさんのメーカーがあるのだから,そろそろ生産されてもいい頃なのに・・・」
B先生 「作れば儲かるのにね。」

A先生のナレーション
 「さて・・・みなさんは,マスクがいつまでたってもお店に入荷しないのはどうしてだと思いますか?ワークシートに思いついたことを書いてみましょう。」
(同時にパワーポイントにも同じ文字を映す)
B先生 「A先生、この写真を見てください。」
 (パワーポイントに新聞記事に掲載された写真を映す。その写真はマスクを生産している現場が撮影されている)
A先生 「マスクを生産している工場の写真のようですね。作っているじゃないですか。」

A先生のナレーション
「さて・・・マスクは生産されているようですが・・・どうして皆さんの町のコンビニエンスストアに運ばれてこないのでしょうか?記事を読み、その中から理由をみつけてみましょう」
(同時にパワーポイントに記事のテキストを映し出す)

A先生 「みんなは理由がわかったかな?その理由をワークシートに書いてみよう」
 ここまでは、私たちを取りまく身近な問題を取り上げた新聞記事を読みながら学習を進めました。

b)問いを細分化する
 次は、「どうしてマスクがいつまで経っても売られないのか?」という問いをたてます。この種の大きい問いは、いきなり考えさせるのではなく、まずは、細分化することがポイントです。
教室ならば生徒に発言させ、その結果を分類するのですがオンラインではなかなかうまくいきそうにもありません。次のような展開を考えました。

A先生のナレーション 「どうしていつまで経ってもマスクが売られないのか?その理由を思いつくまま10個あげてみましょう。」
  (パワーポイントに指示文を示す。イラストや写真も一緒に載せて彩りよいスライドにするよう心掛けます)
 これはワークシートに書かせます。ここでは時間をとります。

B先生 「きっといろいろな理由が挙げられていると思います。せっかくですから分類してみませんか?」
A先生 「そうですね。分類してみましょう。どのようにわけますか?」
B先生 「みんながあげてくれた問題を、
①作り手に原因がある場合
②運ぶ仕組みに問題がある場合
③売るところに問題がある場合
④ウィルスに問題がある場合 
⑤貿易に問題がある場合 
⑥政府の対応に問題がある場合
⑦その他に問題がある場合に仕分けしてみたらどうでしょう。」
といって、生徒があげた10個の理由のうしろに①~⑦までの番号をつけさせるのです。
  (ここまでの指示も丁寧にスライドに書き込みます)
 仕分けをしたらその結果をレーダーチャートに作成するように指示します。

c)大きな問いへ
 そして、b)で提起した最初の問いを考えさせます。
A先生 「皆さんが作成したレーダーチャートからどのようなことが読み取れますか?」と生徒が自分で作成した資料の意味を読み取らせます。
B先生 「マスクが皆さんの手元に届けられるような社会にするために、どのような工夫が必要だと思いますか?」と質問して、用意したワークシートに考えたことを記述させます。
ここまでが第一段階で、次の時間には、最後のB先生が発した問いに対する生徒の回答をさらに吟味してゆくという流れになります。

(3)オンライン授業の教材づくりに挑戦するには
 パワーポイントで教材をつくる、また声を吹き込むのは難しいと感じてしまう先生もいるのではないでしょうか。まずは、A先生とB先生のようにペアになって10分程度のスライドを作ってみませんか?
 
ポイントは次の通りです。 
① 10分間のスライドで課題を三つくらいだす
② 課題は新聞記事の写真をきっかけにすると生徒の心の中での問いに近づくことができるのではないか?
③ 話題は「今の問題」(今回はマスクにしました)がいいと思います。
④ 新聞記事の写真、テキストデータから問いを二つほど提示。
⑤ 問題を細分化する作業を入れる
⑥ その中から問いの意味するところを感じさせる
⑦ どのような工夫をすることで問題が解決にむかうのかを考える
⑧ ふり返り とワークシートの提出(メール機能?)で合計約40分の学習。
⑨ あれもこれも教えようと欲張らない

(4)おわりに
  まさか・・・バレンタインデーの頃、このような新年度が待っているとは想像もしませんでした。今回の提案は急遽考えた授業案です。新入生の「現代社会」だったらどうなるだろうとか、この問いでいいのかなど、たくさんの問題点がありそうです。
皆様のご意見をお寄せください。そしてWEB上で皆さんと学び会うことができたらとてもうれしく思います。  

(メルマガ 136号から転載)

執筆者 杉田孝之 (千葉県立津田沼高校)

新年度、新学期はどんな生徒が来るのだろう、今年度はこんな授業をして、このように授業を改善していきたいなど、新たな気持ちで生徒を迎えていることでしょう。そこで、今回は新年度の授業を始める前にやっておきたい準備と4月当初の授業について書きたいと思います。

(1)習慣化の絶好のチャンス
 授業開きする前に、生徒との約束事を考えます。必要になる約束事は以下のようなものです。
 一つは、最近「整理、記名できない生徒」が増えているので、全員に教科書や資料集に記名させて自分のものと確認をさせます。
 次に、授業の始めと終わりの時間を守ることを生徒に約束させ、教師も約束します。 また、この時間は、説明を聞く時間なのか、討論する時間なのか、個人で考える時間なのか、声を出して頭に入れて覚える時間なのかなどを区分して授業をすすめることを宣言して、生徒にも授業の受け方として習慣化するようにと確認します。
 特に、時間を守ることと、授業時間を区分して臨むことを習慣として1年次に当然のことだとしてしまえば、高校3年生までこの習慣を続けられるはずです。

(2)黙読の時間の準備
  新テスト実施に向けた試行テストでみるように、問題文の正確な内容理解と、統計資料を読み取ることばかりでなく、それらを短時間に大量にこなすことが必要になっています。
  そのために筆者は、昨年から授業のなかで黙読の時間を取りはじめました。この準備と習慣化が4月の課題です。 黙読の時間を導入するには、読むに値する読み物や統計資料を準備することが4月当初の課題になります。
 準備した教科書や資料集、授業で取り上げる主題に応じた読み物や統計資料を黙読させると、その部分だけでなく、多くの活字と統計資料などを正確に、かつ短時間に読み込むことができるようになります。そうなるために、まずは、読む習慣を付けるための黙読の時間を取り入れる、それを授業の中の習慣とするのが4月当初の課題と取組みです。

(3)4月当初から経済概念を
 次は年間の授業構想のなかの柱を考えることです。 筆者は多くの場合、高等学校で一年生対象の「現代社会」を担当しています。
「現代社会」では、普通は、現代社会の特質や青年期などからはじめる先生が多いかも知れませんが、筆者は、4月当初に希少性や機会費用、トレードオフ等の経済概念をあえて取り上げます。そして、これらの概念を、その後の、教科書での学習や時事問題、主題学習の内容と関係づけて、年間を通じて続けて実践するスタイルを続けています。
 しかし生徒にとっては、中学校公民的分野の授業から想像していた内容や授業スタイルとは大きく異なるので、びっくりします。そして、「先生は何を求めているのだろう」という疑問をもったり、「理解できない」と不安に思ったりする生徒も多くでてきます。
 なぜなら、社会科の授業に対して多くの生徒は「この用語は大切そうだから覚える」という姿勢や感覚を持っているからです。言い換えれば、大切ではないとする用語や分からないとした用語は覚えない、考えない。筆者が語る経済概念は大切そうだが、簡単には受け止められないからです。
 この抽象的な経済概念が、自らの生活圏で普通におこなっている選択と結びついていることが分かったり、分からないから「理解しよう」と考えて、質問をしたりするようになれば最高なのですが、理想どおりにはいきません。

(4)「問い」を作る学びの機会を
 特に、4月当初は、経済概念をなかなか理解できません。生徒は何のためにこの経済概念を学ぶ必要があるかも分かりません。
  一方で、筆者は、各学習単元のどんな場面で、またどんな学習でこの経済概念が活用できるか、さらに社会科学系大学に進学しても、この経済概念は活用できるという見通しを持っています。
「理解できない」「わからない」生徒の現状と、筆者の見通しの間のギャップを埋めるには、経済概念を、一年を通した授業のなかで、場面、場面で何度も繰り返して登場させることが必要になります。それでも簡単には生徒は理解してくれません。 それを突破するためにできるのは、「問いの一文」を生徒に作らせて、質問や意見を言う機会を何度もつくる必要があります。
 逆に言えば、生徒が「問いの一文」を作るためにも、あえて「理解できない」「わからない」抽象的な経済概念を使って考えさせる、そんな場面を授業のなかで作ることができるかがポイントになります。 生徒と筆者がともに「問い」を持つことをめざすために、あらかじめ「どのように授業設計し、実践すれば生徒は問いを持つのだろう」と考えておく必要がでてきます。
 そんな一年間を通した授業構想や問いの立て方をじっくり考える事ができるのは、「授業開き」をする前の時期です。 先生方も「授業開き」の前のこの4月にこんなことを考えてみませんか。

(メルマガ 135号から転載)

執筆者  新井明

(1) ある授業風景
 先日、公開授業を参観するチャンスがありました。
その授業は「倫理」で、『桃太郎』を素材にして、「桃太郎は父を殺した」と言う鬼の子どもの訴えをもとに、正義は鬼か桃太郎かという授業でした。見学した授業では、子どもの訴えをもとに、鬼と桃太郎それぞれの言い分を提示して、前の時間に提出したどちらが正義かという結論を、もう一度考えさせるという流れで進みます。
 生徒は、最初の桃太郎に正義があるという回答から、グループでの討議を経て、最終的にどちらが正義かをまとめて発表します。それをうけて、先生が、いろいろな立場の人がいて、考え方が違うので、対話が必要という形でまとめてゆきました。
 この授業を見て、二つの問題を感じました。
 一つは、もう一歩の踏み込みがあったらいいのに、もったいないなという思いです。もう一つは、ここに「おもしろ教材」を使う場合の落とし穴があるなという感想です。

(2)「おもしろ教材」の落とし穴
 この授業の何が問題と感じたのか。
それは、「おもしろ教材」の「おもしろ」部分に目がいって、「教材」の吟味、分析が十分でなかったかということだと筆者は思いました。
 授業では、生徒は楽しそうにグループ学習を行ない、見学にきていた校長先生は「普段の授業とはずいぶん違う」とお褒めの言葉を発していました。とはいえ、この教材から何をくみ出して、伝えるのか、もしくは発見させるのかという教材分析がやはり十分ではなかったのではないかという思いは残りました。
 この授業は「倫理」ですから、生徒に伝えるかどうかは別として、少なくとも正義論の古典的な押え(カント、ミル、現代ではロールズなど)が欲しかったところです。民俗学的な考察も欲しいところです。
 もしこれが「公民的分野」や「政治・経済」だったら、模擬裁判にしたり、ディベートにすることも可能でしょう。 ちょっと牽強付会に経済に結びつけるなら、桃太郎会社の社長と社員、社員間の比較優位の組み合わせという視点も考えられます。
 「おもしろ教材」の陥りやすい問題は、生徒の食いつきの良さや意外性に注意がゆき、教材への吟味が不足になりがちなところと言って良いでしょう。 残念ながら、そんな落とし穴に半分はまってしまった授業のようでした。

(3)「おもしろ教材」を分析してみると
 このコーナーでも、「おもしろ教材」の例として絵本や童話を教材になどの提案をしたことがあります。(2015年4月号8月号9月号
 そこで今回は、あらためて「おもしろ教材」の例をあげて、教材としての切り口を提示してみたいと思います。
とりあげるのは、『レモンをお金にかえる法』のその1です。(ストーリーは省略します。手に取って読んでみてください。また、その2は昨年末の「冬休み経済教室」金子幹夫先生が、アッと驚く展開例を提示していますので、それをご覧ください。)
 さて、『レモン』をどう分析してゆくか。
①価格の決まり方から市場経済のメカニズムの学習として見る
 レモネードという商品市場は完全競争市場に近い設定です。そこから、一度の交渉で決まる自然価格、市場の売手と買い手(多数のこどもたち)の   思惑から決まる市場価格と価格決定の物語として展開もできます。
 この時、グラフを使って市場価格の決定を可視化することも可能です。
②企業経営の話とする
 本のなかに、企業の目的は利潤をあげるということが出てきます。ここから、ミクロ経済学の企業理論に持ち込むことができます。どうしたら    利潤が最大に出来るか、数式にして計算させてもよいし、グラフで説明することも可能です。
③金融の話とする
 主人公は、店を開くとき自己資金では足りないので父親から借金をします。最後には「耳をそろえて」返済しますが、利子はどうするか、父親以外  から調達する場合はどうするか、など起業と金融の話に持ち込めます。これって、今度の学習指導要領の内容そのものですね。
④ゲーム理論の導入にできる
 主人公の女の子と元労働者のジョニー君は価格戦争をやります。これはゲーム理論の囚人のジレンマ状況そのものです。それを解消するために合併をするのですが、寡占企業の結託はうまくゆかないというゲーム理論の世界へ誘い込むこともできます。
⑤労働問題の話とする
 主人公の女の子に雇われたジョニー君は賃金、労働条件が不満なので争議になります。レモネード屋さんはブラック企業なんですね。そんなとき に、労働者としてどうするか、現代的な切り口で話を展開もできます。
 また、機械による失業が登場して、AIに職場が奪われるというこれも現代的テーマに発展できます。
⑥起業の物語として攻める
 最後に主人公の女の子が「成功した企業家」になったという文章がでてきます。ストーリー全体を起業家教育のススメの教材とすることができま す。
⑦文化論で迫る
 女の子の行動はどうも日本人の感性とは大分ことなって、ドライです。なんでこんな話を子ども向けの絵本にするのか、隠されたメッセージは何かを考えさせることを通して、単なる経済の絵本ではないのではという形の問題提起も出来ます。
 もっと切り口はあるでしょうが、一つの「おもしろ教材」を分析するだけでこんなに多面的要素が浮かび上がるのです。

(4)問題は「教師の解釈」
 小見出しの表現は、斎藤喜博の本から取りました。
斎藤喜博は今や知る人ぞ知るという存在になってしまいましたが、昭和の時代のすぐれた授業実践家、理論家です。
 偶然手にしたその著作のなかに、授業案の作成について触れた箇所があり、そこに「教師の解釈」という言葉がでてきました。
そこにはこんなことが書かれていました。(『授業の展開』国土社より)
 「この項(教師の解釈)には、その教材に対面したその教師の全部の力が結晶されて表現される…」「この項を読めば、その教師がどれだけの力を持ち、どれだけ深く確かに教材を解釈し、教材と対面しているか、その教材での専門的な力をどれだけもっているかわかる…」
 ちょっと怖いほどの迫力です。
 どんな面白そうな教材でも、それに食いつき、咀嚼し、それを生徒に還元してゆくプロセスは、時代を超えて変わらないでしょう。そのことを通して「おもしろ教材」の落とし穴にはまらない授業が成立するのだろうと思います。
 
 それにしても、ここまで書いてみると、斎藤流に言えば、筆者の力量が白日のもとにさらされてしまったようで、筆は災いの元かもしれません。

(メルマガ 134号から転載)

執筆者 新井明

試験は、出題者である先生が生徒に対して、こんな知識が分かっているかとか、 こんなテーマに関してどう考えているかを確かめるための方法です。そこでは、 出題者と解答者がある意味上下関係から成り立っているのが普通です。今回のヒントは、それを逆転させてみたらという話です。

(1)生徒がテスト問題の原型をつくった
テスト問題に関して、昨年末の「冬休み経済教室」で、杉浦光紀先生の発言のなかで、興味深い部分がありました。定期考査に出題した論述問題が、生徒が自習時間 の課題で作ったものを母体として作成したというところです。生徒の立場からすれば、テスト問題は、たとえて言えば、ご主人様から家来にご下問が下るという関係の、受け身の作業と言ってもよいでしょう。 それを自分たちが作ることができるということは、家来から主人になるという逆転現象です。主体的な学習という言葉がスローガンになって授業案や実践報告には登場しますが、生徒が本当に主体的になるというのは、よほどのことでなければないというのは先生方なら実感していることだろうと思います。 それが生徒に試験問題を作成させることで、比較的簡単に実現出来る可能性があることが、杉浦報告からわかります。

(2)まずは四択問題から
生徒にテスト問題を作成させる場合は、まずは四択問題からがよいでしょう。共通テストの試行問題で言えば、アダムスミスに関して正しいものはどれかという「現代社会」の問題がありました。こんなかたちで、生徒に四択の選択肢を作らせてみたらどうでしょう。
この作業はグループ学習に適しています。四人一組だと、正答の文章を四人が一つずつ作る。それを持ち寄って、みんなで吟味します。次は誤答つくりです。どこをどう間違えるようにすればよいか、誤答作成の過程で、出題のコツのようなものをつかむことができるでしょう。これは主体的学習でもあり、テスト対策にもなります。

(3)次は読み取り問題
四択問題作成の延長でできるのはデータやグラフの読み取り問題です。
これはすでに出題された入試問題などからもってきてもよいし、授業で使ったデータを使っても良いでしょう。四択問題と同じように、グループでこのデータから読み取れるものを一人一つ出し合い、それを問いの形にしてゆけば、いいわけです。今年のセンター試験の「現代社会」で言えば、大学入学者数の関係学科別男女のグラフがあります。試験問題では、グラフから何が読めるかの選択問題でしたが、ここから日本の大学教育、さらにはこのような実態をどう考えるか、修正の必要はあるのか、修正するなら何が必要かなどの「問い」を立てることができたら、十分な学習課題を自分たちでたてたことになります。

(4)もっとひろげると
四択、読み取りの次は論述問題です。場合によってはこちらの方が作るのはやさしいかも知れません。使うのは高校生だったらセンター試験、もしくは共通テストの試行問題のリード文になります。場合によっては教科書の本文を使っても良いかもしれません。一番簡単なのは、まとまったリード文を読ませて、ここから100字とか200字の論述問題を作成させることです。問題作成のためには、リード文の主題が何である
か、そこからどんな「問い」が出てくるかを考えなければいけなくなります。まとまった文章の読解力、分析力が求められます。
もっと応用だと、リード文をもとにした、対話文をつくらせて、そこから「問い」を作るという作業を行なわせても良いでしょう。これには相当の学力が求められるでしょうが、私たちが定期考査などで行なっている作問のプロセスを生徒に行なわせる、もしくは一緒に考えてみるのも主体的な授業づくりの道になるでしょう。

定期考査直前にこの作業を行なわせて、そこから何題か出題するよと予告しておくと、生徒の取組みに対するインセンティブが格段に上がるでしょう。でも、こんな人参を目の前にぶらさげるのは、やりすぎかな。

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