■(高等学校)
ChatGPT以後の教育~教師はどう向き合うか~
執筆者 東京都立井草高等学校 杉浦 光紀
(1)高校生とChatGPT
こんなことがあった。「新書」を読んで発表する課題を出し、図書室で本を探させていた。ある生徒が「ChatGPTに聞いてみようかな…」とつぶやく。やってみて、と促すと、スマホですぐさま「高校生におすすめの新書を教えて」と質問。ChatGPTが5冊ほどの本を提案する。最初に紹介したのは、太宰治の『人間失格』。それをみて、「人間失格は、新書じゃないです」と生徒が入力し、ChatGPTは「すみません。ご指摘ありがとうございます」と答える。生成AIと気軽に対話することは、高校生にとって日常となりつつある。
(2)ChatGPTの影響
ChatGPTやBing Chat、Bard等の文章生成AIを利用したことがない人は、使ってみてほしい。自然な対話形式で、本当に何でも答えてくれる。文章の要約・推敲、翻訳、アイデア出し、書類作成、キャッチコピーの提案、ラブレターや俳句、小説も書ける。完全自動運転や火星探索より、教育への影響は大きい。今までと同じ考え方で、授業や学習評価をしてはいられない。生徒が宿題や課題の提出に、生成AIを用いているかを把握している教師はいるだろうか。丸投げして作成されたレポートなどを高く評価しては、教育の本質と学習評価の公平性を損ないかねない。
今年度、ChatGPTの影響の当事者になり頭を悩ませた。事前に「問い」や条件を提示し、授業で学習した考え方を活用する180字程度の論述を、毎回の定期考査で出題してきた。その問題をChatGPTに打ち込んでみると、高校生がしそうな間違いを含んだ回答が表示され、何度か質問すると正答にたどり着いた。今までも、友達の解答を真似したり、ネットの知恵袋に相談したりする生徒はいた。しかし、手軽に「思考や表現(創造性)のアウトソーシング」が可能となっては、出題の仕方を考え直さざるをえない。いわば、「ChatGPT以後に、詩を書くことは茶番である」。
教師の反応は両極端
ある定時制の高校では、その高校を卒業ための方法を質問して、現実とのズレが多い回答の不適切さを話題にしたとか、ある進学校では、ChatGPTが答えた内容を生徒に検討させた上で、こんな一般論ではない回答をせよ、という授業をしたと聞く。授業で使ってみせ、回答の不十分さや安易に使うことの問題を教えているケースもあれば、取り上げていない先生もいる。文章生成AIなどは「恐るるに足らず」とする先生もいれば、一方で「レポートをやめた」という先生もいた。
生徒自身の経験や授業に基づいた内容を書かせるなど、課題を工夫すれば、少しは対策になる。AIが書いた文章を判別するツールがあるから、問題にならないとの見方もある。しかし、文章を生成させるときの「プロンプト(指示・命令文)」で、いかにも高校生らしい作文ができる。OpenAIの識別ツールは、9%の確率で人間が書いた文章も「AIが書いた」と誤認するのが現状。さらなる技術の進歩が見込まれるなか、厳密に見分けるのは不可能である。各大学は方針を出したが、学部長から使わないようにと通達したとか、使った場合は使ったと明記など中途半端である。文科省による指針も出され、提出課題の評価は「内容が理解され、⾃分のものになっているかを確認する活動を設定する」など一部は参考になる。しかし、実際にどうするのか、課題は山積している。
(3)学習評価における課題の本質
本人の能力を測ることを建前に、成績をつけている。しかし、提出物において、答えの丸写しはよいのか、保護者や兄弟に代行してもらうのはダメか、または、徒競走に自転車を用いてもよいのか、算数の問題に電卓を用いるのはダメか、などと考えるとChatGPTが明らかにするのは、「新しくて古い問題」である。評価のあり方や学校の役割への反省を要する。テクノロジーは「身体や感覚の拡張」である。その人自身の能力を測るのか、機械や文化資本により拡張された能力を測るのか。課題の内容、出し方、方法を見直すことになる。
(4)生成AI時代の学習評価を考える
前述の考査における論述問題は、論述の条件(特定の用語を使うなど)だけ提示し、「問い」自体は事前に教えないことにした。あらかじめ、時間をかけて作成することはできなくなったが、試験時間内で考える力を、公平に問うことはできる。この他に、生成AIの心配を減らすための対処法を考えてみる。
・対処法①「生成AIの利用を義務付けた学習課題」
学習過程のなかで、むしろ、全員に生成AIを使わせる。ただし、内容の真偽は、作成者の責任だと理解させる。ChatGPTは、存在しない文献を生成したり、学習データに含まれる偏見を反映していたりする。高い精度で「それっぽい答え」を出力するが、「幻惑」と呼ばれるとてつもない嘘も平気でつく。ゆえに、ファクトチェックが必須であることも実感させられる。
ChatGPTに5回まで質問をして、そのやりとりも添付させ、結果を考察する課題を出した先生がいた。たとえば、今の日本経済の状況ついて、AIに質問をして、回答が事実かどうかを分析する課題や、SDGsを意識した起業のアイデアをAIに検討させ、より優れたアイデアにする課題も考えられる。全員が利用しているので、機械に拡張された能力の評価という点では公平な扱いとなる。また、ビジネスの世界では、どのように仕事に活かすことができるのか話題になっている。保護者への確認や校内での合意を取り付けて、生成AIの積極的な活用と限界を理解する学びが重要である。
・対処法②「自分の力だけで考察や表現をさせる学習課題」
題材設定、生徒間の話し合い、まとめの文章化など、授業内で段階ごとに生成AIを利用しないでアウトプットさせる機会を全員につくる。その一部や積み重ねを成果物として評価の対象とする。授業時間内という同じ制限のなかで、どこまでできるのかを評価すれば、定期考査と同様に平等である。こうした評価を、対処法①とは評価の場面を区別し、計画的に組み込むことが考えられる。
課題を出して放置するような学習の場合、ChatGPTの代行がタイパ(タイム・パフォーマンス)のよい方法だと考えてしまう生徒もいるだろう。これでは、思考力・表現力・表現力等を育成することができない。校内でエッセイのコンテストをしている学校の先生は、途中でフィードバックを与えながら自力で文章を作成する過程を重視していた。たとえば、金融や年金に関する小論文のコンクールがあるが、生成AIの作品をそのまま出すのは不適切である。授業内で自分の経験を振り返り、特定のテーマについて自分の意見を書く機会などを用意し、自力で書く力をつけていれば、その能力を発揮する機会として有効なものとなるだろう。今まで以上に、思考し表現する過程に着目して、教室空間での指導を尊重することにもなる。
(5)AI活用学習の可能性
「おすすめの新書」をAIに質問した生徒のように、ネット上の膨大な情報から生成された、それらしい内容と、対話し吟味しながら、考えを深める姿が、今後は自然なものとなっていくだろう。AIと学習者の二人三脚での学習である。ただし、AIにおんぶに抱っこで、依存することは、自らの課題解決能力が身に付かないだけでなく、危険である。また、教師が利用できることも多い。穴埋め問題づくりや課題の例を学習させての類題づくり、授業のアイデア出しなどもできる。
AIはここまではできる、ここから先を考えなさい、が授業展開の定番となるだろう。ただし、ありきたりな「問い」は許されず、生徒が「答え」を導き出す過程への支援が大事になる。また、ChatGPTを利用するなかで、質問力や問い続ける力を育成することにつながるかもしれない。質問の「壁打ち練習」ができ、疑問をもって、それを追求するための問いを生み出す力、探究力が伸びる。テクノロジーが学習を加速して、同じ時間でできることが増え、要求水準を上げることもできるかもしれない。
(6)今後、何を目的に教育していくのか
人間が、AIによって拡張された能力を善悪の価値判断のもとに使う態度を培うこと。AIと協働して出した答えを具現化する行動力、つまり、現実世界への働きかけ、人が人と関わり、人間が人間を感化し、よりよい社会を成すこと。AIの答えの不足に気づける高度な知識や批判的思考力をもつこと。社会に向き合いつつも、自己省察を伴う、学ぶことに閉じない教育が「ChatGPT以後の教育」には求められる。注意すべきは、自分で考えることを放棄する教育であり、目指すべきは、自分で考える楽しさと経験を重んじる教育である。そのためには、囲碁や将棋のように、人間の世界で勝負するのか、AIを用いるのか、学習において区別がいる。
生成AIを「悪の凡庸さ」と論じる海外の識者もいる。目的をもち、目的を吟味できるのは人間であり、画一化した図式に当てはめずに、新しい光を当て直す知性が人間に残された最後の仕事となる。本稿もいずれ機械に学習され、データの海のなかから生徒へと紡ぎ出される言葉の一つとなるだろう。その言葉を手にした生徒が、その言葉に流されず、批判的思考をもって問い直す主体になるには、どうしたらよいか。今、ここから考えていきませんか。
参考文献等
・平和博著『ChatGPT vs. 人類』文春新書
・古川渉一、酒井麻里子著『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』インプレス
・日経クロストレンド編『ChatGPT&生成AI 最強の仕事術(日経BPムック)』日経BP
・文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン(Ver1.0)」
■(中学校)
グループ学習をICTで組織するためのハウツー
執筆者 埼玉県鳩山町立鳩山中学校 中西 覚
みなさん、ICTは何の略だか知っていますか。そうです、「一回ちょっと使ってみる」です。
どんなことでもそうですが、大切なのは初めの一歩です。こんな授業をしてみたいという希望をICTは叶えてくれることが多くあります。まずは一回ちょっと使ってみて、合わなければ別の方法を模索しましょう。こうして繰り返すうちに、必要な場面で効果的にICTを活用できるようになります。
数多くのツールがありますが、今回はMicrosoftのOneNoteをご紹介します。ぜひ“ICT”してください。
(1)準備するハードウェアとOneNoteについて
タブレット、PC、スマートフォン、どれでも利用可能です。
OneNote はMicrosoftアカウントがあれば無料で使用できます。多くの学校ではMicrosoft Office 365 EducationかGoogle for Educationのアカウントを利用しているでしょう。Googleの場合は、Google Keepが類似アプリです。そちらをお試しください。
(2)OneNoteの使い方と利点
操作方法はYouTube等を見ながら学ぶのがおすすめです。
以下にグループ学習でのOneNote利用の利点を3つ紹介しますので、どのような使い方ができそうか思い描いてみてください。
①共有の容易さ
OneNoteでは複数の人が同じノートブックにアクセスして情報を共有・編集ができます。共有範囲を変えて作成・閲覧したり、教員が進捗を確認したりできます。教室外からもアクセス可能で、様々なニーズに対応した協働学習が可能です。
②多様なメディアの統合
OneNoteではテキストだけでなく、画像や動画などの多様なメディアを挿入できます。教員が作成した資料を生徒に配布することもできるので、生徒は手元の資料を確認しながら円滑な話し合いができます。
③整理と検索の容易さ
ページやセクションを自由に作成できるため、科目やトピックごとに整理されたノートを作成できます。検索機能もあるので、必要な情報を素早く見つけることができ、思考も整理できます。
(3)具体的なグループ学習での活用方法
例えば、プリントに考えを書かせて班で共有し発表させる場合、OneNoteを使うとプリントをカメラで撮影して共有できます。班の意見をまとめる際には文字入力だけでなく手書きも可能です。作成したノートは大型モニターに映し出すこともでき、タブレット端末からも閲覧できます。ですから文字が小さくて見えないといった問題も起こりませんし、思考させたい内容そのものに時間を取ることができます。
今回は数多くあるツールの中からOneNoteを紹介しました。ICTを活用することで、授業の充実度を高めることができます。この機会に「いつもちょっと使ってみる」ようになってもらえれば幸いです。
学校教師は電脳生徒の夢をさますことができるか?
執筆者 新井 明
このタイトルを見て映画『ブレードランナー』の原作タイトルを思い浮かべた先生がいたら敬意を表します。
なぜ、このようなタイトルの文章を書いたのか。きっかけは二つです。
一つは、高校三年生の「政治・経済」の講座で赤点をとった二人の女子生徒に追試がわりに「10年後の28歳になったときにどんな生活をして、それをするためにどのくらいのお金がかかるかを調べて書きなさい」という課題のレポートの内容が印象的だったことです。
もう一つは、その学校の図書館から借りて読んだ、原田ひ香の小説『老人ホテル』の内容がその生徒のレポートとシンクロしたからです。
間違えて選択した生徒
筆者の担当している講座は必修選択の講座です。本来なら受験で必要だからなど何らかの動機や関心をもっているはずです。しかし、赤点生徒は、他にとりたい授業がなかったし、卒業単位をそろえるのにはその時間帯にはこれしかなかったという消極的、ある意味極めて正直な理由で受講登録をした生徒たちでした。
彼女らは、授業中はぼーっとしているか、こっそりスマホを眺めている電脳少女で、担当者としてはこれでは危ないと早くから思っていた生徒です。
中間も赤点で、そのあとどうしたら良いかと相談を受け、かくかくしかじかの勉強をすれば最低点はとれるはずと励ましたのですが、期末も残念な結果でした。
そこで救済の課題となった次第です。
生徒の希望
二人のレポート結論は大変似ていました。二人とも結婚をして家庭を持つ。それまでは、一人はフリーターとして生活をしながらお金を稼ぐ、もう一人は専門学校にいってそこで得た技術でお金を稼ぐというものでした。それぞれ、家をでて一人暮らしをした場合の初期費用や学費の計算を調べて書いていました。
それを読んで二人ともよく似たライフプランであることがとても印象的でした。また、彼女らの関心が自分をとりまく世界のなかからなかなか抜け出せないのも印象的でした。
小説世界のリアリティ
もう一つのきっかけの小説『老人ホテル』の作者原田ひ香さんは、『3000円の使い方』がベストセラーになった最近注目の作家です。
『老人ホテル』は、ビジネスホテルの一階をついの住みかとする訳あり老人たちと、そこで清掃員として働く天使(エンジェル)というキラキラネームを持つ高校中退、キャバクラ勤務経験の24歳の主人公との関わりを描いた小説です。
そこで取上げられているのは、貧困女性、それをとりまく生活保護で生きている大家族、虐待一歩手前の子育てであり、そこから抜け出そうとする主人公です。
一方の訳あり老人たちは、天使の生育歴を聞こうとする元ジャーナリスト、不動産投資で財産を築いた老女、株式投資をする老人などです。
小説的な面白さは別として、経済の授業と関連するのは、不動産投資をしていた光子という老女が天使に指南するお金の使い方、ため方であり、生活スタイルの立て直し方の箇所です。
具体的な指南は胸に響く
同書からその指南を抜き出してみます。
光子は、まず、天使に今日何を食べたのかを言わせます。それがいくらかかったのかを思い出させて、一日の食費を計算させます。それを30倍すると一月の食費がでてきます。天使は自炊をしていないので、収入の半分近くが食費になるということを自覚させることからはじめ、簡単な自炊方法を教えでゆきます。
次には、1000円を天使に渡して、指定の品物を買わせ、そのレシートを保存するように指示します。それで支出の管理をさせるというわけです。
次は住です。住居費を出させて、安いアパートを探させます。ここも具体的な場所や探し方の指示を出して、転居させ、少しでも貯金ができるようにさせます。
貯金するために銀行口座をつくらせ、そこに毎月の残余のお金を入金させます。それが一定程度たまったら、株式投資の老人にバトンタッチをして、運用方法を指南させます。
ほかにも、正社員になれ、など細かい具体的な指示が書かれていますが、省略しましょう。ポイントはすべて具体的な指示、指南です。
授業は小説に勝てないか
ここまで紹介した部分は、小説的な面白さをもって書かれています。
主人公の天使が、名前とは違って邪悪な心ももっていること、でも現状を抜け出そうとしているところ、老人たちの奇矯ぶり、それを突破して知恵を引き出すテクニックなど、小説ならではの筆致です。
この面白さと具体性に対して、授業で扱う消費者教育やパーソナルファイナンスはどうしても一般論でしかなく、太刀打ちできません。まして、市場経済の仕組みや財政、金融、景気変動などマクロ経済の話はどこの世界の話かねという感覚だろうと思います。
それでは授業は小説に勝てないのでしょうか。そんなことはないはずと筆者は思いたい。もしそうなら、授業中に小説を読ませればいいし、映画を見せておけば良いことになってしまいます。
勝つポイントは、比較優位です。もっと言えば授業の比較優位が提示できれば勝たなくともいいのです。小説のリアルさ、切実さ、面白さに対抗することはできないけれど、経済は面白い、お金のことだけではないのだよというきっかけを与えることができる領域や場面さえ見つけられればそれで授業は十分に意味があるものとなるのではと思います。もう一つ言えば、今の世の中の風潮や仕組みを与件として考えないこともできるということが伝えられれば、それはそれで大成功かもしれません。
勝負はこれからだ
では、具体的にどんな授業が電脳少年・少女に伝わるモノになるのか。河原和之先生の提唱されているユニバーサルデザインの授業が一つの突破口になるでしょう。そんな授業の具体例や実践を次世代の先生方に探究して欲しいと思うのです。そのためには、この授業のヒントのコーナーや今夏の経済教室が、「腑に落ちる」「伝わる」授業作りの提案や討論の場となるといいなと思っています。
ちなみに、赤点電脳少女たちのレポートは添削して返却、その時にはいろいろと雑談をしながら話をしてゆくつもりです。また、次に赤点をとったら、原田さんの本を紹介して、読ませようと思っています。でも、これは授業の敗北かもしれせんね。
そうなる前に、いかなる授業を組み立てるか。夏の宿題になりそうです。
■(中学校) 宿題は出さない…、とはいえ
執筆者 市川 慶太(さいたま市立白幡中学校)
勤務校の地域環境や生徒の事態によって異なりますが、結論を先に述べると「夏休みの宿題は出さない」になります。
勉強を「分からないものを分かるようにすること」だとするならば、宿題を出すという行為は、分からない生徒は一向に分からないままになり、社会科嫌いを助長させ、分かる生徒にとっては、ただの作業でしかないので、時間の無駄でしかありません。
中学生という時間は貴重ですし、塾・部活動と非常に忙しいです。プライベートの時間をどれだけ確保してあげられるかが、今後の中学生には必要なことだと個人的には考えています。
ただ、学校事情や学年の意向によって、足並みを揃えて夏休みの宿題を各教科から出すことの方が十分あり得ると思いますので、「もし出すとしたら、どんな宿題を出すか?」を考えてみます。まず、宿題の条件としていくつか挙げてみます。
⑴やりたいなという好奇心が立ち上がること
⑵やらないという選択肢も選べること(全員提出を求めない)
⑶評価・評定の材料にはならないものにすること
3つの条件を踏まえた上で、もし今年度に宿題を出すとしたらどんなものを出すのかを提案します。
1つ目は映画です。普段の生活ではゆっくり時間が取れないので、長期休みだからこそ気兼ねなく観ることができるかと思います。膨大な作品があるため良い作品を探し出すことが難しいので、1学期までの授業や2学期以降の授業のヒントになるようなものを厳選してあげるのが良いかと思います。
1・2年生:「ブラッドダイヤモンド」「きっとうまくいく」「風の谷のナウシカ」
3年生:<歴史>「この世界の片隅に」「風立ちぬ」「アルキメデスの大戦」「島守の塔」・・・戦争単元終了後に見るからこそ歴史的な見方・考え方が働きます。
<公民>「風をつかまえた少年」「マネーボール」・・・国際社会や経済の基礎知識が多く盛り込まれています。
2つ目は旅です。「百聞は一見に如かず」で、実際に行ったことがあるかないかは学びの深さに雲泥の差があります。普段なかなか行くことができない場所に、学校で学んだことと現実とを結びつけて、社会的な見方・考え方を働かせながら、パンフレットや写真を撮ってくるという宿題は好奇心が立ち上がると思います。学校所在地周辺から他地域区分などいくつかリストアップしていくのがよいです。
3つ目は本です。図書館司書さんとコラボしながら、学校の図書館にある本や市内図書館に蔵書があるものを選書してリストアップして発信します。映画と同様に良書を選ぶのがいちばん難しいので、質の高い本をピックアップすることで国語科との相乗効果も生まれるかもしれません。
経済教育ネットワークのメルマガなので、経済に関する書籍のみピックアップしました。
⑴『行動経済学 ヘンテコノミクス』2017年 佐藤雅彦 マガジンハウス
⑵『経済の考え方がわかる本』2005年 新井明 柳川範之 新井紀子 e-教室 岩波ジュニア新書
⑶『三千円の使い方』原田ひ香 2021年 中央公論新社
⑷『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密』2018年 高井浩章 インプレス
⑸『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』2019年 中野剛志 KKベストセラーズ
最後に、もしどうしても評価をしなければいけない場合、夏休みの宿題で「主体的に学習に取り組む態度」をどのように評価するのかについて考えてみます。
「主体的に学習に取り組む態度」は2つの側面(自ら学習を調整しようとする態度+粘り強く学習に取り組む態度)で見取ることになっています。しかし、夏休みの宿題を強制・もしくは与えられたものをこなすという意味であれば、本質的な「主体性」は表れにくく、どちらの側面にも馴染まないことが多いように思います。
各教師の評価の基本が「減点方式か加点方式か」によって大きくことなりますが、上記の3つの条件で夏休みの課題を評価するならば、広い意味での「主体的に学習に取り組む態度」の表れとして、加点してあげる程度のおおらかな評価の方が、宿題に取り組んだ生徒にも、「主体的に判断して」取り組まないという判断をした生徒にとってもベターな評価の仕方ではないかと個人的には考えています。
■(高等学校) ユニバーサルデザインの視点を意識した課題を
執筆者 中山 義基(京都府立洛東高等学校)
そろそろ夏休みの課題の準備に取り掛かろうとされている先生もいらっしゃるのではないかと思います。
どうせ取り組ませるなら、長期休業中だからこそ取り組ませたい課題を設定したいものですね。そして、どの生徒にもやりきらせて提出させたいものです。そのような、いわば「ユニバーサルデザインの視点を意識した夏休みの課題」を出すための提案をしたいと思います。
*新聞は厳しいが…
新聞のスクラップは夏休みの課題として定番ですが、近年は新聞をとっていない家庭も多くなってきました。しかし、新聞は読ませたいのが社会科教員の性というものです。
本来、生徒一人一人に興味・関心のある記事を選ばせたいところですが、それが難しい場合、それぞれの学校の生徒の実態に応じて、これくらいの内容やレベルの文章は読めるようになって欲しいという難易度で、生徒にとって身近で、且つ考えさせることができる内容の記事を教員側で選んで課題とすることも一考かと思います。
課題の内容ですが、いきなりその記事についての意見を述べさせる課題を出しても、ユニバーサルデザインを意識した課題とは言えないかもしれません。ここではまず、記事をそのまま書き写す課題を設定します。これは漢字を書くことが苦手な生徒も含め、誰でもできる課題です。そして、意味の分からない語句の意味を調べさせリストアップさせます。
ここまでできれば、その記事の内容を大筋で理解できていると考えられますので、ここで初めて、意見を書かせたり、さらにその記事の内容に付随する探究的な課題を出したりすることが可能になります。
*CMを使った課題
バラエティやドラマを、テレビやYouTube、サブスクリプションでどうせ見るのなら、合間に流れるCMを使った課題を出すのはいかがでしょうか。
たとえば、好きなアイドルや俳優が出演しているCMについて、その人物をその企業が起用しているのはなぜかを考えさせます。自分が好きなのですから、そこから想像できるでしょう。それが正しいかどうか、企業のホームページで調べさせたり、商品のラインナップ等から考えさせたりします。
企業のホームページを見たついでに、その企業の歴史や経営理念、IR情報等についても調べさせます。ただし、専門的な内容も掲載されていますので、どのコンテンツにどのような情報が掲載されているのか事前に学習しておく必要があるでしょう。
また、CMのキャッチコピーから、その企業が売りとしていることはどのようなことなのか、今後どのような商品を出していきそうか考えさせる、探究的な課題を設定することも可能かと思います。
さらに、曜日や時間帯によって流されるCMの種類が異なりますが、どの曜日のどの時間帯にどのような種類のCMが多いかを調べさせることによって、そのことに気付かせる課題を設定することもできます。
また、海外のCMと日本のCMの比較をさせる発展的かつ探究的な課題を出すこともできると思います。
*乗り物から
鉄道や航空機に乗る機会があるなら、その機会も課題として設定できます。
特に東海道新幹線では、各車両の両端部に各種案内がスクロールする表示がありますが、その合間に企業のCMが短く流れます。どのような企業のCMが多いか、東京~新大阪間で調べてみるのも面白いでしょう。短い言葉に込められた企業の思いを考えさせることも可能かと思います。
また、空港にはどのような企業がどのような広告を出しているでしょうか。発着空港で比較してみると新たな発見があるかもしれません。
*自由研究のアポリア
子どものころ、自由研究は何をしようか思い悩んだものです。
しかし、ユニバーサルデザインの視点を重視すると、何をしようか思い悩む以前に、何から手につければよいかモデルが示された経験がないので分からない生徒も一定数存在することに気付かされます。
「何を研究するかなんて自分で考えなさい。それも研究の一環なのだから。」と言われたものですが、それでは通用しない時代になってきたのかもしれません。
■(中学校) ICT機器によって公立中学校の社会科が変わる
執筆者 行壽 浩司(福井県美浜町立美浜中学校)
*タブレットで広がる教育の幅
生徒たちにタブレット端末が配布されたことにより、教育の幅が広がりました。
私が最も実感するのは、日本証券業協会が主催している「株式学習ゲーム」の導入時です。
資本金1000万円を用いて、実際の株式を買い、一日ごとに変化する株価を確認しながらチームで資本金を増やしていくゲームです。基本的には100日間のゲームであり、生徒たちは楽しみながら株式の売買を行っています。
このゲームは1996年から実施されているもので、目新しいものではありません。しかしこれを実施するには、これまでは高い壁がありました。
*タブレットで可能になる主体的な学習
公立中学校でこのゲームを実施するには、機器が不足していたのです。やりとりはインターネット上で行うため、教員はまずパソコン室を確保しなければなりませんでした。他のクラスとかぶらないように配慮し、またパソコン室と教室の移動時間を考えて授業を行う必要があります。これは大変な手間であり、普段の授業の中で実施するのは困難な印象でした。
ゲームを通して楽しみながら学ぶというのは、生徒にとっても主体的に学ぶ機会であるし、教員にとってもより意欲的・自主的に学んでいくため、魅力的な授業ができます。それにも関わらず、公立中学校の機器の不足と教員の手間によって教育現場に普及しないのは、大変な損失です。
一人一台タブレット端末が配布されたことで、これが大きく変わりました。タブレットによって授業の最初5分間というような細切れの時間であっても実施ができるようになりました。それこそ休み時間に継続して取り組み、学んでいる生徒も出てきます。
タブレット端末が普及したことによる一番大きな功績は、学びたい生徒により多くの機会を与えていることではないでしょうか。
*教員にもメリットが
教員が教材研究し、授業を行っていると、教員の認識の枠の中で学習が閉ざされてしまいがちです。しかし、生徒が教材を自ら研究をし、学びを深めていく授業は、時として教員も知らなかった知識までも取り込んで学んでいく可能性がひらけます。
これから求められる「良い授業」とは、教員が名人芸を披露し、生徒が観客となってそれを楽しみ学ぶ「パフォーマンス型授業」ではなく、生徒自身が教材研究し、それぞれが学びを深めていく「ゼミ型授業」のはずです。
それを実現するためのツールとしてタブレット端末は大変効果的です。生徒の興味関心から学びを深めていくために、是非、タブレット端末を上手に使っていきたいものです。
■(高等学校) デジタルネイティブに迫る
執筆者 塙 枝里子(東京都立農業高等学校)
新課程から一人一台端末の環境が整備され、本校のさまざまなシーンで活用されています。私も授業だけでなく、部活動や生徒への周知、学校広報誌の配布、授業評価アンケートなどで使用していますが、これで大丈夫なのか不安になることばかりです。今日は悪戦苦闘しながら社会科の授業で扱った一部をご紹介します。
*Chat GPTで何でもできる?!
今年の授業開きでは話題のChat GPTを取り上げました。
サイトから「日本の少子高齢化について教えてください」、「日本の税と社会保障の問題点は」などと入力し、結果を見せるというものです。AIによる秀逸な解答ぶりを生徒たちにも体験してもらおうとタブレットを持参させましたが、残念ながら既にアクセス制限がかかっており(!)叶わず、スマホで行いました。
一方、Chat GPTは未来のことを予測したり、特定の意見を述べたりすることは出来ません(実際にその画面も見せました)。そして、「AIの進化は私たちにどのような変化をもたらすのでしょうか」と投げかけました。
生徒たちからはさまざまな意見が出ましたが、私からは人間だからこそできることが研ぎ澄まされていくのではないか。未来を描き、創造していくためにこれからともに学んでいこう…というようなことを伝えました。
*ニュースの見方から考える デジタルとアナログでは何が違う!?
また、年度当初にインターネットと新聞で見るニュースの違いを考察させました。
まずはタブレットで「今日の気になるニュースを探してみよう」と検索させ、「ソース(情報元)はどこかな?」などと声掛けをします。すると「○○ニュース!」とほとんどの生徒はニュース配信サービスを言います。しかし、実際には提供元メディアがあるため、そこまで探してもらいます。
その後、記事のタイトルや長さ、なぜ気になったのかなどペアワークでシェアしてもらいました。
次に、学校で定期購読している新聞を一人一紙ずつ配布し、いわゆる新聞の読み方を解説しました。その後、「気になるニュース」を探させます(あと新聞の値段を探させると盛り上がります)。
所属校では生徒の新聞定期購読率は3年前から3割を切っており(授業者調べ)、久々に新聞を触った生徒もいるため、読み方が分からなかったり、選んだ記事が実は広告記事だったり、そもそも新聞がバラバラしてしまったりと大騒ぎ。紆余曲折を経て全員が記事を選び終わったら、インターネットと新聞記事の違いを話し合ってもらいました(新聞活用は帝国書院の『ライブ!現代社会』が参考になります)。
デジタルネイティブと言われる彼らですが、インターネット、新聞それぞれの良さを体感したようです。
*タブレットはツール
今後もタブレットを用いた匿名意見投稿やプレゼンテーション資料の共有、クイズ形式の確認テストや株式学習ゲームへの参加などに使用していく予定です。
でも、忘れていけないのは、タブレットはあくまでツールであるということ。これからは「よい授業とは何か」という問いと同様、「よい端末との付き合い方とは何か」という問いに向き合うことになりそうです –––
■(中学校) デジタルの中の新聞活用法
執筆者 兼間 昌智(札幌大学非常勤講師)
*アナログにこだわる
学校では、「1人1台タブレット」が当たり前になった今日この頃です。ニュースや情報がデジタルで入手できる今だからこそ、アナログの代名詞「新聞紙」にこだわってみたいと思います。
新聞の授業活用方法は、大きく2つに分かれます。
1つめは、授業で活用する方法です。この方法で使用されるのは、主に「新聞記事」でしょう。授業に関する「新聞記事」を提示し考えさせる方法、考えをさらに深めるために「新聞記事」を使用する方法などがあります。これは、デジタルの新聞記事を活用するのと、大きな違いはないかと思います。それでも、見出しの見せ方で、アナログの方がインパクトがあるという程度の違いはあるかと思います。
2つめは、コンクールを活用する方法です。おすすめは、日本新聞協会が主催する「いっしょに読もう、新聞コンクール」です。https://nie.jp/month/
今年で、第14回を迎える取り組みです。12月ごろに募集を開始し、翌年9月までに応募します。これには賞があり、各地方新聞協会の各賞と、全国の各賞があります。
そのスタイルは以下のようになっています。
①新聞を読み、自分の気になる記事を1つ選びます。
②その記事に関して、自分の考えを書きます。
③その記事と自分の考えを、他の人にプレゼンテーションします。
④その意見に対して話し合いをします。
⑤最終意見を書きます。
*新聞を読んで思考力・判断力・表現力を鍛える
私は、現役の教師だったころ、社会科の授業の一環として活用しました。
例えば、「地球環境問題」に関するグループワークをしたときに、このコンクールに応募することを生徒に伝え、学年単位で応募しました。国語の教師とコラボしたときは、テーマ設定をしませんでした。
生徒には、新聞を1冊与えます。その中から、気になる記事を選びます。気に入ったのがなければ、別の新聞1冊を与えます。記事が見つかるまで、何冊も選んだ生徒がいました。ですから、初回の授業では、生徒数の3倍くらいは用意する必要があります。だいたい1時間程度で、ほぼ全員記事を選んでいました。
この時間で、生徒は相当新聞を読むことになります。これが、アナログの新聞の利点です。デジタルだと、検索をかけて調べることになりますが、アナログはとにかく全体を読まなければならないからです。この時、生徒は読解力を相当駆使しているでしょう。
そして、自分の意見を書きます。この時、「引用」を指導します。150字から200字という指定があるので、「引用」は3分の1程度にするように指導しました。
授業では、グループ内での意見交流の場合と、教室内の生徒の交流が考えられます。どの方法をとっても良いと思います。教師に聞いても良い、という場の設定も良いと思います。
ここで、「思考力」を使って、意見交換ができます。
そして、話し合った後の自分の意見を、最後に書きます。最初の考えと同じ生徒もいれば、違う生徒もいます。そこが最大のポイントです。
このように、デジタル時代だからこそ、アナログの新聞を使って、「思考力、判断力、表現力」を鍛える活動をしてみませんか。
■(高等学校) 写真やグラフの発信しているメッセージが聞こえますか?
執筆者 金子幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校総括教諭)
*新聞離れ
筆者が勤務しているフィールドで「上から読んでも,下から読んでも同じものは何でしょう?」と問うと,数年前までは「しんぶんし!」という声が圧倒的でした。ところが,ここ数年は「トマト!」と叫ぶ生徒が急増しています。簡単な生徒分析ですが,高校生の新聞離れを感じ取ることができます。
そこで本稿では新聞離れが進みつつある教室において,どのような授業実践が可能かを考えることにします。今回注目するのは,グラフや写真といった資料です。
*写真やグラフに注目!
まず教師が授業で活用したい記事を見つけたら、
「写真を見てみよう」、
「グラフや表を見てみよう」、という発問からはじめます。
例えば「消費者物価が上昇した」という記事を取り上げるとします。その記事に1970年代から現在までの「消費者物価指数の推移」示したグラフと「スーパーで売っている卵」の写真が掲載されていたとしましょう。
まず、写真です。
教師は生徒に「どうしてこの記者は卵の写真を載せたかったのでしょうか?」と問います。掲載する写真はカップラーメンでもポテトチップスでもなく,どうして卵なのかを考えるのです。
生徒は生活経験から得た知識を用いて発言します。「もともと安い商品であった」であるとか「鳥インフルエンザの影響?」といった知識が出されます。
その上で「この記者が卵の写真を掲載したいと考えた理由を記事の中から探しましょう。記事の何行目に○○と書いてあるからです・・・というように答えてください」と指示します。
次は、グラフです。
なぜ記者は「消費者物価指数の推移」を掲載する必要があったのかを考えます。その後,「記事の中からその理由を見つけてみよう」と生徒に指示します。そして,最後に「もう一枚写真を掲載するスペースがあったとしたら記者であるあなたはどんな写真を載せるかな?」と問いかけます。
多くの生徒は,価格の変化というテーマで写真選びをはじめます。
*そのキモは?
どうしてこのような授業を考えたのか。理由は次の2点です。
第一は,新聞に書かれている文字記号を読み解くところから授業をはじめると教師と生徒の認識にずれが生じるからです。
第二は,写真→グラフ→テキストデータという順番で授業内容を構成することで自然に新聞を読んでもらいたいと考えたからです。
生徒が見てくれそうな写真やグラフ探しは,教師にとっても楽しい仕事になると思います。
■(中学校) 「ドラえもん」とともに
執筆者 小谷 勇人(春日部市立武里中学校)
「四次元ポケット」を持とう
中学校では授業開きはどの学年であろうとタイミング的に地理か歴史となり、経済を取扱うチャンスは中々ありません。でも、社会科全体に関わる話として経済と絡めることは可能であるので生徒に強く印象づける仕掛けを組み込みたいものです。
まずは、「なぜ社会科を学ぶのか」という話は必要です。私が授業開きによく伝えることは、過去・現在・未来を串刺しにして地理・歴史・公民の学習のそれぞれの役割について説明します。
よく「ドラえもん」を例にし「自分の中に四次元ポケットを持とう」という話をします。
地理学習は「どこでもドア(空間的認識)」、歴史学習は「タイムマシン(時間的認識)」といった具合です。この地歴の学習が土台となって公民では現代社会の学習をしますが、加えて「未来を構想することが大切」と話します。
その際、大きな判断材料となっていくのが、政治(人権含む)と経済の学習になることを伝えます。
中学1年生入学時であったら遠い話に感じるかもしれませんが、卒業時のゴールまで見通して生徒が社会科を学ぶ理由を教えたいものです。
タイムリーな事例を
社会科を学ぶ理由を伝えたら、生徒の印象に残る事例を紹介しましょう。
先生の中で鉄板ネタがあればよいですが、なるべくタイムリーなもの、現在だったらウクライナへのロシア侵攻が生徒には分かりやすいかと思います。
ウクライナ侵攻というキーワードを真ん中にして、「地理」「歴史」「政治(人権含む)」「経済」の語句を配置した枠をワークシートに入れて生徒に考えさせると「なぜ社会科を学ぶのか」という理由に自然と行きつくと考えます。
例として、「経済」の枠ではロシアがウクライナに入るパイプラインの通過料を自らの手で管理したいと考えていたことには指摘したいです。
今ならタブレット型端末を活用して資料を見つけながらグループで話し合うことも容易です。事例は毎年タイムリーなものにして授業びらきの際に行うと、卒業までに3回できます。どんな事例をあげたとしても経済は「なぜそのようなことが起こっているのか」を理解する大きな根拠になることでしょう。
中学1年生のスタートから経済に関する学習の積み重ねが、最終的に中学3年生の経済単元の学習で大きく花開きます。教師の方からこぼれ話的に小出しにする程度でも構いません。特に教えていて地理と歴史の学習には随所に経済が見え隠れしていると実感しています。
授業開きから種まきを始めていきたいですね。
■(高等学校) つかみは「コンセンサスゲーム」
執筆者 中山諒一郎(昭和学院中学・高等学校)
いきなりゲーム
年間の授業びらきには2コマを割いています。
1コマ目は、「コンセンサスゲーム」です。自己紹介などはさらっと簡単に行う程度(今年度の授業を担当する中山です。よろしくねー!くらいの感じです。)で、あえてすぐにこのゲームに入ります。年によって、砂漠で遭難してもらったり雪山で遭難してもらったりします。
なぜいきなりゲームから入るのか?それは、一番には「生徒を惹きつけるため」です。
講演やプレゼン、スピーチでも「つかみ」は大切であるように、年間の授業でも同様だと考えています。いきなりよく知らないおじさんが自分の紹介を始めても、生徒たちが引き込まれるとは思えません。そこであえていきなりゲームから始めることで、「なんとなくこの授業は他とは違いそうだな」とか「面白そうかも」という雰囲気を醸し出します。
そうして初めて、彼らはこちらの話をきいてやってもいいじゃないかと思い始めます。
このゲームにはあと2つほど隠れた狙いがあります。
一つは、ゲーム内でのファシリテーションの様子で授業者の人となりを感じ取ってもらう(自己紹介代わり)こと、もう一つは、この授業の手法を感じ取ってもらう、ことも意図しています。
学ぶ意義と手法を
次に、2コマ目です。ここでは①自己紹介 ②学ぶ意義(なぜ学ぶのか?)について ③学ぶ手法(この授業はどのように進めるか?ルールや目標は何か?)の3つが主な内容です。
最初にスライド数枚分くらいの自己紹介をします。
その上で、なぜ学ぶのか?をソシュールの言語論(言葉を獲得することは世界の見え方を獲得すること)などを用いつつ考えていきます。
ここでは、「虹の色は何色か?」などの問いかけを入れながら、周囲の仲間と対話しながら学ぶ理由を考えてもらいます。
その上で、「この科目を学ぶ理由」については、これから1年間の授業の中で一緒に考えていこう、と呼びかけます。
また、学び方については、「この授業では今までおそらく多くの授業で約束事になっていたことはすべて破るくらいの気概をもとう!」と話し、授業中は基本的にいつでも立ち歩いてよいこと、机と椅子にとらわれる必要はないので、教室内のどこで学んでもよいこと、どんどん周りの人と話したり、教えあったりしてほしいことなど、態度目標を共有します。
この目標は以後毎時間黒板に掲示し、毎回授業終わりに記入させる「振り返りフォーム」で自己評価させています。
実は、1年間の最後の授業では、「最後に改めて学ぶ理由を考えよう」という授業を行っています。
そこでは1年間の授業の内容をざっくりとハイライトしつつ、そこで獲得した「見方や考え方」「その考え方が私たちの人生にどう関わるのか?」などを取り上げていき、それが「この授業を学ぶ理由であったこと」を伝えます。いわば「伏線回収」の授業です。
そこには「この授業を学んできた意味がわかった」「この授業の態度目標の大切さがわかった」などのコメントをほとんどの生徒が残してくれていて、多くの生徒に腹落ちしてもらっているのかなと思います。
ちなみに、1コマ目の「コンセンサスゲーム」はこちらの紹介などを参照してください。
執筆者 新井明(経済教育ネットワーク)
学年末でもあり、これまでの授業を振り返る時期、自分がやってきた授業で「これは使える」と思う教材を棚卸してみました。何度も紹介した内容ですが、先生方の授業作りのヒントになれば幸いです。
<鉄板>教材とは、いつでも・だれでも使えて授業効果が上がる、共有財化している教材を言います。本来は「鉄板ネタ」として必ず受けるネタとしてつかわれている言い回しの転用です。
<鉄板>教材は、一度本コーナでも取り上げたことがあります(メルマガ131号)。 このとき取り上げたのは「貿易ゲーム」でした
今回は、それ以外に筆者が長年使ってきた教材のベスト5(貿易ゲームを入れると6)を紹介します。ただし、順番は優劣ではなく授業の進度順です。
(1)ケーキの分け方
一つのケーキ、それもひっくり返っているイチゴのショートケーキを二人が分けるという極めて単純な話です。
条件はできるだけ公平にわける。その方法は?と問います。
有名な話なので、答えを知っている生徒はしゃべってはダメと念押しをして生徒の回答を引き出します。
これは経済の授業の冒頭、資源の希少性の部分で使います。イチゴとスポンジ部分を交換する、先に見つけた人間が全部とる、はたまたミキサーでまぜてはかりで量るという解 まで登場します。
一応の正解を紹介して、なぜこれが経済で登場するのかを説明して経済の授業がはじまります。
この教材は、政治の学習でも、法の学習でも使えます。政治だったらケーキは権力、法だったら所有権の話、先占の法理の話などの導入に使えます。
ウクライナ戦争では、ウクライナの土地をケーキに例えて、ロシアの侵略をイメージさせました。
(2)『レモンをお金にかえる法』正・続
アメリカで半世紀前に出版された絵本です。日本に紹介されて40年を超えました。筆者は40年間、経済の授業ではこの絵本のストーリーをベースにして授業の流れを組み立ててきました。私の十八番中の十八番です。
正編はミクロ経済学、続編はマクロ経済学をベースにしています。
正編では、レモネードの値段の決まり方、企業のたちあげ、労働者とのトラブル、価格競争、M&Aなどが取り上げられています。
企業の立ち上げに豚の貯金箱とパパからの借金は登場しますが、残念ながら株式は登場しません。
続編では、コストプッシュインフレ、インフレスパイラル、不況とその対策(社会保障、財政政策、金融政策)が取り上げられています。
続編は第一次石油危機をベースにしているので時代性を感じますが、物価と賃金のいたちごっこはデフレスパイラルの説明にも使えます。
経済活動のイメージをつかませる、景気変動と経済政策のイメージをつかませる最初の動機付けに有効な教材です。できれば英文で読ませると、一石二鳥です。
(3)じゃんけんゲーム
囚人のジレンマの数値例を使った簡単なゲームです。
筆者は、『レモン』のなかの二人のこどもの価格競争の場面でこれをやらせます。
共倒れにならないために二人がやったことは何かを問います。絵本での答えは「合併」ですが、他にもどんなやり方があるか、それは認められる方法かなどを聞いてゆきます。
ゲーム理論のいくつかのパターンを紹介することもあります。
単独で、もしくは国際政治の学習場面で使うこともできます。
人格が出てくるゲームだからねと念をおしてやらせると、人間関係の機微に気づくこともできます。
(4)ヘリマネ体験
金融政策の箇所で行うシミュレーションです。
教室を半分にわけ、同じ品物をオークションにかけます。片方のグループともう一方のグループに配布する貨幣量の差を2倍にしておきます。
オークションの結果をみて、なぜそうなったのかを考えさせます。
種明かしをしてフリードマンのヘリマネ論を紹介して、黒田日銀がアベノミクスでやろうとしたのはこれなのではと問題提起。
応用問題として、ベースマネーを増やして、これだけ日銀がお金を世の中にばらまいているのになぜ目標通りにならないのかを推定させます。ここまでやるのは中学生にはちょっとむりかもしれませんが、高校生だといろいろ回答がでてきます。
単純な貨幣数量説で政策が行われているわけではありませんが、まずは大雑把に本質に近いものを理解するのに役立ちます。
(5)株式学習ゲーム
ご存じ東京証券取引所と日本証券業協会が開発・運営している株式シミュレーションです。
開始以来20年を超し、教材として定着したものと言えるでしょう。
この教材、「間口が広く、奥行きが深い」と思っています。対象は流通市場ですが、どこからでも入れ、ここを入り口に企業、金融、金融政策、パーソナルファイナンス、為替変動、政治動向などに興味や関心を広げることができます。
スマホからも参加できるようになり、アクセスが良くなっているところも<鉄板>教材の資格ありかもしれません。
これ以外にも、「金融クエスト」など定評のある教材が作成されています。また、先生方が開発された教材がネットワークの部会や教室で紹介されています。
これらが、どこまで<鉄板>になるか、「追試」を行うことでフィルターにかけられてゆくはずです。
授業のなかで、自分なりの<鉄板>教材を持つことをこころがけてみてください。きっと授業準備に余裕が生まれると思います。また、ここを拠点にして現実の経済の課題に挑戦させる手がかり、足がかりが得られるはずです。
ちなみに、先生方の<鉄板>教材はなんでしょうか?
執筆者 大塚雅之(大阪府立三国丘高等学校)
(1)はじめに
以前のメルマガ(第140号)で「結婚を題材とした授業」を提案したところ、色々な方からおもしろかったと言っていただけました。
今回も結婚を題材とした授業第二弾を提案してみたいと思います。
ここ数年間で、世界各国で同性婚が制度として導入されていることなども踏まえて、現在の日本の結婚制度の在り方を批判的に考えさせる授業です。
(2)データを読み取る
まずは各国の同性婚の導入年を確認します。
現在では、31の国・地域で同性婚が可能になっているようです。推移を見てみると、2000年代からこのような動きが始まったことが読み取れるでしょう。まずは、このようにして日本の結婚制度は絶対的なものではないことをデータから分からせることができるはずです。(NPO法人 EMA日本HP)
次に日本の婚活に関係するデータを読み取らせます。
結婚相談所大手のデータによると、日本の婚活市場は拡大しており、日本経済新聞の記事によると2021年の結婚相談所への20代の入会者数が2018年に比べて4.7倍に拡大しているようです。ここではさらに、婚活市場がなぜ拡大したのか、入会者の年代別の推移などについても、生徒に読み取らせます。(「婚活実態調査2022(リクルートブライダル総研調べ)」)
そうすると、コロナの影響で婚活サービスを利用する人が増えたのではないか、高齢化のため、高齢者の婚活サービス利用が増えているのではではないかといった考察が出てくるのではないかと思われます。また、結婚相談所への入会が増えたのは、婚活アプリを活用するうちに、婚活サービスへの抵抗感が薄れたことからではないかといった考察も期待されます。
ここで「みんな、なぜ結婚したいと考えているんだろう?」と問います。
「お互い好きならば一緒に暮らしたいと思うのでは?」と答えると思いますので、「それは別に結婚という制度を利用しなくてもできるのではないか?」、「お互い浮気をしないために」と答える生徒には、「弁護士立ち合いのもとで、契約書を作成したらいいじゃないか?」と返すと良いでしょう。
(3)なぜ結婚しようとするのか?
これはなかなか深いテーマです。
『サラバ!』や『漁港の肉子ちゃん』などで有名な直木賞作家の西加奈子さんは、結婚で一番よかったこととして「『結婚せえへんの?』って言われなくなったのが、 めっちゃストレスフリーやねん」とトーク番組で答えています。
また、社会学者の古市憲寿さんは自身がコメンテーターを務める番組で、元AKBの指原莉乃さんに「古市さんはいつか結婚したいですか?」と聞かれた際に「したいですよ。だって、世間体がありますからね」といってドン引きさせていました。
この二人の発言からも推察されることは、結局のところ日本では結婚に対する社会的圧力がかなり強いということです。つまり、法的に認められたパートナーがいないだけで肩身の狭い思いをさせられる。これが現在の日本の姿といったところではないでしょうか。
コロナ全盛のころに「マスク警察」が話題になりました。婚活においても、「結婚警察」なるものが存在しているのかもしれません。
(4)事例研究「婚活ナッジ」
そうなってくると、結婚制度自体が本当に必要なのか、法的なパートナーを持つことを暗黙のうちに国家が強制しているのではないかという話になってきます。すると、国家が個人の内面にまで侵入しても本当に良いのかという問題にもなってきます。
ここで登場するのが、「婚活ナッジ」です。以上を踏まえて次のような事例について生徒に考えさせてみてはどうでしょうか。
<事例研究>
A市の政策担当者は、市内に結婚したいと考える独身が多くいるのでその人たちを援助するため、また市の将来の少子高齢化を食い止めるために「婚活ナッジ」を考案した。
具体的には市主催の婚活イベントを開催したり、婚活にむけて取り組む企業を優良婚活支援企業として認定したりするといったものである。
また、市役所内でも、すべての独身職員に既婚の助言者をあてがい、婚活上の相談の機会を提供していこうとした。
さらに、結婚した場合の日本での税制上の優遇措置についても周知も行った。しかし、このナッジは、「独身ハラスメント」ではないのかという指摘もある。
参考:那須耕介・ 橋本努 『ナッジ!?: 自由でおせっかいなリバタリアン・パターナリズム 』(勁草書房)
(5)おわりに
前回も言い訳のように最後に書きましたが、このような授業は非常にセンシティブで学校の状況によってかなり実施が難しいかもしれません。テーマ学習とせずに生徒が食いつきやすいネタとしてデータを示していくという方法もあるかと思います。
ただし、既存の社会の仕組みの背後には、その仕組みを作った人たちの価値が反映されているはずです。
そのような価値に同意できなかった人達が、声を上げにくいでいると考えられるのであれば、人権や道徳の時間ではなく、民主的な市民の育成をめざす社会科・公民科こそが、このようなテーマを積極的に扱うべきであるのではないでしょうか。
執筆者 大阪府立三国丘高等学校 大塚雅之
1 新学習指導要領用の共通テスト試作問題が公表された
先日、大学入試センターから新課程における共通テスト試作問題が公表されました。
令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等 | 独立行政法人 大学入試センター
今回はこの問題を分析した上で、これをどのように授業にいかすべきかのヒントを提言したいと思います。
試作問題のうち、経済教育に関わるのは、「公共、政治・経済」、「公共、倫理」、「歴史総合、地理総合、公共」の3つです。
このうち、「公共、政治・経済」、「公共、倫理」では、「公共」の共通問題が8問出題され、残りは「政治・経済」、「倫理」に関する問題でした。
「歴史総合、地理総合、公共」は、3つの科目のうち2つを選択していく形式です。ここで出題されている「公共」の問題は16問、そのうち8問が先ほどの「公共、政治・経済」、「公共、倫理」との共通問題でした。
これらの問題のうち、経済教育に関して注目すべき2題に関して記したいと思います。
2 相関係数が登場した
最初にとりあげるのは、「公共」 第2問の問2「子育て支援に関する問題」です。
①どんな問題か
OECD各国の子育て支援の状況について、二つの散布図を読み取る問題です。
散布図の一つは、縦軸に合計特殊出生率、横軸に「現金給付」対GDPをとったもの(図1)、もう一つは、縦軸に合計特殊出生率、横軸に「現物給付」対GDPをとったもの(図2)が提示されそれを読み解く問題です。
②注目するべきところ
まず、図中に相関係数が記されています。選択肢にも「強い相関があるため」と記されています。また、別の選択肢の中には「因果関係は示されていないため…別の資料を準備した方がよい。」と記されています。
このことからも相関関係と因果関係を前提知識として知っていることが求められている問題です。これは、今までのセンター試験や共通テストでは見られなかったものです。
正解の選択肢は、「現物給付割合が日本より少なくても合計特殊出生率が1.60を超えている国がある」ことを指摘しているものとなっています。これは相関係数のデータにもとづいて議論することを想定して、そのような議論があっても良いと作問側が考えている問題と言えます。
③授業にいかすには
この問題をもとに授業改善を行うとすれば、やはりデータの見方をきちんと授業で触れていくことが必要です。
もちろん、相関関係と因果関係は「情報」の授業や「探究的な学習の時間」では扱うかもしれません。しかし、「公共」の授業でもデータを読み取らせながら、どのようなことが言えるのか、もしくは言えないのか、因果関係や相関関係も意識しながら考えさせる場面を作る必要があると思いました。また、生徒に議論させる際にもデータをもとに行わせるようにしていくべきだと思いました。
3 ここでもデータの読み取りが
二番目は、「政治・経済」の「産業別労働生産性の問題」です。
今回の政治・経済の問題の多くは探究を意識した問題設定となっていました。中でも「公共、政治・経済」の第5問の問2の問題を紹介したいと思います。
①問題の内容
状況として、生徒が先生のアドバイスのもとで、産業別の実質付加価値(表1)と産業別就業者数(表2)の推移を示すデータを集めて、考察と議論を行うというものです。
生徒と先生がデータについて話し合うセリフの中に空欄を入れておき、表1と表2を読み取ることができているかを問うています。
この問題は、表1、表2から産業構造の高度化を読み取らせるにとどまらず、表1と表2を関連付けることによって、産業別の一人当たりの付加価値つまり「労働生産性」を計算させることまで要求している問題です。
②注目すべきところ
注目すべきと感じたところが二つあります。
一つは、先ほどの問題同様、強いメッセージ性があるところです。
「日本は労働生産性が低い」、「実質賃金が伸びてない」という指摘がテレビや新聞では良く主張されます。しかし、この問題で提示されているデータを見ると産業別で見た場合、製造業はそれなりに伸びていることが分かります。これは何事も簡単に分かった気持ちになってはいけない、分けて比べることで「分かる」のだと言うメッセージを発しているのではないかと思いました。
生徒に探究的な学習をさせる際にも、「できるだけ分けて考えなさい」というスタイルをとることの重要性に気付かせてくれる問題ではないでしょうか。
もう一つは、探究の指導の仕方です。
生徒に調べさせてから、先生が教え込むのではなく、労働生産性などの指標について、データを読みとりや、アドバイスをすることで、考えさせることの大切さです。
この問題中の先生の最後のセリフは「こうした(産業別の労働生産性の)違いがなぜ引き起こされるのかについても、考えてみると良いですよ。」と、最後の最後まで教えるのではなく、考えさせる姿勢を貫いています。
③授業にいかすには
この問題のように、「政治・経済」の授業を探究的にするためには、まずは生徒が探究したくなるような問いを立てる、そして、適度にアドバイスを与えながらデータをもとに自分で考えさせることが必要であるということです。ただし、現実の授業は、この問題のようにきれいには進みませんが。
他にも、最後の問題中の先生のセリフに着目し、ICTやAIなどをうまく取り入れている企業の事例を産業別に調べさせる。それを皆で発表しあい比較させるといったことをすれば、楽しい授業になるのではないでしょうか。
4 おわりに
今回は共通テスト試作問題から、問題のメッセージとそれを受けての授業改善のヒントについて記させてもらいました。
今回の試作問題、全体的には学習指導要領の趣旨にあった問題だと思います。ただし、あくまで試作だと思いますので、現場ではその声に応えながら、ちょっとずつ新課程にあわせて対策を考えていくことが必要になるのではないでしょうか。