私ならこう教える 「二刀流大谷翔平選手の契約金1000億円」
  ~経済の規模を「納得できるサイズ」でイメージさせる~

執筆者 篠原総一

■大谷選手の1000億円
日本のGDPが2024年には600兆円に届きそうだ、トヨタ自動車の年間売上43兆円(2023年度見通し)になりそうだと言われても、その額があまりにも大きいため、生徒が「経済活動の重要性」を肌感覚で捕まえることは至難です。その規模が1000億、100億、10億、1億になっても、同じことでしょう。
しかし、データや数字はそのまま見せるのではなく、生徒が「なるほどあの額と同じくらいか」と受け止めやすい話題を探すことができれば、話は別です。

今回取り上げる捨てネタは「大谷翔平選手10年7億ドル(約1015億円)で契約」という世界驚愕のニュースです。どの生徒も聞いたことがありそうは「数字」を利用して、1000億円規模の経済現象(企業の売上、企業のコスト、企業間の取引、政府の支出やプロジェクトなど)の規模感を生徒にイメージしてもらおう、というわけです。

この契約は単純に平均して、1年101億円の収入、月収はその12分の1だから8億4500万円、日給は2780万円、時給115万円、1分あたり1万9300円という数字です。
この数字から生徒がどんな反応を示すか興味はつきませんが、とにかく授業ではいろんな考え方を引き出す一助になるはずです。
その中で、1000億円という額を経済の活動を結びつけてみるという例をまず二つ紹介しておきます。

■1000億円あればできることを探す
例の一つ目はこうです。
日本ではデパート店舗を用意する際、「はこ」だけで500億位円が相場だそうです。ですから大谷選手の1000億円は、デパート2つです。しかもデパートでこれですから、コンビニ店舗だといくつ分になるのかな、と話を身近なケースに引っ張っていけば、生活感覚からかけ離れた数字(=1000億円)の大きさを肌感覚で捉えられるのではないでしょうか。

二つ目として、生徒の住む地域の市町村の経済規模も実感できそうです。
大阪府下人口23万ほどのN市の場合、その年間予算(令和5年度)をみると
①一般会計964億円、②特別会計(社会保障費など)530億円、③公営企業会計(水道事業など)が190億7000万円になっています。(*)
人口23万人都市の年間財政活動1685億円は、大谷翔平、山本由伸2選手の契約金に相当します。23万人分の社会保障費なら、大谷選手の契約金で2年もカバーできる額です。
ここからさらに、学校(小中学、私立幼稚園など)、ごみ収集のための予算額などを拾い出していけば、生徒も、私たちの街の政府が果たしている役割を「肌感覚で」イメージできるのではないでしょうか。

■大谷選手の1000億円は「国際収支表」のどこに?
関連して、大谷選手がらみの捨てネタをもう一つ紹介しましょう。
国際収支表は教えづらい、という声を先生方からよく聞きます。経常収支の中でもとくに第一次所得収支、第二次所得収支といった抽象的な項目名が並ぶので、分かりづらさはひとしおです。これに対して、すぐに思いつく解決法は、生徒が実感できる実際の例を探すことでしょう。

先生方も、国際収支を構成する各項目の詳細な定義に当てはまる実例を使っているかと思います。
トヨタ自動車が輸出したら貿易収支の収入に、自動車生産に必要な半導体部品を韓国から輸入したら貿易収支の中の支出に入れる、そしてその差額を貿易の収支(つまり収入と支出の差額)に反映させるといった手法でしょう。
この手法でいけば、大谷選手の1000億円は海外で働く非居住者である日本人の所得である「雇用者報酬」に相当しますから、「日本の第一次所得収支」の収入部分に当たるという分かりやすい例になるはずです。

先日、イギリスBBCで「今、日本の優れた輸出品は自動車からスポーツ選手は移りつつある」という主旨の記事を目にしました。もちろん、大谷選手をはじめとしてスポーツ選手の収入は財(モノ)の輸出の代金ではないので、国際収支表の中で記載する場所は貿易収支ではなく第一所得収支になり、なおかつその額(大きさ)も異なりますが、日本の収入源としては目立つ項目だという意味でしょう。
最近、プロ野球に限らず、サッカー、バレーボールなど、海外で活躍する選手が増えているので、確かに生徒が納得できる項目の実例にはうってつけの捨てネタのようです。

(*)https://www.city.neyagawa.osaka.jp/organization_list/zaimu/zaiseika/yosan/yosan/R5tousyoyosan/20616.html#

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