①どんな本か
 韓国の中学校の「実験経済部」という必修クラブでの実践をまとめた本です。韓国の経済教育に即した様々な経済実験の事例が対話式で書かれています。


②どんな内容か
 全体は4部に分かれています。
 第一章は、「選択の経済学」と称して、ピザ作りゲームからはじまって4つの実験が紹介されています。それを通して、すべての経済問題は選択から始ることを理解させようとします。
 第二章は、「見えざる手」がタイトルです。イギリス式のオークション、オランダ式のオークションから需給曲線を導き、そこから完全競争での市場価格の決まり方、価格変動を体験させます。
 第三章は、「実は身近な経済原理」として、見えざる手が働かない市場の失敗の事例を扱います。制服市場でのカルテル崩壊実験、元祖トッポギが高い理由など実験を通して学んでゆきます。
 第四章は、「お金の管理の経済学」で、タイトル通り金融教育が取り組まれています。イン・アウトゲームで家計管理、マネープランの立案、衝動買いをしないためのナッジ、最後はバザーでの商品開発で締めくくります。


③どこが役立つか
 三つの点で役立つでしょう。
 一つは、経済実験を授業で取り入れることを考えている先生向けです。ここに出てくる様々な実験をヒントに日本の教室でやったらどんなことができるか考えるヒントになります。
 二つ目も先生向けです。この本を通して、韓国の経済教育の内容の一端を知ることができることです。内容構成、使う理論や概念など、アメリカの経済教育の影響を色濃く受けていることがわかります。経済教育だけでなく、この本から韓国の教育制度や2022年末に発表された日本の学習指導要領に相当する国家教育課程に注目してみるのも良いかもしれません。
 三つ目は生徒向けです。実験経済部という中学生のクラブでのやりとりがイラストと共に書かれています。韓国の中学生は、ただし優秀な生徒たちですが、こんなことをやっているんだということで興味深く読めるでしょう。


④感想
 紹介者が韓国の経済教育関係の方たちと交流をしていたのは10年以上前です。教育課程も変わって、先年入手した最近の中学の教科書は日本の中学校の教科書より洗練されていました。
 もっとも、ハングルでの教科書は読めないので、挿絵や写真、グラフなどで内容を推定するだけですが、日本もうかうかしていられないぞという感想を持ちました。
 この本は、教科書ではありませんが、韓国のそんな経済教育の一端が伺える面白い本だと思いました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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