執筆者   新井明(経済教育ネットワーク)

 学年末でもあり、これまでの授業を振り返る時期、自分がやってきた授業で「これは使える」と思う教材を棚卸してみました。何度も紹介した内容ですが、先生方の授業作りのヒントになれば幸いです。
 <鉄板>教材とは、いつでも・だれでも使えて授業効果が上がる、共有財化している教材を言います。本来は「鉄板ネタ」として必ず受けるネタとしてつかわれている言い回しの転用です。
<鉄板>教材は、一度本コーナでも取り上げたことがあります(メルマガ131号)。 このとき取り上げたのは「貿易ゲーム」でした
 今回は、それ以外に筆者が長年使ってきた教材のベスト5(貿易ゲームを入れると6)を紹介します。ただし、順番は優劣ではなく授業の進度順です。

(1)ケーキの分け方
 一つのケーキ、それもひっくり返っているイチゴのショートケーキを二人が分けるという極めて単純な話です。
 条件はできるだけ公平にわける。その方法は?と問います。
 有名な話なので、答えを知っている生徒はしゃべってはダメと念押しをして生徒の回答を引き出します。
 これは経済の授業の冒頭、資源の希少性の部分で使います。イチゴとスポンジ部分を交換する、先に見つけた人間が全部とる、はたまたミキサーでまぜてはかりで量るという解   まで登場します。
 一応の正解を紹介して、なぜこれが経済で登場するのかを説明して経済の授業がはじまります。
 この教材は、政治の学習でも、法の学習でも使えます。政治だったらケーキは権力、法だったら所有権の話、先占の法理の話などの導入に使えます。
 ウクライナ戦争では、ウクライナの土地をケーキに例えて、ロシアの侵略をイメージさせました。

(2)『レモンをお金にかえる法』正・続
 アメリカで半世紀前に出版された絵本です。日本に紹介されて40年を超えました。筆者は40年間、経済の授業ではこの絵本のストーリーをベースにして授業の流れを組み立ててきました。私の十八番中の十八番です。
 正編はミクロ経済学、続編はマクロ経済学をベースにしています。
 正編では、レモネードの値段の決まり方、企業のたちあげ、労働者とのトラブル、価格競争、M&Aなどが取り上げられています。
企業の立ち上げに豚の貯金箱とパパからの借金は登場しますが、残念ながら株式は登場しません。
 続編では、コストプッシュインフレ、インフレスパイラル、不況とその対策(社会保障、財政政策、金融政策)が取り上げられています。
 続編は第一次石油危機をベースにしているので時代性を感じますが、物価と賃金のいたちごっこはデフレスパイラルの説明にも使えます。
 経済活動のイメージをつかませる、景気変動と経済政策のイメージをつかませる最初の動機付けに有効な教材です。できれば英文で読ませると、一石二鳥です。

(3)じゃんけんゲーム
 囚人のジレンマの数値例を使った簡単なゲームです。
 筆者は、『レモン』のなかの二人のこどもの価格競争の場面でこれをやらせます。
 共倒れにならないために二人がやったことは何かを問います。絵本での答えは「合併」ですが、他にもどんなやり方があるか、それは認められる方法かなどを聞いてゆきます。
 ゲーム理論のいくつかのパターンを紹介することもあります。
 単独で、もしくは国際政治の学習場面で使うこともできます。
 人格が出てくるゲームだからねと念をおしてやらせると、人間関係の機微に気づくこともできます。

(4)ヘリマネ体験
 金融政策の箇所で行うシミュレーションです。
 教室を半分にわけ、同じ品物をオークションにかけます。片方のグループともう一方のグループに配布する貨幣量の差を2倍にしておきます。
 オークションの結果をみて、なぜそうなったのかを考えさせます。
 種明かしをしてフリードマンのヘリマネ論を紹介して、黒田日銀がアベノミクスでやろうとしたのはこれなのではと問題提起。
 応用問題として、ベースマネーを増やして、これだけ日銀がお金を世の中にばらまいているのになぜ目標通りにならないのかを推定させます。ここまでやるのは中学生にはちょっとむりかもしれませんが、高校生だといろいろ回答がでてきます。
 単純な貨幣数量説で政策が行われているわけではありませんが、まずは大雑把に本質に近いものを理解するのに役立ちます。

(5)株式学習ゲーム
 ご存じ東京証券取引所と日本証券業協会が開発・運営している株式シミュレーションです。
 開始以来20年を超し、教材として定着したものと言えるでしょう。
 この教材、「間口が広く、奥行きが深い」と思っています。対象は流通市場ですが、どこからでも入れ、ここを入り口に企業、金融、金融政策、パーソナルファイナンス、為替変動、政治動向などに興味や関心を広げることができます。
 スマホからも参加できるようになり、アクセスが良くなっているところも<鉄板>教材の資格ありかもしれません。

 これ以外にも、「金融クエスト」など定評のある教材が作成されています。また、先生方が開発された教材がネットワークの部会や教室で紹介されています。
 これらが、どこまで<鉄板>になるか、「追試」を行うことでフィルターにかけられてゆくはずです。
 授業のなかで、自分なりの<鉄板>教材を持つことをこころがけてみてください。きっと授業準備に余裕が生まれると思います。また、ここを拠点にして現実の経済の課題に挑戦させる手がかり、足がかりが得られるはずです。
 ちなみに、先生方の<鉄板>教材はなんでしょうか?

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