執筆者     大阪市立加美南中学校  李 洪俊   福井県美浜町立美浜中学校 行壽 浩司    春日部市立武里中学校 小谷 勇人

4月号から4回にわたり評価の問題をとりあげてきました。 5回目の今月号では、新学習指導要領がスタートした中学校における三観点評価の実情と、新学習指導要領における評価の在り方を、3人の中学校の先生から報告・提案をしていただきます。 (経済教育ネットワーク 新井 明)

■学期末の職員室から
             大阪市立加美南中学校  李 洪俊
「期末テストが終わりましたので、今週の金曜日までに素点入力と評定交換をお願いします。なお観点別の重みは学校で決めた比重で、本校の評定平均は3.3±0.3で3.6までです」と教務主任。
中堅教員は、「テスト・提出物・授業態度等で観点別に集計してつけよう、入試で不利にならないように3.6だな…」とつぶやく。
ベテランは、「毎回思うけど、評定平均を決めた大阪の真の絶対評価って何のこっちゃ?ところで、(教科は違うけど)“主体的に学習に取り組む態度”ってどのようにしているの?」と隣に。「点数だけ取る生徒もいるけど、内面は分からないので、宿題などの客観材料を点数化して出すことになるでしょう。主体的でなければ提出物を出さないから」とお隣さんも困り顔。
新任は、「学びに向かう力の “主体的に学習に取り組む態度”ってどのようにつけていますか?」と先輩へ質問。「適当でいいんじゃないの?前回の“関心・意欲・態度”と同じで親に説明さえできればいいよ。評価って本来とても難しいものだからね」と先輩。それを聞いて、新任「そうですか…」と少し不安な顔。

この風景は、これまで再任用で異動してきたいくつかの中学校の平均的な職員室だ。
新学習指導要領の観点別評価に関して、個人的には、意図している目的=授業改善の方向や学習内容から三つの観点の具体的な内容が検討されて、「主体的・対話的で深い学び」をどのように取り組んだとか、授業実践で生徒は何を学んでどのような力が身についたか、また「指導と評価の一体化」を基本にしたPDCAサイクルで決めた今回の評価はどうだろうか、などの話題が職場ででれば望ましいと考えている。

残念ながら、きちっと取り組めている職場もあるだろうが、それは厳しいようだ。
その最大の要因は、学校行事や生徒対応、クラブ活動などで多忙で、常に時間に追われているからだ(昨年・今年は、さらにコロナ禍で行事変更が多かったことも影響している)。
一応、年初の職員連絡会や教科会で評価方法などは決められているけれど、具体的なことは先生方に全面的に任されている。また、新学習指導要領をどれだけ理解するために準備ができているかの問題もあるが…。
先生方の関心は高校入試に関係する評定平均であり、多くの保護者もそれで納得している。
どうも、目標に準拠した評価の理想と手続きは、まだ程遠い状況にあるようだ。今こそ、新しい評価に関する現場の情報交換に期待したい。

■パフォーマンス課題、三つの工夫
               福井県美浜町立美浜中学校 行壽 浩司
中学校現場では成績付けの時期を迎え、生徒の成績をどのように評価するかということが話題になっている。
その中でも特に注目されているのがテストの点数のみならず、パフォーマンス課題などの成果物によって成績を付ける取り組みである。しかしテストの点数のように数値化されたものでないため、見る教師によって評価に差が生じてしまうのではないかという懸念の声もあがっている。
 
以前、京都府の公立中学校にて勤めていた時、校内研究の一環として西岡加名恵先生(京都大学)と共にパフォーマンス課題を作成する機会があった。
評価にあたり、自分の担当するクラスだけではなく、全クラス分を一度に評価することで、複数の教員が判断し、クラスによって評価の差が出ることも解消されるとご教示いただいた。クラスの枠を超えて、その作品自体を複数の教員が評価していく試みは、成果物のような数値化されていないものを評価する際には効果的である。

また同じころ、名前は伏せた状態でA評価のノートを廊下に掲示する取り組みも行った。
これには二つの効果があったように思う。一つは、廊下掲示された生徒は日々のノートが高い評価を受け、嬉しく感じるという点である。
そしてもう一つは、これが、どのようなノートがA評価になるのか、というルーブリックを示すことになる点である。
「なぜこのノートがBなのか」「Aはどのようなことを書けばよいのか」という生徒の疑問に答えることになり、結果的に学年全体へ良い影響を与えていく。

最後に、「質の高いパフォーマンス課題とは何か」という点についてである。
「勉強した知識を活用したらよい」程度にしか認識していなかった私に、西岡先生は「複数の知識が関連付けられているパフォーマンス課題が望ましい」ということをご教示いただいた。
すなわち、公民のパフォーマンス課題の中に、地理や歴史で学習した知識、理科など他教科の知識、生徒自身の生活経験や、先日見たテレビ番組の知識といったような知識がお互いに関連付けられるものが「質の高いパフォーマンス課題」であるということであろう。
このような視点は、公民の学習を公民の知識習得で終わらせることなく、これからの社会に生きていく上で活用できる形にしていくことにつながっていくのではないだろうか。

■評価の転換点を経験して
            春日部市立武里中学校 小谷 勇人
・評価の転換点への温度感
 昨年度、私は中国にある日本人学校で小学6年の担任を経験しました。日本へ帰国し、原籍である公立中学校での勤務が始まり、2年連続「評価の転換点」を経験しています。
現場の議論は、観点別評価のパターンをどのように揃えて評定を出すかがメインでした。説明責任を果たすための喫緊の課題なので、当たり前と言われそうですが、多くの学校でも同じ流れであったかと思います。
ちなみに、前任校では、説明をしやすくするために全教科のパターンを統一、現在の勤務校では教科の特性に応じて各観点の重みづけが違うとして、各教科でパターンを提示しました。

・「主体的に学習に取り組む態度」と「関心・意欲・態度」のちがい
 さて、現場で一番真剣に議論すべき課題は「主体的に学習に取り組む態度」だったのではないかと振り返って思います。
学校をあげて研修をすることで、定期テスト後のワークがやってあるかチェックすることやプリント類が揃っているかチェックすることなどを評価に加味していたこれまでの、「関心・意欲・態度」を見取る成績処理とのちがいが見いだせるのではないかと思います。
まずは教科会レベルでスタートし、常に議論することが必要です。
また、メルマガの中で話題になっているルーブリック評価を作成してのパフォーマンス課題を含めて「主体的に学習に取り組む態度」を見取ることのできる時間を定期テスト以外に意図的につくることは必要だと考えます。
英語のスピーキングテストや音楽の歌唱テスト姿をよく見ますが、社会科でも「主体的に学習に取り組む態度」を見取ることのできる課題を作れないかと模索しています。
テスト前の自習時間をつくるよりも、こちらの方がはるかに有意義な時間になるのではないでしょうか。

・GIGAスクールの波に乗る
その際、大きな可能性を感じるのが一人一台のタブレット型端末です。私の勤務する学校でも、本格的に活用できるようになりました。
学習を積み重ねていく中で、子ども自身が学びの深まりを見取ることができればと試行錯誤しています。
まずは、従来のワークシート形式で行っていたことと同じようなアプローチからスタートし、たくさんの学びの成果を残していくことが求められていると考えます。
教師は生徒の記述内容から、ゆっくりと丁寧に「主体的に学習に取り組む態度」を見取ります。公立中学校でよくある定期テストの前後に提出物を集め、一気に評価して返却するようなことはこれで避けられると考えています。
ただでさえ多忙感がある中、クラウド上とはいえ、常に生徒の学びの成果が、時間のある際に見取ることができるようになったことは大きな変化です。
以上、「評価の転換点」を経験した中学校現場からの報告でした。まだまだ改善点だらけですが、大きく変わる教育の転換点を一教師として迎えているのだとワクワクしています。

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