執筆者 金子幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校)

(1)はじめに ~私たちの前にある道~
 2020年春、社会が大きく変わってしまいました。二ヶ月前には「在宅勤務」、「オンライン授業」が話題の中心になるとは思いもしませんでした。本稿では,2020年春,多くの教師が一番困っているであろう「オンライン授業」と経済教育とをセットで皆さんと一緒に考えてみたいと思います。前提としてはパソコン中級者の先生(私も同じ)を想定しています。
 このような中、私たちの前には大きく四つの道が用意されています。
 第一の道は、パワーポイントのようなソフトに学習内容を掲載して私たち教師の声をのせて配信するという道です。昔のラジオ講座のようなイメージでしょうか。
 第二の道は、カメラで授業を実際に撮影し、録画したものを配信するという道です。これは放送大学のイメージです。
 第三の道は、リアルタイムで、端末を介して多くの生徒と授業を進めるという双方向の道です。
 第四の道は、学校のホームページなどに課題や解説を提示して各生徒に学習してもらうという道です。
 このなかで筆者は第一の道であるパワーポイントに教師の音声をのせての経済学習を試みることにしました。対象は高校3年生の「政治・経済」を想定しています。

(2)教材案「マスクはどこに?」
 顔も見たことのない生徒が対象です。教室で呼吸を感じることもありません。まさに手探りです。不安の中、次のような授業案を考えました。

a)今起こっていることを確認する
 パワーポイント第一枚目のスライドにマスクの絵を大きく映し出します。その絵を見ながら二人の教師による次のような会話をパワーポイントにのせるのです。
A先生 「なかなかコンビニエンスストアではマスクが売り出されませんね。」
B先生 「そうですね。いつも品切れですと書かれていますね。」
A先生 「国内にはたくさんのメーカーがあるのだから,そろそろ生産されてもいい頃なのに・・・」
B先生 「作れば儲かるのにね。」

A先生のナレーション
 「さて・・・みなさんは,マスクがいつまでたってもお店に入荷しないのはどうしてだと思いますか?ワークシートに思いついたことを書いてみましょう。」
(同時にパワーポイントにも同じ文字を映す)
B先生 「A先生、この写真を見てください。」
 (パワーポイントに新聞記事に掲載された写真を映す。その写真はマスクを生産している現場が撮影されている)
A先生 「マスクを生産している工場の写真のようですね。作っているじゃないですか。」

A先生のナレーション
「さて・・・マスクは生産されているようですが・・・どうして皆さんの町のコンビニエンスストアに運ばれてこないのでしょうか?記事を読み、その中から理由をみつけてみましょう」
(同時にパワーポイントに記事のテキストを映し出す)

A先生 「みんなは理由がわかったかな?その理由をワークシートに書いてみよう」
 ここまでは、私たちを取りまく身近な問題を取り上げた新聞記事を読みながら学習を進めました。

b)問いを細分化する
 次は、「どうしてマスクがいつまで経っても売られないのか?」という問いをたてます。この種の大きい問いは、いきなり考えさせるのではなく、まずは、細分化することがポイントです。
教室ならば生徒に発言させ、その結果を分類するのですがオンラインではなかなかうまくいきそうにもありません。次のような展開を考えました。

A先生のナレーション 「どうしていつまで経ってもマスクが売られないのか?その理由を思いつくまま10個あげてみましょう。」
  (パワーポイントに指示文を示す。イラストや写真も一緒に載せて彩りよいスライドにするよう心掛けます)
 これはワークシートに書かせます。ここでは時間をとります。

B先生 「きっといろいろな理由が挙げられていると思います。せっかくですから分類してみませんか?」
A先生 「そうですね。分類してみましょう。どのようにわけますか?」
B先生 「みんながあげてくれた問題を、
①作り手に原因がある場合
②運ぶ仕組みに問題がある場合
③売るところに問題がある場合
④ウィルスに問題がある場合 
⑤貿易に問題がある場合 
⑥政府の対応に問題がある場合
⑦その他に問題がある場合に仕分けしてみたらどうでしょう。」
といって、生徒があげた10個の理由のうしろに①~⑦までの番号をつけさせるのです。
  (ここまでの指示も丁寧にスライドに書き込みます)
 仕分けをしたらその結果をレーダーチャートに作成するように指示します。

c)大きな問いへ
 そして、b)で提起した最初の問いを考えさせます。
A先生 「皆さんが作成したレーダーチャートからどのようなことが読み取れますか?」と生徒が自分で作成した資料の意味を読み取らせます。
B先生 「マスクが皆さんの手元に届けられるような社会にするために、どのような工夫が必要だと思いますか?」と質問して、用意したワークシートに考えたことを記述させます。
ここまでが第一段階で、次の時間には、最後のB先生が発した問いに対する生徒の回答をさらに吟味してゆくという流れになります。

(3)オンライン授業の教材づくりに挑戦するには
 パワーポイントで教材をつくる、また声を吹き込むのは難しいと感じてしまう先生もいるのではないでしょうか。まずは、A先生とB先生のようにペアになって10分程度のスライドを作ってみませんか?
 
ポイントは次の通りです。 
① 10分間のスライドで課題を三つくらいだす
② 課題は新聞記事の写真をきっかけにすると生徒の心の中での問いに近づくことができるのではないか?
③ 話題は「今の問題」(今回はマスクにしました)がいいと思います。
④ 新聞記事の写真、テキストデータから問いを二つほど提示。
⑤ 問題を細分化する作業を入れる
⑥ その中から問いの意味するところを感じさせる
⑦ どのような工夫をすることで問題が解決にむかうのかを考える
⑧ ふり返り とワークシートの提出(メール機能?)で合計約40分の学習。
⑨ あれもこれも教えようと欲張らない

(4)おわりに
  まさか・・・バレンタインデーの頃、このような新年度が待っているとは想像もしませんでした。今回の提案は急遽考えた授業案です。新入生の「現代社会」だったらどうなるだろうとか、この問いでいいのかなど、たくさんの問題点がありそうです。
皆様のご意見をお寄せください。そしてWEB上で皆さんと学び会うことができたらとてもうれしく思います。  

(メルマガ 136号から転載)

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