執筆者 新井明

 新学期。新しい教科書。生徒たちとの新しい出会い。さてこれからどんな授業にするか、担当の先生たちもフレッシュな気持ちになっていると思います。
 そこで、今回は授業を始める前に考えたいことを何点か提起してみたいと思います。

(1)教科書を通読する
 教科書を教員が読むのは、当たり前と言えば当たり前ですが、意外に忙しさにかまけて、教える部分だけを見て授業準備に入ることが多いのではないかと思います。
 四月当初も忙しいのですが、それでも一年の計で、使う教科書を通読することで全体をもう一度見直すことができるはずです。
 読解力の低下が問題になっていますが、少なくとも中学卒業レベルの教科書の本文を読める力を付けさせることが、私達教員にもとめられる教科指導上の使命とすると、教える自分自身がどれだけ教科書を読みこなせているか、それを確認するためにもやってみる価値はあるのではないかと思います。
 その際、中学校の先生は小学校の教科書を、高校の先生は中学校の教科書を手元において自分の担当する学年の教科書を読むと、目の前の生徒がどんな勉強をしてきたのかが、具体的なイメージとしてつかめます。
 (教科書は地域の販売店でしか入手できませんから、ちょっと大変ですが、下記の販売店では入手できます。)
 http://www.text-kyoukyuu.or.jp/otoiawase.html 
 高校教員だった私から見て、今の中学校の教科書は大変良く出来ています。図版、写真、そして各種のコラムなどこれをグレードアップすれば高校の教室でも十分に使える豊富さです。
 逆に、そこから同じテーマが何度も出てくるという重複も発見できるはずで、どこに力点を置くのかの見通しを立てることもできます。

(2)供給と需要から内容を選び出す
 中学校では教科書をほぼカバーすることが前提での授業プログラムが組まれますが、高等学校の場合は、実授業数からみて、内容が盛り込まれすぎています。
 例えば、3年生必修で置かれている「政治・経済」の場合など、早い学校では12月段階で通常の授業は終わり、あとは自宅学習などになるところもあります。
次期の新科目「公共」も2単位で盛りだくさんの内容が詰め込まれています。だから、冒頭の「公共の扉」の「トビラ」をいかに開くかが話題になるわけです。
 こんな矛盾をみんな知っているのに、対外的には全部扱っていますよと表示をしなければいけないのですから、学校自らがダブルスタンダードの見本を示しているということでもあるわけです。
 そうなった場合は、希少性と選択の世界になります。そんなとき、大抵は教員のサイドからの授業構成になりますが、一度、生徒の要望を聞いて、授業を組み立てることがあっても良いかも知れません。いわば需要サイドからの授業構成を考えるということです。
 教育ですから、いやでもやらなければならない、好きなものをつまみ食いはダメという論理は当然なりたちますが、そういったサプライサイドの論理だけでなく、ディマンドサイドの要望をリサーチしてみることを4月の当初にやってみたらどうでしょう。
 授業の場合、需要と供給のマッチしたところが最適配分点になる保証があるわけではありませんが、発想の転換も必要かもしれません。

(3)学問的な背景に注目する
 先ほど今の教科書は良く出来ていると書きましたが、その半面、雑多な内容が整理されずに入っていたり、研究の進展ですでに古くなっている用語や理論などがのこっています。
それは、これを入れないと現場の先生から文句がくる、売れないということもあり、そのまま入っているもので、通読することで、「なんか変だ」と感じることで、発見できるかもしれません。
 (この種の教科書の問題点に関しては、このコラムでも何回か触れていますので、バックナンバーを見ていただけると有り難いところです。例えば114号では、価格の違いの説明を要求する中学校の教科書を取り上げています。)
 https://econ-edu.net/reference/newsletter.html
 そんなときには、その引っかかった部分を今度は大学レベルのテキストで確認することを勧めます。
 これは四月当初には無理でしょうから、手元にその種の基本文献をおいて随時参照するか、思い切ってどこかで一挙に通読するとよいかもしれません。
 経済でいえば、神取道宏氏の『ミクロ経済学の力』(日本評論社)では、想定読者の対象の最後に「知的好奇心にあふれた高校2・3年生」をあげています。
 高校生が読むのなら、知的好奇心あふれる高校教師が読まないわけにはゆかないと言ったら言い過ぎですが、学習指導要領に縛られている教科書を使いこなすと同時に相対化するためにも、おすすめです。

(4)教科書を読み解くには
 最後は、宣伝です。
 こんな手間暇をかける時間的余裕はないという現場の現実を少しでも打ち破るために、ネットワークでは、夏の経済教室や春の経済教室などで「教科書を読み解く」シリーズの講座を提供してきました。
 ちょっとでも、経済学の知識を知っていることで、今やっている授業の位置づけが明確になり、内容が深まります。また、エコノミストと共同でつくる授業の例なども紹介されています。
 今夏も経済教室の企画が進んでいます。ぜひご参加ください。

(メルマガ 123号から転載)

Tags

Comments are closed

アーカイブ
カテゴリー