心の動きを止めない手がかりは?
執筆者 金子幹夫

1.冒頭10分で心を動かした後は?
 先月号では、教師が授業の冒頭で生徒の心を動かし、その動いたエネルギーを利用して経済学習の内容を伝えることが有効ではないかという提案をしました。そこで、今月は、この生徒の心が動き始めて数分後の授業について考えてみたいと思います。

2.動き続けるわけではない
 生徒の心が動いて数分後、授業内容に飽きてしまい、気がついたらボーッとしている生徒の姿を想像してみてください。「はじめは面白かったのにな・・・」という顔をしている生徒の心に、もう一度火を付けるための手立てとしてどのようなものがあるのでしょうか。

3.2つのことを考えます
 この手立てを考えるためには2つのことを同時に意識する必要があります。
 第1は、導入時に動いた生徒の心をどのように持続させるのかです。第2は、その動きを教師が教えたい学習内容にどのようにしてつなぐのか? です。
 この教師が持つ2つの意識を現実のものにするために、「何を教えるのか?」に注目してみたいと思います。

4.教える内容の手がかりがありました
「何を教えるのか?」ときかれたら、「それは経済の見方や考え方を教えるのだよ」と答えたくなります。では、「その経済の見方や考え方というのは具体的にどのようなものなのですか?」ときかれたらどのように答えますか?
 この問いに答える手がかりは、2026年 4月 12日に開催された経済教育ネットワーク大阪部会の記録からみつけることができます。(※ 昨年度開催された「先生のための夏休み経済教室」の資料にも詳しく書かれています)    
 その手がかりというのは「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」です。これは経済の本質を表す6つのキーワードとしてあげられています。

5.手がかりをどのように授業づくりにつなげるのか?
 大阪部会では、この6つのキーワードについて、身近なケースを題材にして学びはじめ、徐々に一般化してはどうかと提案しています。
 そこで周囲を見渡します。身近なケースというと・・・これは教師が得意とする分野になります。筆者が見つけたものに新聞があります。これは、私たちの身近な生活と経済学習の内容をつなぐ材料を提供してくれるはずです。

6.どのようにつなげることができるのでしょうか?
 例えば、先月号の編集後記で取り上げました神田の三省堂がオープンしたというできごとは、多くの新聞で報道されました。教室で新聞を用いる場合は、複数紙配付することになりますから、ちょうどよいと思います。
 そこで、次のように展開してみてはどうでしょうか?
(0)神田の三省堂オープンの記事を読みます。
(1)1冊の本を作るためには、どのような人が関わっているのかを考えます。
(2)本は書店に並ぶまでにどのような経路を通ってくるのかを考えます。
(3)開店を待っている人たちは、どのような本を求めているのかを考えます。
(4)どうして、この本屋さんの開店が各全国紙で取り上げられているのかを考えます。(5)欲しい本があったら、記事で取り上げられている本屋さんに行きますか? 限られた時間や予算をどう使うのが効率的でしょうか、あるいは誰にとっても本が手に入りやすい環境とはどのようなものかを考えます。
(6)なぜこのような問いかけをしたのだと思いますか?という問いかけに答えます。

7.少しずつ一般化してみますと・・・
 この新聞記事を題材にして学びはじめたとしたら、どのようにして一般化ができるのでしょうか?
 (1)の問いは「分業」を意識しました。1冊の本が出来上がるために、どのような人たちが仕事をしているのかを調べてもらいたいと思ったのです。
 (2)の問いは「分業」に加えて「交換」を意識してみました。いろいろな「交換」を経て、書店に本が届くということを理解してもらいたいと思ったのです。
 (3)の問いは「つながり」を意識してみました。ここではじめてお客さんが登場します。このつながりは単に売り手と買い手だけに留まりません。本は世界中の著者と読者をつなげてくれます。古の人ともつなげてくれます。
 (4)の問いは「信頼」を意識してみました。歴史のある有名な本屋さんだから、ここに行けば魅力的な本と出会えるに違いないという根強い信頼があるのかもしれません。
 (5)の問いは「機会費用」を意識してみました。自宅から神田まで出かけるということがどのような意味を持つのかを考えてもらいたいと思ったのです。
 ※ 東京以外の地域では、地元の大きな書店まで出かけるかどうかを考えます。
 (6)の問いは経済学習を意識しました。新聞記事を題材にして、教科書の内容をどのように理解してもらいたいかを生徒と共有したいと思ったのです。

8.今月号の構造
 ここまでいかがでしょうか? 今月号の内容は次のような構造を持っています。まず教科書記述には、暗黙裏に省略された内容があるということです。記述された内容と省略された内容を合わせて経済教育の本質をあぶり出すと「希少性、分業と交換、つながり、信頼、機会費用、効率と公正」が浮かび上がってきます。
 このあぶり出された内容は新聞記事と合わせて学習することで一般化することができます。ただ記事を読むのではなく、教師が六つの問いかけをするのです。キーワードというフィルターを使うことで、新聞記事が生きた教材に変わります。
 
9.授業案が浮かびますか?
 読者の皆様の心は、今動いていますか? 「あっ、これならできそうだ!」と心が動いていましたら、本稿はほんの少し役だったのかなと思います。
もしも教師の心が動かないようでしたら、生徒の心が動くはずありません。筆者は新たな策を考えることになります。
 今回取り上げた題材は、今年度の「先生のための夏休み経済教室」におけるテーマと関連したものになります。多くの先生方と共に考えていきたいと思います。今月はここまでです。

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