外国為替、私ならこう教える 〜教え方の工夫と国際比較データの使い方〜
執筆者 篠原総一

生徒の思い込み。1ドル120円と1ドル150円とでは、150円の方が円高だと思いがち。為替の授業はそんな誤解を解くところから始まるようですが、残念ながら先生方の努力は完全には成功していないように私には見えます。

為替レートは通貨と通貨の交換比率です。日本の場合、普通は「1ドル◯円」のように表しています。そして正しくは、この◯の中の数字が大きいほどドル高円安、数字が小さいほど円高ドル安になったと言います。今回は、この関係を間違えないように教える方法の提案と生徒を深い学習に誘う小ネタの紹介です。

*為替レートの読み方
「1ドル◯円」という表現は、例えばりんごの価格を「りんご1個□円」と表すようなものです。ここでは、りんご1個を手に入れるための支払額が□円だという意味ですから、□のなかの数字が大きいほどりんごは高くなったと言います。それと同じように「1ドル◯円」の◯のなかの数字が大きいほどドルが高くなっていることは自明でしょう。

*円高・円安の意味を徹底的に分からせる工夫
問題は、◯のなかの数字が大きくなったとき、ドル高であると同時に円安だということが、どの生徒も、極端に言えば小学生でも肌感覚で理解できるような教え方を工夫することです。そのために、私ならまず二つの問を用意してみます。

①「日本人Aさんがアメリカに行って、サンドイッチを食べました。値段は5ドルでしたが、日本円に直したら一体いくらかかりましたか。」
②「アメリカ人Bさんが日本に来て、600円のカレーライスを食べました。その費用はドルに直すと何ドルだったでしょうか。」

最初の設問は単純明快。先生方も授業で普通に使っていらっしゃる方法だと思います。
ポイントは②のケースです。アメリカ人Bさんは普段の生活の中で日本円を持っていることはありません。ですから日本でカレーライスを食べるためには、自分で持っているドルを使って円を買っておく必要がありますが、600円に相当するドルの額は為替レートによって増減します。
例えばレートが「1ドル100円」の時には600円は6ドルになりますが、「1ドル200円」のレートなら600円は3ドルで買えてしまいます。このようにごく単純な計算結果を黒板に書いておけば、どの生徒も「1ドル200円の方がアメリカ人Bさんにとって日本円が安くなっている」ことが一目で了解するはずです。

ここで、例として600円の商品を選びましたが、それには二つの理由があります。本来、円の価格を「1円△ドル」(これを内国建て為替レートと言います)のように表せればことは手っ取り早いのですが、実際にはわずか1円で買える商品が見当たらないこと、さらには「1円△ドル」表記に現実味のある為替レートを当てはめれば、△の中が0.01とか0.005のように生徒には肌感覚でついていきづらいドルの額になってしまうからです。

さらに、ここではサンドイッチとカレーライスを例にしましたが、生徒にもっと強烈な印象を与える例を使えれば、彼らはここで学んだ結果を長く知識として活用するように思います。(教育の効果が長く定着するという意味です。)

今回はそんなパンチの効いた小ネタとして、日本経済新聞(電子版)「世界お値段調査隊」の価格比較の報告記事、とくにそのなかの「世界ラーメンHOW MUCH ? 1杯に見えた安い日本」 という記事を紹介します。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1907E0Z10C23A7000000/

*「世界ラーメンHOW MUCH ?」から小ネタ、捨てネタを作る
まず、データを並べてみると、生徒はラーメン一杯の値段に驚くはずです。ニューヨークで3100円、ロンドンとバンコクで2200円、香港で1800円、マニラが1300円、ついで上海が1000円と続いていきます。もちろんラーメンにもいろいろな種類があるのでどの国でも値段に幅がありますが、とりあえず平均的なラーメンの値段だとしておきます。そして、日本では平均609円(総務省の調査、2023年2月の全国平均)だということも付け加えておきます。

ここから生徒は何を読み取るか、現場経験のない私には興味津々たるものがありますが、為替学習としては、今回紹介した手法で、①一杯20ドルのニューヨークのラーメンの(為替レートごとの)値段を円で表わす、②一杯600円の日本のラーメンの価格をドルで表わす。その結果の一覧表は、表を見るだけで生徒に「為替レートの意味」をはっきり伝えられる捨てネタ、小ネタになるはずです。

その上で、外国の商品と比べると日本の商品はずいぶんと安いことを実感するはずです。ここから
・「為替レートが少々変化しても、ニューヨークのラーメンは普通の日本人には手が出ないほど高い、これではアメリカから輸入する他の商品も原材料も高いだろうな」
・「ああそうか、日本の商品はとにかく安いから、旅行先に日本を選ぶ外国人が増えているのか」
・「外人が多く来るから日本のホテルサービスの需要曲線が右にシフトして、そのために、今、ホテル料金がべらぼうに高くなっているのか」
などなど、教科書には決して書かれていない、生きた経済学習に進めるのではないでしょうか。

*今回のまとめ:為替学習のミソ
この小ネタが深い学びや発展学習につながるのは、実は、今回紹介した教える工夫が「外国為替を何のために購入するのか」という需要の理由、需要の経済目的をはっきりさせているからに他なりません。需要の目的が具体的にわかっているからこそ、為替レートの変化が経済にどのような影響を与えるのか、という経済学習の本質につながっていくのです。

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