①どんな本か
 タイトルは開発経済学となっていますが、国際開発の歴史と現状を紹介しながら、世界に横たわっている「理不尽な悲惨さ」を改善するための手がかりを経済学の観点をもとに提示している本です。

②どんな内容か
 全体は大きく4章で構成されています。
 第1章は、「開発経済学のはじまりとおわり?」と題して、第二次大戦後の植民地から独立した国々の経済の歩みと、それを分析する二重経済論や発展段階説が紹介されます。
 第2章は、「21世紀の貧困」と題して、現在の世界の貧困とその削減の状況を数字で示しながら、それでも貧困が深刻な国々を紹介します。また、不利な立場の人々として、女性と性的少数者、子ども、難民、障害者を取上げ、貧困撲滅のためのプログラムを紹介します。
 第3章は、「より豊かになるために」と題して、経済成長のメカニズムの解説と技術革新の役割、担い手が紹介されます。あわせて、感染症と知的財産、新型コロナウイルスの医薬品開発の問題が取上げられます。
 第4章は、「国際社会と開発途上国」のタイトルで、政府開発援助を巡る論点、中国の支援問題、SDGsと国際開発の問題の三つが取上げられています。

③どこが役立つか
 三つの点で役立つでしょう。
 一つは、グローバル経済のなかで、開発に成功した例とうまくゆかなかった例を具体例とデータで紹介しているところです。貧困問題もデータを見ると、全体では確実に成果が上がっていることがわかります。それでも貧困から脱出できない国々もあり、そこでの不利な立場の人々に目を向けている第2章の複眼的な視点が問題の把握に役立つでしょう。
 二つ目は、中国のプレゼンス拡大、HIVやコロナ禍でみられた特許問題、SDGsと開発問題との関わり、ODAの現状と課題など、ホットなテーマを取上げている箇所です。ここからは探究活動のヒントを得ることができるはずです。
 三つ目は、経済学に関する部分です。特に、経済成長のメカニズムを資本の量と資本の生産性から説明するAKモデルを説明している第3章は、経済成長のためには何が必要かという手がかりを与えてくれるでしょう。

④感想
 教えている高校三年生で国際関係に進みたいという生徒に、「開発経済学って何ですか、いい本があったら教えてください」と聞かれて、この本を勧めました。
 海外支援や国際機関で働いている人の体験を基にした本はたくさんありますが、本書はウォームハートを持ちつつ、経済学というクールな部分も持っている本と言えるでしょう。
 開発援助に関する政府対市民運動の対立など、紹介者(新井)がこのテーマに関心を持っていた時代からの対立点もとりあげられていて、懐かしい気分になりました。また、日本政府が海外援助の評価に「国益」を入れていることに対する著者の評価は一読の価値ありで、かつ要検討の課題だなと感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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