①どんな本か
・タイトル通り中学公民的分野での授業のためのワークシート集です。
・他の本との違いは、三枝先生が日頃から主張されていた活動型授業が随所に、かつ大胆に取り入れられているところです。


②本の内容は
・総論として「公民的分野における指導のポイント」(三枝先生執筆)が置かれ、あとは、A私たちと現代社会、B私たちと経済、C私たちと政治、D私たちと国際社会の諸課題という学習指導要領通りの順番での授業案、ワークシートが収められています。
・それぞれの項目では、様々な活動型の授業提案がされています。
 例えばAの1の私たちが生きる現代社会と文化の特色ではグループ学習が、Aの2の現代社会を捉える枠組みではジグソー型の学習が提案されています。
 その他、Bの経済ではシミュレーション、企画書づくり、ディベート、Cの政治ではパネルディスカッション、模擬選挙、予算案作成のシミュレーション、模擬裁判など豊富な事例が提案されています。
 最後のDの国際社会はディベートで締めくくります。


③どこが役立つか
・三枝先生が書かれた総論部分が三枝社会科のエッセンスがつまった部分になっています。ここを熟読することで、公民の授業づくりのポイントがつかめるはずです。
・特に、このなかで指摘されている、授業をパッケージで考える、活動型の授業を組み立てるためには地歴の授業の段階から積み上げてゆく、クラスの班活動での指導など日頃からの指導があって成り立つという内容は、公民分野の授業づくりだけではない重要な指摘の部分でしょう。


④感想
・三枝先生のこれまでの実践の集大成という感じの本です。
・残念なのは、分担執筆のために、経済学習での大きなストーリーが見えなくなっているところです。
例えば、無人島漂着シミュレーションではじまる経済学習ですが、それをうけて登場するのは家計のシミュレーション、企業の企画ですが、無人島漂着シミュレーションはここでは消えています。ここまでは三枝先生の執筆なのですが、次の市場と働きは別の執筆者となり、活動型の授業は一端分断されます。
次の政府の役割で再び無人島シミュレーションが登場して財政問題が扱われますが、そのあとに別の執筆者による財政問題のディベートとなります。ここでも分断が起こってしまっています。
・また、金融が企業の企画の冒頭で講義として扱われるだけで独立して登場してこないのも少々残念です。
・それぞれの項目を活動型のパッケージとして学習することは、生徒が主体的に授業に臨むための大きな条件になるでしょうが、パッケージどうしをつなぐ大きなストーリー(例えば、無人島漂着シミュレーションのストーリーで全体を通してみるなど)があると、もっと三枝社会科の良さが浮かび上がるのではないかと感じました。
・もう一つ注文すると、政治分野を三枝先生がどう扱っているか、それも読みたかったなと思いました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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