①どんな本か
・一橋大学名誉教授で現在は名古屋大学教授の齊藤誠先生が、商業高校向けの科目として新たに設けられた「グローバル経済」(旧「ビジネス基礎・応用」)の教科書として書かれた原稿をもとに一般向けに書き下ろした本です。
・齊藤先生曰く、「「グローバル経済」の学習指導要領の解説はとても良く出来ていて、新しい社会科教科書の誕生を予感させるところがあった」ので、「16歳から18歳の若者に向けて新しい教科書を作ってみたかった」という意欲に満ちた本です。
・全体は5章からなっています。そのうち、第1章から第4章までは学習指導要領通りの構成で、最後の第5章は独立に書き下ろされています。
・目次は以下の通りです。
 CHAPTER1 経済のグローバル化と日本
 1-1 グローバル化と国際化
 1-2 日本経済の現状
 CHAPTER2 市場と経済
  2-1 市場の役割と課題
  2-2 経済成長
  2-3 景気循環
  2-4 経済政策
 CHAPTER3 グローバル化の動向・課題
  3-1 人材のグローバル化
  3-2 財とサービスのグローバル化
  3-3 金融と資本のグローバル化
  3-4 情報のグローバル化
 CHAPTER4 企業活動のグローバル化
  3-2 企業の海外進出
  3-3 グローバル化に伴う企業の社会的責任
  3-4 世界との関わり
 CHAPTER5 コロナ禍と経済のグローバル化
  5-1 コロナ禍と経済のグローバル化-いくつかの風景

②どこが役立つか
・なにより齊藤先生の意気込みが行間からにじみ出ている本です。一般に無味乾燥といわれる教科書ですが、こんな教科書が登場してきたことを喜びたいところです。
・第1章のグローバル化と日本では、グローバル化と国際化の違いからはじまり、グローバル化の特徴を四つの側面から紹介します。その筆致は生き生きとしています。
・また、日本経済の現状では、日本経済の歴史を概観し、現在の格差問題、そしてコロナ禍まで具体的にみてゆきます。
・第2章は、ミクロ経済、マクロ経済の見方や考え方の概説部分です。書き方は、具体的な事実や問題を取り上げ、それを理解するために必要な理論を噛み砕きながら説明する構成になっています。
・その際には、「これまでに慣れ親しんできた経済学の教育体系にあまりこだわらないようにした」「経済学を表にあまり出さないようにした」と書かれているように、経済の仕組み、社会の仕組みを理解するために必要な知識をていねいに、ゆっくりと展開されています。
・高等学校の授業だったら、当該項目をどう展開したら良いか、また、理論を噛み砕くにはどんな方法があるのか、自分が使っている教科書の記述や展開方法と比較することで、授業の組み立ての参考になるでしょう。
・例えば、単純な競争と多様な競争の違いを説明した箇所とイラストなどは、これまでの社会科や公民科の教科書では扱われていなかった部分です。
・第3章のグルーバル化に関しては、人、もの、カネのグローバル化の順で最新の動向を踏まえて展開されています。また、情報のグローバル化に関する部分は新しい貿易、新しい取引の事例が出されていて、授業づくり役立ちます。
・第4章は企業活動に即した最近の動向がフォローされています。また、第5章は今現在進行しているコロナ禍の問題が取り上げられています。

③感想
・学習指導要領への絶賛に近い評価が少々びっくりでしたが、いくら文科省の方針や理念が正しくとも大変せっかちで、それが現実の教育現場に大きな負担となっているという指摘は、その通りだと思い、共感しました。
・この本、教科書としては意欲的過ぎるためなのか、出版社の「検定」に合格しなかったと書かれていますが、逆にそれがよかったのかもしれません。一人の著者による経済の筋の通った記述が提示されると同時に、商業高校だけでなくひろく高校生に「自信を持って語れるような、平易であるが、深みのある書物」が提示されるという意図せざる結果となったからです。
・惜しむらくは、コラムの記述ミスがあったり、当初登場していた中華料理屋さんの話が途中から消えてしまうなど、もうすこしつかみのストーリーの工夫があるといいなと思う箇所があったりしたことです。でもそれはほんの少しの瑕疵です。
・新しい経済教育をすすめようと考えている先生方にベンチマークとして、一冊手もとに置いておくと良いと思います。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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