①どんな本か
・2013年に有斐閣の大学向けの教科書ストゥディアシリーズの一冊として出され、好評だった最初の本をベースとした改訂新版の本です。
・今回の本も以前の本も、タイトル通りとにかくわかりやすい、ミクロ経済学の第一歩の本となっています。
・構成は4部12章からなっています。
 第1部は「ミクロ経済学の考え方」で、ミクロ経済学とは?と個人の選択を考えるの2章構成。
 第2部は「理想的な取引環境」で、需要曲線・供給曲線、市場均衡と効率性、理想的な取引環境への政府介入と死荷重の発生の3章構成。
 第3部は「市場の失敗と政府の役割」で、市場の失敗、独占、外部性、公共財、情報の非対称性、取引費用の6章構成。
 第4部は「ゲーム理論」で、ゲーム理論と制度設計の1章構成。計12章で、大学だと半期2単位分、初年度春学期の講義内容に相当します。

②どこが役立つか
・難しいとされているミクロ経済学の内容を、数式をほとんど使わず、一人でも読み通せるように、初学者が引っかかりやすい箇所をていねいに解説しているところは、中高でも、授業の進め方のヒントになる書きぶりの本です。
・交換の利益からはじまり、インセンティブ、トレードオフ、機会費用、限界的の4つのキーワードを押えて、完全競争市場での売手と買手の行動の分析、市場の効率性、市場の失敗の理由とその補正とオーソドックスな展開をして、最後にゲーム理論の入り口まで導く手順など、中高の教科書に書かれているミクロ部分の背景を押えるヒントになるでしょう。
・特にオススメなのは、新版で登場した、「ミクロ経済学の地図」です。これは、価格理論の島、ゲーム理論の島、応用分野の島、未開の新大陸と4つの島で現代経済学の全体像を示したイラストです。
・これを見ると、今学習している箇所がどこに位置するのか、また、これからどんな学習が待っているのかが一目瞭然にわかります。ちなみに、この本は価格理論の島を解説したもので、最後に釣り橋をわたってゲーム理論の入り口に到達するところまでの内容であることがわかります。
・26あるコラムにも、学生がつまずきがちの部分の詳しい説明や補足の説明があります。例えば、コラムの10ではグラフを書くときの注意、11では需要曲線なんて本当にあるのかという問いに対する答えが書かれているなど、これも中高でも役立つ内容が書かれています。

③感想
・かゆいところに手が届くということばがありますが、そんな本です。以前紹介したアセモグルの教科書などアメリカの教科書もていねいで親切ですが、あちらは大部なのに対して、半分以下のページでよくここまでと思わせる本になっています。日本の教科書も進化したものという感想です。
・「この教科書の使い方」に書かれている、実例を探しながら読む、友達に説明してみる、試験問題を作ってみる、というアドバイスは私たち中高の教員にとっても授業のストーリーや構成を考える手がかりになりそうです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・野間敏克先生に推薦いただいた本です。
・著者は同志社大学総合政策学部の教授。地方自治、行政学の専門家で、大学の地方自治論のテキストとして書かれた本です。
・タイトル通り、地方自治に関する本ですが、中高の政治学習の地方自治を扱う場合だけでなく、私たちの自治意識を刺激するすぐれた本になっています。
・内容は三部、12章からなります。
 第Ⅰ部は、「主体」と題されて、地方自治の本質、制度的な歴史、議会の3つの章で構成。
 第Ⅱ部は、「管理と実践」と題されて、自治体と職員、税財政、市民ニーズと参加、決定と実施、評価と広報、協働の6つの章で構成。
 第Ⅲ部は、「編成」と題されて、広域連携、都道府県と市町村の関係、多様な地方自治制度の許容の3つの章で構成。
・テキストとして使う場合は、これで半期2単位の講義に相当する内容です。
・特徴は、オーソドックな地方自治の制度や現状の紹介にとどまらずに、「実学の地方自治論」とサブタイトルにあるように、議会、行政、市民の関係を実際の運用面と先端研究をもとにした分析、今後の展望と幅広くまとめているところです。
・特に、自治体からの情報提供と市民の意識、市民満足度、シェアードサービスなどの新領域や行動行政学(心理学を行政学に応用したもの)の紹介など、新しい研究動向などが扱われているところがユニークといえるでしょう。

②どこが役立つか
・役に立つ点は三つあると思われます。
 一つは、授業準備場面です。地方自治、地方財政は定番で必ず扱う箇所ですが、どうしても通り一遍になりがちです。そんな授業内容を、主権者教育の観点から現状の課題を踏まえたリアルなものにするのに役立ちそうです。
 二番目は、具体例です。例えば、地方議員の定員問題。都道府県議員が過剰であることを具体的に指摘しています。議員報酬に関しても都市部の高額報酬を議員の実態、国際比較などから具体的に指摘しています。そんな、リアルなデータが随所にでてきます。
 三番目は、「公(おおやけ)」の見直しです。私たちの担当教科は公民科、公民的分野です。来年度からは高校で「公共」がはじまります。その時の「公」は何かに関して私たちは日常の授業準備に追われて考えなくなりつつあります。著者は「公」はみんなのこと、私たちのことと指摘します。お上、お役所と表象されがちな「公」ですが、その見直しを迫る点でこの本は鋭い刃を私たちに突きつけている本です。

③感想
・とても良い本ですが、安藤先生の教科書に比べると、一見不親切な本で、好対照でした。テキストというより研究者の展望論文という性格が強いので当然でしょうが、まとめもないし、演習問題のようなものもありません。でも、著者の課題意識、危機意識がストレートに伝わる本でした。
・特に、自治体運営の原理、規準として効率性と民主主義をあげて、それがトレードオフの関係にあり、住民が無関心であると地域を滅ぼすという指摘は、自分自身の自治体との関わりを振り返っても、考えさせるものがありました。また、地方行政の課題と学校の課題がリンクしていることを感じます。
・Amazonのこの本の評価に、こんな不親切な本を教科書として買わせるな、評価1という趣旨の投稿が載っていました。この程度の文章を読むのをいやがり、レジュメ方式でポイントだけを教えろという大学生を生み出さない方策を、中高でも考えないといけないのではと深刻に感じました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・2019年に京都大学経済学部で開講された「金融リテラシー」という講義(半期14回)の内容をまとめた本です。
・京都大学で「金融リテラシー」の講義が行われたのははじめてのこととのことであり、この講義には250人を超える学生の履修登録があったとのことです。
・この本では、基礎編がそのうちの前半、応用編で後半が扱われています。
・この講義は、オムニバス方式で、編著者である京都大学経営管理大学院の教授である幸田氏と川北氏以外に、金融庁、金融広報中央委員会、東京証券取引所(経済教室でお世話になっている増田剛氏が担当されています)、野村資本市場研究所、年金積立金管理運用独立行政法人など多くの関係者が一コマずつ講義をしていて、それがまとめられています。


②役立つところ
・金融に関しては、新学習指導要領では、中学公民で「経済活動を支える金融などのはたらき」を扱うことになっています。高校「公共」では「金融を通した経済活動の活発化」、「政治・経済」では「金融に関する技術変革と企業経営に関する金融の役割」にそれぞれ触れることが指示されています。社会科公民科では、パブリックファイナンス、コーポレイトファイナンスを主に扱えということです。
・本書で取り上げられているのは、個人の資産形成や運用、金融商品に関する知識で、それは主にパーソナルファイナンス領域に区分される部分であり、新学習指導要領では家庭科で「経済計画」「金融商品・資産形成」として扱われることになっています。その意味では、私たちの経済教育に直接関連する部分はあまり多くないかも知れません。
・とはいえ、金融リテラシーの教育は、公民科でも必要であり、直接授業で使わなくとも私たちが知っておいて良い内容と考えられます。
・オムニバス講義なので、各関係者がどのようにそれぞれの問題を大学生向けに語ろうとしているのか、そのレベルや範囲を知っておくことが大事かと思われます。


③感想
・この本のおもしろかった箇所は、講義本体の部分以上に、基礎編、応用編のそれぞれの巻頭に書かれているコラム部分でした。基礎編で8名、応用編で8名、計16名のエッセイは、正直、玉石混交だと思いました。これは紹介者の感想にすぎないので、皆さんは、それぞれの書き手がどのような立場で、語っているのか、それを吟味して、評価することをオススメします。
・コラムのなかで紹介者が感心したのは、日経新聞の論説委員の藤田氏の「米国の金融リテラシーから考える日本」と、野村総研の吉永氏の「日本人の金融リテラシー問題の本質」という二つのエッセイです。特に、後者での、「日本人の自虐的な金融リテラシー観…が、米国との比較において語られるのを聞くたびに、根拠のない都市伝説と同じものではないか」という箇所は、もっとその部分を展開してほしいと思ってしまいました。
・この本、二冊購入するとそれなりの投資になります。地域の図書館などで読んで、必要と思われたら購入されるのが、金融リテラシーの応用になるかもしれません。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・著者がねらいで書いているように「経済学入門と銘うった本のなかではじめてと言ってもいい『値段を軸に動く社会のしくみ』という視点を重視した経済学の本」です。
・対象は高校生ですが、「身近な消費生活を中心に」経済を学ぶ中学生の方が対象としてふさわしいかもしれません。
・著者は、金融機関に勤めた後大学で長く教鞭をとってきた人です。本書は、大学の附属高校の先生や生徒に原稿段階でチェックをうけているので、その意味ではわかりやすく書かれた経済の入門書になっています。
・内容は次のようになっています。章の名前は本の通りではありません。
 第1章 消費者にとっての値段の意義、役割(購入の出発としての値段)
 第2章 市場メカニズムを学ぶ(需給曲線の意味)
 第3章 生産費用と価格(生産者にとっての費用)
 第4章 値段が瞬時に決まるしくみ(市場の実際、オークションのしくみ)
 第5章 小売店が決める値段の戦略(マーケッティング、ゲーム理論)
 第6章 消費者にとっての値段(効用、行動経済学)
 おまけの章
・つまり、生産→出荷→市場→小売店→消費者、という流れで構成されている本です。


②役立つところ
・第4章までは、教科書でも触れられている部分が多いのですが、第5章、第6章の箇所が新しい経済学を踏まえた商品の価格に関連する箇所です。ここを使って、授業が展開できるでしょう。
・経済学と銘をうっていますが、経営学、マーケティング、心理学、データ分析、AIまで登場するので、幅広く経済の仕組みを値段という窓口から学ぶ事ができる本です。
・中学教科書で登場する、お店の経営者になってみようという学習活動を行うときに、価格を決めたり、販売方法を工夫したりする場合の根拠となる理論が紹介されています。そんな、生徒のアクティビティの指導に役立つ本になるでしょう。


③感想
・この本の第2章の価格メカニズムの説明は、紹介者からみて納得ゆくものではありませんでした。需給曲線の説明、均衡価格の説明ですが、高校や中学の教科書の説明の問題点をそのまま踏襲したものになっていると感じます。
・春の経済教室の篠原先生の講義を踏まえると、ここは、現実を理解するための手がかりになる説明が不足、もしくは不十分ではないかと思われます。他の部分が、わかりやすく、かつ現代の理論も踏まえて書かれているので、もったいないと思いました。
・授業で活用するだけでなく、ネットワークが目指そうとしている経済教育と比較対照する本として手に取ってみるとよい本かと思います。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

■行壽 浩司 (福井県美浜町立美浜中学校)
①佐藤雅彦他 『行動経済学まんが ヘンテコノミクス』(マガジンハウス)
行動経済学を漫画で学べる一冊。中学生の朝読書の時間によく借りられて読まれています。大人が読んでも「なるほど!」と思えるような内容となっており、身近な事例から行動経済学が学べます。本書で取り上げられている菊池寛の「形」の事例などは国語の教材にもなっており、それを行動経済学の視点から解釈し直しています。

②マイケル・サンデル 『それをお金で買いますか』(早川書房)
「ハーバード白熱教室」で有名なマイケル・サンデルの一冊。「ハーバード白熱教室」同様に、身近な事例を用いながら、行き過ぎた市場主義がもたらす弊害について考えるきっかけを与えてくれます。授業の合間に考える時間を設定する際に使える「ネタ」が多い。

③アマンダ・リプリー 『世界教育戦争』(中央公論新社)
PISAの調査結果を皮切りに、思考力のスコアが高い国の学校教育、低い国の学校教育を調査、記述している一冊。内容も生徒たちの学校教育の様子をナラティブ(物語的)に語っており、次々と読み進めることができます。福井県の初任者研修の必読文献となっています。詰め込み教育の是非などについて考えるきっかけとなり、このような本をもっと読んでみたい、と感じた一冊。

■下村 和平 (京都府立山城高等学校)
①林 敏彦 『需要と供給の世界』(改訂版)(日本評論社)
価格機構を教える際のネタに私はこの本をよく使っています。例えば、「空気はなぜタダなのか?」「旅行会社はなぜ月旅行を商品として販売しないのか」「混雑税」など。以前の共通一次の過去問に対する林先生のコメントも興味深い。ミクロに関する単元を政経で話すのに参考になる名著だと思います。

②西村 理 『経済学入門』(放送大学教育振興会)
経済教育ネットワークでお世話になっている西村先生が書かれた本。本書は先生が「まえがき」に述べられているように、「経済学のエッセンスをやさしく伝えるように具体的なたとえ話を用いて」書かれています。勿論難しい部分もありますが、手元に置いておきたい一冊です。

③佐伯啓思 『現代文明論講義』(ちくま新書)
佐伯啓思氏による京大での講義をベースにした本。かつて「ハーバード白熱教室」というNHK番組があったが、佐伯氏は、その京大版をやろうとしたようです。様々な学部、1年生対象の90分講義。テーマは現代の世界、とりわけ日本を覆う「ニヒリズム」。時事問題を題材にして学生と教員とが討論する。高校生にはやや高度な内容だが、「探究」の授業の参考になろう。こんな授業ができれば、答をすぐに求めがちな生徒に「考えるトレーニング」になると思う。

■大塚 雅之(大阪府立三国高等学校)
①浦部はいむ 『高校生を、もう一度』(イースト・プレス)
定時制高校を舞台としたマンガです。作者は大阪の定時制高校出身者であり、経験者にしか描けないストーリーばかりです。子どもに中卒であることを批判された母親が学びなおしを決めて通学するストーリーなど泣ける要素も多くあります。どんな困難な状況に置かれた人にとっても、学校は学びを提供するところであり続けるべきと思わせてくれる作品です。

②NHKスペシャル取材班 『やばいデジタル』(講談社現代新書) 
昨年のNHKスペシャル「デジタルVSリアル」のうち第1回「フェイクに奪われる私」第2回「さよならプライバシー」をまとめたものです。私たちの検索履歴などの個人情報はわずか2.7GBであり、それらの個人情報を分析すればどんな人物かといった内容だけでなく、将来どのような行動をとるかまで当てられてしまうとというショッキングな内容がたくさん含まれています。改めて、利便性と民主主義・プライバシーの保護の両立は難しいのだなと思わせてくれる本です。

③木庭 顕 『誰のために法は生まれた』(朝日出版社)
最近、後輩の先生に紹介してもらって読んだ本です。元東大教授の著者が高校生相手に「近松物語」などの古典を鑑賞させた後に法は誰のためにあるかを考えさせるものです。高校生相手の対話形式で読みやすいけれど、内容自体は難しい。「法とはグルになった集団を解体して、追い詰められたたった一人を守るもの」「見捨てられた一人のためにのみ、連帯(政治・デモクラシー)は成り立つ」といった記述が印象的です。

■小谷 勇人(青島日本人学校)
1 永井竜之介『リープ・マーケティング-中国ベンチャーの学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)
新型コロナの流行は中国国内のビジネスに大打撃を与えました。しかし、むしろ新たなビジネスを一気に開花させる機会ともなりました。中国のデジタル・イノベーションは今後さらに伸び、世界をリードしていくでしょう。中国企業のマーケティング戦略から学ぶことで、日本の製品・サービスが生まれ変われることを期待させてくれる一冊です。

2 大島隆『芝園団地に住んでいます-住民の半分が外国人になったとき何が起きるか』(明石書店)
2018年12月、「特定技能制度」の新設が決定されました。新型コロナの流行に伴い、一旦は外国人流入については足踏みとなっていますが、落ち着いたら増加の一途を辿るでしょう。外国人が同じ場所で暮らすとき何が起き、住民にはどのような感情が芽生えるのか、芽生える感情に対してどうすればいいのか。未来の日本を考える一冊です。

3 村上春樹『職業としての小説家』(新潮社)
世界的に有名な村上春樹の小説がどのような考えで生まれるか著した一冊。「学校について」という章で、日本の教育システムがそのまま社会システムの矛盾につながっているのではという示唆を与えてくれます。学校は誰もが必ず通る教育機関です。その影響力は計り知れません。学校という存在を再度考える機会となるはずの本です。

■杉田 孝之(千葉県立津田沼高等学校)
1 池上彰・佐藤優『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)
本書はネットとの距離の取り方に悩む人や若者には特にオススメ!読書ばかりでなく、メディアとのつき合い方も変わります。良書に多く近づくためにも、「時間の無駄だった」と感じる悪書に近寄らないためにも、本書を読む価値あり。私の小論文講座を受ける多くの生徒も読んでいます。自らの知的生活をふりかえるためにもぜひ!

2 飯田健・松林哲也・大村華子 『政治行動論』有権者は政治を変えられるのか(有斐閣ストゥディア)
 この有斐閣ストゥディアシリーズは、主に社会科学を学びたい初学者向けには最適!自らの人生設計のために、高校生が学部選択をする際、読者を平易な言葉で学問の世界に導き、新鮮な知見と問いを形成するヒントを提供してくれます。筆者もシルバー民主主義打倒のための有権者教育の授業設計で本書と出会ってから、有斐閣ストゥディアがもう書棚に10冊以上になりました。

3 渡部竜也・井手口泰典 『社会科授業づくりの理論と方法』 (明治図書)
 ある時以降全く評価しなくなった出版社と、この教育学者の言説って何なの?と感じていた筆者。本書は恥ずかしながら確実に渡部ワールドに筆者を引き込みました。特に本質的な問いのあり方に焦点をあてて、定年まであと数年の高校教諭に授業改善を求めています。本質的な問いのあり方や著者を批判するならば、本書を読んでから。筆者にも批判内容をぜひご教示下さい!

■山﨑 辰也(北海道北見北斗高等学校)
1 小磯修二『地方の論理』(岩波書店)
私は東京から離れた北辺の教師なので、中央の発想の受け売りをせず、相対化するようにしています。この小磯さんの「歴史的にも、創造的で大胆な発想は中央から離れた地方で生まれている。中央から距離のある辺境といわれる地域に身を置くと見えてくるものがある」という言葉に勇気をもらいました。北海道の地域活性化を事例にしており、北海道の比較優位性を考える上でもヒントになる本です。

2 保城広至『歴史から理論を創造する方法』(勁草書房)
歴史学者の歴史を見る方法と、社会科学者の歴史を見る方法の違いを検討している本です。経済学者が歴史を読み解くと、理論から演繹的に考察する方法が用いられます。この系譜にあるのは、篠原先生の歴史を読み解くシリーズや、昨年話題になった梶谷真弘さんの『経済視点で学ぶ歴史の授業』の本の内容です。経済の視点で歴史を捉えることの是非を考えるのにお勧めの1冊です。

3 H・リン・エリクソンほか『思考する教室をつくる概念型カリキュラムの理論と実践』(北大路書房)
国際バカロレア(IB)プログラムにおける概念型カリキュラムや単元設計の方法を紹介している本です。経済教育の概念型カリキュラムというと、アメリカの方法論を用いた新井先生、猪瀬先生、栗原先生の若きころの実践を連想してしまいます。これからの概念思考(=「見方・考え方」)を働かせる授業づくりをする上で、示唆の得られる1冊だと思います。

■塙 枝里子(東京都立農業高等学校)
1 出口治明『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)
 ライフネット生命創業者、A P U学長の出口氏の著書の中でも特に敷居が低く、高校生でも手に取ることが出来る一冊。本書は日本の抱える22の論点について、基礎知識を整理した上で、著者の思考プロセスを紹介する構成になっています。私は高3生の日本史の授業で「憲法9条は改正すべきか」を扱い、大いに盛り上がりました。「主体的・対話的で深い学び」の幅を広げるのに役に立つのではないでしょうか。

2 山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)
 経済教育ネットワークでもお世話になっている大竹文雄先生ご推薦の一冊。労働経済学が専門の山口氏が、結婚、出産、子育てについて、エビデンスベースで分かりやすく解説しています。「キャリア女性ほど結婚のメリットは減る?!」、「マッチングサイトのリアル」、「離婚が子供にもたらす影響」など○○神話やタブーがある世界を理路整然と分析していく文体は心地良く、思わず「ほらね!」と誰かに話してみたくなるはずです。

3 藤野英人『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)
 Covid-19によるパンデミックは歴史に残る大きな転換期となりそうです。不確実性の高い時代に、私たちはどのような信念を持って、何を大切にして生きていくことが必要でしょうか。投資信託運用会社の代表でもあり、投資教育にも熱心な藤野氏は、自身が「投資家」みたいに生きることを推奨しています。投資は何もお金の使い方だけでなく、時間の使い方にも言えることです。今、私は限りある資源を生徒や自分のために投資できているのだろうか。問いかけ、歩みを進めたいと思います。

■金子 幹夫(神奈川県立三浦初声高等学校)
1 渡辺秀樹『芦部信喜 平和への憲法学』(岩波書店)
 これまで『憲法』の芦部先生についての評伝は書かれていなかったそうです。著者は信濃毎日新聞の記者。新聞記者の文章は五感にまでとどく躍動感があります。恵庭事件、長沼事件、猿払事件と教科書や資料集に登場する出来事が次々に登場します。どうして憲法を学ぶことが必要なのかを感じさせてくれる,教師を元気にする一冊だと思います。

2 森 絵都『みかづき』(集英社)
 空欄に用語を書き込むワークシートをつくろうとすると手が止まることがあります。生徒は用語(記号)からどのようなイメージを描くのかがわからないからです。この作品は、昭和30年代の千葉県を舞台に学習塾と公教育をテーマに設定した小説です。勉強がわかる楽しさを知る補習塾、そして進学塾への転換・・・。何がわかると子どもは幸せになるのかを考えさせられる一冊です。

3 橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)
 本書は「現代日本では格差は容認できないほど大きくなっており,格差を縮小させ、より平等な社会を実現することが必要だ」という立ち位置から「現代日本に存在する4+1=5つの階級がどのように生活しているのかを」アンダークラスという概念を用いて明らかにしていきます。生徒に読み取らせたいデータがたくさん掲載されている本です。

①どんな本か
・『私たちはなぜ税金を納めるのか』の著者、京都大学の諸富先生の、現在進行中の多国籍企業や富裕層による租税回避の動きを阻止しようとする、グローバル・タックスの背景、対応策、国際的合意への展望をコンパクトにまとめた本です。
・税金は国家単位ですが、グローバル化の現在、国家をこえて課税できるか、その理念と難しさがわかります。


②どんな内容か
・目次を紹介しておきます。
  第1章 資本主義とともに変わりゆく税制
  第2章 グローバル化と国民国家の相克
  第3章 たちはだかる多国籍企業の壁
  第4章 デジタル課税の波
  第5章 新たな国際課税ルールの模索
  第6章 ネットワーク型課税権力の誕生
  第7章 ポスト・コロナの時代のグルーバル・タックス
  終章 租税民主主義を問う
・第1章から第3章までが現状の紹介、第4章が課題提起、第5章、第6章が新たな国際的取組みの紹介、第7章と終章までが国際公共財の重要性と今後の展望になります。


③役立つところ
・第1章から第3章までの前半が授業で使えるところです。
・グルーバル化のなかで、国民国家単位の税制をすり抜けるように租税回避に走るGAFAやスタバなどの多国籍企業、政治家や富裕層などの実態が具体的データで紹介されます。
・特に、第2章で取り上げられている、所得税率が1億円でピークをうち、それを超える富裕層では所得税率の負担が下がるという日本の税制の現状を指摘(本書p21)している箇所は、累進課税による所得再分配効果が書かれている教科書とのギャップを知らせてくれています。
・第4章以降は、教室で取り上げるには専門的過ぎる部分が多いのですが、経済のグローバル化、デジタル化が税制にとどまらず、経済全体にどのような影響を与えているか、それに対する取組みの現状を知っておくことが、授業に厚みを与えることになるでしょう。


④感想
・中学生に財政を教えている際に手に取って、生徒に日本の税の実態はこんな状態なんだと説明しました。ちょうど、トランプ大統領がほとんど所得税を払っていないことが話題になっていた時だったので、生徒の注目度は高いものがありました。
・著者の諸富先生は、篠原ゼミの出身で、ネットワークの「夏休み経済教室」にも登場したことがある先生です。この本でも、「あとがき」に篠原先生が登場します。参照あれ。
・「あとがき」でも紹介されていますが、多国籍企業や富裕層の租税回避に関しては、志賀櫻氏の『タックス・ヘイブン』(岩波新書)がおすすめです。
・また、グローバル・タックスの考え方は、本メルマガ、7月号に紹介した、バナジー&デュフロ『絶望を希望に変える経済学』(日本経済新聞出版)にも取り上げられています。ちなみに、同書は、日経新聞のエコノミストが選ぶ2020年の経済書の第一位となっていました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・33歳の大学准教授によるマルクス「資本論」の再評価本です。
・マルクスの晩年の資料をもとに、エコロジストとしてのマルクスを再発見して、脱経済成長こそが「人新世(ひとしんせい:人類が地球を破壊尽くす地球環境危機の時代)」と名付けられた現代の危機を救うとしたマニフェスト本(人によってはプロパガンダ本)です。


②どんな内容か
・これも目次を紹介しておきます。
 第1章 気候変動と帝国的生活様式
 第2章 気候ケインズ主義の限界
  第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
  第4章 「人新世」のマルクス
  第5章 加速主義という現実逃避
 第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
  第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
  第8章 気候正義という「梃子」
・気候変動を軸に、それに対処するには晩年のマルクスが発見した脱成長のコモンをもとにした社会が必要とする内容です。


③授業で役立つところ
・直接直ぐに役立つというより、思考実験の対象として読むことがオススメです。
・経済社会の類型を扱っている箇所で、通常は、私有制か公有制か、市場経済か計画経済かで四つの類型(資本主義市場経済、社会主義計画経済、社会主義市場経済、その他)が提示されますが、この本では、気候変動への対処に関して、平等か不平等か、権力が弱いか強いかで分けて四つの類型(気候ファシズム、気候毛沢東主義、脱成長コミュニズム、野蛮状態)に分けています。
・このような、二つの価値軸で四つの世界を抽出する方法を示して、生徒に現状分析をさせる授業の参考になりそうです。
・「はじめに」の箇所で、SDGsはアリバイづくりであり、「大衆のアヘン」であると挑発的なテーゼを著者はだしています。それを生徒(私たち教員も)に吟味させるという使い方もできます。


④感想
・著者は、NHKのEテレで、ドイツの哲学者のマルクス・ガブリエルと一緒に登場して、この人物は誰だと思わせた人物で、その本体は、彗星のように現れた若きマルキストであったというわけです。
・半世紀前、『資本論』を読んでいた紹介者にとって、「コミュニズムって結局アウタルキーじゃないですか」と発言して顰蹙をかったことを思い出させる本でした。
・脱経済成長の定常経済論は、古いところではJ.S.ミルなどからもあり、特に新しい主張ではないと言えますが、環境危機と関連付けて展開しているところが現代的でしょう。国連気候変動会議で演説したグレタ・トゥンベリさんの経済思想版と言えるかも知れません。
・著者はあとがきで、いまどきマルクスなんて「批判の矢が四方八方から飛んでくることを覚悟のうえで」本書を執筆したと書いています。その意気や良しとして、資本主義以外のシステムもありうるかもしれないという可能性を考えさせる手がかりの一つとして手に取って見るのも良いでしょう。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・ゲーム理論はアート(創造性、芸術性をもった理論)であるという著者の熱い思いが語られている本です。
・ゲーム理論は、経済学の範疇をこえて、社会理論でなければならないとする著者が一般向けに書いた、ゲーム理論を使って社会を考えていくためのヒントが詰まったユニークな本といえるでしょう。

②どんな内容か
・三部構成12章からなります。
・第一部 アートとしてのゲーム理論
 第1章 ゲーム理論はアートである
 第2章 キュレーションのすすめ
 第3章 ワンコインで貧困を救う
 第4章 全体主義をデザインする
第2部 日本のくらしをあばく
 第5章 イノベーションと文系
 第6章 オークションと日本の成熟度
 第7章 タブーの向こう岸
 第8章 幸福の哲学
第3部 「制度の経済学」を問い直す
 第9章 「情報の非対称性」の暗い四方山話
 第10章 早いものから遅刻厳禁へ
 第11章 繰り返しゲームと感情
 第12章 マーケットデザインとニッポン

・第1部は、著者の個人的体験から始まり、ゲーム理論とは何かを扱っています。そこで著者は、社会科学の理想的な姿とは何について「熱く語りたい」と書いています。
・ここで登場するのはキュレーションという言葉です。意味は「上手にまとめる」ということで、ゲーム理論の具体的様相を2から4章で紹介しています。
・第2部は、金融広報中央委員会の『くらし塾きんゆう塾』に連載されたエッセイをもとにまとめられたもので、「肩の力を抜いて読まれるとよい」と書かれた部分です。
・第3部は、第2章で紹介された経済学とゲーム理論のかかわりを、社会理論として制度の経済学ときたえてゆくための代表的テーマ4つが扱われています。

③どこが役立つか
・取り上げられている事例をもとにどのように授業を組み立てるか、そんな視点で読むと授業づくりのヒントが得られる本です。
・例えば、第2章「キュレーションのすすめ」の冒頭には、ゲーム理論の魅力を伝えるためのキュレーションの心得として、過去の偉人の威をかりない、専門外の人に向けて説明するからといって手を抜かない、理論の最先端に届く内容でなければならない、ありきたりでなく刺激的で、専門家をものけぞらせるようなものであるとなお良いとあります。そして、こんな説明ではものたりない、ゲーム理論をもっと基礎から学びたいという思ってもらうこと、とあります。
・これは、私たちが生徒にむけて授業をするときの心得そのものではないでしょうか。
・具体的な部分では、少々難解ですが第4章「全体主義をデザインする」の箇所が刺激的です。ここでは、私たちが陥りがちな権威に盲従する構造が理論に基づいて見事に摘抉されていてうならせます。
・経済に関しては、今年のノーベル賞受賞で話題になったオークションを扱った第6章などが参考になるでしょう。

④感想
・先日、篠原代表と電話でお話をしていた中で、著者松島氏の名前がでてきて、そういえば、二年前に出版されたときに読んでいたなと思い出して再読。これは紹介しておかなければと思った次第の本です。
・具体的事例が多いので、一見とりつきやすそうな本ですが、本当に理解するには決して気がぬけない本です。しかし、マーケットデザイン、メカニズムデザインなど経済問題だけでなく、社会の制度設計を視野にいれた本として、著者の問題意識や危機意識に共感をもちました。
・ちなみに、松島氏は宇沢弘文先生のゼミの出身とのことで、宇沢氏の問題意識がどこかに潜んでいるなと思わせる本でした。
・それを思うと、PK戦からテロ対策を扱った第2章のキュレーション1の部分で、テロによる死者数の期待値を計算している箇所は、ちょっと違和感を持ちましたが、リアルに物事を考えるには、そういう冷静さも必要なのかも知れません。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・次期学習指導要領の「公共」などで導入が期待されている哲学対話のガイドブックです。
・学校だけでなく、いろいろな場所で哲学対話を実践していて疑問を感じている人、うまくゆかないで悩んでいる人、これから始めたい人向けのまさに「ゼロからはじめる」ための本です。

②どんな内容か
・次のような全5章の章立てになっています。
 序章  深い対話とは何か
 第2章 対話の目的と方法
 第3章 対話の実践方法
  対話の場所と環境/目的とファシリテーション/対話の進め方・終わり方
/対話の記録の仕方/題材と教材/道具/対話で困ったとき
 第4章 知っておきたい哲学のテーマの概説
  人生と生き方/政治と社会/倫理と道徳/宇宙と存在/知識と科学
 /神と宗教
 第5章 付録
 
③役立つところ
・ハウツーに関する部分では、第3章が役立ちます。ここは、哲学対話の方法というだけでなくもう少し広い文脈で話し合いの方法、その時の運営の仕方が集められています。
・それぞれの項目の著者は、哲学対話を経験してきた人たちですが、成功例だけでなく、うまくゆかなかったときの対処法なども取り上げられていて、参考になります。
・第4章のテーマ解説の部分も役立ちます。
・ここは、テーマに関して、このような切り口でアプローチしたり、問いかけたりすることで対話が進むのだろうというヒントが詰まっています。
・ネットワークの先生たちにとって、政治と社会の部分が内容的には直接役立つ部分でしょう。そのほかに、「公共」の授業の倫理分野、またHRや道徳の時間などでの話し合いや探究活動のテーマのヒントにもなります。
・経済の項目がないのは残念ですが、これは私たちが経済で哲学対話をするならどんな内容とアプローチが求められるかという宿題にすればよいかもしれません。
・ネットワークでも哲学対話はいかがでしょうか。

④感想
・紹介者も高校生向けに、選択授業での哲学対話をこの本の分担執筆をしている上智大学の関係者の方々の協力で実施してきました。また、中学生向けにはクラス単位での哲学対話の実施をお手伝いしたことがあります。そんなこともあり、著者のリストをみて懐かしく思いました。
・普段の授業でも生徒と対話をするのは難しいし、生徒のグループでの話し合いを実質的に意味のあるものにするのは大変です。
・タイトルに哲学が入っているから、少々引いてしまうかも知れませんが、広く授業や話し合いの進め方のヒントが詰まっている本として手に取って見ると良いでしょう。
・付録では、オンラインによる哲学プラクティスが紹介されています。急遽増補したものでしょうが、タイムリーです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)