①どんな本か
・先進国で深刻化する格差問題に対して、どのような対応が可能か、欧米(主にアメリカ)の経済学者、政治学者、思想家がワシントンにある中立系シンクタンクであるピーターソン国際経済研究所に集まり、2019年10月に行った大規模なカンファレンスの記録です。
・ブランシャール、マンキュー、アセモグルなど経済学のテキストでおなじみの有名な経済学者を含む総勢30名が登場し、現在の主流派経済学者による現状分析、それを踏まえた現実的処方箋とその評価を巡る議論が紹介されています。


②本の内容は
・ブランシャールとロドリックによる全体の総括である序章「格差拡大を逆転させる手段はある」をはじめとして、全体が11のテーマ、29章に渡って様々な問題提起と議論の要旨が掲載されています。
・11のテーマは次の通りです。
Ⅰ状況の展望、Ⅱ倫理と哲学の次元、Ⅲ政治の次元、Ⅳ人的資本の配分、Ⅴ貿易、アウトソーシング、海外投資に対する政策、Ⅵ金融資本の(再)分配、Ⅶ技術変化のスピードと方向性に影響を与える政策、Ⅷ労働市場のついての政策、制度、社会規範、Ⅸ労働市場ツール、Ⅹ社会的セーフティネット、Ⅺ累進課税
・大きく、データでの現状確認、政治や哲学からのアプローチ、経済学からは貿易、投資、金融、労働、社会保障、税制など幅広いテーマが取り上げられています。


③どこが役に立つか
・ずばり、序章の総論部分と第1章のルカ・シャンセルによる「先進国の格差を巡る10の事実」の箇所だと言えるでしょう。その際、読むなら第1章からが良いと思います。
・第1章では、具体的データをもとに格差が先進国で拡大している状況が説明されます。グラフが付いているので、そのグラフを見るだけでも格差の現状とそれをもたらした原因がつかめるはずです。
・序章では、このカンフェランスのコーディネータである二人の編者による政策の整理があります。特に、格差に影響を及ぼす政策の分類が書かれている表0.1は参考になるはずです。(アマゾンの「試し読み」で見ることができます)
・この表では、政府が介入する経済段階を、生産前、生産、生産後の三つに分け、格差の種類を、下位層、中間層、上位層の三つに分け、3×3の9セットの政策マトリックスを提示して、それぞれの政策が以下の章で議論されてゆくことが示されています。


④感想
・主流派経済学による政策提言の流れが変わってきたなというのが一番の感想です。
・1980年代からの新自由主義による規制緩和、自助努力による小さな政府指向の流れはグローバリゼーションと相まって強力な潮流をとなってきましたが、格差拡大という現実に直面して修正せざるをえない段階になったことがわかります。
・編者が、このカンフェランスが10年前に開かれていたら、内容は違っていただろう、議論の内容は大きく様変わりしていると書いているところが印象的でした。
・解説が、今アメリカの大学で教壇にたっているマルクス経済学者の吉原直毅氏が書いているのも興味深いところです。登場する論者たちは資本主義とは何かを真剣に考えていないと言う吉原さんのコメントがどこまで正鵠をえているかを確認するのも、ちょっと大変だけれど有用かと思ったりしています。
・第28章で、ステファニー・スタンチェヴァという財政学者が新しい研究のエビデンスを出してもそれが浸透しないこと、その理由として専門家への不信とテレビのタレント経済学者の影響を上げていました。アメリカだけでなく日本でも同じようなことが起こっているんだろうなという感想を持ちました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・立命館大学の稲森経営哲学研究センターによる、2018年からはじまっている「人の資本主義」研究会のカンファレンスの一部をまとめた本です。
・前の『格差と闘え』が、現在の経済制度を前提にして政府の政策による格差問題に対する現実的な処方箋をめぐるカンフェレンスであるのに対して、こちらは「人の資本主義」なる概念をもとにしたこれからの社会の在り方を問う思想的な色彩が強いカンフェレンスです。


②本の内容は
・コーディネータの中島隆博氏(中国思想の専門家)の序論「はじめに」以下三部11章からなります。
・第Ⅰ部は「資本主義の問い直し方」と銘打たれ、「人の資本主義」の意味と可能性についての覚え書き(小野塚知二)、人の資本主義への視点(広井良典)、歴史性・普遍性・異質性から見た経済(安田洋祐)の三氏による問題提起と討論です。
・第Ⅱ部は「ディスコースの変容と資本主義」と銘打たれ、歴史的ディスコースにおける資本主義(山下範久)、なぜ利己的個人か(野原慎司)、国家と資本主義(國分功一郎)、共生社会と資本主義(堂目卓生)、欲望と社会を巡るパラドックスへの一考察(丸山俊一)の四氏による問題提起と討論です。
・第Ⅲ部は「持続可能な社会の構築と資本主義」と銘打たれ、脱成長そして地球の有限性の中の資本主義(広井良典)、ポスト資本主義コミュニティ経済はいかにして可能か?(中野佳裕)、人口減少社会で気づく持続可能性の経済学(倉坂秀史)の三氏による問題提起と討論です。


③どこが役立つか
・経済史・経済学史をベースとした文明論的な視点での問題提起と討論なので、興味関心のかる箇所を読むことで、授業のヒントが得られるでしょう。
・あえて挙げれば、第Ⅲ部が持続可能性、脱成長、人口減少社会などを取り上げているので、一番公民や公共の教科書との親和性があるかもしれません。


④感想
・問題提起の文章も、それをうけての討論も『格差と闘え』にくらべて読みやすいのですが、二つを並べてみると、新自由主義的な社会のあり方に批判的な視点は似ていますが、政策の提言を打ち出してその実現を念頭に議論する欧米と、文明論的な広がりで資本主義を論じる本書の論者との違いが際立っていて、興味深いというか、切迫感、リアリティの違いがあるなというのが実感です。
・にもかかわらず、この本を取り上げたのは、現在の社会科や公民科の授業の流れや構成にかなりの親和性があるのではと思ったからです。
・どちらが良い、悪いではなく、文明論的に眺めた現代社会を変えてゆく政策的なリアリズムが求められているし、同時に、政策的なリアリズムの土台にある価値観や社会観を見つめ、相対化してゆくことが求められているのではと感じています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・本年度からはじまった新科目「歴史総合」の授業づくりのために、歴史学研究会の歴史家と現場教員による参考書として編集された本です。
・教員だけでなく、高校生や大学生が読んでも面白い、考えさせる内容の本となっています。


②本の内容は
・「歴史総合」の構成に即して大きく四つの章とそれぞれの章の15のテーマ、さらに29の具体的な事例から構成されています。加えて「教室から考える「歴史総合」の授業」からなっています。四つの章と取り上げられている事例は以下の通りです。
・歴史の扉
 吉田松陰、飢餓と飽食、飽衣、占領と沖縄基地、アイヌ人々への同化の5つの事例が取り上げられています。
・近代化と私たち
 女性の政治参加、主婦と働く女性、産業革命、時間認識、共産主義、立憲政治、イスラーム世界と近代化、近代日本の宗教の8つの事例が取り上げられています。
・国際秩序の変化や大衆化と私たち
 身体装飾、ファッション、プロテストソング、成田空港、兵士からみた世界大戦、戦争へのプロセスの6つの事例が取り上げられています。
・グローバル化と私たち
災害を巡る民衆心理、感染症、日本からの移民、移民国家アメリカ、キューバ危機、人の移動、アメリカの公民権運動、パレスチナ問題、アメリカの環境運動、震災からの地域復興の10の事例が取り上げられています。
・教室から考える「歴史総合」の授業
 補講として、今を主体的に問う、生徒の関心から問う、図像資料を読み取るの三つが紹介されています。


③どこが役に立つか
・29の事例のなかで関心を持った箇所なら基本的にどこでも役立つでしょう。その意味ではネタの宝庫の本です。
・文献紹介の情報ガイドが親切です。一つ一つの事例は短くコンパクトなので、文献を手がかりにさらに追究もできます。紹介者は、時間認識の変化のところで紹介されている、角山栄『時計の社会史』や西本郁子『時間意識の近代』を図書館から借りて読み出しました。
・補論の、二人の現役の先生のこのテキストを使っての授業例の紹介もガイドブックとして親切です。ちょっと残念なのは、二人の先生がいずれも大学附属の高校で教えている先生で、公立高校でこのテキストがどう使われるか、そんな観点からのガイドがあると良かったのではと思います。


④感想
・一読、やられたと思いました。「歴史総合」だけでなく、「公共」もしくはそのなかの経済だけでもこれと同じような、生徒も読め、授業に役立つ事例集を専門家が書き、現場教師がその使い方をガイドする本が欲しいと思いました。
・歴史教育の世界では専門家と現場の距離が近いのに対して、経済教育ではその距離がかなり遠いという現実を見せつけられたようにも思いました。
・もう一つ思ったのは、「歴史総合」を学んで歴史の流れが理解できるかどうかということでした。確かに面白いけれど、通史を学ばないと不安だなと感じる生徒もいるのではというのが昔人間の杞憂です。テーマと通史の二つを両立させるのは難しいというのが正直な感想です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・マクロ経済学では小野理論と呼ばれている独自の需要サイドの経済学の提唱者である、大阪大学特任教授の小野善康さんの近刊の本です。
・現在の経済停滞と格差拡大の原因は、人間が持っている資産選好であるという認識をもとに、それを一本の方程式から説明しています。

②本の内容は
・目次は以下の通りです。
 第1章 資本主義経済の変遷
 第2章 「モノの経済」から「カネの経済」へ
 第3章 成熟経済の構造
 第4章 格差拡大
 第5章 国際競争と円高不況
 第6章 政策提言
・著者が意図する、メインの章は、2章、3章でしょう。そこでは、現代経済を理解するための基本方程式が提示され、それが成熟社会になり変質を遂げてゆくことを、方程式の要素を加えたり変化させたりして説明されています。
・著者が強調するのは、成熟経済では、人々の興味が消費(流動性選好)からお金や富の保有願望(資産選好)にシフトしていて、それまでの政策が今や無意味になっているという点です。

③どこが役に立つか
・著者の意図とは異なりますが、「はじめに」の部分、第1章の資本主義の変遷の箇所、第6章の政策提言、「おわりに」の部分です。
 ここでは、著者の主張の根拠とそこから抽出される政策提言がコンパクトにまとめられています。
 著者である小野さん自身も、まず1章と6章の二つの章を読んで概略を押さえた上で、第2章にもどり順番に読んでいくようにすすめています。
・途中の各章は、著者の言うように「基本方程式に関する記述を読み飛ばして」読んでも理解できる記述になっていて、橋本内閣や小泉内閣、さらには安倍内閣での政策の変遷が浮かび上がるので、時代変遷のストーリーとして読むことで役立つことができるでしょう。
・もちろん、マクロ経済学をある程度学んだ事がある先生方には、基本方程式がどのように拡張され、入れ替えられてくるか、著者の理論を追いかけることもできますが、そこまでやるには相当腰をすえて、理解してゆこうという覚悟が必要になります。

④感想
・この本、新書ですが内容が濃く、ここで紹介するのをためらったのですが、朝日新聞の4月19日付のオピニオン欄に著書へのインタビューが掲載されていて、それがわかりやすく著者の主張をのべていたので、紹介した次第です。
・経済学の前提となっている合理的な個人への批判は、行動経済学など、これまでも私たちの目に触れていますが、著者のお金を愛好する、資産を愛好する人間を前提に理論を組み立てるという方法を吟味してみるのも面白いのではと思われます。
・著者は民主党政権時代のブレーンでしたが、今の岸田内閣の「新しい資本主義」(どんなものかまだ未知数ですが)との親和性があるのではというのが、紹介者の直感的感想です。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

 先月号の「授業のヒント」に「戦争で経済を教える」という文章を掲載しました。その時に使った文献とその後の情報収集に関する文献を紹介します。また、ウクライナ戦争だけでない戦争に関する本も紹介しました。連休中の読書の参考にどうぞ。

①黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』中公新書
・元ウクライナ大使だった黒川氏が書いたタイトル通りウクライナの歴史の本です。中公新書の物語歴史シリーズの一冊で、2002年初版で、この戦争が起こる前は品切れだった本です。
・何かがおこるとそれに関する忘れられていた本がにわかに注目を浴びますが、これだけまとまってウクライナの歴史が書かれた本は他にはあまりなく、基本書と言って良いと思います。
・内容は、紀元前のスキタイからはじまり、キエフルーシ公国、リトアニア・ポーランド、コサック、ロシア・オーストリア両国支配の時代と続き、ロシア革命中の中央ラーダの成立と壊滅、ソ連時代、独立1990年代までの歴史が記述されています。
・読んでいて気づくのは、ウクライナは国家として独立することがほとんど無く、1990年の独立後も安定した政権が続かなかったことです。ロシアが一体論で攻め込むことができてしまう弱点を抱えていたこともわかります。
・読んでいて胸が痛くなったのは、ロシア革命の最中におきたウクライナ民族主義者とボリシェビキによるキエフの攻防の話です。革命末期には二ヶ月でキエフの主が14回も変わったことが紹介されています。
悲しいことですが、そんな民族の歴史が今回も繰り返されているということなのかもしれないと思わざるをえません。
・この本には、ウクライナで独立運動が失敗していった原因も分析されています。その指摘を読むだけでも、歴史面から、現在のウクライナを取り巻く大国の動向、ウクライナ内部の問題などの事態の推移を分析することができるかもしれません。

②松里公孝『ポスト社会主義の政治』ちくま新書
・①で紹介した『ウクライナの歴史』が1999年で記述が終わっているのに対して、その後現在までのウクライナの政治を概観するための本といえます。
・ただし、この本、旧社会主義国5国の政治体制の分析書で、ウクライナに関しては全体の5分の1しか扱っていないので、記述はあまり親切ではありません。
・なによりウクライナでは政権の交代、指導者の交代が続いていて、人物名、政権名をチェックするだけで頭がクラクラするくらいに不安定な政治情勢が続いていたことがわかります。
・ウクライナ内部の一番の問題は、ウクライナ民族主義をどう評価するかであることがこの本から伝わります。ロシアの侵攻は分裂状態のウクライナを団結させたという逆説がここから読み取れます。

③小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』ちくま新書
・自ら「職業的オタク」と称している、ロシア軍事研究家の著者による、現代ロシアの軍事戦略を分析した本です。
・ロシアがなぜウクライナに侵攻したのか、その論理を軍事面から解説しています。また、その戦略をハイブリッド戦争と位置付け、これまでのロシアの軍事行動を分析しています。
・注目すべきは、今回のロシアの侵攻の前哨戦であった2014年のクリミヤ併合における戦略をロシアの軍事力行使の実際として分析されているところです。14年段階では国際世論も日本でもあまり注目されずにロシアの行動が既成事実化されていましたが、経済的にも軍事的にもNATO諸国に比べて劣勢だったロシアが、ハイブリッドな戦略で電撃的勝利を収めてしまったことが紹介されます。
・ロシアの行動を軍事面から分析するこの本は、プーチンの精神分析をするような本よりも事態を理解するのに役立つと思われます。
・4月号で、情報は取り上げないと書きましたが、情報こそが現代の戦争の重要ファクターであることが分かる本です。

④雑誌『世界』臨時増刊「ウクライナ侵略」岩波書店
・日々の戦争報道を追いかけるだけでなく、一度たちどまって考えてみる情報源としては雑誌が有効です。
・ウクライナ侵攻に関しても各雑誌の5月号から論考やエッセイの掲載がはじまっています。新聞と同じように、立場によって執筆者、立ち位置が違いますが、情報源として使い易いのは、『世界』『中央公論』『文藝春秋』の三誌でしょう。
・現在のところ、役立つ分析が紹介されているのは『世界』だと思います。ここでは、臨時増刊をとりあげましたが、5月号の緊急特集も参考になる記述がありました。
・一つだけ取り上げると、臨時増刊での、ロシアの社会学者エカテリーナ・シュリマンさんの「戦下に社会科学は何ができるか」という3つの講演記録です。
・そのなかの高校生向けの講演は、高校生向けのメッセージですが、私たち教員がこころしなければいけない原則や原点が述べられていて、教える気力を呼び起こしてくれます。
・『中央公論』や『文藝春秋』などが本格的な分析の論考やエッセイを紹介してくれることを期待したいものです。その多くの論考の中から、本当に役立つものを自らの頭で選択することが今求められているのではないでしょうか。

⑤スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』岩波現代文庫
・第二次世界大戦(旧ソ連では大祖国戦争)に従軍した女性兵士や動員された女性たちの聞き語りの本です。
・③で取り上げたようにどんなにハイブリッドな戦争になっても、実際に戦っているのは生身の人間です。今回のウクライナ侵攻では女性兵士に関する報道はあまりありませんが、第二次大戦の独ソ戦下のソ連では多くの女性が動員されました。
・除隊後に女性兵士達は過去を隠して生きてきたとこの本で紹介されています。なぜなのか、彼女たちはどんな経験をしたのか、また、なぜ沈黙を強いられたのか、そもそも戦争の実態はどんなものだったのか。その真実がウクライナ生まれ、ベラルーシ出身のアレクシェーヴィチさん(2015年ノーベル文学賞受賞)によって紹介されました。
・戦争を政治や経済の観点から分析することも大事ですが、抽象化され記号化される言葉の根底にある現実に目を向けておく必要があると思います。そのための一冊です。
・今回のウクライナ侵攻でのロシアの残虐行為が報道されています。それをやったのは人間です。戦争は人間をどう変えてしまうか、ウクライナ軍、ロシア軍という言葉の背後にある人間の存在、また、戦地になっているそこに済んでいる人々に関心を寄せるために一読しておきたい本です。
・これはロシアの女性達の証言ですが、日本でも同種の証言は沖縄、旧満州などたくさんあります。、また、軍隊の行動というのは国の違いよりも共通性があることがわかります。そんな観点から読んで見るのも良いかも知れません。
・なお、この本をもとにしたコミックもあります。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・長く高校の先生をやって、現在は大学で教えている著者が、これまで実践してきた内容をまとめた本です。
・経済教育だけでなく、ひろく公民科の授業が扱われています。

②本の内容は
・序章と6つの実践を紹介する章となっています。
第1章は環境で、水俣病の授業です。
第2章も同じく環境で、谷津干潟の掃除を続けた森田三郎を扱った授業です
第3章は経済で、企業を扱った部分です。
第4章は政治で、田中角栄を中心に戦後政治を扱っています。
第5章は心理で、倫理での精神分析を使ったこころの授業です。
第6章は生命倫理の授業です。

③どこが役に立つか
・序章の授業づくりに関する姿勢の部分と第3章の経済部分がネットワークメンバーには役立つでしょう。
・序章での授業づくりに関する著者の主張を紹介しておきます。
 1)生徒の実態にあった材料と構成の授業:砂糖の入った野菜ジュースのイメージ
 2)内容は深く、理解ややさしく。そのための深い教材研究
 3)常に考える授業:その場で考えなければならない問いを授業の軸に
 4)予習・復習を前提にしない授業
 5)学力差の出ない授業
 6)プリントのシナリオ形式:1時間で完結しながら全体が連続する物語となることを意識する
・第3章の企業では、「西尾まんじゅう店」の起業から海外展開までの発展史を通して経済の概要を教える授業の紹介です。
・各章には著者が授業づくりで使った参考文献が掲載されています。それを見るだけでも著者の授業づくりにかけたエネルギーがわかります。研鑽のポイントは「新書、専門書を読むことにつきる」と著者は言います。

④感想
・著者はネットワークの経済学寺子屋のメンバーです。その著者の実践記録は、最近の授業書にないごつごつした内容の本です。
・「教師の実存が問題だ」と紹介者は言い続けていますが、なぜ、この授業をつくりあげたのかという問題意識にあふれた本です。例えば、第2章の森田三郎のケースでは、教室に平気でゴミをすてる定時制の生徒たちとの格闘のなかから生まれたことが書かれています。社会科の魅力や生命力を感じさせる授業づくりです。
・西尾まんじゅう店の話では、友人に、馬場君、猪木君、鶴田君、藤波君が登場。著者の趣味満載の話になっています。
・実践内容がやや古いのでその後の展開などをもっと書いて欲しい部分もありますが、著者の授業案や実践を検討する中で、さらに現代的な授業を作ることが次の世代の使命となるでしょう。
・やや高いので、著者曰く、「売れる本ではないので、図書館にでもいれてもらえると幸い」とのこと。
・なお、著者の専門は国際関係論で、博論のテーマは戦争の教え方です。今のウクライナ情勢をどう教えるか、聞いてみたいところです。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・サラ金と呼ばれる消費者金融の歴史を扱った本です。
・学校では消費者被害にあわないように、多重債務に陥らないようにというマイナスイメージで扱われる消費者金融の一世紀の歴史を創業者、家計の動向、ジェンダーの視点などから捉えた本です。

②本の内容は
・序章と終章と本文は6章に分かれています。
 序章では、家計とジェンダーから見た金融史という新しい視点が提示されます。
 第1章は、戦前期を扱います。
 第2章は、1950年代~60年代を扱います。
 第3章は、サラリーマン金融の登場です。ここでは「前向き」の資金需要という捉え方で高度成長期の消費者金融の需要と供給の有様を描きます。
 第4章は、低成長期にはいっての「後ろ向き」の資金需要を取り上げます。
 第5章は、サラ金で借りる人・働く人のタイトルで多重債務者、それを取り立てる従業員に光をあてます。
 第6章は、2010年代から現在までの状況が説明されます。
 終章は、これまでの総括です。

③どこが役立つか
・授業では、第5章と第6章が役立つ箇所だろうと思います。
・第5章では、なぜ人はサラ金でお金を借りるのか、多重債務者と自殺や家庭崩壊の事例が登場します。また、借金を取り立てる側のテクニック、労務管理方法なども扱われています。行動経済学で言うスラッジの方法、感情労働に従事する従業員の心理なども紹介されています。
・第6章では、サラ金企業が現在は大手の金融グループに組み入れられていること、上限金利の制限を巡る論争、家計における管理者の変化が消費者金融の需要側に起きていることなど現在の問題が取り上げられています。これらの章はパーソナルファイナンスを扱う授業で参考になると思われます。

④感想
・春の経済教室の準備のために金融に関する本を探している時に見つけた本です。新刊ではありませんが、「サントリー学芸賞」受賞ということで注目しました。期待に違わず、面白い本でした。
・サラ金の創業者の強烈な個性、金融技術の革新をいち早く取り入れる先進性、人間の心理、弱さを付く取り立て技術や労務管理方法など改めて確認しました。
・上限金利を巡る論争は、最低賃金の論争などと同じで、標準経済学での知見が正しいのか、そうでないかの試金石だと感じます。同じように、需要があるから供給があるのか、供給があるから需要が喚起されるのかという古典的命題を巡る論議とも通じるものがここにはあると感じます。
・腰巻きのダークサイドか、セーフティネットかという言葉は、両義性があるから存在するのだろうと思います。また、教科書の記述の裏に、『ナニワ金融道』や『闇金ウシジマ君』の世界があることを授業者は知っておく必要ありとも感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
・4月から導入される「歴史総合」を学ぶという3巻のシリーズ本の第1巻です。
・高校教師(現在は校長)の小川さんと大学の歴史学者である成田さんがそれぞれの章で課題テキストとして3冊の本をとりあげ、そこからの対話と、そこでとりあげられた著者の専門研究者との対話による歴史の見方・考え方についての本です。

②本の内容は
・全体は三部、5章にわかれています。腰巻きのタイトル流に言えば、1時間目から5時間目の授業に相当する内容です。
 第1章 近世から近代への移行で、ゲストは中国近世史の岸本美緒さん
 第2章 近代の構造・近代の展開で、ゲストはイギリス史の長谷川尊彦さん
 第3章 帝国主義の展開で、ゲストはアメリカ史の貴堂嘉之さん
 第4章 20世紀と二つの大戦で、ゲストはアフリカ史の永原陽子さん
 第5章 現代世界と私たちで、ゲストは中東史の臼杵陽さん
・課題テキストとして取り上げられている本は15冊あるので、最後の5章の箇所で上げられている本だけを紹介しておきます。
 中村政則『戦後史』、臼杵陽『パレスチナ』、峯陽一『2100年の世界地図アフラシア』、いずれも岩波新書です。
・各章末に、編者の小川さんが作成した「歴史総合の授業で考えたい歴史への問いというコーナーがあります。ここも、最後の5章からピックアップしておきます。
 「日本の高度成長はなぜ起こったのだろうか。その理由を世界史の視野から考えると、どのようなことが見えてくるだろうか」
 「100年後の世界が課題にはどのようなものがあるだろうか。その課題を考えるとき、どのような歴史に着目すればよいだろうか」

③役立つところ
・歴史総合が何をめざしているのか、どのような授業を構想しようとしているのか、対話とゲストの専門家の知見から浮かび上がる本です。
・公民科だけれど、歴史総合を担当しなければならなくなった先生には即役立つ内容と思われます。また、最近の歴史学の動向を知りたいと思っている先生方にも、役立つ内容です。
・課題図書として上げられている本をどのように読み、そこから何をくみ出すのか、二人の編者の視点の違いなども含めて役立ちそうです。特に、若い先生方にとって取り上げられている古典的新書、例えば、大塚久雄『社会科学の方法』、丸山真男『日本の思想』などを読む機会になるかもしれません。
・②でとりあげた、章末の多くの問いは公民の授業でも参考になるでしょう。

④感想
・歴史と公民の接続を考えるうえで役立つ本と思いました。
・例えば、「市民革命が現代政治の枠組みを作ったと見なす公民科の学びと組み合わさることで、欧米の歴史が人類の歴史と見なされる」という指摘や、「ウエストファリア体制で主権国家体制が確立したと見るのは、19世紀の視点を現代に投影した神話」というような指摘をどう受け止めるのか、授業担当者どうしだけでなく研究者や教科書関係者が考えなければいけない課題でしょう。
・とはいえ、歴史総合の導入で、歴史を通史として学ぶ機会がいままで以上になくなることになり、大丈夫かなとも感じます。合成の誤謬にならなければよいがというのが正直なところです。
・なお、経済教育でも、現場とエコノミストが共同でつくりあげるこの種の本が必要ではと感じています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)


①どんな本か
・慶應義塾大学経済学部で行われた、三菱UFJ信託銀行による寄附講座「長寿と金融」の内容をまとめた本です。
・本そのもののテーマは、高齢社会における金融リテラシー(金融ジェントロジー)の向上ですが、学校教育にも参考になる話がたくさんつまった本です。

②本の内容は
・編者駒村康平教授による企画の趣旨を述べた序章と、第1部「良い人生を送るための金融」と、第2部「善い社会のための金融」で構成されています。
・第1部は以下の通りです。
 第1章、駒村教授と三菱UFJ信託銀行の石崎浩二氏による総論
 第2章 慶應義塾大学山田浩之教授による日本の中高年齢の金融リテラシーの現状分析
 第3章 駒村教授による長寿社会における金融ジェントロジーの紹介
 第4章 マネーフォワードの瀧俊雄氏によるフィンテックによる資産形成の話
 第5章 フィンエル研究会の野尻哲史氏による超高齢社会の資産形成の話
 第6章 東京大学名誉教授の能見喜久氏による人生100年時代の信託による資産管理の話

・第2部は以下の通りです。
 第7章 駒村教授と石崎氏による持続可能な発展に貢献する金融の話
 第8章 日本総合研究所の翁百合氏によるフィンテックが変える未来の金融の話
 第9章 日経新聞の大林尚氏のシルバー民主主義と社会保障・消費税の話
 第10章 慶應義塾大学元学長の清家篤氏の人生100年時代の働き方の話

③どこが役に立つか
・第1章、第7章、第9章、第10章が授業づくりに役立つはずです。
・第1章は、なぜ現在、金融リテラシーの向上が求められるのか、18歳成人と人生100年の二つからその必要性を説きます。サブタイトルの「良い人生」のために学ぶ必要があるという指摘は、パーソナルファイナンスからの指摘です。
・後半にある、第7章は、第1章と対になっていて、金融の社会的役割、使命を述べた部分です。サブタイトルの「善い社会」のためにが、それを表わしています。「良い人生」のために資産形成をすることが、「善い社会」に通じるということが強調されています。
・第9章と第10章は、超高齢社会の課題とそれに向けての解決策を提示しています。ここは、直接資産形成の話ではありませんが、授業の高齢社会の問題を、政治、財政、働き方の各面から具体的にやさしく解説されています。
・その他の章は、関心に応じて利用するとよいでしょう。例えば、フィンテックは第4章と第8章に出てきますが、前者がパーソナル、後者がパブリックの視点からの話で、両者を会わせてゆくと、金融の世界での大きな変化が訪れていることが理解できるでしょう。

④感想
・春休みの経済教室の予習もかねて手にした一冊です。類書は多いのですが、中高の教科書に登場する事例や用語も数多く登場して、授業準備の副読本として使えるというのが印象です。
・特に、家庭科での資産形成の学習と、公民科での金融の学習の接点を考える上で役立つ本ではと思います。
・後半の超高齢社会の現実と課題は、自分自身や子ども、孫の世代の現実と突き合わせて、リアルでかつ課題が明確に指摘されていて、明快だと思いました。とはいえ、いくら明快でも、課題の重さは明るくなりませんが。

(経済教育ネットワーク 新井 明)


①どんな本か
・スェーデン出身で英国在住の女性ジャーナリストが書いた、男性中心、経済人への挑戦状とも言うべき経済学の本です。
・フェミニズム、ジェンダーの視点からの経済学、経済を読み解こうとするかなり攻撃的な本です。

②どんな内容か
・全16章あります。以下、各章のタイトルと取り上げているテーマを紹介しておきます。そこから内容が浮かびあがると思います。
 第1章 アダム・スミスの食事を作ったのは誰か(スミスの経済学の特質)
 第2章 ロビンソン・クルーソーはなぜ経済学のヒーローなのか(経済人ロビンソン)
 第3章 女性はどうして男性より収入が低いのか(人的資本論、ベッカー)
 第4章 経済成長の果実はどこに消えたのか(ケインズの経済学)
 第5章 私たちは競争する自由が欲しかったのか(働き方)
 第6章 ウオール街はいつからカジノになったのか(ゲーム理論、金融市場)
 第7章 金融市場は何を悪魔に差し出したのか(金融商品)
 第8章 経済人とはいったいだれだったのか(行動経済学)
 第9章 金の卵を産むガチョウを殺すのは誰か(インセンティブ)
 第10章 ナイチンゲールはなぜお金の問題を語ったか(モチベーション)
 第11章 格差社会はどのようにしくまれてきたか(新自由主義批判)
 第12章 「自分への投資」は人間を何に変えるか(人的投資論)
 第13章 個人主義は何を私たちの体から奪ったのか(行動経済学批判)
 第14章 経済人はなぜ「女らしさ」に依存するのか(性的役割分業)
 第15章 経済の神話にどうして女性がでてこないのか(市場原理批判再論)
 第16章 私たちはどうしたら苦しみから解放されるのか
 エピローグ 経済人にさよならを言おう

③どこが役立つか
・各章のタイトルで興味を持ったところを読んで見るとよいでしょう。授業で使えるエピソードが満載されていることを発見するはずです。
・経済学の歴史とその特質に興味のある先生は、通読をすすめます。女性の観点からの経済学ってこんなふうに描けるんだと発見できるはずです。
・行動経済学に関心を持っている人は、第13章などに注目です。主流派経済学の不十分さを指摘する行動経済学もフェミニズムの観点から批判されています。
・各章の書きぶりが注目です。最初にエピソードや興味深い導入の話を出し、本論でそれを展開する。途中にクイズなどもいれて話をすすめ、最後にまとめる。これは授業づくりの方法そのものです。

④感想
・それぞれの章が短く、かつジャーナリストである著者の手によって手際よく整理されているので読みやすい本です。
・何より、本のタイトルが出色。スミスは生涯独身で、母親が家事をやり、いとこがお金を管理していたそうです。
・翻訳もうまい。啖呵をきるような表現は翻訳の力でしょう。
・これだけ批判されても経済人はしたたかに生きている。それがなぜなのか、どうすればよいか、さらに考えねば。いや、考えるだけでなく、体を動かせるようにならないといけないなと思わず我が身を振り返ってしまいました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)