①どんな本か
 2008年(日本語訳は2009年)に刊行された『実践行動経済学』の増補完全版で、著者曰く「最高の入門書であり完全版」と称する本です。
 前著から10年以上たった行動経済学の到達点がわかります。


②本の内容は
 全体は5部14章に分かれています。
 第1部は、「ホモ・エコノミクスとホモ・サピエンス なぜナッジは必要か?」で、3章からなっています。
ここは旧版とほとんど変わらず、ナッジがなぜ必要か、またその思想がリバタリアン・パターナリズムであることが述べられています。
 第2部は、「選択アーキテクト(選択設計)のツール」で、 5章からなっています。
ここではナッジを使うべきタイミングからはじまりナッジの設計、具体的なナッジの事例、そしてナッジの悪用であるスラッジが紹介されています。
 第3部は、「お金のこと」で、 3章構成です。
 ここでは、貯蓄、年金プラン、住宅ローン、クレジットカード、保険などパーソナルファイナンスに関するナッジの事例が扱われています。
 第4部は、社会を見直すで、2章で構成されています。
 ここでは旧著で著者が誤読されたという臓器移植のナッジに関する見解がのべられています。また、地球環境問題に関しての言及があります。
 最後の第5部は、「ナッジの苦情受け付けます」とのタイトルで、6つの苦情に対する著者の回答が書かれています。

③どこが役に立つか
 旧著は多くの読者を獲得しましたが、著者も言うように10年以上たったその後の成果と課題、また批判に対する回答が求められるとして刊行されていますから、行動経済学のひろがりを実感することができるでしょう。
 特に、コロナ対応でのナッジの事例なども言及してるので、最近の動向までふまえて読むことができます。
 もちろん、初めて手にとる先生方にとっては、第1部のナッジの意味やリバタリアン・パターナリズムという立場を知ることができる入門書として活用できるでしょう。
 金融教育に関心のある先生にとっては、第3部は行動経済学の金融における活用方法を整理するのに役立つでしょう。
 また、新たに付け加えられた、スマート・ディスクロージャーの話、スラッジの話なども、ナッジの学習に際して活用出来る箇所となると思われます。
 ちょっと大変ですが、本書で登場するナッジ、スラッジの事例を集めて、日本の現状と照らし合わせて授業のネタとして使えるモノをピックアップするという利用法もありです。
 
④感想
 前書きと後書きがとても面白いと思いました。
 前書きは、多分セイラーが書いていると思われますが、なぜ改訂をしたのか、それを完全版と銘うったのかなど内輪話が面白い。とにかく人間くさくて思わずニヤリとしてしまう記述もでてきます。
 後書きは、こちらはサンスティーンと思われますが、この10数年間の世界の変化のなかで課題はますます多く深刻化しているけれど、未来への希望を書いているところに、悲観論者の紹介者としては、ちょっと希望を見つけた気分になりました。
 この本、大竹先生の『行動経済学の使い方』(岩波新書)や『行動経済学の処方箋』(中公新書)を手元に置きながら、比較参照して読むと、先ほどの授業ネタとしての活用が見えるかとも思いました。
 大竹先生の本はこちらのネットワークのHP参照してください。

(経済教育ネットワーク 新井 明)
 

①どんな本か
  2018年に初版が出された一般経済史の本です。キーワードは経済成長です。
基本は講義用の教科書ですが、経済学や歴史学を学ぶ際の副読本にもなるし、一般および教員向けの教養書にもなる本です。

②本の内容は
 入り口で、経済はなぜ成長するか?人類はいかにして十万年もの間、生存してきたのか?経済は実際にいかに成長してきたのか? の三つの問いをなげかけて、それを通時的な比較、共時的な比較の二つの方法で説いていきます。
 また、経済学の基本概念と人文系社会科学の基本概念を相互に定義しながら、経済学と経済史を説く構成になっています。
 全体は序章と本論5部、終章の全7部から構成されています。
 序章では、経済史とは何かが説明されています。そこでのキーワードは、経済成長、際限のない欲望、効率性、分業などです。
 第Ⅰ部では、経済史学の方法について述べられています。
 第Ⅱ部は、主に西洋における前近代の社会の様相と発展が概観されています。そこでは前近代社会における欲望の抑制の仕組み、市場・貨幣・資本の動向が扱われています。
 第Ⅲ部は、近世です。時代で言えば封建制から絶対主義の時代です。歴史的な展開に即して、市場経済の発達、市場と経済活動の関連、経済と国家の動向、経済規範、近代への移行が扱われます。
 第Ⅳ部は、近代です。産業革命から始り、資本主義経済の経済制度、国家と経済、自然と経済、家と経済、資本主義の世界体制が扱われます。
 第Ⅴ部は、現代です。時代でいえば20世紀が扱われます。近代と現代の差異、第一のグローバル経済としての第一次世界大戦と第二次世界大戦、第二のグローバル経済の時代として20世紀末までが扱われています。
 終章では、出口の問いとして、入り口での三つの問いに対する著者なりの回答、そしてこれからの時代のいくつかの可能性が書かれ、全体を閉じます。
 
③どこが役立つか
 歴史を経済の視点から教えるということが部会で話題になりました。
 では経済から歴史を見たらどうなるか、また、経済で歴史をどう教えるかを考えるヒントが詰まっている本です。
 経済社会の変貌を際限のない人間の欲望とそのコントロールのあり方から説いてゆく方法は、経済学習に歴史のバックボーンを通すことができるという意味で、通読することで授業の厚みが増すと思われます。
 中心は西洋経済史ですが、途中に挟まっているコラムでは経済学との関連で具体的な事例(例えば琉球処分、教育勅語など)が分析されています。こんなコラムを読むだけでも授業のヒントが得られるかもしれません。
 経済史を、物質的生産や金融などの経済面だけでなく、国家、自然、家などの面から扱う点、精神活動が経済に果たす重要性などの指摘も、歴史学習の成果をどう経済学習に取り入れるかを考える手がかりとなるでしょう。
 特に、「歴史総合」を担当している、せざるを得なくなった公民科の先生にはオススメの本です。また、著者も「望むらくは好奇心のあふれる高校生諸氏にも読んでもらいたい」と書いているように、生徒に勧めてもよい本といえるでしょう。

④感想
 小野塚さんの本をはじめて手に取りました。東大経済学部で経済史の講座を担当していた方ですが、ノーマークでした。
 きっかけは、知人に紹介された『神奈川大学評論』という雑誌の101号で、「食糧の平和」というタイトルの、京都大学の藤原辰史さん(農業史)との対談を読んだことです。
ウクライナ戦争を契機として行われた、この対談が非常に面白く、小野塚さんという人はどんなものを書いているのかということで見つけたのがこの本でした。
 経歴や著作からみると、大塚久雄さんの系譜の方(岩波文庫の大塚久雄『共同体の基礎理論他六編』の編と校訂をしています)のようですが、現代の経済学の知見も含めて幅広い研究、著作を行っている人ということを知りました。
 小野塚さんのプロフィールを見ると、研究地域の料理を作るのがゼミの名物だったとのこと。対談でもこの本でも食糧問題が歴史を動かす動因の重要な要素として指摘されています。
 本書の最後のこれからの展望を、先に紹介したセイラーとサンスティーンの著の楽観論と比較することで、どちらに共感を示すか、先生方の世界観の一種のリトマス試験紙にもなるなと感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か

 ネットワークメンバーの中川雅之先生(日本大学経済学部教授)の新しい財政学のテキストです。

 制度の説明を最低限にして、経済学の考え方で政府の経済における役割に焦点を当てた本になっています。また、行動経済学の成果を取り入れ、危機時の政府の対応に注目している点で、類書にはない特徴を持つ本です

②本の内容は

 全体は4部、9章の構成です。

 第1部は、「財政学とは?」で、「なぜ財政学を学ぶのか?」(1章)で政府の存在理由から、政府の経済活動を説きおこしています。

 第2部は、「政府の仕事」で、第2章から第6章まで5章があてられています。

 公共財の供給(2章)、所得再分配(3章)、社会保険(4章)、景気安定化政策(5章)、危機管理(6章)で、政府の仕事がそれぞれ取り扱われています。

 第3部は、「政府の財源調達」で、税(7章)、公債(8章)が扱われています。

 第4部は、「政府間関係」で、地方財政(9章)が説明されています。

 各章には必要に応じて、「行動経済学からの示唆」「避けなければならないシナリオ、求められる対応」の小項目がたてられ、それぞれ関係する行動経済学の知見、問題への処方箋が書かれています。

③どこが役に立つか

 役立つところは三つあるでしょう。

 一つは、財政や公共経済の原理をきちんと学べることです。特に、現在の主流派経済学の考え方が丁寧に説明されているので、ここを読むことで経済学の原理がどのように財政、公共経済で使われているのかが理解できると思います。ただし、理解するには数式やグラフがあるので丁寧に読む必要があります。

 二番目は、行動経済学の応用が見通せることです。行動経済学の事例は生徒にとっても関心が高いので、すでに中高の授業で取り入れられたり紹介されたりしていますが、面白ネタとしてとどまってしまっていることがほとんどです。

一方、この本では、例えば公共財の供給で、フリーライド(マンション耐震化ゲーム)、所得再分配で最後通牒ゲーム、社会保険でコミットメント、デフォルト、ナッジなどそれぞれの箇所で伝統経済学に対して行動経済学のどれを使うと現実や人間行動の説明ができるのかが具体的に示唆されています。ここは役立つところです。

三番目は、問題に対する避けなければならないシナリオ、求められる対応が具体的に書かれているところです。特に、求められる対応については、授業で「考えてみよう」という課題を出した場合の生徒の論述への解答を準備する時に活用ができると思われます。

ほかにも、四択問題の練習問題が用意され、本文の読解力が試されています。簡単な四択でもこんな方法をとると内容理解が確認できるという点で、授業評価などに活用できるでしょう。

④感想

 役立つ箇所でも書きましたが、一粒で三度おいしい本というのが感想です。

 全体を通して活用するもよし、それぞれ関心を持っている箇所を重点的に活用するのもよしでしょう。

 全体を通読することで、教科書に登場する用語の背景にある理論、考え方がつかめ、用語だけを羅列する授業を一歩踏み出すことができる本だと思いました。

 また、財政学、公共経済学は集合的意思決定を扱っているので、主権者教育の経済学的バックボーンにもなります。

 ネットワークで紹介されている中川先生が作られた「マンション耐震化ゲーム」を改めて教室で実践されるのもよしです。

 財政学を「政府はなぜ存在するか」からはじめて、「求められる対応」に落とし込んでゆくプロセスは、行政での経験を持たれている中川先生の真骨頂がでているなと感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
 目下話題のメタバースに関して、AIやベーシックインカムに関して論陣をはってきた若手の経済学者がこれからの社会の変容とからめて、今後を予想する本です。
 最新というよりも最先端の社会の動向を知り、その経済的な影響を知りたい先生のための手頃な本です。

②本の内容は
 全体は7章に分かれています。
 1章は、「メタバースとは何か?」で、メタバースに関する最近の動向と具体例が紹介されます。
 2章は、「この世界はスマート社会とメタバース社会に分岐する」で、AIによってコントロールされる社会とバーチャルリアリティによる社会が同時進行で発展するという予測が書かれています。
 3章から5章までは、「純粋デジタル経済圏の誕生」(3章)でメタバース経済の特色を、「メタバースとお金の未来」(4章)をメタバース社会でのお金の変化、「資本主義はどう変わるか」(5章)で、資本主義という仕組みがどう変わるかなど、経済に関する論議が紹介されます。
 6章は、「人類が身体を捨て去る日」で、再び文明論的な未来予測が語られます。
 最後の7章で、「日本をメタバース先進国にするにはどうしたらよいか?」を論じ、ベースはあるのでアニマルスピリッツと資金の投入で米中などメタバース研究の先進地域に追いつくことが求められると結論づけます。
 
③どこが役立つか
 「ねむ」、「ホライズン・ワールド」、「ソードアウトオンライン」、「フォートナイト」などの言葉に何だろうと興味を持った先生は本書を手に取ってみるとよいでしょう。今の生徒たちがどんな世界にすんでいるかがわかると思います。
 デジタル社会になってどう経済が変化するかという問題に関心のある先生には、3章から5章の経済学を使った説明がある程度の見通しを与えてくれるでしょう。この種の未来予測はきちんとした理論を背景にしていないケースが多いのですが、この本では経済学の基本を押さえた説明がしてあり、それがどこまで正しいかは吟味の余地ありとしても、類書にはない特色といえるでしょう。
 また、今先端部分で注目を浴びている現象は急速に関心を浴び、急落し、そこで生き延びるとそれからは当たり前のものになるという「ハイプ・サイクル」の指摘は、これからの社会変化を考える上でヒントになる指摘でしょう。
 そこから、メタバースの未来を生徒に予測させてもよいかもしれません。

④感想
 正直、あたまがクラクラしました。
 それでもこの本を紹介しようと思ったのは、紹介者の孫の生活ぶりをみているからかもしれません。「フォートナイト」というのはバトルゲームですが、小3の孫は夢中です。彼の世代の将来を予測するとき、古典的な教育論だけでは太刀打ちできないだろうと、少々暗澹たる気持ちになることもあります。
 進化するものに対してどこまで抵抗できるかという問題意識もあります。
 それにしても、映画『マトリックス』のような世界が現実化する、それの勝者を目指していかないと日本経済の将来がないというご宣託は、個人としては勘弁です。
 本書のp.241に紹介されている脳と機械を通信させる研究のためのヘッドキャップの写真は、オウム真理教のヘッドギアにそっくりで、恐怖感を持ちました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
 大竹文雄先生の新しい本です。
 中公新書では、『経済学的思考のセンス』以来4冊目になります。サブタイトルは「働き方から日常生活の悩みまで」。サブタイトル通り多くの事例が紹介された読みやすい本でが、本格的な社会科学論も展開されています。
②本の内容は
 プロローグとエピローグをはさんで、全体は6章から構成されています。
 プロローグでは、経済学の常識が世間の常識と異なっているギャップを5つあげて、現代の経済学の成果を社会に理解可能な形で上げてゆきたいと述べています。
 第1章は、日常生活に効く行動経済学のタイトルで、8つの具体的な事例をあげての紹介があります。
 第2章と第3章は、新型コロナの感染対策で活用された行動経済学の例を紹介しています。
 第4章は、テレワークと生産性のタイトルで、働き方を巡る事例をあげています。
 第5章は、市場原理とミスマッチのタイトルで、市場経済の理解不足からおこる世間の常識とのミスマッチの例が取り上げられています。
 第6章は、人文・社会科学の意味のタイトルで、経済学を含む人文・社会科学が社会に役立つとは何かを考察しています。
 エピローグとして、伝統経済学をふまえた行動経済学の知見は役に立つとの結論が述べられています。

③どこが役に立つか
 授業で役立つところは三つあるでしょう。
 一つは、具体的事例の豊富さです。まさに日常生活から政策、制度設計まで行動経済学の知見を使った事例が豊富に紹介されています。
 特に、コロナに関連する事例は、前著にあたる岩波新書の『行動経済学の使い方』以降の行動経済学が役立っている事例が紹介されています。
 これらは直接授業のネタに活用できるでしょう。
 二つ目は、プロローグと第6章で取り上げられている、経済学と社会の認識とのギャップを扱った箇所です。
 プロローグであげられた、経済学と世の中の常識との5つのギャップに関しては、コンパクトに書かれていますが、経済教育のあり方を考える上でも、生徒の経済理解を深める上でも重要な指摘がされていて、熟読すべき箇所でしょう。
 また、第6章の、本を読むことは「反事実的思考力」を育てることだという指摘も、経済教育の立場から受け止めてゆくべきものと言えるでしょう。
 三つ目は、学校世界での常識とのギャップを扱った、第6章にある、『国富論』の誤解の指摘、最低賃金の理解などの箇所です。
 特に、『国富論』の誤解は、高校教科書の記述が原因の一つとされています。『国富論』-見えざる手-小さな政府と教えてしまいがちな現場教員に反省を迫るものとなっています。

④感想
 冒頭でもコンパクトで読みやすい本と紹介しましたが、どっこい、なかなか本格的な要素が詰まった本だなというのが正直な感想です。
 もう一つ改めて驚いたのは、紹介されている事例がほぼすべて実証研究がされているところです。行動経済学が説得力を持つ背景には、膨大な実証研究があることがよくわります。
 行動経済学の魅力や効果を生かすには、同時に、伝統経済学も学んで対比できることが必要だとも感じ、経済教育ではそのバランスをどうしてゆくか、宿題をもらった気分にもなりました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
 冬の経済教室で講演をお願いしている中島隆信先生の著書です。
 障がいをもったお子さんを持たれている経済学者が経済学の知見を使って障がい者問題、社会福祉の問題をどう見てゆくかを書いた本です。
 経済教室の予習に読んでいただければと思い、紹介します。


②本の内容は
 はしがき、あとがきをはさんで全8章の本です。
 序章では、なぜ「障害者の経済学」なのかのタイトルで、本書全体の基本的な立場、経済学をこの問題で使う立場を表明します。
 第1章は、障害者問題の根底にあるもので、障害には医学モデルと社会モデルがあることが紹介され、障がい者問題に私たちがすくんでしまう原因を分析します。
 第2章は、障害者のいる家族で、障害児を産んだ家族の問題、その理解と支援の必要性が書かれています。
 第3章は、障害児教育を考えるで、特別支援教育についてその意義、インセンティブ、配慮のあり方や課題などが紹介されます。
 第4章は、「障害者差別解消法」で何が変わるかというタイトルで、差別一般の理解を踏まえて障害者差別の解決法、その問題点を具体的事例も含めて紹介があります。
 第5章は、障害者施設のガバナンスで、福祉サービスの特徴、障害者施設での福祉サービスと実際、問題点を指摘します。
 第6章は、障害者就労から学ぶ「働き方改革」で、障害者の働き方を経済学からどうとらえ、その問題点、さらに私たちの働き方にどう影響するかが紹介されます。
 終章では、障害者だからといって特別視するのではなく、一般化した上で深く考えれば問題の本質が見えてくるとまとめます。

③どこが役立つか
 社会科や公民の教科書ではさらっと数行で書かれている障がい者問題の深刻さ、奥深さを知るために役立つでしょう。
 特に、第1章、第4章、第6章は、障がい者問題から逆に私たちの社会のあり方を考えさせる授業作りに役立つ考え方が提示されています。
 この本を素材にして授業提案が冬の教室で行われる予定です。どのような提案が出てくるか、予想して参加してもらえると、先生方の授業作りのヒントが得られるのではと思います。

④感想
 この本、新版です。ということは最初の本(2006年刊)があります。絶版ですが、興味をもった先生は購入して、新版と比較するとよいと思います。
 著者が、新版を出すに至った10年刊の障がい者福祉の前進面と課題が新旧比較をすることで浮かび上がると思います。
 大竹先生の行動経済学と中島先生の障害者の経済学をくみあわせたらどんな障がい者福祉の処方箋がでてくるか、それも考えてみたいと思いました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
メルマガ3月号で紹介した『物価とは何か』(講談社)の続編です。
元日銀マンの東大教授が現在進行中の物価上昇の謎を追究した本です。

②本の内容は
 全5章です。
 第1章「なぜ世界はインフレになったのか」では、経済学者も中央銀行も読み違えた世界的インフレの要因を探ります。ここでは、インフレの原因はウクライナ戦争ではなくパンデミックが主犯で、それが一時的なものではないこと、現在パンデミック後の新たな価格体系に向けて移行中であるという著者の診断が述べられています。
 第2章「ウイルスはいかにして世界経済と経済学者を翻弄したか」と、第3章「後遺症としての世界インフレ」は著者の結論にいたるプロセスが述べられています。そこでは現在のインフレは供給インフレであるとの診断がされています。
 第4章「日本だけ苦しむ2つの病」では、長期のデフレと突然のインフレという2つの病に悩む日本経済の現状分析が行われます。
 第5章「世界はインフレとどう闘うのか」で、現在欧米が直面している賃金・物価のスパイラルと日本のスパイラルとの違うこと、日本ではまずは賃金凍結状態の解凍を変革の原動力にすべきという提言でまとめられています。

③どこが役に立つか
生徒に「今の物価高の原因はなに?」と聞かれた時に、それはねと、この本を読んである程度答えることができます。
なぜある程度かといえば、著者の供給インフレ説を説明するには、労働供給の減少、賃金の上昇という理論を説明しなければいけないことがあります。また、著者の結論がまだ本当にそうなのか、承認されてはいないこともあります。
それでも、一流の学者がインフレの原因を一つずつ検証してゆくプロセスは、仮説をたてて検証してゆく探究学習のプロセスそのもので、本気で探究学習に取組ませるときの手本となると思われます。
また、本書でとりあげられている事例や「安いニッポン」現象のコラムは直接授業のネタとして使えるでしょう。

④感想
 本書に登場する「賃金・物価スパイラル」は、紹介者が毎年使っている『レモンをお金にかえる法』の続編で登場する言葉です。それが本書で登場しているのにまず驚きました。
 『レモン』では大人たちが「賃金・物価の凍結令」をだすことでスパイラルを一時的に解決しますが、本書では、日本の「賃金・物価のスパイラル」は凍結状態で、その凍結を解消することが重要という結論も、紹介者には新鮮でした。
 もう一つ驚き。戦争はインフレの原因ではないとされたことです。授業では、ウクライナ戦争による供給コストの上昇が円安と絡んで現在の物価高になっていると説明していました。これを修正しなければいけないか、もうすこし考えてみたいと思っています。
 それにしても、研究プロセスの紹介で、ご自身の見立てが間違っていたと素直に書かれている著者の研究の姿勢に感銘をうけました。
 今後、著者の分析や提言に対して他のエコノミストがどう反応するか、それを興味深く見つめてみたいと思います。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
 フランス社会経済史の専門家である著者が、自身が書いた新科目「歴史総合」の教科書を素材に、歴史を面白く勉強するためのコツを歴史学の歴史から説いた本です。

②本の内容は
 歴史って、面白いですか?と問いかける「はじめに」からはじまります。
 第1章「高等学校教科書を読んでみる」では、自身が書いた歴史教科書の一節(産業革命)を素材にその理由を探ります。
 第2章「「歴史を学ぶ」とはどういうことか」では、19世紀ランケからはじまる実証主義の歴史学が歴史教科書の面白くない根本理由であることが紹介されます。
 第3章「歴史のかたちはひとつだけじゃない」では、フランスのアナール学派、イギリスの労働史学、アメリカの世界システム論、日本の比較経済史学が実証主義の批判として取り上げられています。
 第4章「歴史学の危機とその可能性」では、1970年代からの言語論的回転と歴史学、ポストコロニアリズムが取り上げられます。
 第5章「世界がかわれば歴史もかわる」では、著者が時代の節目と考える1989年以降の歴史学の動向を記憶研究、グローバルヒストリー、パブリックヒストリーから紹介しています。
 そして、「おわりに」で全体を総括しつつ、もう一度教科書を読み直し、本文はランケ流の実証史学であるけれど、資料やコラムから生徒が歴史を自分のものとして考えるヒントがつまっていると結論づけます。

③どこが役立つか
 第1章と「おわりに」のところで、「歴史総合」の教科書の叙述を取り上げて、それがなぜつまらなくなっているのか、また、そのつまらなさを超える視点は何かを説いているところが、授業をやる先生にとっての「トリセツ」になっています。
 史学史の潮流をランケから現代まで、わかりやすく、コンパクトに、そして歴史教科書の記述と関連させて書いています。なかなか類書にはない記述です。
 ウオーラーシュテインやサイードなども登場します。公民の先生方にとっては歴史の先生との会話での共通項が生まれるのではないでしょうか。

④感想
 プリマーブックなので、読者は高校生のはずですが、これは歴史を教える教員向けの本です。「歴史総合」を担当しなければならなくなった公民の先生にとっての良質なトリセツ本だと思いました。
 教科書の記述のつまらなさから始まっているので、教科書批判にゆくかと思っていたら、自分が書いた部分であることを第1章の途中でばらす構成になっていて(p35)、「あれま」と紹介者もだまされました。なぜつまらないかの三つの理由の一つ、上から目線から分かったようなことを述べるというのは、納得です。
 この本の歴史の部分を全部経済と置き換えたらどんな本になるのか、何を「経済学のトリセツ」として先生方に伝えるべきか考えさせられました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
 社会学者による、慶應のSFCでの「アカデミック・ライティング」の講義をもとにした、論文の書き方の本です。
 単なるハウツー本ではなく、論文とは何か、研究の意味、具体的なテーマの取り上げ方など実際に論文(エッセイ)を書くためのヒントが詰まっています。

②本の内容は
 第1章で、「論文とは何か」が説明されます。レポートとの違い、論文の構成が提示されます。
 第2章は、「科学と論文」で、理系論文の内容からはじまり、人文・社会科学系論文へと展開します。
 第3章は、「主題と対象」で、主題と対象の違い、主題の決め方の方法が説かれます。
 第4章から第8章までは、「はじめての調べ方」「方法論(調査設計)」「先行研究と学問大系(ディシプリン)」「方法(メソッド)」「研究計画書とプレゼンテーション」と論文を書く時の調査からはじまり先行研究、どの学問大系のどの流派の立場書くかなど、方法が具体的に述べられてゆきます。
 第9章から第11章は、「構成と文章」「注記と要約」「校正と仕上げ」と、より具体的に文章作法も含めての作法が紹介されてゆきます。
 最後に、この本を書く理由の紹介がされます。

③どこが役に立つか
 ずばり、紹介者もふくめて高校までの教員に役立つ箇所は、第1章の最初にでてくる「ハンバーガー・エッセイ」のところでしょう。
 これは、アメリカで教育されているエッセイの書き方ですが、日本流に言えば、結論を先に出す序論、それを論証する本論、最後の結論の三段構成の書き方です。
 「公共」のある教科書では、章のまとめの箇所で、この「ハンバーガー・エッセイ」の方式で課題論文を書くように指示しています。このスタイルが普及することで、論文指導が楽になり、生徒が書く論文の内容もレベルアップするでしょう。
 もう一つ役立つのは、教育研究を志している先生にとってです。単なる実践報告ではなく、実践から論文に飛躍するためのヒントが得られるはずです。
 ほかにも、授業をすすめる際に、主題や課題を提示できるかどうかは「問いを立てる」ことが出来るかどうかというような指摘が随所にあり、論文の書き方だけでなく授業をどのように組み立てるかのヒントが得られるでしょう。
 第7章の「方法」で扱われている量的調査・質的調査の箇所は、教育評価の量的評価・質的評価に応用することが出来る箇所です。

④感想
 小熊さんの本は大部で有名ですが、この本も新書でありながら450ページを超えるボリュームです。でも、各章冒頭にはポイントがあり、文中、学生との対話が入っていて、読みやすくかつ内容が深められているなと思いました。
 ディシプリンやメソッドの章は、論文の書き方というより、学問論になっています。これはSFCのような多様な学問を専攻しようとしている学生対象の講義から出来た本だなと感じる箇所でした。
 ちなみに小熊さんの本では、父親をインタビューしてまとめた『生きて帰ってきた男』(岩波新書)がオススメです。この本に登場する小熊さんの父の軌跡は、一庶民の歴史でありながら、時代の精神を浮かび上がらせる名著だと思っています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

①どんな本か
2015年のギリシャの経済危機の時に財務大臣を務めた経済学者の著者が、オーストラリアにいる10代の娘に向けて書いた経済の本です。
翻訳は2019年に出されていましたが、この夏、NHK・Eテレの『100分de名著』に取り上げられて再び注目を浴びています。
②本の内容は
プロローグ、エピローグと全8章からなっています。各章のタイトルと扱っている主な内容は以下の通りです。
 第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?-格差の発生とその拡大
 第2章 市場社会の誕生-市場の発生とその発展を歴史的に紹介
 第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ-企業経営と借金の関係
 第4章 「金融」の黒魔術-お金の発生と金融の役割、焦げ付いたときの対処法
 第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界-労働市場と金融市場
 第6章 恐るべき「機械」の呪い-技術進歩と労働
 第7章 誰にも管理されない「新しいお金」-仮想通貨
 第8章 人は地球の「ウイルス」か-環境問題
大きく、格差問題、市場経済の光と影、労働問題、お金と金融の問題、環境問題の5つがテーマと言えるでしょう。


③どこが役に立つか
それぞれのテーマに関する授業の時に、そこにでてくるエピソードや考え方を参考にすることができるでしょう。
例えば、第4章での銀行が無から貸し出すお金を生み出す仕組み、金融危機の時の中央銀行の魔術など、教科書では表面的にしか扱っていない現代の金融の姿が生々しく描かれていますから、金融の授業はリアルなものになるでしょう。
『ファウスト』、『怒りのぶどう』、ギリシャ神話などから説いてゆく叙述は魅力的です。また、『ブレードランナー』『マトリックス』などの映画から現代の経済社会を捉える手法なども参考になるでしょう。


④感想
プロローグでの「若い人たちに分かる言葉で経済を説明できなければ教師として失格」という言葉に納得しました。私たちもめざしたい志です。
一読して、これはマルクス経済学の現代版だと思いました。事実、プロローグで影響を受けた思想として「カール・マルクスの亡霊」が上がっています。その意味で、現代経済学の主流派の考えとは異なることを押さえて使うなり参考にすると良いと思います。
でも、金融の箇所はMMTの発想そのもので、古典と現代がほどよくミックスされている反市場主義のスピード感あふれる本といえるでしょう。

(経済教育ネットワーク 新井 明)