本書は、河原和之氏の最新の書下ろし教材集です。集められた授業教材はすべて、コロナ禍の社会課題を介して生徒に歴史や経済を学んでもらうもの、今なら強烈なインパクトが期待できる「授業のネタ」ばかりです。

本書の目次(項目)
1.プロローグ           コロナ禍、ポジィティブ授業のすすめ
2.ネタの効用          「コロナ危機!」世界と日本のこんなネタ
3.歴史(1)世界史        ペスト流行がもたらしたルネサンス
4.歴史(2)奈良・平安時代    墾田永年私財法が大仏建立の詔と同じ年に発令された理由
5.人権・差別           “自粛警察”とコロナ差別
6.経済(1)市場原理       なぜドラッグストアでマスクが販売されていなかったか
7.経済(2)景気         コロナ不況って何?~経済活動の「自粛」がもたらすもの~
8.経済(3)株式         コロナ禍の株価は?~わくわくドキドキ株式売買ゲーム~
9.経済(4)生活         マンダラチャートで考える「コロナ禍」負の連鎖から
10.SDGs(1)国際        誰一人取り残さない~新興国、途上国の課題とパートナーシップ~
11.SDGs(2)人口・少子高齢   空き家と学生アルバイト
12.SDGs(3)パートナーシップ  コロナ禍、こんな支え合い
13.SDGs(4)医療        医療体制の崩壊を食い止めるために
14.未来志向(1)教育支援    「効率」と「公正」からコロナ禍の学生支援緊急対策を検証する
15.未来志向(2)ポストコロナ   ダイヤモンドランキングでコロナ後の世界と日本を考える
16.エピローグ

 本書は二つの意味できわめて重要な出版である、とみました。
 第一は、すぐれた教材を多くの先生方に公開してくれたことです。収録された教材の一部 (4, 6, 7, 8) については、すでに経済教育ネットワークの各地の勉強会で内容検討を行いましたが、多くの先生から、使いやすい、そして何よりも生徒の興味を惹きつけるユニークな授業ネタであるとの評価でした。
 第二に、私はこちらの方が本書の大きな貢献だと思っていますが、著者(河原和之先生)の授業づくりの手法が読み取れることです。

 翻って、わが国では、欧米や中国に比べ、授業で教科書の代わりに、手作り教材を使う先生が多いと言われています。とくに社会科、中でも経済の分野でその傾向が強いようです。それにはそれ相応の理由があるでしょうが、私は「その因たるや「教科書の書きぶり」にあり」と思っています。  
 私のように長く大学で経済学教育に携わってきた者には一目で分かることですが、公民や政治・経済の教科書には「経済学の概念」や「単純化しすぎた理論」の影が見え隠れしています。言い換えれば、教科書とは、暗黙のうちに、生徒に、「概念や理論を通して「実際の社会のこと」を学ばせる」教え方になっているように見えます。しかし、これでは、まだ抽象度が十分に発達していない中学生や高校生にとって、教科書に沿った授業が面白いはずはなく、むしろ苦痛な暗記物になってしまいます。例えば、需要曲線、供給曲線の理解を通して、魚市場のセリの取り引き量と価格や、その魚介にスーパーでつけられる値段や、一連の取引の効率性、公平性について学べ、考えよと言われても、99.9%の生徒には無理な相談だということです。

その方法とは、
(1) まず「社会のコト」の選び方です。需要曲線、供給曲線、均衡価格といった理念的な道具や概念から教え始めるのではなく、生徒が実感できる実際の「社会のコト」を選びます。ここでは、「生徒の腑に落ちる」授業ネタでなければなりません。
(2) ついで、生徒が実感できる実際例を巡って、様々な意見交換を促していきます。多面的、多角的な学習ですが、その学習のプロセスの中に、役に立ちそうなデータや資料と、教科書でてくる概念や理論も投げ込んでいきます。こうして、「社会のコト」に関する現状分析を進め、同時に「社会の課題」を見つけ出していきます。
(3) 最後に、現状分析の結果と概念・理論を使って、生徒なりに課題について考えを練り上げていきます。

 本書では、(1)「ネタの選び方」については目次に、(2)(3)の授業の進め方については各教材の中で展開される「生徒と先生の議論のやり取り」のシナリオに、具体的かつ詳細にまとめられています。これが、私がいう本書の第二の貢献です。

 河原先生の授業は絶妙のようです。ある卒業生曰く、「「あのむちゃくちゃヤンキーで他の科目はテスト0点当たり前の彼が、社会科だけ80点を取っている!なんてことが本当に起こっていたあの授業!」だったそうです。(「週刊ひがしおおさか」より )。


本書は、一人の例外もなくすべての生徒が前のめりになれる「授業」を作るためのエッセンスが盛り込まれている、しかも時宜を得た好著だと思います。

*本書は、コロナ禍が注目を集めて間に、早く出版することを優先したため、通常の書籍出版ではなく、自費出版の形をとられたそうです。そのため、一般に販売されていませんので、本書の閲覧、入手については、出版元に問い合わせられるとよいかと思います。
 発行 ROKUJIGEN (子どもの環境・経済教育研究室)もしくはメールmichiko★rokujigen.co.jp(★をアットマークに置き換えてください)

(経済教育ネットワーク 理事長 篠原 総一)

①どんな本か
・『多数決を疑う』『ミクロ経済学の入門の入門』ともに岩波新書を書いた著者が、友人と共に運営している「オークションラボ」でのワークショップを本にしたものです。
・オークション理論やマッチング理論を実際にどう使うことができるのかを示している本で、サブタイトルが「ミクロ経済学のビジネス活用」となっています。
・全体は、8章で、それは以下の通りです。
第1章 オークション理論をビジネスへ
第2章 発行コインのオークション
第3章 コインを売るならば
第4章 組み合わせて売る
第5章 マッチング
第6章 多数決を脱して、まともな投票を
第7章 投票結果の分析
第8章 コロナショックの後始末
・ワークショップでのレクチャー、質疑、対話からなるので読みやすい本になっています。ワークショップの雰囲気がそのまま本なっていると言っても良いでしょう。
・内容はビジネスですが、第6章の多数決などは社会的意思決定とつながる大きなテーマです。


②授業で使えるところ
・市場にはプライマリーとセカンダリーがあるという指摘をしている第2章、オークションには様々な方式があって、それぞれの商品の特質によりそれを分けているという第3章などが市場の学習の箇所で参考になる場所と思われます。
・第4章では、研修医のマッチング、第5章では部屋と臓器の取り替えがあつかわれています。特に臓器に関しては、大学入試の小論文でも登場しているテーマなので、受検生を抱えている先生には良いかも知れません。
・一番使えるのは、第6章でしょう。ここでは『多数決を疑う』に出てきた、多数決以外の決定方法が扱われています。選挙制度を変えることは至難の業ですが、多数決を超える理論によって、様々な事例を積み重ねることで、社会にインパクトを与えることができるかもしれないという前向きの考えを持つことが出来そうです。


③感想
・ビジネス活用というサブタイトルで、これもちょっと引いた本ですが、読んでみて、実に面白い内容じゃないかと感心してしまいました。
・特に、多数決を扱った箇所は、経済を政治に接続するという意味で、公民科の教員にとって今の制度を教えるだけの授業から飛び出す可能性を提示しているのではと思いました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・『ゲーム理論の入門の入門』岩波新書、を書いた著者が、ゲーム理論家が扱うであろう重要なトピックを、まずは大ざっぱに理解したい、思想のセンスを身につけたいと思っている向けの本というのが著者のメッセージです。
・物語は、ねずみ一家がいろいろな家に出入りをしてゆくなかで、それぞれの家で起こる出来事を紹介してゆくという構成です。
・話題は次の6つ半です。
第1章 どうやって皆の意見をくみとるか(全会一致の話)
第2章 なぜ人は話し合うのか(合意形成のための話し合い)
第3章 相手がどうするのかを読む(値下げ競争)
第3.5章 ナップ・タイム(後ろ向き帰納法)
第4章 物事のバランスの決まり方(交通違反の取締)
第5章 沈黙が伝えることは(情報開示・情報伝達の話)
第6章 相手の行動をみて、考える(人の行動の原因、理由を読む)
・それぞれの章には、「バックステージ」としてゲーム理論の解説が書かれています。


②授業でつかえるところ
・それぞれのエピソードを抽出して考えさせても良いでしょう。特に、第2章や第3章は、合意形成や価格の学習の箇所で応用問題として考えさせる格好のテーマかと思います。
・第5章は、高校生二人が登場して、成績を親に見せるかどうかを考えるというストーリーなので、これもそっくりHRなどで使うこともできるかもしれません。
・ゲーム理論は「囚人のジレンマ」だけではもったいないという著者の主張を、物語をつかって「囚人のジレンマ」以外のゲーム理論の世界に誘う本といえるでしょう。


③感想
・腰巻きにある、神取道宏氏の「若き天才」という言葉に、引いてしまいました。身びいきは共倒れへの道かもしれないなどと思ってしまいました。
・この種の「やさしくわかる」というのは要注意で、同じような趣旨のストーリー本がいくつかでていますが、大抵うまくいっていません。わかる、もしくは興味を持つのは、ストーリー仕立てでやさしくしたからということではなく、本質をついたものなら、難しくとも食いつくのではというのが正直な感想です。
・もう一つ注文を出すとすると、これらの出来事が社会的な意思決定とどうつながるのか、もうすこし説明が欲しかったというところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・三冊とも、緊急出版、緊急インタビューと銘打った新書です。
・岩波が、歴史学者、政治学者、社会学者、医学関係者、文学者などあらゆるジャンルに渡る人たち24人の提言、エッセイです。
・朝日の方は、朝日新聞に掲載されていたインタビュー記事をまとめたもので、これも各界で活躍している「有名人」を集めたもので22人の提言がまとめられています。
・文春の方は、「世界の知性」6名のインタビューを集めたもので、日本人以外の捉え方と日本への提言がまとめられています。


②授業で使えるところ
・短いエッセイが多いので、そのまま読ませて意見を述べさせるという使い方をしてもよいでしょう。もうすこし、ハイレベルに使うなら、登場する人たちの主張を一言でまとめさせ、それをKJ法風に整理して、何が問題になっているのかの座標を作らせるという作業をさせることもよいかもしれません。
・この作業は、生徒にやらせるより、私たちが自分でやってみて、多くの情報に溺れないようにするための訓練に使うこともできるでしょう。


③感想
・全部読んでいったら、正直あたまがくらくらしてきました。わずか三冊の新書ですが、情報過多であることが実感できました。
・それぞれの出版社らしい登場リストだと思います。これに中公新書や講談社現代新書、PHP新書などが同じような趣旨の本をだしたら、メンバーがどのくらい替わるか、それをみたいと思ったりしました。
・この種の緊急出版は、喉元すぎると忘れられます。東日本大震災後にも同種の本が出版されていますが、ほぼ絶版です。これらの本もそういう運命にあるのではというちょっと皮肉な感想も持ちました。
・いずれにしても、それぞれの論者に質問をするつもりで、突っ込みを入れながら読むと良いでしょう。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・経産省の関連団体である経済産業研究所(RIETI)の所長である森川雅之氏(一橋大学)とプログラムディレクターである小林慶一郎氏(東京財団研究所研究主幹)を中心として、コロナ危機の現状を分析した本です。
・全体は二部に分かれていて、第1部では「今、どのような政策が必要なのか」というタイトルで10章にわたり現状の分析がされています。
・後半第2部は「コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるのか」というタイトルで、同じく10章にわたり、これからの社会を展望します。
・取り扱っているテーマは、経済政策、財政、現金給付、デジタル技術、グローバル化、食料安全保障、医療経済、フューチャー・デザイン、感染症対策、創薬、消費動向、労働市場、エッセンシャルワーカー、在宅勤務、都市とコロナ、子どもへの長期的影響と、幅広く、第一線の研究者が経済を切り口として、研究の状況を簡潔にまとめています。
・執筆が20年6月段階なので、その時点での分析、展望である点は留意して読むと良いでしょう。


②授業で使えるところ
・コロナ危機(ショック)が日本経済にどのような影響を与えたのか、経済的な観点から生徒に話をするときに客観的データを元に分析された各章の記述を使うことができるでしょう。
・序章の森川氏の分析では、コロナ危機の特異性を、二つの外部効果から分析しています。他にも、経済学習で登場する比較優位、サービス業の特色(生産と消費の同時性)、世代間問題、生産性などの概念でこの事態を分析しています。このような記述から、現在の学習との繋がりを感じさせることができると思われます。
・10章にでてくる「フューチャー・デザイン」、これを授業でとりいれたら、面白い授業が構成できるかもしれません。これは、30年前の社会、現在の社会、30年後の社会の三つを想定して、30年後の社会から現在の社会へのメッセージを考えるというものです。


③感想
・コロナに関してはいろいろな情報が錯綜していますが、経済に絞って実証分析と展望を現在の時点でまとまって集めたという意味では、カタログ的に使える本と思いました。
・「コロナ危機は想定外だったが、コロナに関する経済分析は急速に進んでいる」という森川氏の言葉が印象的でした。その割には、私たちのところに経済学者の知見や発言がなかなか届いていないのは残念です。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・サブタイトルが「東大1,2年生に人気の授業」であるように、実際に昨年、東大の駒場キャンパスで行なわれた、経済学の導入授業「現代経済理論」をまとめたものです。
・東大の経済学部の現役の研究者がオムニバス方式で、経済学研究の先端の内容と魅力を紹介しているガイダンス本と言えます。
・この講義、500人以上の受講者を集め、そのうち半数が理系コースの学生で超人気講義だったとのこと。
・内容と著者は以下の通りです。(敬称略)
 01 経済学が面白い(ゲーム理論と制度設計)松井彰彦
 02 市場の力、政府の役割(公共経済学)小川光
 03 国民所得とその分配(マクロ経済学)楡井誠
 04 データ分析で社会を変える(実証ミクロ経済学)山口慎太郎
 05 実証分析を支える理論(計量経済学)市村英彦
 06 グローバリゼーションの光と影(国際経済学)古沢泰治
 07 都市を分析する(都市経済学)佐藤泰裕
 08 理論と現実に根ざした応用ミクロ分析(産業組織論)大橋弘
 09 世界の貧困削減に挑む(開発経済学)澤田康幸
 10 歴史の経済分析(経済史)岡﨑哲二
 11 会計情報開示の意味(財務会計と情報の経済学)首藤昭信
 12 デリバティブ価格の計算(金融工学)白谷健一郎
・1,2章がミクロ経済学、3章がマクロ経済学、4,5章がデータをもとにした領域、6章以下は各論という構成です。

授業で使えるところ
・1から3章が注目です。現在の高校までの経済学習の内容と比較して、現在の経済学の関心方向や教育のスタイルの違いを実感することができます。よく、高校までの教科書は最新の研究成果と10年遅れていると言われますが、10年で済むかどうか、そんなことを考えながら読むとよいかもしれません。
・もう一つ、すべての章にテーマと具体例が載っていることです。具体例が経済学ではどのように説明されているかという形で逆に読むことで、最近の経済学の思考法を学ぶことができます。また、具体例は、授業で扱う事例のヒントにもなるでしょう。
・大学の学部選びのガイダンスにもなります。つぶしがきくから経済学部という安易な選択をさせないためにも、経済学部ではこんな内容を研究しているのだということを高校教師(中学校も同じですが)は、生徒に伝えておきたいものです。

感想
・部会などで話題になっている、需給曲線のグラフが一つもでてこないのに注目しました。すでにマスターしていると思っているのか、それともこんなものはいらないということなのか、考えさせられます。
・その1で紹介した『経済教育実践論序説』と一緒に手に取り、高校までの経済教育と大学の経済学教育の差を考えることもよいではと思いました。
・本論よりも、ところどころにでてくるエピソードに面白いものがあります。例えば、02で登場する、フリードマンが登場する『選択の自由』という昔のテレビ番組の「1本の鉛筆の話」。むかし見たことがあるなというので、YouTubeでもう一度確認してしまいました。09に出てくる、公文式の効果なども、そうなのかと思わせるものでした。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・2011年に、夜間に設けられた大阪教育大学大学院実践学校教育専攻(現在は連合教職実践研究科)の裴光雄先生の研究室に関係する四人の現場の先生たちの研究会からスタートした研究会の10年近くにわたる研究成果をまとめた本です。
・当初はキャリア教育をテーマとしていたそうですが、問題関心が広がる中で研究テーマ、メンバーが広がり、小学校、中学校、高等学校の教員と大学の研究者による経済教育の多様な実践研究の相互交流の場として活動してきたそうです。

・本書は、はしがき、本論11章、あとがきに分かれています。
1章、2章は小学校が対象です。
1章は、安野雄一先生による小学校でのカリキュラムマネジメントと実践(コンビニエンスストアとTPP)の紹介です。
2章は、武部浩和先生による、同じく小学校の体験学習実践(あきんど体験学習・100円商店街)の紹介です。
3章から7章までは中学校が対象です。
3章は、関本祐希先生による、経済教育学会の学会誌『経済教育』に掲載された中学校の実践を分析した論考です。
4章・5章は、乾真佐子先生による「経済教育テスト」の紹介・分析とそれに基づく授業改善の実践事例(効率と公正、経済の三主体、国民生活と政府の役割)の紹介です。
6章・7章は、奥田修一郞先生による授業実践(トランプ大統領に就任のお祝いの手紙を送ろう、金融のしくみ)の紹介が続きます。
8章は、高等学校の実践で、大塚雅之先生の「分業と交換」をテーマにした授業実践の報告です。
9章から11章までは大学関係者の論考になります。
9章は、高山新先生による租税教育に関する論考。
10章は、岩田年浩先生による大学が学校の実践から学べることというタイトルの論考。
11章は、裴光雄先生による、韓国の経済教育の紹介と日本の経済との比較の論考です。

授業で使えるところ
・小学校から高等学校まで、実際に授業で行なった実践が紹介されています。その授業をどう組み立てたのか、そのねらいは何か、学習指導要領との関連はどうなっているか、実際の授業では生徒はどう反応したかなどが、詳細に紹介されています。その点から、即、授業づくりのヒントや自分の実践との比較ができるでしょう。
・5章でとりあげられている、中学生向けの「経済教育テスト」を使って、生徒の経済理解力を確かめてみるのも良いかもしれません。
・10章の大学生の実態、それを突破しようとして行なってきた岩田先生の実践は、タイトルとは逆に、学校教師側に授業の取組みのヒントになると思われます。

感想
・本書で取り上げられている実践は、経済教育ネットワークの部会や大会などで紹介されたものが多くあり、あらためてそれらの実践を読み直し、著者の先生方の研鑽ぶりを確認することができました。
・個人的には、「はじめに」と11章で書かれている裴先生の論考が参考になりました。
「はじめに」では、日本の経済教育の特徴を四点にまとめられていて、紹介者との問題関心が近く、特徴が的確にまとめられていることに感心しました。
・11章で紹介されている韓国の経済教育は、アメリカの経済教育の方法をストレートに受け入れたもので、日本との違いが際立っていることが指摘されています。韓国の経済教育の現状や到達点を見ることで、日本の経済教育の在り方が逆に照射されるのではという感想をもちました。
・本のタイトルが『序説』となっています。これからの研究や実践を期待したいところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・発展途上国の開発問題や貧困、教育問題の解決のためのランダム化比較実験を通した研究によって2019年のノーベル経済学賞を受賞した三人(上記二人の他マイケル・クレマー)のうちの二人による受賞第一作と銘打たれた本の翻訳です。
・ノーベル経済学賞といえば、新古典派の経済学者の受賞者が多いのですが、この三人は開発経済学という貧困や格差を対象とするジャンルの研究者であると同時に、若い(50代、40代)経済学者の受賞は、驚きをもって迎えられました。
・その受賞者の二人が書いた本が、紹介する『絶望を希望に変える経済学』です。

・内容は、以下のとおりです。
1 経済学が信頼を取り戻すために
2 鮫の口から逃げて
3 自由貿易はいいことか?
4 好きなもの・欲しいもの・必要なもの
5 成長の終焉
6 気温が二度上がったら…
7 不平等はなぜ拡大したか
8 政府には何ができるか
9 救済と尊厳のはざまで
結論 良い経済学と悪い経済学

・2と4のタイトルがちょっとわかりにくいのですが、2では移民問題が、4は、政治システム、差別、情報など社会生活全般が取り上げられています。そうすると、内容的には、移民、自由貿易、差別、成長、地球環境、不平等という現代の課題が取り上げられている事がわかります。
・そして、最後に政府の役割が問われるという内容です。
・つまり、この本は現代世界、そして在住しているアメリカの重大問題を経済学者としてどのように考えているかをストレートに書いた本ということになります。

授業で使えるところ
・中学でも高校でも、現代社会の諸問題の箇所のテーマに関する授業準備の書として使えるでしょう。
・ただし、これをそのまま生徒に読ませるとか、資料として提示するためではなく、授業者がそれらの問題をまず自分の頭で整理し、問題意識を研ぎ澄ますためのテキストとすると良い本です。
・例えば、7の不平等では、ラッダイトというタイトルでAIによる失業増大の懸念から話がはじまり、自動化の制御問題、そこから転じて新自由主義による再分配政策、トリンクル理論、ハイテク革命によるネットワーク効果、金融界の高額報酬、税率問題、タックスヘイブン…と続いていきます。
・内容豊富で、著者の論理を追いかけるだけでも大変ですが、それでも、包括的に現代の格差問題の発生から現状までを考える手がかりは提示されていることがわかります。
・そこからそれぞれのエピソードに関する教科書の記述を比較して、現実を提示することができるでしょう。

感想
・原著のタイトルは、Good Economics for Hard Timesです。自分たちの経済学はGood Economicsとされています。当然、批判の対象はBad Economicsで新古典派の経済学や新自由主義政策を主張するエコノミストです。
・自分たちをGoodとする点で、ある意味すごい自信であるとともに、それだけ現代がHard Timesであり、パラダイムの転換が求められているということでもあるということでしょう。
・それは、「ごく最近の経済学研究の成果には、目を見張るような有益なものが実に多い。テレビに登場する「エコノミスト」の軽々しい説明や高校の教科書の古くさい記述しから知らない人は、きっと驚くに違いない。」という記述からもうかがえます。
・また、「かつて存在していた社会契約が急速にほころび始めている」という指摘や、「持てる者」と「持たざる者」との対立が深まるばかりという焦燥感にも似た問題意識に共感するところが大いにある本でした。
・それ以上に、「最新の成果は、重要な議論に新しい光を投げかけてくれると信じる」という著者に、経済学者としての矜持と希望を感じさせる本でした。                                                 (経済教育ネットワーク 新井 明)

                                                    

内容の概略
・図説で一番使われているのは『国勢図会』だろうと思います。毎年改訂されて、教科の予算で必ずといっていいほど購入されているものです。
・今回紹介するのは、それとは違い、数年に一度改定される新書の図説です。第3版が2012年の刊行だったので、8年ぶりの改訂ということになります。
・全体は10章に分かれていて、各章が見開きで9つの図表と解説、最後の10節が半ページの総括という構成です。
・目次を紹介すると、
 1 世界経済の輪郭
 2 国際貿易
 3 国際金融
 4 多極化、地域統合と貿易摩擦
 5 指令経済と途上国の市場経済化
 6 デジタル・エコノミーの拡大・深化
 7 人口・食料・エネルギー・資源
 8 地球環境保全
 9 経済危機
10 世界経済の構造変化 となっています。
・目次でわかるように、国際経済を教える前に、現状を概観して世界経済の動向と問題点を頭のなかで整理するには大変都合のよい本となっています。
・出たての本なので、「中国発、新型コロナショックで世界経済はどうなるか」という腰巻きの文章のように、新しい事態も一端ですが取り上げられています。

授業で使えるところ
・二つの使い方ができそうです。
 一つは、教えるための参考書です。例えば、今回の改定で入った6章のデジタル・エコノミーに関してはコンパクトでありかつこの10年の大きな変化を捉えることができ、教材づくりの参考になります。
 もう一つは、図解や解説の書き方の参考にすることができます。図解に関しては、もし自分が活用するならどこが使えて、逆に使えないのかを確認するとよいでしょう。解説に関しては、700字から800字(1ページ44字×16行)で、あるテーマを書くことができるかを試してみるために使うとよいでしょう。これは自分に対するテストであると同時に、小論文を指導するときの参考にもなります。

感想
・この種の本は、鮮度がいのちです。すぐに使えなくなります。仕方ないところですが、それでも時代を超えた普遍的な部分は何かを考える手がかりになります。
・手許に第3版があれば、記述やデータを比較してこの10年の変貌を確認するという手もあります。
・ちなみに、姉妹書の『日本経済図説第4版』の刊行は2013年。もはや使えない本なのでおそらく改定中でしょう。これもどのように登場してくるか楽しみです。      (経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・大竹先生の近著です。タイトルどおり、行動経済学の知見がいかに活用できるかを具体的に提示した本です。
・全体は8章に分かれています。
 第1章 行動経済学の基礎理論
 行動経済学の特徴を、プロスペクト理論、現在バイアス、社会的選好、  ヒューリスティックの四つにまとめています。
 第2章 ナッジとは何か
 本書の中核となるナッジに関する概観です。以下は、その応用例になります。
 第3章 仕事のなかの行動経済学
 第4章 先延ばし行動
 第5章 社会的選好を利用する
 第6章 本当に働き方を変えるためのナッジ
 第7章 医療・健康活動への応用
 第8章 公共政策への応用

どこが使えるか
・ネットワークでも昨年(2019年3月)の「経済教室」で行動経済学をテーマとしました。行動経済学の事例は生徒にとって意外性があり、ネタの宝庫です。クイズ方式でもよし、ナッジの事例を探そうというような形で問いかけても良いでしょう。
・労働や福祉、税の問題、新たに課題となっている防災教育などでも事例や考察のテーマとして使える箇所がたくさんあります。
・生活指導面でも、「わかっているけれどできない事例」をあげさせて、その対応を考えさせることができるでしょう。

感想
・大竹先生は現在、新型コロナに関する専門家会議の臨時メンバーとのことです。ナッジを使って「あなたが三密状態を避けることが、周りの人の命をたすける」というメッセージを発することが有効との見解を発表されています。
・ハラルの本がマクロの対応に対して、大竹先生のこの本はミクロの対応です。両者があいまって、コロナショックを乗り越え、その後の社会を展望することができるのではと感じます。

                                                (経済教育ネットワーク 新井 明)