①どんな本か
・タイトル通り日本経済の全体像を概観したテキストです。
・1997年初版発行以来、時代の変化とともに改訂をおこなっていて、今回は5度目の改訂になり、東日本大震災からアベノミクスまでの間の日本経済の変容を評価するものとなっています。

②どんな内容か
・全体は序章と二部11章からなっています。章のタイトルを紹介すると以下のようになります。
・序章 日本経済を捉える
 (第1部 日本経済の軌跡)
 第1章 日本経済の歩み1:高度経済から低成長へ
 第2章 日本経済の歩み2:バブル経済、長期不況、日本再生への道
 第3章 日本経済の歩み3:東日本大震災とアベノミクス
 (第2部 日本経済の現状と課題)
 第4章 企業:グローバル化、IT化と企業システムの変化
 第5章 労働:すべての人が働きやすい社会に向けて
 第6章 社会保障:全世代型社会保障の追求
 第7章 財政・財政政策:政府の経済活動
 第8章 金融・金融政策:進化する金融システム
 第9章 貿易:貿易構造と貿易システム
 第10章 農業:グローバル化と農政改革
 第11章 環境:本格的な経済的手段の検討の時代へ
・はしがきには、「経済学の予備知識を持ち合わせていない読者にも、経済学の本格的な分析ができるように工夫した」とあります。その通りの内容で、現状と課題が明確に記述されているのが特徴です。

③役立つところ
・目次の構成を見て分かるように、中高の新しい学習指導要領の、日本経済の現状、課題の箇所のテーマの多くの部分をカバーしています。それぞれの学習課題の箇所で、参照しながら授業準備が出来る本です。
・特にオススメは、序章と第3章です。
 序章の第1節では「現代経済の仕組み」がコンパクトにまとめられていて、まずここで分業と交換の仕組みを理解します。
次に、第2節の日本経済の姿でその大きさをフローとストックから確認して、さらに、第3節で少子高齢化、格差の拡大、政府の失敗など日本経済の課題を確認することで、経済学習で生徒に伝えなければいけない骨組みを確認することができます。
・第3章では、リーマンショック以降のほぼ10年間の日本経済の歩みを概観することができます。特に、この間に推進されたアベノミクスがコンパクトにまとめられていてその功罪を考える手がかりを与えてくれています。ここは細かすぎたり、立場が最初から明らかだったりする、日本経済を論じる類書にくらべて、現場の教員にとって使い勝手が良く、有り難い部分でしょう。
・その他にも、金融や財政の章、労働や福祉の章など、授業準備をする場合に教科書の記述の背景にある制度や現状、課題をより詳しく押さえることができる箇所が多くあります。
・コラムも参考になります。例えば、金融の章の「キャッシュレス決済の拡大がマネーの量に与える影響」というコラムでは、スマホ決済の普及率の国際比較でなぜ日本は低いのかとか、ビットコインはマネーかという、生徒から出そうな疑問にこたえられるヒントが書かれています。

④感想
・紹介者はこの本の第4版を持っていたのですが、5版は購入していませんでした。今回第6版を手にとってみて、日々の変化や年々の変化だけでなく、4から5年ごとの変化を見ることが経済の全体像をつかむには有効なんだということを実感しています。もし第7版が出るとすると、そのテーマはコロナとその後の日本経済ということになりそうです。
・先月紹介した、アセモグルらの『入門経済学』のような理論から入るテキストと併用することで、裏と表(どちらが裏とか表ということではありませんが)の両面から、経済を教えるヒントがつかめるのではと感じました。
・この本に注文を付けるなら、情報化のような最新の動向のフォローがもうすこし欲しいところです。また、貿易だけでなく日本経済に大きな影響を与えている外国為替の問題も入れ込んでもらえると授業準備には有り難いところです。
・『入門経済学』でも書きましたが、まず練習問題から取組んで、そこから読み出すという読み方もありなのですが、それをやるには問題数がちょっと少ない章もあり、節に対応して一つは練習問題を設定するなどの工夫をするともっと使い勝手がよくなるのではと思いました。
・とはいえ、テキストをもとに自分で問いを立てて読み進めるというのが一番オーソドックスでオススメな読み方、使い方になるはずです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・経済の視点を軸に、歴史を学習する考え方や方法を取り入れた授業書です。
・著者は中学校の社会の先生。現役の先生が、日々の授業のなかでまとめていった歴史学習論であり、授業のネタ研など各種の授業研究サークルでの研鑽をもとにした実践的な授業書です。

②どんな内容か
・全体は4章に分かれています。
・第1章は「歴史の視点を取り入れた歴史学習論」で、なぜ歴史を学ぶのかからはじまり、オーセンティック(正当)な学習法、なぜ歴史学習に経済の視点が必要なのかなどが展開されています。
・第2章は「歴史学習に取り入れる経済の視点」で、ここでは、学習を「前提」、「意思決定」、「影響」、「経済全体の動き」に発展的に位置付け、「前提」としての希少性とトレードオフ、「意思決定」としてのインセンティブとコスト、「影響」としての市場と交易、「経済全体の動き」としての政府の政策、税、経済システムと領域と視点を整理しています。
・第3章は「経済の視点を取り入れた歴史学習法」で、授業構成としてネタ挿入型、単元構成型、カリキュラム構成型の三つを、また、系統的学習の授業、政策評価学習、意思決定学習のそれぞれの授業構成を整理しています。
・第4章は、「経済の視点で歴史学習実践」で、古代が13、中世が11、近世が10、近代が15の授業案(合計49の授業例)が紹介されています。

③感想
・これも栗原久先生から、こんな本がでていますよと紹介されて手にとりました。腰巻きには河原先生推薦とあります。
・一読、現場の先生がこれだけのものをまとめられたことに脱帽です。特に、経済の視点の歴史授業論と、こんなにたくさんの授業事例をひとりでまとめられたのははじめてなのではないかと思います。
・前半の経済概念の整理は、マンキューの「経済学の10の原理」をもとに作られていて、よく咀嚼していると感心しました。
・ただし、後半の第4章の授業案になると「ちょっと待てよ」となりました。
・取り上げられている実例はそれぞれ面白く、ネタとして直ぐに役立ちそうなのですが、歴史学習で一番大事な事実の確認や評価がきわめて甘く、「本当にそう言って良いのか」と思う事例や表現のオーバーランがいくつかの箇所で出てくるところが気になりました。
・例えば、近代12の授業例では日清戦争の戦費を「お酒で賄った」とあります。確かに日清戦争当時の酒税額は相当の額(明治28年度1,774万9千円で3,869万3000円の地租に次ぎ税収の第二位)ですが、戦費は別立てで予算化(臨時軍事特別会計2億2,500万円)され、軍事公債(1億1,700万円)が発行されていて、戦費はそこから出ています(金額は、杉山伸也『日本経済史』岩波書店、『近現代日本経済史要覧』東大出版会、国税庁HPなどから)。
・当時の歳出規模1億1000万円あまりに比べて戦費は大変な負担であり、「酒税によって戦費をまかなえるほど、豊かな国民が増えた」というのは明かにミスリードでしょう。
・もし日清戦争の戦費について言うなら、日露戦争との対比で、戦争の規模の違い、軍事公債の国内消化と外国債による戦費調達の違い、日清戦争後の酒税を含む各種間接税の増税やその逆進性などに注目させることが経済の観点からは大事なのではと思います。
・前半の意欲的な整理に対して、後半の事例の記述がゆるくなってしまう理由は、参考文献を見ると分かります。少なくとも、学会の定説や実証的な文献と対比して複数の目で参考にした文献を吟味しないと、「生徒をおどろかす」だけで、あやまった歴史認識に導くおそれがあります。
・その意味で、授業に役立てるには、細心の注意が必要な本と言えるかもしれません。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・アメリカで最近ベストセラーになっている大学初年級向けのテキスト(『ミクロ経済学』と『マクロ経済学』)のエッセンスをまとめた本です。
・マンキューの経済学テキスト、スティグリッツのテキスト、クルーグマンのテキストなどベストセラーの入門テキストがありますが、その最新版と言える本です。
・著者のうち、アセモグルは、『国家はなぜ衰退するか』(ハヤカワノンフィクション文庫)で有名になったトルコ生まれのMITの教授です。レイブソンはハーバード大学の行動経済学者。リストはシカゴ大学の実験経済学が専門の経済学者です。
・著者三人のプロフィールでも分かるように、新しい経済学の領域の研究者たちが書いたテキストで、新しい知見が随所に取り入れられているのが特色です。

②どんな内容か
・本書の構成は大きく三部15章からなり、次のようになっています。
・第Ⅰ部「経済学への誘い」で、経済学の原理と実践など4章からなります。
 第Ⅱ部「ミクロ経済学の基礎」で、消費者とインセンティブなど4章からなります。
 第Ⅲ部「マクロ経済学の基礎」で、国の富など7章からなります。

③役立つところ
・このテキストの売りは「新しい」と「やさしい」というものです。はじめて経済学に挑戦しようとする先生は、「やさしい」という部分に注目して、経済学のイントロダクションとして読まれると、経済学の内容のエッセンスをつかむことができるしょう。
・「新しい」というところでは、各章にあるコラムに注目するとよいかもしれません。「選択の結果」と「データは語る」に近いコラムは類書にもありますが、「EBE(evidence-based-economics根拠にもとづく経済学)」のコラムは、まさにこの本の売りである「新しい」経済学の知見を反映しています。
・このコラムは章の冒頭の問いかけに対応して書かれています。例えば、第4章「利己的人間だけがいる市場は社会全体の幸福度を最大化できるか?」に対しては、「EBA根拠にもとづく経済学」では、実験結果を踏まえたyesという答えが書かれています。
・また、マンキューなどのテキストを持っている先生は、比較して記述内容の新しさを確認するのも、時間があれば挑戦してもよいかもしれません。
・本当に「新しい」を実感したいなら、今回紹介している『入門経済学』ではなく、『ミクロ経済学』と『マクロ経済学』の二冊を購入した方がオススメです。ただし、二冊買うと8,360円かかるだけでなくその厚さに圧倒されますが、中途半端な投資よりコスパはよいはずです。
・例えば、『入門経済学』では、「外部性と公共財」からはじまる部分以降、市場構造で展開されている「ゲーム理論」、ミクロ経済学の拡張での「情報の経済学」「オークション」などの面白そうな、授業でも紹介できそうな部分がカットされています。
・マクロ経済学の部分でも、アセモグルはこの「なぜ豊かな国と貧しい国があるのか」や45度線を使わなくなっていると指摘されている「反循環的マクロ経済政策」の部分などは収録されていません。
・ちなみに、この種の分厚いテキストを読むには、冒頭の導入エピソードを読み、本文はぱらぱら眺め、コラム、特に「EBA」の部分はしっかり読み、最後のまとめの部分でその章の内容を確認して、復習問題をながめて、わからないところなどがあったら逆に本文を振り返るというやり方をすれば、一週間もかからずに全体を「読む」ことができます。
・あとは必要に応じて精読すれば良いということです。

④感想
・ネットワークの野間先生が、今年テキストに『マクロ経済学』を採用したというお話しを聞いて、新しもの好きの新井くんは早速購入しました。ただし、上でも紹介したように『入門経済学』を注文してしまったので、失敗したなと反省中。
・アセモグルの『国家はなぜ衰退するのか』は、メルマガ7月号で紹介した『経済学を味わう』のなかのマクロ経済学の章(楡井誠氏執筆)で参考図書としてあがっていて、イモヅル式読書法でこの夏に読んだ本でした。そのアセモグルのテキストと聞いて、それならということもあり、今回の紹介となった次第。
・著者の一人、レイブソンは、2019年からそれまでマンキューが長年担当してきたハーバードの100番台の入門講座を引きついだ人だそうです。マンキューはその前年、「99%運動」に共鳴する学生に授業ボイコットされたことも報じられていて、時代の変化がテキストにも反映されているのかと感じました。
・マンキューの「経済学の10の原理」は、私たちの世代の教員にとっても親しみ深いものですが、これからはアセモグルらの「最適化」「均衡」「経験主義(実証)」の三つの原理の時代になるのか、興味深いところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

本書は、河原和之氏の最新の書下ろし教材集です。集められた授業教材はすべて、コロナ禍の社会課題を介して生徒に歴史や経済を学んでもらうもの、今なら強烈なインパクトが期待できる「授業のネタ」ばかりです。

本書の目次(項目)
1.プロローグ           コロナ禍、ポジィティブ授業のすすめ
2.ネタの効用          「コロナ危機!」世界と日本のこんなネタ
3.歴史(1)世界史        ペスト流行がもたらしたルネサンス
4.歴史(2)奈良・平安時代    墾田永年私財法が大仏建立の詔と同じ年に発令された理由
5.人権・差別           “自粛警察”とコロナ差別
6.経済(1)市場原理       なぜドラッグストアでマスクが販売されていなかったか
7.経済(2)景気         コロナ不況って何?~経済活動の「自粛」がもたらすもの~
8.経済(3)株式         コロナ禍の株価は?~わくわくドキドキ株式売買ゲーム~
9.経済(4)生活         マンダラチャートで考える「コロナ禍」負の連鎖から
10.SDGs(1)国際        誰一人取り残さない~新興国、途上国の課題とパートナーシップ~
11.SDGs(2)人口・少子高齢   空き家と学生アルバイト
12.SDGs(3)パートナーシップ  コロナ禍、こんな支え合い
13.SDGs(4)医療        医療体制の崩壊を食い止めるために
14.未来志向(1)教育支援    「効率」と「公正」からコロナ禍の学生支援緊急対策を検証する
15.未来志向(2)ポストコロナ   ダイヤモンドランキングでコロナ後の世界と日本を考える
16.エピローグ

 本書は二つの意味できわめて重要な出版である、とみました。
 第一は、すぐれた教材を多くの先生方に公開してくれたことです。収録された教材の一部 (4, 6, 7, 8) については、すでに経済教育ネットワークの各地の勉強会で内容検討を行いましたが、多くの先生から、使いやすい、そして何よりも生徒の興味を惹きつけるユニークな授業ネタであるとの評価でした。
 第二に、私はこちらの方が本書の大きな貢献だと思っていますが、著者(河原和之先生)の授業づくりの手法が読み取れることです。

 翻って、わが国では、欧米や中国に比べ、授業で教科書の代わりに、手作り教材を使う先生が多いと言われています。とくに社会科、中でも経済の分野でその傾向が強いようです。それにはそれ相応の理由があるでしょうが、私は「その因たるや「教科書の書きぶり」にあり」と思っています。  
 私のように長く大学で経済学教育に携わってきた者には一目で分かることですが、公民や政治・経済の教科書には「経済学の概念」や「単純化しすぎた理論」の影が見え隠れしています。言い換えれば、教科書とは、暗黙のうちに、生徒に、「概念や理論を通して「実際の社会のこと」を学ばせる」教え方になっているように見えます。しかし、これでは、まだ抽象度が十分に発達していない中学生や高校生にとって、教科書に沿った授業が面白いはずはなく、むしろ苦痛な暗記物になってしまいます。例えば、需要曲線、供給曲線の理解を通して、魚市場のセリの取り引き量と価格や、その魚介にスーパーでつけられる値段や、一連の取引の効率性、公平性について学べ、考えよと言われても、99.9%の生徒には無理な相談だということです。

その方法とは、
(1) まず「社会のコト」の選び方です。需要曲線、供給曲線、均衡価格といった理念的な道具や概念から教え始めるのではなく、生徒が実感できる実際の「社会のコト」を選びます。ここでは、「生徒の腑に落ちる」授業ネタでなければなりません。
(2) ついで、生徒が実感できる実際例を巡って、様々な意見交換を促していきます。多面的、多角的な学習ですが、その学習のプロセスの中に、役に立ちそうなデータや資料と、教科書でてくる概念や理論も投げ込んでいきます。こうして、「社会のコト」に関する現状分析を進め、同時に「社会の課題」を見つけ出していきます。
(3) 最後に、現状分析の結果と概念・理論を使って、生徒なりに課題について考えを練り上げていきます。

 本書では、(1)「ネタの選び方」については目次に、(2)(3)の授業の進め方については各教材の中で展開される「生徒と先生の議論のやり取り」のシナリオに、具体的かつ詳細にまとめられています。これが、私がいう本書の第二の貢献です。

 河原先生の授業は絶妙のようです。ある卒業生曰く、「「あのむちゃくちゃヤンキーで他の科目はテスト0点当たり前の彼が、社会科だけ80点を取っている!なんてことが本当に起こっていたあの授業!」だったそうです。(「週刊ひがしおおさか」より )。


本書は、一人の例外もなくすべての生徒が前のめりになれる「授業」を作るためのエッセンスが盛り込まれている、しかも時宜を得た好著だと思います。

*本書は、コロナ禍が注目を集めて間に、早く出版することを優先したため、通常の書籍出版ではなく、自費出版の形をとられたそうです。そのため、一般に販売されていませんので、本書の閲覧、入手については、出版元に問い合わせられるとよいかと思います。
 発行 ROKUJIGEN (子どもの環境・経済教育研究室)もしくはメールmichiko★rokujigen.co.jp(★をアットマークに置き換えてください)

(経済教育ネットワーク 理事長 篠原 総一)

①どんな本か
・『多数決を疑う』『ミクロ経済学の入門の入門』ともに岩波新書を書いた著者が、友人と共に運営している「オークションラボ」でのワークショップを本にしたものです。
・オークション理論やマッチング理論を実際にどう使うことができるのかを示している本で、サブタイトルが「ミクロ経済学のビジネス活用」となっています。
・全体は、8章で、それは以下の通りです。
第1章 オークション理論をビジネスへ
第2章 発行コインのオークション
第3章 コインを売るならば
第4章 組み合わせて売る
第5章 マッチング
第6章 多数決を脱して、まともな投票を
第7章 投票結果の分析
第8章 コロナショックの後始末
・ワークショップでのレクチャー、質疑、対話からなるので読みやすい本になっています。ワークショップの雰囲気がそのまま本なっていると言っても良いでしょう。
・内容はビジネスですが、第6章の多数決などは社会的意思決定とつながる大きなテーマです。


②授業で使えるところ
・市場にはプライマリーとセカンダリーがあるという指摘をしている第2章、オークションには様々な方式があって、それぞれの商品の特質によりそれを分けているという第3章などが市場の学習の箇所で参考になる場所と思われます。
・第4章では、研修医のマッチング、第5章では部屋と臓器の取り替えがあつかわれています。特に臓器に関しては、大学入試の小論文でも登場しているテーマなので、受検生を抱えている先生には良いかも知れません。
・一番使えるのは、第6章でしょう。ここでは『多数決を疑う』に出てきた、多数決以外の決定方法が扱われています。選挙制度を変えることは至難の業ですが、多数決を超える理論によって、様々な事例を積み重ねることで、社会にインパクトを与えることができるかもしれないという前向きの考えを持つことが出来そうです。


③感想
・ビジネス活用というサブタイトルで、これもちょっと引いた本ですが、読んでみて、実に面白い内容じゃないかと感心してしまいました。
・特に、多数決を扱った箇所は、経済を政治に接続するという意味で、公民科の教員にとって今の制度を教えるだけの授業から飛び出す可能性を提示しているのではと思いました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・『ゲーム理論の入門の入門』岩波新書、を書いた著者が、ゲーム理論家が扱うであろう重要なトピックを、まずは大ざっぱに理解したい、思想のセンスを身につけたいと思っている向けの本というのが著者のメッセージです。
・物語は、ねずみ一家がいろいろな家に出入りをしてゆくなかで、それぞれの家で起こる出来事を紹介してゆくという構成です。
・話題は次の6つ半です。
第1章 どうやって皆の意見をくみとるか(全会一致の話)
第2章 なぜ人は話し合うのか(合意形成のための話し合い)
第3章 相手がどうするのかを読む(値下げ競争)
第3.5章 ナップ・タイム(後ろ向き帰納法)
第4章 物事のバランスの決まり方(交通違反の取締)
第5章 沈黙が伝えることは(情報開示・情報伝達の話)
第6章 相手の行動をみて、考える(人の行動の原因、理由を読む)
・それぞれの章には、「バックステージ」としてゲーム理論の解説が書かれています。


②授業でつかえるところ
・それぞれのエピソードを抽出して考えさせても良いでしょう。特に、第2章や第3章は、合意形成や価格の学習の箇所で応用問題として考えさせる格好のテーマかと思います。
・第5章は、高校生二人が登場して、成績を親に見せるかどうかを考えるというストーリーなので、これもそっくりHRなどで使うこともできるかもしれません。
・ゲーム理論は「囚人のジレンマ」だけではもったいないという著者の主張を、物語をつかって「囚人のジレンマ」以外のゲーム理論の世界に誘う本といえるでしょう。


③感想
・腰巻きにある、神取道宏氏の「若き天才」という言葉に、引いてしまいました。身びいきは共倒れへの道かもしれないなどと思ってしまいました。
・この種の「やさしくわかる」というのは要注意で、同じような趣旨のストーリー本がいくつかでていますが、大抵うまくいっていません。わかる、もしくは興味を持つのは、ストーリー仕立てでやさしくしたからということではなく、本質をついたものなら、難しくとも食いつくのではというのが正直な感想です。
・もう一つ注文を出すとすると、これらの出来事が社会的な意思決定とどうつながるのか、もうすこし説明が欲しかったというところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・三冊とも、緊急出版、緊急インタビューと銘打った新書です。
・岩波が、歴史学者、政治学者、社会学者、医学関係者、文学者などあらゆるジャンルに渡る人たち24人の提言、エッセイです。
・朝日の方は、朝日新聞に掲載されていたインタビュー記事をまとめたもので、これも各界で活躍している「有名人」を集めたもので22人の提言がまとめられています。
・文春の方は、「世界の知性」6名のインタビューを集めたもので、日本人以外の捉え方と日本への提言がまとめられています。


②授業で使えるところ
・短いエッセイが多いので、そのまま読ませて意見を述べさせるという使い方をしてもよいでしょう。もうすこし、ハイレベルに使うなら、登場する人たちの主張を一言でまとめさせ、それをKJ法風に整理して、何が問題になっているのかの座標を作らせるという作業をさせることもよいかもしれません。
・この作業は、生徒にやらせるより、私たちが自分でやってみて、多くの情報に溺れないようにするための訓練に使うこともできるでしょう。


③感想
・全部読んでいったら、正直あたまがくらくらしてきました。わずか三冊の新書ですが、情報過多であることが実感できました。
・それぞれの出版社らしい登場リストだと思います。これに中公新書や講談社現代新書、PHP新書などが同じような趣旨の本をだしたら、メンバーがどのくらい替わるか、それをみたいと思ったりしました。
・この種の緊急出版は、喉元すぎると忘れられます。東日本大震災後にも同種の本が出版されていますが、ほぼ絶版です。これらの本もそういう運命にあるのではというちょっと皮肉な感想も持ちました。
・いずれにしても、それぞれの論者に質問をするつもりで、突っ込みを入れながら読むと良いでしょう。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

①どんな本か
・経産省の関連団体である経済産業研究所(RIETI)の所長である森川雅之氏(一橋大学)とプログラムディレクターである小林慶一郎氏(東京財団研究所研究主幹)を中心として、コロナ危機の現状を分析した本です。
・全体は二部に分かれていて、第1部では「今、どのような政策が必要なのか」というタイトルで10章にわたり現状の分析がされています。
・後半第2部は「コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるのか」というタイトルで、同じく10章にわたり、これからの社会を展望します。
・取り扱っているテーマは、経済政策、財政、現金給付、デジタル技術、グローバル化、食料安全保障、医療経済、フューチャー・デザイン、感染症対策、創薬、消費動向、労働市場、エッセンシャルワーカー、在宅勤務、都市とコロナ、子どもへの長期的影響と、幅広く、第一線の研究者が経済を切り口として、研究の状況を簡潔にまとめています。
・執筆が20年6月段階なので、その時点での分析、展望である点は留意して読むと良いでしょう。


②授業で使えるところ
・コロナ危機(ショック)が日本経済にどのような影響を与えたのか、経済的な観点から生徒に話をするときに客観的データを元に分析された各章の記述を使うことができるでしょう。
・序章の森川氏の分析では、コロナ危機の特異性を、二つの外部効果から分析しています。他にも、経済学習で登場する比較優位、サービス業の特色(生産と消費の同時性)、世代間問題、生産性などの概念でこの事態を分析しています。このような記述から、現在の学習との繋がりを感じさせることができると思われます。
・10章にでてくる「フューチャー・デザイン」、これを授業でとりいれたら、面白い授業が構成できるかもしれません。これは、30年前の社会、現在の社会、30年後の社会の三つを想定して、30年後の社会から現在の社会へのメッセージを考えるというものです。


③感想
・コロナに関してはいろいろな情報が錯綜していますが、経済に絞って実証分析と展望を現在の時点でまとまって集めたという意味では、カタログ的に使える本と思いました。
・「コロナ危機は想定外だったが、コロナに関する経済分析は急速に進んでいる」という森川氏の言葉が印象的でした。その割には、私たちのところに経済学者の知見や発言がなかなか届いていないのは残念です。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・サブタイトルが「東大1,2年生に人気の授業」であるように、実際に昨年、東大の駒場キャンパスで行なわれた、経済学の導入授業「現代経済理論」をまとめたものです。
・東大の経済学部の現役の研究者がオムニバス方式で、経済学研究の先端の内容と魅力を紹介しているガイダンス本と言えます。
・この講義、500人以上の受講者を集め、そのうち半数が理系コースの学生で超人気講義だったとのこと。
・内容と著者は以下の通りです。(敬称略)
 01 経済学が面白い(ゲーム理論と制度設計)松井彰彦
 02 市場の力、政府の役割(公共経済学)小川光
 03 国民所得とその分配(マクロ経済学)楡井誠
 04 データ分析で社会を変える(実証ミクロ経済学)山口慎太郎
 05 実証分析を支える理論(計量経済学)市村英彦
 06 グローバリゼーションの光と影(国際経済学)古沢泰治
 07 都市を分析する(都市経済学)佐藤泰裕
 08 理論と現実に根ざした応用ミクロ分析(産業組織論)大橋弘
 09 世界の貧困削減に挑む(開発経済学)澤田康幸
 10 歴史の経済分析(経済史)岡﨑哲二
 11 会計情報開示の意味(財務会計と情報の経済学)首藤昭信
 12 デリバティブ価格の計算(金融工学)白谷健一郎
・1,2章がミクロ経済学、3章がマクロ経済学、4,5章がデータをもとにした領域、6章以下は各論という構成です。

授業で使えるところ
・1から3章が注目です。現在の高校までの経済学習の内容と比較して、現在の経済学の関心方向や教育のスタイルの違いを実感することができます。よく、高校までの教科書は最新の研究成果と10年遅れていると言われますが、10年で済むかどうか、そんなことを考えながら読むとよいかもしれません。
・もう一つ、すべての章にテーマと具体例が載っていることです。具体例が経済学ではどのように説明されているかという形で逆に読むことで、最近の経済学の思考法を学ぶことができます。また、具体例は、授業で扱う事例のヒントにもなるでしょう。
・大学の学部選びのガイダンスにもなります。つぶしがきくから経済学部という安易な選択をさせないためにも、経済学部ではこんな内容を研究しているのだということを高校教師(中学校も同じですが)は、生徒に伝えておきたいものです。

感想
・部会などで話題になっている、需給曲線のグラフが一つもでてこないのに注目しました。すでにマスターしていると思っているのか、それともこんなものはいらないということなのか、考えさせられます。
・その1で紹介した『経済教育実践論序説』と一緒に手に取り、高校までの経済教育と大学の経済学教育の差を考えることもよいではと思いました。
・本論よりも、ところどころにでてくるエピソードに面白いものがあります。例えば、02で登場する、フリードマンが登場する『選択の自由』という昔のテレビ番組の「1本の鉛筆の話」。むかし見たことがあるなというので、YouTubeでもう一度確認してしまいました。09に出てくる、公文式の効果なども、そうなのかと思わせるものでした。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

内容の概略
・2011年に、夜間に設けられた大阪教育大学大学院実践学校教育専攻(現在は連合教職実践研究科)の裴光雄先生の研究室に関係する四人の現場の先生たちの研究会からスタートした研究会の10年近くにわたる研究成果をまとめた本です。
・当初はキャリア教育をテーマとしていたそうですが、問題関心が広がる中で研究テーマ、メンバーが広がり、小学校、中学校、高等学校の教員と大学の研究者による経済教育の多様な実践研究の相互交流の場として活動してきたそうです。

・本書は、はしがき、本論11章、あとがきに分かれています。
1章、2章は小学校が対象です。
1章は、安野雄一先生による小学校でのカリキュラムマネジメントと実践(コンビニエンスストアとTPP)の紹介です。
2章は、武部浩和先生による、同じく小学校の体験学習実践(あきんど体験学習・100円商店街)の紹介です。
3章から7章までは中学校が対象です。
3章は、関本祐希先生による、経済教育学会の学会誌『経済教育』に掲載された中学校の実践を分析した論考です。
4章・5章は、乾真佐子先生による「経済教育テスト」の紹介・分析とそれに基づく授業改善の実践事例(効率と公正、経済の三主体、国民生活と政府の役割)の紹介です。
6章・7章は、奥田修一郞先生による授業実践(トランプ大統領に就任のお祝いの手紙を送ろう、金融のしくみ)の紹介が続きます。
8章は、高等学校の実践で、大塚雅之先生の「分業と交換」をテーマにした授業実践の報告です。
9章から11章までは大学関係者の論考になります。
9章は、高山新先生による租税教育に関する論考。
10章は、岩田年浩先生による大学が学校の実践から学べることというタイトルの論考。
11章は、裴光雄先生による、韓国の経済教育の紹介と日本の経済との比較の論考です。

授業で使えるところ
・小学校から高等学校まで、実際に授業で行なった実践が紹介されています。その授業をどう組み立てたのか、そのねらいは何か、学習指導要領との関連はどうなっているか、実際の授業では生徒はどう反応したかなどが、詳細に紹介されています。その点から、即、授業づくりのヒントや自分の実践との比較ができるでしょう。
・5章でとりあげられている、中学生向けの「経済教育テスト」を使って、生徒の経済理解力を確かめてみるのも良いかもしれません。
・10章の大学生の実態、それを突破しようとして行なってきた岩田先生の実践は、タイトルとは逆に、学校教師側に授業の取組みのヒントになると思われます。

感想
・本書で取り上げられている実践は、経済教育ネットワークの部会や大会などで紹介されたものが多くあり、あらためてそれらの実践を読み直し、著者の先生方の研鑽ぶりを確認することができました。
・個人的には、「はじめに」と11章で書かれている裴先生の論考が参考になりました。
「はじめに」では、日本の経済教育の特徴を四点にまとめられていて、紹介者との問題関心が近く、特徴が的確にまとめられていることに感心しました。
・11章で紹介されている韓国の経済教育は、アメリカの経済教育の方法をストレートに受け入れたもので、日本との違いが際立っていることが指摘されています。韓国の経済教育の現状や到達点を見ることで、日本の経済教育の在り方が逆に照射されるのではという感想をもちました。
・本のタイトルが『序説』となっています。これからの研究や実践を期待したいところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)