①どんな本か?
20年ほど前に出た『高校生のための経済学入門』の改訂新版です。高校生向けとなっていますが、教員を含めて一般読者が経済学の全体像を理解するための入門書となっています。

②どんな内容か?
はしがき、おわりにと、序章から7章の全8章で構成されています。
序章では、「経済学を学ぶ前に」というタイトルで、経済学がどう学ばれているか、高校の教科書や入試問題などを紹介しながら経済学教育の現状が紹介されています。
第1章は「需要と供給の決まり方」、第2章は「市場メカニズムの魅力」というタイトルで市場メカニズムの理論が紹介されます。
第3章「なぜ政府が必要なのか」で政府が登場して、市場の失敗、所得再分配が扱われます。ここまでがミクロ経済学の内容になります。章の後半の経済を安定化させるという役割でマクロ経済学へつなぎます。
第4章「経済の全体の動きをつかむ」、第5章「お金の回り方を探る」、第6章「税金と財政のあり方を考える」の三つの章はマクロ経済学の景気、物価、経済成長、金融、財政問題を扱っています。
第7章の「世界に目を向ける」で国際経済が扱われますが、ここは旧版になく今回新に書かれた部分です。

③どこが役立つか?
もし、旧版を持っていたらそれと比較して、変更された部分、変わらない部分を見つけながら読むと、この20年間の経済の変化が読み取れます。
数字の書き換えは別として、書き換えや付け足しが目立つ個所はマクロ経済の部分です。例えば、金融ではアベノミクスに関連して日銀の政策部分が書き加えられています。
財政では、年金、財政赤字、国債の箇所が付け加えられて、人口減少時代の政府の政策、制度の持続可能性に関する著者の見解と問題提起が書かれています。
逆に言うと、変更されていない部分は経済学のコアの部分とみることができますから、そこをしっかり読むことで、教科書の記述の背景にある経済の論理を理解することができるでしょう。
もう一つ役立つというより考えさせられるところは、序章と後書きの経済学を高校生に教える問題点の提起部分です。
序章では、カリキュラムは新しくなったけれど、教科書は、中身が断片的な内容の寄せ集めである上に、ここ数年の経済ニュースをちりばめたものでしかなく、勉強する気がこれでは起こらない、先生たちも苦労されているという指摘があります。
あとがきでは、大学の教員にとっても、経済学は学び時がある学問なので、高校時代に経済学を学んでほしいという希望は強くないとの指摘もあります。そして、こんなことを言いながら高校生のためのという名目の本を書いているのは「まったくの矛盾」といっています。
この矛盾の表明を無責任ととるか、著者の現場教員への挑戦ととるかでこの本の評価が変わるでしょう。その意味では、役立つ本だと思います。

④感想
 20年前に読んだ時も③で書いた著者の「矛盾」は気になっていました。大学の先生方は経済学教育ですが、私たちは経済教育で「学」がないところがミソかと思っていますが、皆さんはどうこの「矛盾」を受け止めるでしょうか。
 新旧二冊を読んで面白かったのは、高校生や大学生の変貌ぶりです。大学生では当時、経済学部は「レジャーランド」化の中核であったことなどが書かれていて、そんな時代もあったのだと懐かしい気分になりました。
 新版では法学部人気が下がり逆に経済学部のステータスが上がってきたことが書かれていますが、本当でしょうか。そんな本の周辺部分が気になりましたが、経済学そのものの解説は、分かりやすく書かれていて参考になるなとの感想を改めて持ちました。
 また、対立する見解をバランスよく紹介するところや常識的な反応に対してやんわりと訂正してゆくところは、著者の経歴が生きているのかとも感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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