①どんな本か
・野間敏克先生に推薦いただいた本です。
・著者は同志社大学総合政策学部の教授。地方自治、行政学の専門家で、大学の地方自治論のテキストとして書かれた本です。
・タイトル通り、地方自治に関する本ですが、中高の政治学習の地方自治を扱う場合だけでなく、私たちの自治意識を刺激するすぐれた本になっています。
・内容は三部、12章からなります。
 第Ⅰ部は、「主体」と題されて、地方自治の本質、制度的な歴史、議会の3つの章で構成。
 第Ⅱ部は、「管理と実践」と題されて、自治体と職員、税財政、市民ニーズと参加、決定と実施、評価と広報、協働の6つの章で構成。
 第Ⅲ部は、「編成」と題されて、広域連携、都道府県と市町村の関係、多様な地方自治制度の許容の3つの章で構成。
・テキストとして使う場合は、これで半期2単位の講義に相当する内容です。
・特徴は、オーソドックな地方自治の制度や現状の紹介にとどまらずに、「実学の地方自治論」とサブタイトルにあるように、議会、行政、市民の関係を実際の運用面と先端研究をもとにした分析、今後の展望と幅広くまとめているところです。
・特に、自治体からの情報提供と市民の意識、市民満足度、シェアードサービスなどの新領域や行動行政学(心理学を行政学に応用したもの)の紹介など、新しい研究動向などが扱われているところがユニークといえるでしょう。

②どこが役立つか
・役に立つ点は三つあると思われます。
 一つは、授業準備場面です。地方自治、地方財政は定番で必ず扱う箇所ですが、どうしても通り一遍になりがちです。そんな授業内容を、主権者教育の観点から現状の課題を踏まえたリアルなものにするのに役立ちそうです。
 二番目は、具体例です。例えば、地方議員の定員問題。都道府県議員が過剰であることを具体的に指摘しています。議員報酬に関しても都市部の高額報酬を議員の実態、国際比較などから具体的に指摘しています。そんな、リアルなデータが随所にでてきます。
 三番目は、「公(おおやけ)」の見直しです。私たちの担当教科は公民科、公民的分野です。来年度からは高校で「公共」がはじまります。その時の「公」は何かに関して私たちは日常の授業準備に追われて考えなくなりつつあります。著者は「公」はみんなのこと、私たちのことと指摘します。お上、お役所と表象されがちな「公」ですが、その見直しを迫る点でこの本は鋭い刃を私たちに突きつけている本です。

③感想
・とても良い本ですが、安藤先生の教科書に比べると、一見不親切な本で、好対照でした。テキストというより研究者の展望論文という性格が強いので当然でしょうが、まとめもないし、演習問題のようなものもありません。でも、著者の課題意識、危機意識がストレートに伝わる本でした。
・特に、自治体運営の原理、規準として効率性と民主主義をあげて、それがトレードオフの関係にあり、住民が無関心であると地域を滅ぼすという指摘は、自分自身の自治体との関わりを振り返っても、考えさせるものがありました。また、地方行政の課題と学校の課題がリンクしていることを感じます。
・Amazonのこの本の評価に、こんな不親切な本を教科書として買わせるな、評価1という趣旨の投稿が載っていました。この程度の文章を読むのをいやがり、レジュメ方式でポイントだけを教えろという大学生を生み出さない方策を、中高でも考えないといけないのではと深刻に感じました。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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