①どんな本か
・2013年に有斐閣の大学向けの教科書ストゥディアシリーズの一冊として出され、好評だった最初の本をベースとした改訂新版の本です。
・今回の本も以前の本も、タイトル通りとにかくわかりやすい、ミクロ経済学の第一歩の本となっています。
・構成は4部12章からなっています。
 第1部は「ミクロ経済学の考え方」で、ミクロ経済学とは?と個人の選択を考えるの2章構成。
 第2部は「理想的な取引環境」で、需要曲線・供給曲線、市場均衡と効率性、理想的な取引環境への政府介入と死荷重の発生の3章構成。
 第3部は「市場の失敗と政府の役割」で、市場の失敗、独占、外部性、公共財、情報の非対称性、取引費用の6章構成。
 第4部は「ゲーム理論」で、ゲーム理論と制度設計の1章構成。計12章で、大学だと半期2単位分、初年度春学期の講義内容に相当します。

②どこが役立つか
・難しいとされているミクロ経済学の内容を、数式をほとんど使わず、一人でも読み通せるように、初学者が引っかかりやすい箇所をていねいに解説しているところは、中高でも、授業の進め方のヒントになる書きぶりの本です。
・交換の利益からはじまり、インセンティブ、トレードオフ、機会費用、限界的の4つのキーワードを押えて、完全競争市場での売手と買手の行動の分析、市場の効率性、市場の失敗の理由とその補正とオーソドックスな展開をして、最後にゲーム理論の入り口まで導く手順など、中高の教科書に書かれているミクロ部分の背景を押えるヒントになるでしょう。
・特にオススメなのは、新版で登場した、「ミクロ経済学の地図」です。これは、価格理論の島、ゲーム理論の島、応用分野の島、未開の新大陸と4つの島で現代経済学の全体像を示したイラストです。
・これを見ると、今学習している箇所がどこに位置するのか、また、これからどんな学習が待っているのかが一目瞭然にわかります。ちなみに、この本は価格理論の島を解説したもので、最後に釣り橋をわたってゲーム理論の入り口に到達するところまでの内容であることがわかります。
・26あるコラムにも、学生がつまずきがちの部分の詳しい説明や補足の説明があります。例えば、コラムの10ではグラフを書くときの注意、11では需要曲線なんて本当にあるのかという問いに対する答えが書かれているなど、これも中高でも役立つ内容が書かれています。

③感想
・かゆいところに手が届くということばがありますが、そんな本です。以前紹介したアセモグルの教科書などアメリカの教科書もていねいで親切ですが、あちらは大部なのに対して、半分以下のページでよくここまでと思わせる本になっています。日本の教科書も進化したものという感想です。
・「この教科書の使い方」に書かれている、実例を探しながら読む、友達に説明してみる、試験問題を作ってみる、というアドバイスは私たち中高の教員にとっても授業のストーリーや構成を考える手がかりになりそうです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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