①どんな本か
・ゲーム理論はアート(創造性、芸術性をもった理論)であるという著者の熱い思いが語られている本です。
・ゲーム理論は、経済学の範疇をこえて、社会理論でなければならないとする著者が一般向けに書いた、ゲーム理論を使って社会を考えていくためのヒントが詰まったユニークな本といえるでしょう。

②どんな内容か
・三部構成12章からなります。
・第一部 アートとしてのゲーム理論
 第1章 ゲーム理論はアートである
 第2章 キュレーションのすすめ
 第3章 ワンコインで貧困を救う
 第4章 全体主義をデザインする
第2部 日本のくらしをあばく
 第5章 イノベーションと文系
 第6章 オークションと日本の成熟度
 第7章 タブーの向こう岸
 第8章 幸福の哲学
第3部 「制度の経済学」を問い直す
 第9章 「情報の非対称性」の暗い四方山話
 第10章 早いものから遅刻厳禁へ
 第11章 繰り返しゲームと感情
 第12章 マーケットデザインとニッポン

・第1部は、著者の個人的体験から始まり、ゲーム理論とは何かを扱っています。そこで著者は、社会科学の理想的な姿とは何について「熱く語りたい」と書いています。
・ここで登場するのはキュレーションという言葉です。意味は「上手にまとめる」ということで、ゲーム理論の具体的様相を2から4章で紹介しています。
・第2部は、金融広報中央委員会の『くらし塾きんゆう塾』に連載されたエッセイをもとにまとめられたもので、「肩の力を抜いて読まれるとよい」と書かれた部分です。
・第3部は、第2章で紹介された経済学とゲーム理論のかかわりを、社会理論として制度の経済学ときたえてゆくための代表的テーマ4つが扱われています。

③どこが役立つか
・取り上げられている事例をもとにどのように授業を組み立てるか、そんな視点で読むと授業づくりのヒントが得られる本です。
・例えば、第2章「キュレーションのすすめ」の冒頭には、ゲーム理論の魅力を伝えるためのキュレーションの心得として、過去の偉人の威をかりない、専門外の人に向けて説明するからといって手を抜かない、理論の最先端に届く内容でなければならない、ありきたりでなく刺激的で、専門家をものけぞらせるようなものであるとなお良いとあります。そして、こんな説明ではものたりない、ゲーム理論をもっと基礎から学びたいという思ってもらうこと、とあります。
・これは、私たちが生徒にむけて授業をするときの心得そのものではないでしょうか。
・具体的な部分では、少々難解ですが第4章「全体主義をデザインする」の箇所が刺激的です。ここでは、私たちが陥りがちな権威に盲従する構造が理論に基づいて見事に摘抉されていてうならせます。
・経済に関しては、今年のノーベル賞受賞で話題になったオークションを扱った第6章などが参考になるでしょう。

④感想
・先日、篠原代表と電話でお話をしていた中で、著者松島氏の名前がでてきて、そういえば、二年前に出版されたときに読んでいたなと思い出して再読。これは紹介しておかなければと思った次第の本です。
・具体的事例が多いので、一見とりつきやすそうな本ですが、本当に理解するには決して気がぬけない本です。しかし、マーケットデザイン、メカニズムデザインなど経済問題だけでなく、社会の制度設計を視野にいれた本として、著者の問題意識や危機意識に共感をもちました。
・ちなみに、松島氏は宇沢弘文先生のゼミの出身とのことで、宇沢氏の問題意識がどこかに潜んでいるなと思わせる本でした。
・それを思うと、PK戦からテロ対策を扱った第2章のキュレーション1の部分で、テロによる死者数の期待値を計算している箇所は、ちょっと違和感を持ちましたが、リアルに物事を考えるには、そういう冷静さも必要なのかも知れません。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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