執筆者 新井明

 一年の授業初めの4月に、今年はこれを目標にしようと考える先生は多いと思います。
 目標は授業のテーマであるかもしれないし、授業の方法に関してかもしれません。テーマでは年次大会で取り上げられた選挙や財政、社会保障などを今年は重点を置いて教えるぞというのもよいでしょう。時事問題を中心に解説しようというのもありです。
 そんな目標のなかに基本事項を絞って徹底的に教えようという目標をぜひ入れてほしいと思います。

 基本事項とは何かというのがここでは問題ですが、経済でいえば、出発点としての希少性、市場理解のための需要供給の法則、交換や国際経済の理解のための比較優位など、かなり数は限られます。
 基本が大事ということをなぜ強調するかというと、私たちは正しく「間違える」からです。その「間違い」が政策として大手をふって登場することがあるからです。もしろん、立場によってはそれが「間違い」とは言えないものもあるでしょう。とはいえ、トランプ政権のように、貿易不均衡の是正を前面に出して取引を強要するような政策に対して正しく判断するには、基本にもどって取引の原理をしっかり身につけていることが大切なことになります。

 自戒をこめて言えば、私たち教員は教えすぎます。アメリカの経済学者カプランは『選挙の経済学』(日経BP社)のなかで、「学生たちは大事な点以外のすべてを忘れ去ってしまうだろう。もしあなたが学生たちにいくつかの基本原則を叩き込むことに失敗するなら、不思議なことに、彼らは全く何も習得しない可能性がある」と指摘しています。
 同書で、カプランはさらにこう言います。「ある話題に関する一般的な考え方と経済学的な考え方を対比させることからはじめるべきです。…深いインプリイケーションを含んだ結論、例えば、比較優位、価格統制の効果、労働節約的な技術革新の長期的利益といった結論をいくつか選択し、それを語りつくすべきである」とも言っています。
 カプランの言は、大学レベルの経済学の講義の話ですが、同じことは日本の中高でも言えるはずです。
 新学期というのは、生徒も教師も、何でもできるような不思議な高揚感に満ちた季節ですが、だからこそ、目の前の生徒たちに伝えるべき基本事項は何なのかをあらためて確認することが大切と思うのです。

(メルマガ 99号から転載)

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