① なぜこの本を選んだのか?
 『高校生のための経済学入門』の続編が出版されたということで,迷うことなく購入しました。研究者が高校生向けに研究内容をまとめた本は,教師にとってものすごく参考になります。
 今回、小塩先生が書かれた前作の応用編は,どのようなメッセージを発信しているのかを知りたくなり本書を選びました。

② どのような内容か?
 第1章は「出発点はあくまでも個人」です。
 注目したのは次の3点です。
 第1は,経済学は発想の拠点を個人におくことです。
 第2は,効率と公正の2本立て構造をどのように考えるのかということです。
 第3は,幸せをどのように語るのかということです。
 読み進めていく中で,「なぜ私たちはGDPという尺度を受け入れているのか?」という疑問や「収入が多いほど人は幸せである」という文は正しいのかということを考えている自分に気がつきます。

 第2章は「経済学の2本立て構造」です。
 注目したのは次の3点です。
 第1は,経済学が効率性と公平性の観点を重視していますが、世間では公平性の観点を重視する人が多いという問題を取り上げているところです。
 第2は,経済学そのものは公平性をどのようにとらえているのかというところです。小塩先生は,経済学は巧妙に議論をすり替えて説明しているところがあると指摘しています。ここで取り上げられている「格差について考えるゲーム」は,紹介者も実践してみたくなりました。生徒が「格差が生まれること」についてどのように考えているのかを共有しながら授業をすすめることができそうです。
 第3は,経済学が取り組むべき重要な課題が示されているところです。効率性と公平性は同時に議論すべきものです。ところが,時として効率性の議論を始めに行い,公平性については後回しにすることがあります。この時に抜け落ちてしまうものをどのように扱えばよいのかという課題です。

 第3章は「教科書では教えない市場メカニズム」です。 
注目したのは次の3点です。
 第1は,経済学の教科書に書かれている内容で「どこか無理がある」と感じる部分を紹介しているところです。
 第2は,人々は市場メカニズムの不十分さと,どのように付き合っているのかというところです。
 第3は,市場メカニズムでは乗り越えられないものがあるというところです。

 第4章は「経済学は将来を語れるか」です。
 注目したのは次の3点です。
 第1は,厚生経済学の第一定理は,時間という概念が入っていないと指摘しているところです。
 第2は,人口が増加する場合と減少する場合とでは経済学の果たす役割が異なるというところです。
 年金改革をめぐる賦課方式と積立方式について、人口が減少する状況においてどうあるべきかが示されています。さらに人口減少の圧力に立ち向かうための政策が提言されており,授業者の知識を整理することができます。

③ どこが役に立つのか?
 2点挙げます。
 第1は,経済を教える教師が知っていたら役に立つ知識が随所に登場することです。
 第2は,随所に登場するエピソードがあげられます。例えば,ベーシックインカムという考え方の源流にフリードマンの存在が見えるという場面が紹介されています。GDPとベンサムとの関連という場面も印象的でした。

④ 感 想
 今月紹介しました諸富先生の本と関連した感想になります。本書72ページに「税を収めさせる」という記述があります。なぜ「納める」としなかったのかが読後の問いとして残りました。
 答えは小塩先生の記述から探すしかありません。再読中に「収める」という語の主語が「発展途上国」というところが気になりました。辞書では「収める」は中に入れるという意味が強いようです。一方の「納める」は,あるべきところに落ち着くといった場合に用いるようです。
 小塩先生は発展途上国には「所得税の仕組みが整備されてい」(p.72)ない場合があると書いています。ここから,税が本来あるべきところに納める仕組みが確立されていないと捉えて「収める」という言葉を使ったのではないかと読みとりました。 ぜひ小塩先生に質問してみたいというのが読後の感想です。

(神奈川県立三浦初声高等学校   金子 幹夫)

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