テレビショッピングで学ぶ社会の基盤
執筆者 金子幹夫
1.主人公との出会い
箱根駅伝で有名な小田原駅の隣に鴨宮駅という駅があります。「かものみや」と読みます。今回は、筆者がこの駅に下車したところからはじまります。
秋の日曜日、しかもお昼過ぎなのにホームに人はあまりいません。雨が降り、ちょっと寒かったので温かい缶コーヒーを買おうとしたときに、今月号の主人公と出会いました。
2.謎の主人公
主人公は「ラーメンスープ」です。オレンジ色のキャップで、中央に「味噌」と、そして下の方に「麺は入っておりません」と書いてあります。
買うか買わないかの問題どころではありません。なんでラーメンスープが飲料の販売機で売っているのだろう? いつ、どのような人が購入するのだろう? そもそもどんな味がするのだろう? 「?」でアタマの中はいっぱいです。
3.「?」は教材になる!
「?」でいっぱいの対象は、教材になる可能性を秘めています。今月号は、このラーメンスープ缶を題材にして授業づくりを考えてみようと思います。
皆様と一緒に考えたいことは次のとおりです。
(1)日常生活の中で見つけた「?」をどのように教材化するのかということ
(2)経済を教えるにあたって、自販機の商品で「市場・インフラ・生活・政策制度」という社会を支える4つの基盤と6つのキーワード(「希少性」「効率」「分業」「交換」「信頼」「不公正」)を教えることができるのではないか? ということです。
※ ラーメンスープ缶はJR東日本のホームで販売しているようです。全国のJRでは、似たような魅力的な商品を販売しているはずです。この記事をお読みの先生方は、地元のJRホームで販売している商品に置き換えてお読みいただければと思います。
4.導入は「これなんでしょう?」
授業は、教師が外から見えない紙袋に入れた商品を生徒に示すところからはじまります。もちろん入っているのはラーメンスープの缶です。「この紙袋には、私(教師)がJRのホームにある自動販売機で買った、ある飲み物が入っています。何だと思いますか?」。
JRのホームという用語を入れるところがポイントです。商品の品質について信用してもらう必要があるからです。
5.正解は?
きっと生徒はいろいろな飲み物をあげてくるはずです。コーンポタージュ、お汁粉、スンドゥブ・・・と。実は正解は・・・「ラーメンスープ」でした! 「先生、それ飲んだの?」「どんな味がするの?」と盛り上げたい場面です。
「みんなはこれ飲んでみたい?」と問いかけます。きっといろいろな意見が出てくるでしょう。そこで、このラーメンスープの魅力についてみんなで考える授業を創ってみたいと思うのです。
6.場面設定は「テレビショッピング」
場面設定は「テレビショッピング」です。
先生が考えてきた台本を生徒と一緒に演じるという授業です。生徒同士が演じても成立します。登場人物は2人です。2分間、視聴者(生徒たち)を対象に「ラーメンスープ」を販売するという企画です。
7.授業の構想について
次に、このラーメンスープ缶の商品について説明します。続けて、テレビショッピングの特徴を共有します。さらに、実際の展開案を示します。
なぜテレビショッピングなのでしょう? 筆者は、テレビショッピングの構成は、前述した4つの基盤及び6つのキーワードを教えるにあたってものすごく相性がよいと思っているのです。それでは、順番に紹介します。
8.商品の説明
ラーメンスープ缶は、自販機では1本170円で販売していました。そこで、この商品の販売にかかった費用を130円と設定しました(本当の費用はわからないので推測です)。
130円の内容は、商品開発、原料仕入れ、缶の用意・印刷、調理・加熱・殺菌、箱詰め、運送、宣伝、販売機の電気代等々を含めたものだということを事前に説明します。
9.テレビショッピングの構成
テレビショッピングにはいろいろなパターンがありますが、授業内容を適切に学ばせるために、次のような構成にします。
(1)冒頭は、何か困っている人を描く(時間やお金等々 何か限界を感じている)
(2)世の中には「便利なものを開発している人がいる」(1人ではできない)
(3) 視聴者は、その商品大丈夫なのかと不安になる(安心感を示して信頼を得る)
(4) この広告は様々なルールを守っていることを知らせる(不公正はないことを示す)
(5) その上で、この価格を設定しているのだ といった構成です。
10.ストーリー
それでは、テレビショッピングのはじまりです。2人の生徒に役割を演じてもらいます。
放課後、部活が終わりヘトヘトに疲れた生徒たちは、お腹を空かせたまま塾に行かなければいけないという設定です。
(1)困っているシーンです
(空腹の高校生Aと高校生Bが会話をします。)
A「部活終わってお腹ペコペコだ…! 牛丼とかラーメンが食べたい…!」
B「塾の授業まであと30分しかないよ。お小遣いもあと200円。最悪だ…」
(限られた時間やお金をどのように効率よく使ったらよいのか困っています)
(2)困った生徒によいお知らせです
B (自動販売機で缶のラーメンスープを1本購入して)
「あきらめるのはまだ早いよ! ほら、これを見てごらん!」
A「えっ、なにそれ? 自販機にラーメン…スープ!? 缶で!?」
【可能ならばテロップを出します】
なんと170円 。待ち時間0秒!
(3)生徒Bによる解説
B「ラーメン屋さんに並ぶ時間も、ラーメン一杯分のお金は必要なし! 170円で本格スープの満足感が買えちゃうんだ!これぞ究極のタイムパフォーマンスだね」
【テロップ】
タイパ&コスパ最強の選択!(効率的だということを示します)
※ここのポイントは2つあります。
<1>生徒は時間にもお金にも限界があるということを表現します。限界があるからこそ、その後に登場する解決策が際立ちます。
<2>数字を見せます。「170円」「0秒」といった具体的な数値をあげることで「効率」について考えるようになります。場合によっては、もしもラーメン屋さんに行っていたら「1,000円払うんだよ」といった数値を入れることもできます。
(4)誰がつくったの? 大丈夫なの?
A「自販機でラーメンのスープって、本当に美味しいのかな? 誰がつくったの?」
B「大丈夫! これはラーメンのプロが創ったんだよ。監修しているのは、あの有名なラーメン店、そして販売し ているのは駅のホームだよ。ラーメン屋さんと飲料メーカーの高度な技術が組み合わさり、みんなが利用する駅で売っているんだ。」
【テロップ】
有名ラーメン店(味)× 飲料メーカー(技術)×鉄道会社公認
信用抜群!!
※ここのポイントは2つあります。
<1>「一人では作れない商品」ということを示します。専門家同士が手を組むことで安くて品質の高い商品をつくることができるのです。
<2> 多くの人が利用する駅のホームで、鉄道会社が認めた業者の商品を売っているということを示します。この後に続く缶の表示を見ることと合わせて信頼とはどのようなことかを感じてもらいます。
(5)それでは飲んでみようか・・・と思った瞬間
A(缶を持ち、一口飲もうとした瞬間、急に不安になり)
「ちょっと待って。 この缶の中身って外から見えないよね。何が入っているのか分からないからちょっと怖いな・・・」
B(缶のいろいろと記載されているところを示します。)
「心配はいらないよ!ここを見てごらん。法律に基づいた原材料とアレルギー表示がバッチリ書かれているよ! 第三者の厳しい審査を通った駅の自販機だからここで売ることができるんだよ。」
A 「そうか! それは安心だね」
(そしてAも1本購入して)
「これで 塾に行ってもおなかが空いて困ることはないね。法律があるおかげで、私たちは初めて見る缶スープ でも安心して飲むことができるんだ!風が冷たくなってきたけれど、もうぽかぽかだよ。」
(6)大満足な顔の2人
(ここで突如Bが高校生から販売員の役に変わり、視聴者の皆さんに語りかけます)
B「さあ、このラーメンスープを皆さんのご自宅でも楽しむことができます。時間がないとき、ちょっとおなかが空いたとき手軽に1本! あると安心ですね。 本日は、この情報を見ている皆さんに特別に、10分間限定! 30缶一ケースを4,500円でご提供します。もちろん送料無料です。」
(7) 先生の登場
テレビショッピングはここでおしまいです。演者の皆さんは自席に戻ります。
そこで生徒の状況に合わせての発問がはじまります。
例えば、「お腹ペコペコ・時間もお金もない」は希少性・効率に関する発問、「ラーメン店×飲料メーカー」は 分業・交換に関する発問、「駅の自販機・食品衛生法」は信頼や不公正に関連する発問です。
成長段階、学校やクラス、生徒の学習状況によって問い方はいろいろです。ここは専門職としての教師の底力を見せるところですね。
11.おわりに
生徒がどのような発言をするのかはわかりません。それを受け止める教師が意識するのは4つの基盤と6つのキーワードです。
2026年の先生のための「夏休み経済教室」では、篠原総一先生から「希少性だから効率的に、効率には分業と交換で、分業と交換はつながりを生み、つながるためには信頼が、
それでもなくならないのが不公正」というお話がありました。
これを今回のストーリーにのせて言い換えますと「時間がないからすぐにおなかを満たしたい。手際よく美味しいものを味わうには複数の力がいる。その力が連携した結果、駅のホームの自販機に届いたのがラーメンスープ。売っている場所を考えれば安心して飲むことができそうだ。ルールがあっても詐欺商品といった『不公正』はなくならない。だからこそ、契約や食品表示が不可欠」といった感じでしょうか。今月はここまでです。
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