生産の三要素、私ならこう教える  〜ローカルニュースの使い方〜
執筆者 篠原 総一                                  

*教科書の生産の三要素
「生産活動と企業」の学習は、生産の三要素(資本、労働、土地)の説明から始まります。昨今の教科書は、この三要素についても実に分かりやすく、やさしく説明しています。例えば東京書籍『新しい社会 公民』(令和3年2月、141ページ)には、

 「企業の生産活動は、土地、設備、労働力という三つの生産要素を組み合わせて行われます。企業は、準備したお金で土地や設備、原材料を購入し、労働者をやとって商品を生産し、販売することで収入を得ます。・・・」

とあります。そして、企業は利潤を上げるためにはこんなこと、あんなことをしている、という説明が続いていきます。

しかし、教科書の記述は、いくら分かりやすく書かれていても、あくまで一般論の域を出ることはありません。ですから、生徒には、目に見えない経済社会のことを学ぶ公民や公共の授業が、無味乾燥で他人事に映るのは仕方のないことのようです。

すぐれた捨てネタには、実は、この「他人事のように見える一般論(教科書の記述)」を、一気に「自分と関わりがある経済、肌感覚で理解できる経済」に変身させてしまう魔法のような力があるものです。

*ローカルニュースに着目
今回紹介する小ネタは、生徒に「生産三要素の定義から、その役割りや働きまで」、すべて直感的に納得させてしまうこんなローカルニュースです。

 ・私の住んでいる地域では、12月1日から、あのバス会社が、あの路線とこの路線で朝晩のバスの本数を半分に減らす。昼間と夜間は一時間に1本になってしまう。隣町と結ぶあの路線は廃止と決まった。
 ・これでは通勤や通学が不便になる、おばあさんも病院へ通えなくなる。
 ・減便の直接的な原因は運転手不足だ。あの会社では、5年前には30人いた運転手さんがいまは15人集めるのがやっとという状態だという。これでは減便も仕方がない。
といった、地域社会に直結したニュースです。(*)

生徒がいつも見かけるバスの会社に関する話題だからこそ、「運転手不足(人手不足)が生産を止める」、「路線バスが止まったら(財やサービスの供給が減ったら)、住民の暮らしが不便になる(経済的に打撃を受ける)」といった経済の一般論の意味を直感的につかめるのではないでしょうか。

*小ネタから続く授業は
授業ではこの小ネタを仕込むのに、ほんの2〜3分でしょうか。そしてこれだけの準備だけで、後に続く授業を様変わりさせられます。

まず三要素の定義です。今回の小ネタを使って、このバス会社にとっての三要素を整理してみれば
 労働は運転手や会社で働いている人、
 資本設備は車体、
 土地は車庫用地、
(ついでに原材料としてはガソリン)
というイメージが苦もなくできるはずです。そして、定義の理解はこの段階でできあがっています。生徒が各要素の「生きた例」を知っているからこそ、各要素に関する経済の見方、考え方を身につける学習に進んでいける、と私は思っています。

生徒が作り上げたイメージを使って、
 ・運転手不足が起こる原因は?
 ・運転手不足がバス路線利用者に与える影響は?
 ・運転手不足問題の解決法は?
といった学習を通して、
 ・生産要素の不足が起こる原因は?
 ・生産要素の不足が消費者に与える影響は?
 ・生産要素の不足問題の解決法は?
という経済学習の本質につなげていけるというわけです。

(*)路線バスの減便、廃止問題を報じるローカルニュースについては、ネットで「路線バス、廃止、具体的な地域名」で検索すれば、ニュースのサイトが次々と出てきます。ちなみに私の住む関西圏での一例をあげておきます。
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20231005-OYT1T50101/ 

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