①どんな本か
2018年に「気候変動をマクロ経済分析に統合した業績」でノーベル経済学賞を受けた著者が、グリーンをキーワードにして、現代の社会、経済の課題を総合的に俯瞰して、その対応を提言した本です。
②本の内容は
序文と全体は6部25章に分かれています。
序文では、グリーン・プラネットやグリーン・ムーブメントについての定義と概観が書かれています。
第Ⅰ部は、「グリーン社会を築く」で、グリーンに関する、歴史、社会原則、効率性、外部性の規制、連邦主義、公平性の6項目からなり、グリーン経済学原論に相当する部分です。
第Ⅱ部は、「危機に立つ世界の持続可能性」で、持続可能性の概念、国民計算、エクソ(地球外)文明、社会的カタストロフィーの4章からなり、現状分析がされています。
第Ⅲ部は、「行動経済学とグリーン政策」で、行動経済学、政治理論、政治の実践、グリーン・ニューディールの4章からなり、課題解決のための課題、行動計画が扱われています。
第Ⅳ部は、「社会と経済からみたグリーン」で、グリーン経済の利益、税、イノベーション、個人の倫理、企業の社会的責任、ファイナンスの6章からなり、Ⅲ部の計画をより具体的に実行するための原則や提言が扱われます。
第Ⅴ部は、「グローバルグリーン」で、グリーン・プラネット、気候協約の2章からなり、気候変動に対する国際的取り組みの必要性が説かれます。
最後の第Ⅵ部は、「批判、そして最後の熟考」で、グリーン懐疑派への反批判と最後のまとめが書かれています。
③どこが役に立つか
全体を通読することで、環境問題をひろくグリーンと捉えて、課題解決の具体的な方法を考える手がかりが得られます。
特に、SDGsを授業で扱うときに、それがどのようなねらいで作成されてきたのか、また、目標の13「気候変動に具体的な対策を」や15「陸の豊かさも守ろう」に関しての理論的、実践的な回答の手がかりが得られる本です。
9章の「グリーン国民計算」や10章の「エクソ文明の魅力」などの箇所からは、標準経済学からの反省や逆にユートピア的な地球外での生存可能性の否定が書かれていて、授業の参考になるだけでなく、科学的分析の説得力に気づくでしょう。
12章で扱われている行動経済学は、タイトルが「グリーンの敵である行動経済学」となっていてちょっとびっくりしますが、行動経済学を否定しているのではなく、行動経済学が発見した人間行動のアノマリーを踏まえた社会作りが必要という指摘で、ここも持続可能性と人間行動の齟齬をどう超えてゆくかのヒントが得られるでしょう。
④感想
著者ノードハウスは、サムエルソン『経済学』の第12版以降の共著者としての印象が強く、単著を手にしたのは初めてでした。
最後の第Ⅵ部で、グリーン経済に対する批判への反批判を展開しています。彼の立場は民主党でいえば中道派で、右派のシカゴ学派に対する批判などはなかなか厳しいものがあり、面白く読みました。
最左派からも厳しい批判がありますが、市場のメカニズムを前提にして各種の手段で持続可能にするべきという主張は、危機のなかから現実的解決を探ろうとする知的営みと提言となっていて、アメリカのリベラル派の伝統は死に絶えてはいないのだという発見になり、ちょっとほっとしたというのが正直なところです。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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