執筆者 大阪府立三国丘高等学校 大塚雅之

1 新学習指導要領用の共通テスト試作問題が公表された
先日、大学入試センターから新課程における共通テスト試作問題が公表されました。
令和7年度試験の問題作成の方向性,試作問題等 | 独立行政法人 大学入試センター

今回はこの問題を分析した上で、これをどのように授業にいかすべきかのヒントを提言したいと思います。
試作問題のうち、経済教育に関わるのは、「公共、政治・経済」、「公共、倫理」、「歴史総合、地理総合、公共」の3つです。
このうち、「公共、政治・経済」、「公共、倫理」では、「公共」の共通問題が8問出題され、残りは「政治・経済」、「倫理」に関する問題でした。
「歴史総合、地理総合、公共」は、3つの科目のうち2つを選択していく形式です。ここで出題されている「公共」の問題は16問、そのうち8問が先ほどの「公共、政治・経済」、「公共、倫理」との共通問題でした。
これらの問題のうち、経済教育に関して注目すべき2題に関して記したいと思います。

2 相関係数が登場した
最初にとりあげるのは、「公共」 第2問の問2「子育て支援に関する問題」です。
①どんな問題か
OECD各国の子育て支援の状況について、二つの散布図を読み取る問題です。
散布図の一つは、縦軸に合計特殊出生率、横軸に「現金給付」対GDPをとったもの(図1)、もう一つは、縦軸に合計特殊出生率、横軸に「現物給付」対GDPをとったもの(図2)が提示されそれを読み解く問題です。

②注目するべきところ
 まず、図中に相関係数が記されています。選択肢にも「強い相関があるため」と記されています。また、別の選択肢の中には「因果関係は示されていないため…別の資料を準備した方がよい。」と記されています。
このことからも相関関係と因果関係を前提知識として知っていることが求められている問題です。これは、今までのセンター試験や共通テストでは見られなかったものです。
 正解の選択肢は、「現物給付割合が日本より少なくても合計特殊出生率が1.60を超えている国がある」ことを指摘しているものとなっています。これは相関係数のデータにもとづいて議論することを想定して、そのような議論があっても良いと作問側が考えている問題と言えます。

③授業にいかすには
この問題をもとに授業改善を行うとすれば、やはりデータの見方をきちんと授業で触れていくことが必要です。
もちろん、相関関係と因果関係は「情報」の授業や「探究的な学習の時間」では扱うかもしれません。しかし、「公共」の授業でもデータを読み取らせながら、どのようなことが言えるのか、もしくは言えないのか、因果関係や相関関係も意識しながら考えさせる場面を作る必要があると思いました。また、生徒に議論させる際にもデータをもとに行わせるようにしていくべきだと思いました。

3 ここでもデータの読み取りが
二番目は、「政治・経済」の「産業別労働生産性の問題」です。
今回の政治・経済の問題の多くは探究を意識した問題設定となっていました。中でも「公共、政治・経済」の第5問の問2の問題を紹介したいと思います。
①問題の内容
状況として、生徒が先生のアドバイスのもとで、産業別の実質付加価値(表1)と産業別就業者数(表2)の推移を示すデータを集めて、考察と議論を行うというものです。
生徒と先生がデータについて話し合うセリフの中に空欄を入れておき、表1と表2を読み取ることができているかを問うています。
この問題は、表1、表2から産業構造の高度化を読み取らせるにとどまらず、表1と表2を関連付けることによって、産業別の一人当たりの付加価値つまり「労働生産性」を計算させることまで要求している問題です。

②注目すべきところ
注目すべきと感じたところが二つあります。
一つは、先ほどの問題同様、強いメッセージ性があるところです。
「日本は労働生産性が低い」、「実質賃金が伸びてない」という指摘がテレビや新聞では良く主張されます。しかし、この問題で提示されているデータを見ると産業別で見た場合、製造業はそれなりに伸びていることが分かります。これは何事も簡単に分かった気持ちになってはいけない、分けて比べることで「分かる」のだと言うメッセージを発しているのではないかと思いました。
生徒に探究的な学習をさせる際にも、「できるだけ分けて考えなさい」というスタイルをとることの重要性に気付かせてくれる問題ではないでしょうか。
もう一つは、探究の指導の仕方です。
生徒に調べさせてから、先生が教え込むのではなく、労働生産性などの指標について、データを読みとりや、アドバイスをすることで、考えさせることの大切さです。
この問題中の先生の最後のセリフは「こうした(産業別の労働生産性の)違いがなぜ引き起こされるのかについても、考えてみると良いですよ。」と、最後の最後まで教えるのではなく、考えさせる姿勢を貫いています。

③授業にいかすには
この問題のように、「政治・経済」の授業を探究的にするためには、まずは生徒が探究したくなるような問いを立てる、そして、適度にアドバイスを与えながらデータをもとに自分で考えさせることが必要であるということです。ただし、現実の授業は、この問題のようにきれいには進みませんが。
他にも、最後の問題中の先生のセリフに着目し、ICTやAIなどをうまく取り入れている企業の事例を産業別に調べさせる。それを皆で発表しあい比較させるといったことをすれば、楽しい授業になるのではないでしょうか。

4 おわりに
今回は共通テスト試作問題から、問題のメッセージとそれを受けての授業改善のヒントについて記させてもらいました。
今回の試作問題、全体的には学習指導要領の趣旨にあった問題だと思います。ただし、あくまで試作だと思いますので、現場ではその声に応えながら、ちょっとずつ新課程にあわせて対策を考えていくことが必要になるのではないでしょうか。

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