①どんな本か
 社会学者による、慶應のSFCでの「アカデミック・ライティング」の講義をもとにした、論文の書き方の本です。
 単なるハウツー本ではなく、論文とは何か、研究の意味、具体的なテーマの取り上げ方など実際に論文(エッセイ)を書くためのヒントが詰まっています。

②本の内容は
 第1章で、「論文とは何か」が説明されます。レポートとの違い、論文の構成が提示されます。
 第2章は、「科学と論文」で、理系論文の内容からはじまり、人文・社会科学系論文へと展開します。
 第3章は、「主題と対象」で、主題と対象の違い、主題の決め方の方法が説かれます。
 第4章から第8章までは、「はじめての調べ方」「方法論(調査設計)」「先行研究と学問大系(ディシプリン)」「方法(メソッド)」「研究計画書とプレゼンテーション」と論文を書く時の調査からはじまり先行研究、どの学問大系のどの流派の立場書くかなど、方法が具体的に述べられてゆきます。
 第9章から第11章は、「構成と文章」「注記と要約」「校正と仕上げ」と、より具体的に文章作法も含めての作法が紹介されてゆきます。
 最後に、この本を書く理由の紹介がされます。

③どこが役に立つか
 ずばり、紹介者もふくめて高校までの教員に役立つ箇所は、第1章の最初にでてくる「ハンバーガー・エッセイ」のところでしょう。
 これは、アメリカで教育されているエッセイの書き方ですが、日本流に言えば、結論を先に出す序論、それを論証する本論、最後の結論の三段構成の書き方です。
 「公共」のある教科書では、章のまとめの箇所で、この「ハンバーガー・エッセイ」の方式で課題論文を書くように指示しています。このスタイルが普及することで、論文指導が楽になり、生徒が書く論文の内容もレベルアップするでしょう。
 もう一つ役立つのは、教育研究を志している先生にとってです。単なる実践報告ではなく、実践から論文に飛躍するためのヒントが得られるはずです。
 ほかにも、授業をすすめる際に、主題や課題を提示できるかどうかは「問いを立てる」ことが出来るかどうかというような指摘が随所にあり、論文の書き方だけでなく授業をどのように組み立てるかのヒントが得られるでしょう。
 第7章の「方法」で扱われている量的調査・質的調査の箇所は、教育評価の量的評価・質的評価に応用することが出来る箇所です。

④感想
 小熊さんの本は大部で有名ですが、この本も新書でありながら450ページを超えるボリュームです。でも、各章冒頭にはポイントがあり、文中、学生との対話が入っていて、読みやすくかつ内容が深められているなと思いました。
 ディシプリンやメソッドの章は、論文の書き方というより、学問論になっています。これはSFCのような多様な学問を専攻しようとしている学生対象の講義から出来た本だなと感じる箇所でした。
 ちなみに小熊さんの本では、父親をインタビューしてまとめた『生きて帰ってきた男』(岩波新書)がオススメです。この本に登場する小熊さんの父の軌跡は、一庶民の歴史でありながら、時代の精神を浮かび上がらせる名著だと思っています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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