①どんな本か
2015年のギリシャの経済危機の時に財務大臣を務めた経済学者の著者が、オーストラリアにいる10代の娘に向けて書いた経済の本です。
翻訳は2019年に出されていましたが、この夏、NHK・Eテレの『100分de名著』に取り上げられて再び注目を浴びています。
②本の内容は
プロローグ、エピローグと全8章からなっています。各章のタイトルと扱っている主な内容は以下の通りです。
 第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか?-格差の発生とその拡大
 第2章 市場社会の誕生-市場の発生とその発展を歴史的に紹介
 第3章 「利益」と「借金」のウエディングマーチ-企業経営と借金の関係
 第4章 「金融」の黒魔術-お金の発生と金融の役割、焦げ付いたときの対処法
 第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界-労働市場と金融市場
 第6章 恐るべき「機械」の呪い-技術進歩と労働
 第7章 誰にも管理されない「新しいお金」-仮想通貨
 第8章 人は地球の「ウイルス」か-環境問題
大きく、格差問題、市場経済の光と影、労働問題、お金と金融の問題、環境問題の5つがテーマと言えるでしょう。


③どこが役に立つか
それぞれのテーマに関する授業の時に、そこにでてくるエピソードや考え方を参考にすることができるでしょう。
例えば、第4章での銀行が無から貸し出すお金を生み出す仕組み、金融危機の時の中央銀行の魔術など、教科書では表面的にしか扱っていない現代の金融の姿が生々しく描かれていますから、金融の授業はリアルなものになるでしょう。
『ファウスト』、『怒りのぶどう』、ギリシャ神話などから説いてゆく叙述は魅力的です。また、『ブレードランナー』『マトリックス』などの映画から現代の経済社会を捉える手法なども参考になるでしょう。


④感想
プロローグでの「若い人たちに分かる言葉で経済を説明できなければ教師として失格」という言葉に納得しました。私たちもめざしたい志です。
一読して、これはマルクス経済学の現代版だと思いました。事実、プロローグで影響を受けた思想として「カール・マルクスの亡霊」が上がっています。その意味で、現代経済学の主流派の考えとは異なることを押さえて使うなり参考にすると良いと思います。
でも、金融の箇所はMMTの発想そのもので、古典と現代がほどよくミックスされている反市場主義のスピード感あふれる本といえるでしょう。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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