①どんな本か
・立命館大学の稲森経営哲学研究センターによる、2018年からはじまっている「人の資本主義」研究会のカンファレンスの一部をまとめた本です。
・前の『格差と闘え』が、現在の経済制度を前提にして政府の政策による格差問題に対する現実的な処方箋をめぐるカンフェレンスであるのに対して、こちらは「人の資本主義」なる概念をもとにしたこれからの社会の在り方を問う思想的な色彩が強いカンフェレンスです。


②本の内容は
・コーディネータの中島隆博氏(中国思想の専門家)の序論「はじめに」以下三部11章からなります。
・第Ⅰ部は「資本主義の問い直し方」と銘打たれ、「人の資本主義」の意味と可能性についての覚え書き(小野塚知二)、人の資本主義への視点(広井良典)、歴史性・普遍性・異質性から見た経済(安田洋祐)の三氏による問題提起と討論です。
・第Ⅱ部は「ディスコースの変容と資本主義」と銘打たれ、歴史的ディスコースにおける資本主義(山下範久)、なぜ利己的個人か(野原慎司)、国家と資本主義(國分功一郎)、共生社会と資本主義(堂目卓生)、欲望と社会を巡るパラドックスへの一考察(丸山俊一)の四氏による問題提起と討論です。
・第Ⅲ部は「持続可能な社会の構築と資本主義」と銘打たれ、脱成長そして地球の有限性の中の資本主義(広井良典)、ポスト資本主義コミュニティ経済はいかにして可能か?(中野佳裕)、人口減少社会で気づく持続可能性の経済学(倉坂秀史)の三氏による問題提起と討論です。


③どこが役立つか
・経済史・経済学史をベースとした文明論的な視点での問題提起と討論なので、興味関心のかる箇所を読むことで、授業のヒントが得られるでしょう。
・あえて挙げれば、第Ⅲ部が持続可能性、脱成長、人口減少社会などを取り上げているので、一番公民や公共の教科書との親和性があるかもしれません。


④感想
・問題提起の文章も、それをうけての討論も『格差と闘え』にくらべて読みやすいのですが、二つを並べてみると、新自由主義的な社会のあり方に批判的な視点は似ていますが、政策の提言を打ち出してその実現を念頭に議論する欧米と、文明論的な広がりで資本主義を論じる本書の論者との違いが際立っていて、興味深いというか、切迫感、リアリティの違いがあるなというのが実感です。
・にもかかわらず、この本を取り上げたのは、現在の社会科や公民科の授業の流れや構成にかなりの親和性があるのではと思ったからです。
・どちらが良い、悪いではなく、文明論的に眺めた現代社会を変えてゆく政策的なリアリズムが求められているし、同時に、政策的なリアリズムの土台にある価値観や社会観を見つめ、相対化してゆくことが求められているのではと感じています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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