①どんな本か
・慶應義塾大学経済学部で行われた、三菱UFJ信託銀行による寄附講座「長寿と金融」の内容をまとめた本です。
・本そのもののテーマは、高齢社会における金融リテラシー(金融ジェントロジー)の向上ですが、学校教育にも参考になる話がたくさんつまった本です。

②本の内容は
・編者駒村康平教授による企画の趣旨を述べた序章と、第1部「良い人生を送るための金融」と、第2部「善い社会のための金融」で構成されています。
・第1部は以下の通りです。
 第1章、駒村教授と三菱UFJ信託銀行の石崎浩二氏による総論
 第2章 慶應義塾大学山田浩之教授による日本の中高年齢の金融リテラシーの現状分析
 第3章 駒村教授による長寿社会における金融ジェントロジーの紹介
 第4章 マネーフォワードの瀧俊雄氏によるフィンテックによる資産形成の話
 第5章 フィンエル研究会の野尻哲史氏による超高齢社会の資産形成の話
 第6章 東京大学名誉教授の能見喜久氏による人生100年時代の信託による資産管理の話

・第2部は以下の通りです。
 第7章 駒村教授と石崎氏による持続可能な発展に貢献する金融の話
 第8章 日本総合研究所の翁百合氏によるフィンテックが変える未来の金融の話
 第9章 日経新聞の大林尚氏のシルバー民主主義と社会保障・消費税の話
 第10章 慶應義塾大学元学長の清家篤氏の人生100年時代の働き方の話

③どこが役に立つか
・第1章、第7章、第9章、第10章が授業づくりに役立つはずです。
・第1章は、なぜ現在、金融リテラシーの向上が求められるのか、18歳成人と人生100年の二つからその必要性を説きます。サブタイトルの「良い人生」のために学ぶ必要があるという指摘は、パーソナルファイナンスからの指摘です。
・後半にある、第7章は、第1章と対になっていて、金融の社会的役割、使命を述べた部分です。サブタイトルの「善い社会」のためにが、それを表わしています。「良い人生」のために資産形成をすることが、「善い社会」に通じるということが強調されています。
・第9章と第10章は、超高齢社会の課題とそれに向けての解決策を提示しています。ここは、直接資産形成の話ではありませんが、授業の高齢社会の問題を、政治、財政、働き方の各面から具体的にやさしく解説されています。
・その他の章は、関心に応じて利用するとよいでしょう。例えば、フィンテックは第4章と第8章に出てきますが、前者がパーソナル、後者がパブリックの視点からの話で、両者を会わせてゆくと、金融の世界での大きな変化が訪れていることが理解できるでしょう。

④感想
・春休みの経済教室の予習もかねて手にした一冊です。類書は多いのですが、中高の教科書に登場する事例や用語も数多く登場して、授業準備の副読本として使えるというのが印象です。
・特に、家庭科での資産形成の学習と、公民科での金融の学習の接点を考える上で役立つ本ではと思います。
・後半の超高齢社会の現実と課題は、自分自身や子ども、孫の世代の現実と突き合わせて、リアルでかつ課題が明確に指摘されていて、明快だと思いました。とはいえ、いくら明快でも、課題の重さは明るくなりませんが。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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