①どんな本か
・ベストセラーとなったノーベル経済学賞受賞者リチャード・セイラーらの本『実践行動経済学』の著者の一人である法哲学者サンスティーンの最新の著作の翻訳です。
・サブタイトルが「ナッジからはじまる自由論と幸福論」、本の腰巻きには「サンスティーン先生のナッジ・コンビニ開店!」とあります。

②本の内容は
・全体は10章に分かれています。
・第1章のイントロダクションは行動経済学も含めた行動科学の概論からはじまり、以下、行動経済革命(2章)、自分で選べば幸せになれるのか?(3章)、政府(4章)、誤り(5章)、判断(6章)、理論と実践(7章)、厚生(8章)、自由(9章)、進むべき道(10章)と続きます。
・本文は翻訳でも140ページほどなので、まさに、「コンビニエンスストア」のように、行動科学の包括的な内容がコンパクトにまとめられています。
・それでも、第4章までは、比較的ていねいに行動経済学の概説、ナッジとそれを使った政策の具体例などが扱われます。
・第5章以下は、10ページ程度で、ナッジによる判断例、政策に対する批判への反論、原理的な注釈などが扱われています。

③どこが役立つか
・入門となっていますが、これはミスリード。メルマガで以前に紹介した、例えば大竹文雄先生の『行動経済学の使い方』(20年5月号)や、『サクッと分かるビジネス教養行動経済学』(21年7月号)などの概説本を読んだうえで、もっと原理的に行動経済学を深めてみたいという先生方、特に、高校で「公共」を来年から担当する先生にお勧めの本です。
・タイトルが行動経済学ではなく行動科学となっていて、「人間の厚生=福祉」がテーマと著者自身が書いています。行動経済学も含んだ、広くかつ原理的な問題を扱っているところが、倫理系の先生にも役立つ内容です。
・サンスティーンは、オバマ政権の行政管理予算局でナッジの設計を担当するなど実務経験をもっているので、公共政策でナッジがどのように使われているのか、アメリカの例になりますが、個人の意思決定場面だけでないナッジの活用部分を知ることができます。

④感想
・正直、「入門」「コンビニ」にだまされたと思いました。でも、内容は、サンスティーンのこれまでの活動の総括的なものなので、ここで紹介しておこうと思った次第。
・サンスティーンは、多作で、憲法論、法哲学、民主主義に関する論考、生命倫理、情報論など多方面での著作があることを改めて知りました。
・ちなみに、オバマ時代の活動を書いた『シンプルな政府』(NTT出版)は、エッセイなので、気軽に読めるし、アメリカ政府内の行政官の様子、政府と議会との関係などがよくわかるので、ナッジと公共施策を具体的に知りたい場合は、こちらの方がオススメかもしれません。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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