執筆者  大阪市立東三国小学校 安野 雄一

(1)はじめに
 初任校は私立の中高一貫校、その後は大阪市立中学校、大阪市立小学校へと流れつき、大阪教育大学附属平野小学校での勤務を経て、現在に至ります。
小・中・高の学校種、国・公・私立の学校を経験してきて、各学校種で授業づくりなどについて、「ここはちがう」ということは多少ありました。
そのほとんどは当然のことながら、子どもたちの発達段階によるものだと考えられます。しかし、「ここは不易だ」と感じる部分も多くありました。
今回は、どの学校種でも共通して言える、日々の授業づくりなどで「できそうなこと」についてご紹介させていただきたいと思います。

(2)出口を見据えて,未来の子どもの姿を思い描く
 「未来、子どもたちがどのような人になってほしいか」「どんな力をつけていってほしいか」。そこを思い描くところからが授業づくりのスタートです。未来と一口に言っても、想定するスパンによって、その一時間の授業の位置づけは変わってくると思われます。それぞれのスパンで、子どもたちがどのような力をつけていたらよいかということを思い描くことが大事です。
私自身は「様々な状況下において、価値判断・意思決定したことをもとに、よりよい未来を切り拓いていく力」を、目の前にいる子どもたちに身に付けてもらえたらと思い、日々の授業づくりをしています。
これは、中学校や高等学校に勤務していた時も土台としてもっていました。

その中で、小学校と中学校・高等学校との大きな違いは、「出口への責任」という部分が大きいと考えられます。「入試」です。次の学校種への進学に向けて、子どもたちが乗り越えていかなければならない試練です。
最近の「入試」の傾向を捉えてみると、「知識・技能」に重きが置かれていたところから、世の流れは「思考力・判断力・表現力」をどう評価するかというところにシフトしていっているように感じられます。以前は「記述式だけれども、これは知識・技能の力を測っているよね」という問題が多かったのですが、ここからの脱却が図られているのだと思います。
身に付けた「知識・技能」を使って、どのように「思考・判断・表現」するのか、その力をどのように身に付けられるような授業づくりをしていくのかということが重要だと考えられます。

(3)単元を単位に考え、各分野の関連をこころにとめる
 一つ一つの単元の内容について、計画カリキュラムを立てる段階で、学習指導要領や教科書などをもとに、子どもたちが習得しておくべき見方・考え方、学習内容の詳細について整理し、大枠を捉えておくとよいとでしょう。
その上で、単元を貫いて価値判断・意思決定していくように単元を設計すると、徐々に多面的・多角的に俯瞰して対象を見つめ、自分なりに価値判断・意思決定をしていく素地の育成に繋がるものと考えられます。
様々な見方・考え方、学習内容を習得しながら単元学習を進めていき、単元末で、様々な視点、面から対象を俯瞰して見つめ直し、価値判断し、よりよい未来を創っていくためにどうしていくべきかと、思考を進めていくようにします。
これは、単元末までに習得してきた「知識・技能」をもとに、「思考・判断・表現」する学びへと繋げていく単元設計をベースにしていくとよいのではないかという提案です。
また、これは、中学校や高等学校で教鞭をとられている先生方や生徒にとっても気になる所である、「入試」の変容にも対応できる内容ではないかと考えられます。

 ここまでは、各単元の設計について述べてきました。その社会科学習における各単元での学びは、よくよく考えてみるとほぼ必ず「政治的分野」・「経済的分野」の事象との関係が認められると言えるでしょう。
歴史的分野の学習では、物々交換をしていた時代から、貨幣に代わるものが生まれ、貨幣が生みだされ使われるようになってきたそのこと自体が「経済的分野」と関連があります。政治でも、その時々の地域や国全体の状況を踏まえて、様々な経済に関する政策が行われています。
地理的分野の学習でも、農業や工業などの生産活動やその流通、国や地域の財政、情報など、「経済的分野」と深いつながりのある学習内容が目白押しです。
そのことを意識しながら、その政策や諸活動の一つ一つの社会全体における「価値」にまで思考を巡らせていき、単元末で総合的に俯瞰して価値判断・意思決定するようにしていけば、自分なりの見方・考え方、思考を組み上げていく経験を積むことができるでしょう。
単元を貫いて価値判断し続ける項目の設定が困難な場合は、その一時間で取り扱う事象について、単発で価値判断するだけでも十分だと思います。

(4)アクティブな思考を育てる評価と情報収集の方法
 子どもたちがどのようなことに興味をもっているのか、また、どんな学び方をしたいのかを捉えるために、「ふりかえりシート」などへの記述や対話による評価を有効に使うとよいと考えます。
これにより、「学びの必然性」に寄り添った形に、計画カリキュラムを修正しながら、単元の学習を進めていくようにすると、子どもたちの思考はよりアクティブになると考えられます。

その際、時事ネタの提示が重要になるケースが多くあります。状況に応じた資料の提示をするためには、日ごろからの教材研究がかなり重要になってきます。
 小学校に勤務する私自身は、日々届く新聞や雑誌をスキャンしてデータとして取り込み、PCで「地域経済」「財政」「国際情勢」「工業」「農業」「流通」「情報」などのキーワード別のフォルダに分けて整理し、保存しています。ですので、子どもたちのニーズに合った資料を選択し、提示しながら学びを進めていくことができます。
これは中学校や高等学校に勤務されてらっしゃる先生方も使えるかと思います。
これらの時事ネタは、中高の先生方にとって大きな「入試」対策にもなるのではないでしょうか。「時事問題をもとに、価値判断・意思決定をし、未来に向けて大切なことを考える」… 社会科学習にとって、とても重要なことであると考えます。

(5)さいごに
 小学校・中学校・高等学校の各学校種で勤務してきましたが、どの学校種においても、「未来を創っていく子どもたちを育んでいく」という土台は変わらないと思います。子どもたちが未来を切り拓いていく際に、「経済的分野」について知り、思考することは、切っても切り離せないものだと言い切れます。

「経済的分野」を意識しながら、一時間一時間の社会科学習の中で見方・考え方の枠を広げつつ価値判断し続け、最終的に対象を俯瞰して全体像を捉えなおして価値判断する。そして、よりよい未来について思考を進めていく。
社会科の授業づくりの在り方の一つとして提案をさせていただきましたが、みなさんはどのようにお考えでしょうか。

(メルマガ 146号から転載)

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