①どんな本か
・33歳の大学准教授によるマルクス「資本論」の再評価本です。
・マルクスの晩年の資料をもとに、エコロジストとしてのマルクスを再発見して、脱経済成長こそが「人新世(ひとしんせい:人類が地球を破壊尽くす地球環境危機の時代)」と名付けられた現代の危機を救うとしたマニフェスト本(人によってはプロパガンダ本)です。


②どんな内容か
・これも目次を紹介しておきます。
 第1章 気候変動と帝国的生活様式
 第2章 気候ケインズ主義の限界
  第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
  第4章 「人新世」のマルクス
  第5章 加速主義という現実逃避
 第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
  第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
  第8章 気候正義という「梃子」
・気候変動を軸に、それに対処するには晩年のマルクスが発見した脱成長のコモンをもとにした社会が必要とする内容です。


③授業で役立つところ
・直接直ぐに役立つというより、思考実験の対象として読むことがオススメです。
・経済社会の類型を扱っている箇所で、通常は、私有制か公有制か、市場経済か計画経済かで四つの類型(資本主義市場経済、社会主義計画経済、社会主義市場経済、その他)が提示されますが、この本では、気候変動への対処に関して、平等か不平等か、権力が弱いか強いかで分けて四つの類型(気候ファシズム、気候毛沢東主義、脱成長コミュニズム、野蛮状態)に分けています。
・このような、二つの価値軸で四つの世界を抽出する方法を示して、生徒に現状分析をさせる授業の参考になりそうです。
・「はじめに」の箇所で、SDGsはアリバイづくりであり、「大衆のアヘン」であると挑発的なテーゼを著者はだしています。それを生徒(私たち教員も)に吟味させるという使い方もできます。


④感想
・著者は、NHKのEテレで、ドイツの哲学者のマルクス・ガブリエルと一緒に登場して、この人物は誰だと思わせた人物で、その本体は、彗星のように現れた若きマルキストであったというわけです。
・半世紀前、『資本論』を読んでいた紹介者にとって、「コミュニズムって結局アウタルキーじゃないですか」と発言して顰蹙をかったことを思い出させる本でした。
・脱経済成長の定常経済論は、古いところではJ.S.ミルなどからもあり、特に新しい主張ではないと言えますが、環境危機と関連付けて展開しているところが現代的でしょう。国連気候変動会議で演説したグレタ・トゥンベリさんの経済思想版と言えるかも知れません。
・著者はあとがきで、いまどきマルクスなんて「批判の矢が四方八方から飛んでくることを覚悟のうえで」本書を執筆したと書いています。その意気や良しとして、資本主義以外のシステムもありうるかもしれないという可能性を考えさせる手がかりの一つとして手に取って見るのも良いでしょう。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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