①どんな本か
・経産省の関連団体である経済産業研究所(RIETI)の所長である森川雅之氏(一橋大学)とプログラムディレクターである小林慶一郎氏(東京財団研究所研究主幹)を中心として、コロナ危機の現状を分析した本です。
・全体は二部に分かれていて、第1部では「今、どのような政策が必要なのか」というタイトルで10章にわたり現状の分析がされています。
・後半第2部は「コロナ危機で経済、企業、個人はどう変わるのか」というタイトルで、同じく10章にわたり、これからの社会を展望します。
・取り扱っているテーマは、経済政策、財政、現金給付、デジタル技術、グローバル化、食料安全保障、医療経済、フューチャー・デザイン、感染症対策、創薬、消費動向、労働市場、エッセンシャルワーカー、在宅勤務、都市とコロナ、子どもへの長期的影響と、幅広く、第一線の研究者が経済を切り口として、研究の状況を簡潔にまとめています。
・執筆が20年6月段階なので、その時点での分析、展望である点は留意して読むと良いでしょう。


②授業で使えるところ
・コロナ危機(ショック)が日本経済にどのような影響を与えたのか、経済的な観点から生徒に話をするときに客観的データを元に分析された各章の記述を使うことができるでしょう。
・序章の森川氏の分析では、コロナ危機の特異性を、二つの外部効果から分析しています。他にも、経済学習で登場する比較優位、サービス業の特色(生産と消費の同時性)、世代間問題、生産性などの概念でこの事態を分析しています。このような記述から、現在の学習との繋がりを感じさせることができると思われます。
・10章にでてくる「フューチャー・デザイン」、これを授業でとりいれたら、面白い授業が構成できるかもしれません。これは、30年前の社会、現在の社会、30年後の社会の三つを想定して、30年後の社会から現在の社会へのメッセージを考えるというものです。


③感想
・コロナに関してはいろいろな情報が錯綜していますが、経済に絞って実証分析と展望を現在の時点でまとまって集めたという意味では、カタログ的に使える本と思いました。
・「コロナ危機は想定外だったが、コロナに関する経済分析は急速に進んでいる」という森川氏の言葉が印象的でした。その割には、私たちのところに経済学者の知見や発言がなかなか届いていないのは残念です。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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