内容の概略
・サブタイトルが「東大1,2年生に人気の授業」であるように、実際に昨年、東大の駒場キャンパスで行なわれた、経済学の導入授業「現代経済理論」をまとめたものです。
・東大の経済学部の現役の研究者がオムニバス方式で、経済学研究の先端の内容と魅力を紹介しているガイダンス本と言えます。
・この講義、500人以上の受講者を集め、そのうち半数が理系コースの学生で超人気講義だったとのこと。
・内容と著者は以下の通りです。(敬称略)
 01 経済学が面白い(ゲーム理論と制度設計)松井彰彦
 02 市場の力、政府の役割(公共経済学)小川光
 03 国民所得とその分配(マクロ経済学)楡井誠
 04 データ分析で社会を変える(実証ミクロ経済学)山口慎太郎
 05 実証分析を支える理論(計量経済学)市村英彦
 06 グローバリゼーションの光と影(国際経済学)古沢泰治
 07 都市を分析する(都市経済学)佐藤泰裕
 08 理論と現実に根ざした応用ミクロ分析(産業組織論)大橋弘
 09 世界の貧困削減に挑む(開発経済学)澤田康幸
 10 歴史の経済分析(経済史)岡﨑哲二
 11 会計情報開示の意味(財務会計と情報の経済学)首藤昭信
 12 デリバティブ価格の計算(金融工学)白谷健一郎
・1,2章がミクロ経済学、3章がマクロ経済学、4,5章がデータをもとにした領域、6章以下は各論という構成です。

授業で使えるところ
・1から3章が注目です。現在の高校までの経済学習の内容と比較して、現在の経済学の関心方向や教育のスタイルの違いを実感することができます。よく、高校までの教科書は最新の研究成果と10年遅れていると言われますが、10年で済むかどうか、そんなことを考えながら読むとよいかもしれません。
・もう一つ、すべての章にテーマと具体例が載っていることです。具体例が経済学ではどのように説明されているかという形で逆に読むことで、最近の経済学の思考法を学ぶことができます。また、具体例は、授業で扱う事例のヒントにもなるでしょう。
・大学の学部選びのガイダンスにもなります。つぶしがきくから経済学部という安易な選択をさせないためにも、経済学部ではこんな内容を研究しているのだということを高校教師(中学校も同じですが)は、生徒に伝えておきたいものです。

感想
・部会などで話題になっている、需給曲線のグラフが一つもでてこないのに注目しました。すでにマスターしていると思っているのか、それともこんなものはいらないということなのか、考えさせられます。
・その1で紹介した『経済教育実践論序説』と一緒に手に取り、高校までの経済教育と大学の経済学教育の差を考えることもよいではと思いました。
・本論よりも、ところどころにでてくるエピソードに面白いものがあります。例えば、02で登場する、フリードマンが登場する『選択の自由』という昔のテレビ番組の「1本の鉛筆の話」。むかし見たことがあるなというので、YouTubeでもう一度確認してしまいました。09に出てくる、公文式の効果なども、そうなのかと思わせるものでした。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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