内容の概略
・2011年に、夜間に設けられた大阪教育大学大学院実践学校教育専攻(現在は連合教職実践研究科)の裴光雄先生の研究室に関係する四人の現場の先生たちの研究会からスタートした研究会の10年近くにわたる研究成果をまとめた本です。
・当初はキャリア教育をテーマとしていたそうですが、問題関心が広がる中で研究テーマ、メンバーが広がり、小学校、中学校、高等学校の教員と大学の研究者による経済教育の多様な実践研究の相互交流の場として活動してきたそうです。

・本書は、はしがき、本論11章、あとがきに分かれています。
1章、2章は小学校が対象です。
1章は、安野雄一先生による小学校でのカリキュラムマネジメントと実践(コンビニエンスストアとTPP)の紹介です。
2章は、武部浩和先生による、同じく小学校の体験学習実践(あきんど体験学習・100円商店街)の紹介です。
3章から7章までは中学校が対象です。
3章は、関本祐希先生による、経済教育学会の学会誌『経済教育』に掲載された中学校の実践を分析した論考です。
4章・5章は、乾真佐子先生による「経済教育テスト」の紹介・分析とそれに基づく授業改善の実践事例(効率と公正、経済の三主体、国民生活と政府の役割)の紹介です。
6章・7章は、奥田修一郞先生による授業実践(トランプ大統領に就任のお祝いの手紙を送ろう、金融のしくみ)の紹介が続きます。
8章は、高等学校の実践で、大塚雅之先生の「分業と交換」をテーマにした授業実践の報告です。
9章から11章までは大学関係者の論考になります。
9章は、高山新先生による租税教育に関する論考。
10章は、岩田年浩先生による大学が学校の実践から学べることというタイトルの論考。
11章は、裴光雄先生による、韓国の経済教育の紹介と日本の経済との比較の論考です。

授業で使えるところ
・小学校から高等学校まで、実際に授業で行なった実践が紹介されています。その授業をどう組み立てたのか、そのねらいは何か、学習指導要領との関連はどうなっているか、実際の授業では生徒はどう反応したかなどが、詳細に紹介されています。その点から、即、授業づくりのヒントや自分の実践との比較ができるでしょう。
・5章でとりあげられている、中学生向けの「経済教育テスト」を使って、生徒の経済理解力を確かめてみるのも良いかもしれません。
・10章の大学生の実態、それを突破しようとして行なってきた岩田先生の実践は、タイトルとは逆に、学校教師側に授業の取組みのヒントになると思われます。

感想
・本書で取り上げられている実践は、経済教育ネットワークの部会や大会などで紹介されたものが多くあり、あらためてそれらの実践を読み直し、著者の先生方の研鑽ぶりを確認することができました。
・個人的には、「はじめに」と11章で書かれている裴先生の論考が参考になりました。
「はじめに」では、日本の経済教育の特徴を四点にまとめられていて、紹介者との問題関心が近く、特徴が的確にまとめられていることに感心しました。
・11章で紹介されている韓国の経済教育は、アメリカの経済教育の方法をストレートに受け入れたもので、日本との違いが際立っていることが指摘されています。韓国の経済教育の現状や到達点を見ることで、日本の経済教育の在り方が逆に照射されるのではという感想をもちました。
・本のタイトルが『序説』となっています。これからの研究や実践を期待したいところです。

(経済教育ネットワーク  新井 明)

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