執筆者 杉浦光紀(東京都立井草高等学校)

(1)授業再開と新たな課題
緊急事態宣言が解除され、各地で臨時休業となっていた学校が再開しました。
生徒は久々に友達と再会して、元気一杯です。こちらも「ようやく教室で授業ができる」と気合が入りますが、密集・密接を減らすために、グループ・ワークなど話し合いを中心にした授業の制限が課題となり、頭を抱えてしまいます。
そこで、これまでと完全に同じスタイルの授業に戻すのではなく、オンライン授業で利用した手法も取り入れて生徒の意見を還元し、「対話」のある授業を考えます。

(2)オンライン授業の意図せざる効果
 オンライン授業では、ウェブ会議システムを利用した双方向型の授業と動画配信システムを利用した映像型の学習に大別されます。勤務校はこのうち、動画配信を採用しました。
映像視聴後の学習を充実させようと、ウェブ上でアンケートを作成するシステムの利用を試みました。そのシステムを用いて、生徒に毎回「事後課題」の提出と「授業や課題で考えたこと、疑問に思ったこと」を記入させるのです。
すると、教室で取り組ませる時以上に、よく考えられた論述や、本質的だと感じる質問が出るのです。生徒の具体例と質問への授業者の応答をまとめ、PDFで閲覧できるようにしたところ、「他の生徒の論述のすばらしさに驚かされた」という意見もありました。
事後課題やフィードバックにより、じっくりと考えること(自己との対話)、自分以外の人の意見を読んで再び考えること(他者との対話)が実現されていました。オンライン授業の意図せざる効果です。

(3)教室とウェブ選挙を考える
 東京では授業再開早々に、公民科としては見過ごせないイベントが迫っています。それは、都知事選です。
候補者の主張を比較して自らの判断基準を考え、投票の体験をする模擬投票も大事ですが、経済教育の視点から選挙を考えさせる主権者教育もあります。
投票行動のライカ―・オードシュックモデル(以後、意思決定モデル)を用いて、まず、ウェブ上で考えさせてみるのはどうでしょうか。

 先生:なんで投票に行く人と、行かない人とがいるのでしょうか?
 生徒A:行く人は、義務感を持っているのと、投票により暮らしがよくなると思っているからです。
 生徒B:行かないのは、めんどうくさいし、何をしても変わらないと思っているのでは。

生徒の発言内容を意思決定モデル「R=P×B-C+D」(期待利得=確率×利益-投票コスト+義務感)に整理し、このRが>0では投票し、≦0では投票しないと考えられることを示します。
意思決定モデルで考えると、投票日に雨が降っていたらC(コスト)が高いので投票しないと考える人がいるかもしれない。大勢が投票する場合、自分だけの投票で当選するとは考えづらく、候補者選びも「機会費用」が高いと考えれば、行かない方が合理的という「合理的無知」という考え方もあります。
一方で、自分の影響力や利益、義務感を高め、投票コストを減らすような対策により、投票行動を増やすことができる可能性も意思決定モデルから考えることができます。

(4)アンケート集計と教室での話し合いの準備
先生:意思決定モデルの「P(確率)」「B(利益)」「C(コスト)」「D(義務感)」のいずれか2つに着目して、投票者を増やす「声かけ」を考えてください。

ウェブのアンケートシステムで回答させ、次回の教室での授業で生徒が共有できるように生徒の解答はまとめておきます。
教室での話し合いをする場合は、距離をとって、回数や時間を絞ることが求められます。事前に内容を共有することで、短時間で話し合いが済むことにもつながります。また、「D」を単に義務ではなく、Democracy(民主主義)の価値の重視でもあると補足します。

(5)「新しい日常」の中の学び
 学校の「新しい日常」として、マスクの着用徹底、生徒の健康観察、手すりやドアノブの消毒などの取り組みにより、感染予防を進めていることでしょう。学校行事や部活動の大会が延期や中止となり、様々な制約が今後も継続するとともに、感染者数が急増すれば休校となることがあるかもしれません。
そのような状況でも、学校で「集団で」学ぶことの良さとは、ある問題について「どう思う?」と問いかけ、他者の「こう思うのだけど」を共有し、自己の意見を相対化することにあります。
学びがいのある問題とオンラインも利用した手立てを用意して、直接の対話に限らず、多様な生徒が共に学べる場をつくることができたら素晴らしいと思いませんか。

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