執筆者 新井明

「問いをたてる」という言葉があります。
 生徒が学習をすすめる時に、問題意識をもたせ、それを深める手がかりになるのが、この問いを立てるということです。
今回は、私たち教員が、経済の学習を始める前に、どんな問いがたてられるか、それを生徒から引き出すことをやってみませんかというススメです。

(1)生徒の疑問を集めてみよう
 経済に関して、身近な疑問というのは回答が難しいものが多い、ということを本欄でも取り上げています。(2018年7月号「身近な事例には要注意」)
 そうは言っても、経済の学習をはじめるに際して、生徒が何を疑問に思っているかを知っておくことは悪いことではないはずです。
 いやでもやらなければいけないことを教えるのが教育だとしても、生徒が何を知りたいのかをリサーチしておくのは決して間違いではないでしょう。
 生徒に「日常のなかで不思議だと思う経済に関することがら」をアンケートでとってみたらどうでしょう。それが「問いをたてる」ヒントになるかもしれません。

(2)大学生が持つ疑問
 本当は中高生が持つ疑問をここで提示できればよいのですが、筆者が今教えているのは、大学生と高校生。まず、社会科の教員志望の大学生の疑問からいくつかを紹介ます。
・同じコーラでもお店によって値段が変わるのはなぜ。
・お金がお金を生み出すしくみがわからない。
・全員がお金持ちになることは可能か。
・映画などのレディース・デイがあるのはなぜ。
・タクシーの初乗りが安くなったのはなぜ。
・なぜブラックサンダーは売れているのか。
・ポイントがお金と同じ価値でもちいられるのはなぜ。
・キャッシュバックの仕組み。
・キャッシュレスをどうしてそんなに促進しなければいけないのか。
・銀行やコンビニ、航空会社など一つの分野でサービスの内容がそれほどかわならいのに、複数の会社が存在していること。
・為替の仕組みがわからない。
・お金を発行し過ぎると大変なことはわかるが、秘密裏にやればそこまで影響がないのでは。
・軽減税率の意味。
・アルバイト時給は何によってきまっているのか。
・最低賃金は、その地で生きていけるものなのか。
・需要曲線や供給曲線がなぜ直線でなく曲線なのか。高校ではだれも答えてくれなかった。
・需要も供給も均衡価格も見えないのに、見えないもので成り立っているから本当に正しいのか不安。
・ビュッフェでとれだけ食べても料金が変わらないこと。
・無料というものが多いし、それにみんなが群がっていること。
・日本は借金大国なのに、倒産、破産しないこと。                                    
20近くあげてしまいましたが、素朴な疑問から、かなりレベルの高いものまで集まりました。
中高で、経済の授業をきちんと受けた記憶がないという学生が多く、ここにあげた疑問の多くは中高生とも共有するものではないでしょうか。

(3)素朴理論を大切に
 素朴理論とは、日常生活の中で理論的に追求しないで直感や思い込みで回答してしまう内容を言います。
 経済で言えば、山のジュースの値段などがとりあげられています。上の学生の疑問で言えば、最初のコーラの値段がそれにあたるでしょう。
 多くの生徒の認識や疑問は、最初は素朴理論から始まるわけで、それを大切にして、集めたアンケート回答は生徒自身で探究させたり、仮説をたてて調べたりさせると本格的な学習になる可能性をもつと考えられます。
 その時間がとれないのが、今の学校の現実ですが、先生方もこれらの問題を考えてみると、授業設計のヒントが得られるかもしれません。

(4)高校生の疑問
 最後に、経済の授業開始後にとった高校生の疑問を紹介しておきます。すでに経済の見方や考え方、基本的概念を紹介してたこともあり、彼ら、彼女らの疑問は、経済や経済学そのものに関するかなり本格的な疑問が登場して、授業者としてはびっくりのものでした。
・価格はだれがきめているのか?
・なぜ賃金はあがらないのか?
・市場の崩壊はなぜ起こる?
・経済学者は今の経済問題を解決できないのか?
・誰かが操作しているわけではないのに、きちんと世の中がうごいているのはなぜ?
・世界で使う通貨を統一したらどうなるか?
・経済を数値化できるのは不思議だな。
・経済人のような人間はまずいないのに、そんな存在を考えて良いことがあるのか?
などです。
 さて、皆さんだったら、これらの「問い」どうこたえますか。

(メルマガ 130号から転載)

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