執筆者 新井明
前号でテストに関して書いたので、今回はその後始末から平均を話題にします。テストの点数処理や授業改善のはなしだけでなく、経済にも関係する話も登場します。
(1)平均点は何点?
テストを返却するときに必ず生徒から質問されるものに、「先生、平均点は?」という問いがあります。質問される前に、「今回の考査の平均点は〇〇」と先に伝える先生もいるでしょう。それを聞いて、良かったと胸をなで下ろすも生徒もいれば、がっくりする生徒もいます。
ありふれた風景ですが、かつては「ぼくは平均点なんて出さないよ」という先生もいました。筆者の中学時代の担任です。
彼曰く、「だって、一人が100点で、もう一人が0点だったら、平均点は50点だろ。そんな数字に何の意味があるのかね」。分かるけれど手抜きじゃないかなと、なんとなく釈然としなかった思いがあります。
(2)平均にもいろいろある
生徒たちが求めているのはクラス内の単純な平均です。厳密には相加平均(単純算術平均)と呼ばれるものです。これは母集団の数値を全部足して、母集団数で割って得られます。
母集団が2のようにあまりに少ない場合は、元担任の言うごとく、意味がない場合もあるけれど、十分母集団が多ければ意味はあります。
同じ平均でも、ウエイトを変えて計算する加重平均というものもあります。
テストでいえば、頑張りや伸び率を評価するために中間考査と期末考査のウエイトを変えて評価する場合などがそれにあたります。
例えば、中間考査を4、期末考査を6の割合で評価するときには、{(0.4×中間素点)+(0.6×期末素点)} が加重平均の点数になります。
もし、中間60点、期末70点の生徒がいた場合、24点+42点=66点が加重平均の点数で、相加平均の65点より期末の頑張りが評価されることになるわけです。
これで二つ目ですが、これ以外にも平均は多数あるのです。その一つが相乗平均(幾何平均)です。
テストの結果で相乗平均はあまり使いませんが、経済の世界では結構多く目します。例えば、平均成長率。高度経済成長の時代には年の平均成長率が10%を超えていたなどと説明します。
この平均成長率は、相加平均ではなく相乗平均です。
相乗平均は、成長率の場合でいえば、年ごとの成長率をかけて、その間の年数の累乗根を求めることで得られます。
最初の年に5%、次の年に2%の成長率だったとすると、平均成長率は3.489…%となります。相加平均の3.5%とはずれるわけで、相加平均≧相乗平均になります。
かつて、この相乗平均の問題が「政治・経済」の入試で出題されて、難問とレッテルを貼られたことがありました。相乗平均は数Ⅰの式と計算に必ず登場するので、決してそんなに難しい話ではなかったはずですが、平均点という相加平均ばかりの世界に馴らされてしまった受検生には厳しかったのかもしれません。
ほかにも、調和平均があります。これは平均速度などを計算する場合に登場しますが、ここではそれ以上には触れません。
(3)平均から波及する考え方
平均から広げて注目したいのは、分布です。
平均の世界は、分布でいえば、その位置、中心を示す尺度です。成績でも大事なのは平均より、分布になります。なぜなら、平均を聞くと、それに引きずられて全ての値が平均だと錯覚をおこすからです。
だから、平均のような分布の中心を知るだけでなく、ばらつきがどうなっているのかを知る必要があるわけです。
もう一つ、知っておきたいのはメディアン(中央値)です。データを大きさの順にならべて、ちょうど真ん中に来る値です。合わせてモード(最頻値)も知っておいても良いかも知れません。これは、データ中に一番多く出てきた数字になります。
テストで言えば、クラス内の多数がどのレベルなのかがわかれば、どこまで全体が理解しているのかの状態が把握できます。
経済の世界では、所得分布がこのばらつきと関係します。
例えば、家計の平均貯蓄残高のように分布が正規分布になっていない場合など、単純な平均である相加平均が一番高く数字が出て、次が中央値、最頻値は一番少ない金額になります。だから、平均貯蓄残高が実感より多い数字がでてくるわけです。
子どもの貧困問題も、平均からは見えない中央値、最頻値からデータ的にみてゆくことが必要になります。
(4)ここまでは知りたい
平均から広がってきましたが、さらに分散、標準偏差、変動係数などが登場しますが、これは数学の世界に任せましょう。
ただ、標準偏差はばらつきの大きさが分かるので、知っておいた方が良いものになります。
ちなみに、これらの計算やヒストグラムの図はエクセルを使うと簡単に出せますから、点数処理の時に出しておいて、クラス差や生徒の成績分布なども知っておくとよいかもしれません。
また、経済の世界では所得分布に絡んでローレンツ曲線、ジニ係数などが登場しますが、高校の教科書「現代社会」や「政治・経済」ではすでに登場していますし、ジニ係数を計算させる入試問題も出題されていますので、これは授業で扱っておいた方がよい概念になります。
(5)平均から授業改善を考える
さて、本題の授業改善に関してですが、この話を書くきっかけとなったのは、筆者の「手抜きテスト」の結果です。担当2クラスの平均は67.9点、A組が69.2点 B組が66.7点でした。
相加平均で比べるとそれほどのクラス差はありませんが、得点分布、中央値、最頻値を出してみると歴然と差がでました。A組の方が圧倒的に良いのです。
後で聞くと、B組は学年全体では理系が多く学年で一番の優秀クラスなんだそうです。ここからわかるのが、優秀クラスの合理的手抜きです。論述テストでも、無難なものが多く、減点はできないけれど、似たような論旨だなという答案がいくつか出てきました。
それに対して、A組はなかなか尖った意見がでて、読ませるものが結構ありました。
平均点だけではわからないクラスによる授業の受け止め方の差です。こんな傾向が具体的な形で分かるという意味では、単純な平均だけではなく、一歩すすめて、様々な平均、さらに分散などを調べてみることが授業改善に通じるのではないでしょうか。
さて、B組の合理性をいかに破るか、ロートル教師にとって、なかなかチャレンジングな課題がつきつけられたなというところです。
(メルマガ 126号から転載)
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