執筆者 新井明

センター試験の次に予定されている新テストの第二回目の試行が昨秋行われました。
問題と正解、中間正答率がすでに発表されています。
https://www.dnc.ac.jp/daigakunyugakukibousyagakuryokuhyoka_test/pre-test_h30.html
この新テストのなかの「現代社会」を中心に、これからの授業の改善にどう使うかを考えてみます。

(1)テストからメッセージを読み取る
 新テストは、大学(文科省)が考えている、受検生が身につけて欲しい知とはこのようなものだ、それを身につけるためには現在の授業の在り方を変えて欲しいというメッセージを強く発信しています。それを読み取るには、形式と内容から迫るとよいでしょう。
 まずは形式。これはリード文も含めた場面設定を見ると分かります。
 アクティブラーニング(官庁文書ではこれは使えないと言うことで「主体的・対話的で深い学び」と舌をかみそうな寿限無語になりました)をすすめなさいといメッセージが状況設定から読み取れます。
 また、文章を正確に素早くかつしっかり読み込めというメッセージも発しています。それがでているのは、「現代社会」のリード文と設問の文章の長さです。第二回目は、第一回目より遙かに超える字数が出されています。
 筆者が解いてみてもこれだけの字数の文章、そしてグラフをきちんと読んで解答しようとしたら、50分でもかなりぎりぎりというところです。スマホ読みになれている若者だったら素早く内容をキャッチできるのかと思わないでもないのですが、とにかく、読解力をつける授業をして欲しいということはよくわかります。
 次に内容。「見方・考え方」を働かせるということで、単純な知識問題は減って、かなり高度な内容の原文や資料の読み解き、そこから「見方・考え方」を引き出してとそれを使って理解を試すという問題が出されています。
 ここからは、教科書を読むこととともに、原典資料やデータを使って一段と深い授業を進めてほしいという要求が見えます。

(2)ヒントになるもの
 具体的な事例を少し挙げておきます。
 形式でヒントになるのは、「現代社会」の在外国民の国政選挙権の行使訴訟の最高裁判決を出した問題です。
 新科目「公共」では法教育の一段の強化が目指されていますが、判例学習をここまで徹底的にやってみろというメッセージ問題でしょう。
 同じ「現代社会」のアダムスミスの『国富論』の原文を高校生が訳してみたという設定の問題も、新科目」「公共」を踏まえて、ここまでやってみたらという挑戦意識がよく見える問題です。
 第一回目の試行から出題されている探究学習に関する問題も、こんなことをやっている学校や生徒は極めて少ないと分かりつつ、それでも出すぞという切なる願いが込められた形式と言えるでしょう。
 内容的には、問題に対する考え方を整理する視点を強く打ち出した問題に注目です。
一つは、「現代社会」第一問の問3の経済的自由と精神的自由の二つの考え方をクロスさせグラフにして四つの象限を作り、そこから政策や制度を考えさせるという問題です。
 この方式は、本コラムでも2015年5月号でも同じことを取り上げています。これはぜひ皆さんが、いや生徒に取り組ませて考えさせたい方法です。
 同じような発想の問題が、「現代社会」の第六問、探究学習の問題の問2にも出されています。これは、事実を述べた文と規範を述べた文を分け、さらにどれがどのような社会関係者の立場と関連しているかを整理してゆこうとするものです。
 このような「学び方を学ぶ」、「問題を捉え整理する視点を学ぶ」学習を実際の授業でやって欲しいという、やはり熱い思いが伝わる問題でしょう。

(3)反面教師もあるぞ
 ちょっとほめすぎでしたので、今度は筆者の主観がかなり入りますが、「ちょっとね…」という問題も紹介しておきます。
 例えば、「現代社会」の第一問。学校新聞の記事、見出し、コラムから問題を作っています。ところが、この学校新聞、とても高校生が作ったとは思えない発想と記事のオンパレードです。
 新聞を読め、使えというメッセージかもしれませんが、高校新聞の内容やレベルをほとんどリサーチしていないでムリヤリ設定したことがみえみえで、切ない気分でした。
 ほめたスミスの問題も、高校生がスミスの原文を訳すというのは、ちょっとあり得えるとは思えない設定です。
 また、スミス=見えざる手=自由放任という、現在のスミス理解からは、まだそんなことをいっているのと言う内容の問題が出されています。
 「政治・経済」では、個別的自衛権と集団的自衛権を客観問題としてさりげなく出していたり、弾力性を傾きと表現したりするなど、やはりこれは変だとか困るよなという問題もあります。

(4)Simple is best
 入試問題を筆頭にして、とにかく問題作成は難しい。とはいえ、問題を見るとその先生がどんな質の授業をやっているかが一度でわかるという意味では、試験問題と授業は連動しています。
 新テストの導入は避けられない与件となっている今、入試をてこに授業のスタイルを変えようとするある種上からの施策に対して、現場からの声、専門家からの声をもっとあげてゆく必要があります。同時に、作問者のメッセージを読み取り、授業を振り返ったり改善したりすることもやはり必要です。
 そのヒントが今回の試行問題に詰まっています。是非一度先生方も解いてみられるとよいと思います。

(メルマガ 120号から転載)

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