執筆者 新井明

 読解力向上シリーズの4回目は、教員の読解力に関する話題です。
 今回は、年次大会での検討対象になっている学習指導要領をいかに読むかに焦点をあてます。

(1)読む前に眺める
 当たり前の話ですが、まず読まなければ話は進みません。ところが、学習指導要領など読まない教員が圧倒です。日々の勤務に追われ、教科教育の研究者、指導主事、教科書会社の編集者など読まなければ商売にならない人たち以外で指導要領本文、またその解説までよむ人間は圧倒的少数です。
 とはいえ、学習指導要領は、それが基本になって教科書は作られ、それが強い影響力を持ち、授業に影響するとなると、一度は読んでおかなければ、当面の教育課題や新しい教育内容には追いつけなくなることも事実です。
 そんな余裕はないよという先生方には、読まなくとも眺めるというところから始めると良いでしょう。
 幸い、文部科学省のHPには指導要領本文も、解説もアップされています。そこからダウンロードして、眺めることをやっておくだけでも、スタートは切れます。
 実際に細かく読むのは、冊子が刊行されてからでも遅くはありません。特に授業に関連する重要な情報が書かれている「解説」に関しては、中学校の解説本は近日発売とのことですので、それを手に入れましょう。

(2)指導要領は官庁文書である
 読むポイントの第一は、学習指導要領が官庁文書であることを念頭におくことです。
 官庁文書は、法令審査を通って公示されます。したがって、齟齬がないように精査され一字一句、テニオハ、句読点のつけ方まで注意をはらって作成されます。ということは、定型的な部分が多くなっているということでもあるわけで、その部分はカットして読んでも良いということになります。これで、だいたい半分くらいのウエイトになるはずです。
また、官庁文書では、できるだけ新しいカタカナは使わないことになっています。だから、中教審では、アクティブ・ラーニングを導入することがうたわれていましたが、次期の学習指導要領のなかにはその言葉は入ってきていません。「主体的で、対話的な、深い学び」という形になっています。それは、アクティブ・ラーニングでは法令審査に通らなかったからです。そこから逆に見てゆくと、学習指導要領本文に入っているカタカナ言葉は公認のお墨付きということになります。 
また、官庁文書の特色は、大きな枠組みのなかで作られているという点も抑えておきたいところです。学習指導要領で言えば、憲法や教育基本法という一番大きな枠組みもありますが、中央教育審議会の専門部会の答申が基本的な枠組みとなります。ここで出された答申をうけて、各教科、科目での具体的な内容の検討が行われるということです。その流れを承知しておけば、教科や科目をめぐる変動が押さえられます。
 次期の学習指導要領の経済教育関連で言えば、高校での新科目「公共」の登場が目玉になります。「政治・経済」に関しては、新科目という位置づけになっていますが、実質は現行を大幅に変更するものではないということになります。
 そんな仕組みを知っておくだけで、読解力の向上につながるはずです。

(3)官庁文書でも人間が書いている
 外から見ると、文部科学省というお役所自体が学習指導要領を作って、現場に下ろしていると見えますが、どんな組織でもそれを作っているのは人間です。したがって、学習指導要領も書き手がいるわけです。その書き手が誰なのかは、公表されているわけではありません。指導要領は研究者や作家など個人名で書いている文書ではありませんから当然です。
 ここでも、とはいえです。書き手の推定はできます。その答えは、教科調査官です。教科調査官がだれか、また、教科調査官に協力する協力者がだれかは、指導要領の解説本には出てきますので、それを確認されると良いでしょう。
 つまり、学習指導要領は制約が大きいけれど、どこかに教科調査官の考えが埋め込まれているとみることができるわけです。そこがどこかを推定するのは専門家に任せて良い事項ですが、そんな仕組みを知っているだけでも、官庁文書の味気なさや形式性を超える興味がでてくる可能性があるわけです。何事も、興味からというのは文章読解の一歩ですよね。

(4)指導要領から自由度を確認できる
 学習指導要領の読み方では、それをそのまま受け取るのではなく、現場で実践するとするなら何ができるかという問題意識をもって読まれると良いと思います。
 これは、憲法の立憲主義や刑法の思想と同じです。立憲主義では政府の行動を憲法で縛るもので国民の義務ではないということから、自由の確保ができるということになります。刑法でいえば、ここまでやると犯罪であるという規定を書いているわけだから、それ以外は自由ということになるのと同じです。
 学習指導要領の法的拘束性も同じように考えると、無視もダメだし過剰適応もダメということになります。その中間にある隙間や自由な空間こそ現場教員の裁量部分になります。
 なお、指導要領本文のなかの「内容の取り扱い」の部分に新しい意匠が取り込まれていることが多いのでそこにも注目して読んでみてください。きっと授業のヒントが浮かび上がるはずです。
 教科書ができたあとに、それをもとに授業の工夫をするという前に、ぜひ学習指導要領を正面からだけでなく、裏から、横から、斜めから、「多面的多角的に」読んでみると、新しい授業へのヒントとなる発見があるはずです。

 思考実験という言葉は、新学習指導要領の高校新科目「公共」の「公共的な空間における基本原理」の箇所で登場します。それだけに注目すると、このタイトルはいかにも新学習指導要領に即したもののように見えますが、今回すすめるのは簡単なことで、あたまのなかで立場や視角を変えて考えてみようということです。

(メルマガ 110号から転載)

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