執筆者 新井明

 今回のヒントは、夏の教室での野間先生の講義と篠原先生の講義からヒントを得たものです。
 野間先生は、中学校向けの講義「公民教育の理解の仕方・教え方」で、経済を教える基本的な考え方を紹介されました。この考え方そのものは、すでに2年前の経済教室で講義されていますが、その重要性を今回改めて確認することができました。
野間先生がまとめた経済学の考え方の基本は次の5つです。

①登場人物は合理的個人、
②分業と交換のしくみが経済の基本、
③市場の効率性は世の中をよくする、
④しかし市場には限界(市場の失敗)がある、
⑤それを補正するはずの政府にも失敗もある、というというものです。
また、経済の仕組みには、民間が作る仕組みと政府が作る仕組みがあり、その混合で現実の経済は動いていること、そして、よい仕組みとは何かに関しては、効率性と公正性、安定性などが判断基準になると指摘されました。
これの考え方に基づき、それぞれの経済問題、例えば、金融や財政、労働や福祉などの問題に関して取り組むことができます。
まず、市場ができることを押さえ、市場の限界、それに対する自助努力、それだけで足りない場合の政府の調整、政府の調整もうまくないときにどうするかという流れで、課題を考えさせてゆくというものです。

もう一つのヒントは、篠原先生が東京の高校向けで講義をされた「ブロック経済、ブレトンウッズそして現代」の中での指摘です。
篠原先生は、このテーマを理解するには前提の理解が必要ということで、国際金本位制について触れました。それは次のようなものです。
国際金本位制度は、
①各国が自国通貨と金の交換比率を固定すること、
②各国が金と通貨の交換を保証すること、
③各国の通貨発行量を金準備と連動させること、
④各国は金の国際間の移動を許可すること、の四つの条件が成立するときに成り立つというものです。

そして、それぞれの条件を動かすと以下のような状況が生まれると説明されます。
①を変える場合は、為替レートの変更が起こる、
②を停止するとこの国は金本位制から離脱することになる、
③を守ると、政府に資金が必要な時でも中央銀行は国債を引き受けられない、
④をやめると金輸出禁止で固定為替レートを放棄することになり、逆の場合は金輸出解禁になる、と指摘されました。
この説明の重要な部分は、ある事象を考える場合には、まず基本的な定義や原則を押さえた上で、その要素の一つ一つを動かすと何が起こるか、それを考えることの大切さに触れているところです。

複雑な歴史的な現象や経済現象を授業のなかで生徒に理解させるのは、難しい作業ですが、このような、原則とその要素を押さえて、要素が変わった時に何がおこるのかを押さえておくことで、問題がクリアーに見えてくることが篠原先生の講義から浮かび上がります。
両先生の経済問題に対する捉え方はエコノミストの問題のとらえ方のエッセンスを紹介したものとであると言えるでしょう。
中学でも高校でも、多くの学校では経済の授業は二学期からという学校が多いはずです。経済の授業を始める前に、このような経済学からの問題の把握方法、理解のさせ方を活用したらどんな授業がつくれるか、先生方が振り返ることから始めることをお勧めまします。
そういった振り返りの作業を通すことで、アクティブラーニングが要求している、深い学びに通じるヒントが得られることだろうと思います。 

(メルマガ 104号から転載)

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