執筆者 新井明

 今回はネットワークメンバーの杉田孝之先生(千葉県立津田沼高校)が日頃強調している「教材選択の5条件」を紹介します。

 教材選択の5条件とは、教材には次の5つの条件がそろっていることが必要であるというものです。
 ① 本質性 問題の本質に迫っている教材であること。
 ② 具体性 五感にふれるもの、イメージ化できるものであること。
 ③ 関心適合性 生徒の関心、「ひっかかりの心」に即したものであること。
 ④ 関連性 社会認識の柱である関係認識にかかわりがあること。
 ⑤ 発展性 授業のなかで発展性があるものであること。
 杉田先生の説のルーツは、先生の恩師に当たる谷川彰英先生(筑波大学名誉教授)が唱えてきた説です。
 谷川先生は、この条件にあう教材として、インスタントラーメンをあげて小学校で教材化しています。たしかに、インスタントラーメンは5条件にあっている教材ですね。ほかにも、バナナ、エビなどの実物教材や地名の事例を挙げています。
この伝で言えば、私(新井)が十八番にしているチョコレートの食べ比べなどもこの条件に会いそうです。

 なぜ今このような5条件を取り上げたのかと言えば、杉田先生や金子幹夫先生(神奈川県立平塚農業高校初声分校)と「主権者教育に経済教育からの風を」というプロジェクトに取り組んでいる中で、柳田國男の社会科教科書に出会ったことがあります。
 というのは、5条件をあげた谷川先生は柳田國男の教育論で博士論文を書いていて、この条件は柳田社会科の影響を受けていると思われたからです。

 私たちは柳田を民俗学者としてか見ないことが多いのですが、実は、柳田は教育にきわめて熱心でした。
柳田は、賢い公民の育成による選挙よる国造りが大事であるとして、公民教育や戦後の社会科教育に情熱をかけていました。その成果が、昭和20年代に登場した社会科教科書です。この教科書は中学校用が検定不合格になり、完成しなかったのですが、小学校用は10年ほど使われていました。
 柳田社会科の特色は、当然のことですが、民俗学的な知見がいたるところでみられることです。例えば「あかり」を取り上げて、その変化を追究させながら時代を読ませるなどの教材がとりあげられています。
 それだけでなく、選挙でいえば、「親分子分」や「長いものにはまかれろ」などの日本社会の特質が語られ、それを踏まえて民主主義の在り方や投票、多数決などの実際が取り上げられています。現在の主権者教育のルーツここにありです。
 復刻本がでていますので、いまでも手に取って読むことができますが、時代は変わってもなかなか読ませる教科書です。
 そんな柳田社会科が取り上げている教材の多くが前記の「教材選択の5条件」にぴったりなものが多いのです。その点では、柳田→谷川→杉田とつながっているとみることができるかもしれません。

 系譜さがしはさておき、先生たちも教材探し、ネタ探しを日頃心がけていると思います。そんななかで、本当に使える教材は何か、この5条件にあてはめて教材の選定やそこからの授業づくりに取り組むと、生徒たちの認識の深化や広がりがという大きな成果が得られるはずです。
経済に限らず、いろいろな学習の場面で、ネットワークのみんなで教材探しをやってみませんか。

(メルマガ 100号から転載)

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