執筆者 新井明

 先生方は現在の数学の教科書を見たことはありますか。
 数学と聞くと、それだけでアレルギーが出てしまう先生方も多いかもしれません。かくいう私もその一人です。でも、現在の数学の教科書は、そんな数学恐怖症の人間にもちょっと勉強してみようかと思わせる工夫がされています。

 数学の教科書を見てみようと思ったのは、昨年、夏の経済教室で、大竹文雄先生が戦前の算術の教科書の実物を持参されて、昔の小学生はこんなに難しい問題を解いていたのだと紹介したことが切っかけです。
 確かに、実際に昔の教科書を手に取ってみると、こんな問題を解いていたんだというレベルの問題でした。だったら、今の小学生、中学生はどうなんだろうか。また、経済学の学習には数学的知識がある程度は必要で、それが今の大学生にかけているという指摘もあり、算数(むかしは算術)・数学教育の歴史と経済学習の関係を調べてみようと思ったというわけです。

 調査は江戸時代の『塵劫記』という本から現代までたどってみましたが、今回紹介するのは、その現代の部分です。
 調べた教科書は、ちょうど学校に見本があって借りることができた東京書籍の中学数学の教科書です。
 一読、カラーできれいで、いろいろ工夫をしていることが目につきました。驚いたのは、「社会とつながる」という見開きのページがあり、生活、文化、経済、科学の四分野で数学がどう使われているかという学習ができるようになっていることです。数学の学習指導要領の「数学的活動」という箇所に対応した部分だそうです。

 例えば中学一年生では、「渋滞をなくすには?」や「グラフにひそむ情報を読みとこう」「データでスポーツを科学する」というテーマで、生活と経済、科学と数学の関連が説明されています。
 中学二年生では、「点字を読んでみよう」です。ほかに「アクチュアリーを知ろう」というテーマもあります。アクチュアリーに関しては、保険と数学の関係が説明され人口ピラミッドまで登場しています。
 中学三年生では、「どれくらい遠くからみえるかな?」や「紙の大きさとコピーの倍率」「割引クーポンで売り上げアップ」が登場。クーポンではPOSが解説されています。
 もちろん、教科書にあるからそれがきちんと教えられているとは限りませんが、素材としてでも社会科や公民科の経済学習と接近した事例が扱われていることは驚きでした。

 今年の夏の経済教室で、大阪狭山南中の奥田先生がおっしゃっていました。実践報告で紹介された、アクティビティを通して行わせる比較優位の発見の授業。同僚の数学の先生に話したら、この程度の計算なら中学生でも簡単にできますよと言われたそうです。
 ことさら総合的な学習などといわずとも、教科どうしのちょっとした交流や情報交換で勉強の風通しや視野がひろがることがここからわかります。
 先生方も一度、算数や数学の教科書をのぞいて、ご自身で確認されるとよいと思います。ここから、経済の授業のヒントがえらるかもしれません。
 なお、大竹先生の昔の算数教育に関する指摘は、以下のページで読むことができます。
 https://www.jcer.or.jp/column/otake/index795.html

(メルマガ 92号から転載)

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