執筆者 新井明

 「三匹の子ぶた」は法教育で有名な教材です。それを今回は、経済教育でも読み解いてみましょう。学ぶ項目は機会費用です。
 機会費用は、何かを選択した時に放棄したなかで一番価値のあるもの、すなわちセカンドベストを含んだ経済的費用のことです。
 経済の基本概念で、経済学習の最初に登場するのですが、なかなか理解しにくい概念です。というのは、この機会費用、選ぶものが二つの場合なら、選ばなかったものになり、当たり前じゃんということになります。
 でも、三つ以上になると何を価値判断の基準とするかによって額がちがってくるし、そもそも見えない部分をくみいれて費用とするという発想そのものを理解するのが結構難しいことになります。

 「三匹の子ぶた」では、長男、次男、末っ子の三人が登場します。オオカミ対策でそれぞれ家を建てますが、長男はわら、次男は木、末っ子はレンガの家を建てることになりました。この時、わらの家は100円、木の家は200円、レンガの家は500円の建設費用がかかるとすると、経済的費用はいくらになるでしょうというのが質問です。ただし、長男はわら>木>レンガ、次男は木>わら>レンガ、末っ子はレンガ>木>わらを選好するとします。

 長男、100円+200円=300円が経済的費用(機会費用)を投じます。
 次男、200円+100円=300円が経済的費用(機会費用)です。
 末っ子、500円+200円=700円が経済的費用(機会費用)となります。
 この時、だれが一番合理的かは、オオカミの襲撃がどのくらいの被害を与えるかの見込みによります。例えば、その被害が500円分だとすると、長男と次男は、被害想定額よりも少ない費用しか投じていないので、被害の方が多くなります。つまり、家を吹き飛ばされてしまう。
 末っ子は、被害想定額より多くの費用を投じて対策をたてていますから、安全と言う訳です。
 もし、オオカミの襲撃被害が丁度700円分だったらどうなるでしょうか。これは、経済学的には無差別(どちらでもよい)ということになります。だから、オオカミは煙突から忍び込もうとするわけです。
 700円を1円でも超えていたら、オオカミの勝利でレンガの家も「想定外」で吹き飛ばされることになります。こんな話にはなっていませんね。

 このように、私たちは想定される収益(この場合は被害)予想と、投下した費用、この時の費用は目に見える費用だけでなく、放棄した部分も含めた経済的費用(機会費用)を比較して、どれだけ消費したり投資したりするかを考えます。
 見える費用だけで物事を考えてはダメだよという、ちょっと単純だけれど大切な考え方を「三匹の子ぶた」から、経済の授業では引き出すことができそうです。
 数値例だけは不満足な向きには、ここからいろいろなストーリーを考えてみてください。
 三匹の家の建設費用はどう調達したのか。原作(英国版)では、出会った人に材料をもらったことになっていますが、それはあり? それとも、遺産相続?兄弟なかよくだったのか?家の費用以外に兄二人は、相続したお金を何に使ったのか?などなど。

 ちなみに、法教育では、「三匹の子ぶた」の兄二人はオオカミ食べられて、末っ子は、オオカミを煮て殺してしまいます。その時、末っ子には、オオカミ殺しの殺意があったのか、それとも過剰防衛だったのかを考えさせるというちょっとおそろしい話「殺オオカミ事件」になっています。

(メルマガ 79号から転載)

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