執筆者 新井明

 大竹文雄先生の『経済学のセンスを磨く』日本経済出版社刊、のなかに落語「千両みかん」を素材に価格と価値、勝者ののろい、シグナルを扱った文章がありました。

 落語には経済を教えるヒントが結構あります。「千両みかん」もそうですし、有名な「花見酒」などもそれにあたります。「花見酒」はかつて柳信太郎氏が『花見酒の経済』という本を出して高度成長政策を批判したので論争になったこともあります。現在のアベノミクスも「花見酒」かどうか、吟味をしてもよさそうですね。

 ほかにも「宿屋の富」とか「芝浜」などは経済に絡んだ展開ができるでしょう。同じ落語でも東西で違うので、その違いから経済史の話もできます。

 東西の違いと言えば、先にあげた「宿屋の冨」は関西の「高津の冨」が源流だそうです。すこし横道にそれますが、筆者は亡くなった桂枝雀が好きで、良く聞きます。枝雀師匠の「高津の冨」のまくらには、「お金には回るルートがあるんですね。だから、そのルートのニアバイにいる人には回るけれど、ファーラウエイにいる人には回って来ません。そして、お金は寂しがり屋なんですね。少しでも仲間が多い方に集まろう集まろうとします。ですから、沢山のお金を集めようとしたら、まずお金を沢山ためなければなりません」という文言があり、言いえて妙だと感心をしています。

 落語は、経済だけでなく古文の学習(「千早ふる」など)でも、人間理解のための素材(談志いわく「落語とは人間の業の肯定」)でも、とにかくいろいろな使い道があります。資料として使うだけでなく、先生方も教室で一席語ると、生徒から笑いがとれ、尊敬されるかもしれません。いや笑われて、あきれられるだけかもしれませんけれど。
 なお、落語の内容は、『古典落語』上下(講談社学術文庫)などで参照してください。

(メルマガ 78号から転載)

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