執筆者 新井明

 今回のヒントは、内容というより、問題提起です。

 減価償却の考えを教える必要があると思ったのは、現在、医療関係のコンサルタントをしている元教科書編集者の発言です。彼はこう言います。「病院経営のトップマネジメントを担う医師が、財務について驚くほど無知なことです。減価償却費の意味するところもよく理解していない、損益計算書とキャッシュフロー計算書の相違もつかめていない、況んや損益計算書とバランスシートの関係も腑に落ちていないというのが日常の風景です。これで従業員を抱えて銀行から金を借りて投資しようとするのですから、実におそろしい話です」。「これって高校以下の学校教育の責任も小さくないと思うところです」。と言うものです。

 もちろん、彼の意見が完全に正しい訳ではないでしょう。また、医者に会計学を教えろとか、高校で会計を必修にしろと言うことでもないでしょう。真意は、経済的な見方や考え方が大事なのですが、それだけでなく投資や借金などに関して、しっかりその意味や構造が理解できるようにすることが、現在の教育でおろそかにされているということを言いたいのだろうと思います。

 では、どのように減価償却を教えるか。部会報告でもあるように大倉泰裕先生が授業案を作成されています。内容の紹介は、ウエッブ上で行われるはずですので、それを待ちたいと思います。中学では、升野伸子先生が生産の教え方で減価償却の考え方も教えられる内容の授業案を作成中です。

 ちなみに、先生方のなかで確定申告をしている人は経験があるでしょうが、パソコンの減価償却は4年です。カメラは5年です。買った金額が一度に費用として計上できるわけではないのです。ここから国民所得の固定資本減耗の理解まではもう少しです。

 私たち教員は、リアルな経済との接点は多くはありません。だからこそ、まずは身近な事例で減価償却の考え方、さらには、複式簿記の考え方を、現在のカリキュラムのなかで自然に、かつやさしく教えられるような授業案を開発してゆく努力が、もっと求められていると言えるでしょう。

(メルマガ 77号から転載)

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