執筆者 新井明

 高校の経済分野のなかで教えずらいものの一つに三面等価があります。三面等価そのものを導く国民経済計算の仕組みが教えづらいこともありますが、それ以上に三面等価を教えたとして、それが一体どんな意味を持つのかが教科書では触れられておらず、生徒に言葉の暗記を強いるだけの終わり方をするケースが多いことと思います。実は、この先が重要で、ここから総生産(総供給)=総支出(総需要)が導かれ、さらに、総生産=消費+投資+政府+(輸出-輸入)のISバランスの式が導かれるというところまでゆかないと、三面等価の妙味は味わえないのですが、そこまで踏み込んだ教科書は、これまでは桐原書店のものと東京学習出版社(山川出版社)の二冊のみでした。それらの教科書は、新課程で姿を消してしまいました。

 三面等価から導かれたISバランスの式からは、さらに、国の借金は国民の財産であるということや、貿易黒字や赤字は家計や企業の黒字赤字とは違うという理解まで進めることができます。ここまで行くのはなかなか難しいかもしれませんが、少なくとも教える先生たちが見通しをもって、教室でこの部分を扱う必要があるでしょう。

 教科書からISバランスが消えゆくなか、ネットワークのメンバーの北海道の菅原晃先生が書かれた『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』という本が河出書房新社から出版されました。先生が自費出版されたものをベースとした本です。山形浩生さんに序文も付き、以前の本に比べて読みやすくなり、活用できる本になっています。三面等価からはじまり、貿易黒字、貿易赤字、比較優位、国債、財政政策、金融政策まで全6章の本です。手に取ればきっと授業のヒントが得られるだけでなく、考えるためのしっかりした分析道具をもつことがいかに重要かが理解できると思います。

(メルマガ 57号から転載)

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