執筆者 新井明

 東京部会報告にもありましたが、3月11日の地震・津波・原発事故に関しては、なんらかの形で授業で取り上げる必要がでてきています。宮尾尊弘先生が、そのために参考になる本と書評を4月24日に「オープン討論室」に投稿されています。すでにご覧の方も多いでしょうが、もっとひろく知っていただくために、全文を再掲させていただきます。先生方も、これを参考に、ご自身で文献を参照され、生徒に自ら考察させる授業を実践されることを期待します。また、「オープン討論室」への投稿も期待しています。

「大震災」と「原発問題」に関する本の書評

「大震災サバイバル本」
1.『1億人の防災ハンドブック:大震災・テロを生き抜く!』監修青山ヤスシ(2005年、ビジネス教育出版社)
 http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-8283-0091-7.html
 このウェブサイトにある目次から分かるように、今から6年も前に大地震と津波の危険性を指摘、それも「今後、宮城県沖で大地震が発生する確率は、(2005年を起点として)10年以内で50%、30年以内で99%」という研究結果を最初に示した上で、防災対策を論じている点は凄い!
2.『大震災サバイバル・マニュアル』朝日新聞社編(1996年第1刷、2011年第8刷、朝日文庫)
 http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1101312989
 1995年の阪神大震災から学んだ防災の知恵がつまった「すぐれもの」の文庫本で、特に「電話も同じ域内はかかりにくかったが、被災地から遠い地域へは案外簡単につながった。地震の翌日の18日にフランスから安否を気づかう電話がかかった」など、今回の東日本大震災でも見られた現象がすでに指摘されている。

「原発と放射能に関する本」
 原発に関する本は、大別すると「推進派の本」と「反対派の本」に分類される。
1. 「推進派の本」、この種の本の多くは「ワック」(WAC)から出版されている:
 1-1 『私たちはなぜ放射線の話をするのか』木元、碧海、東嶋(2008初版、2011第3刷、ワック)
 1-2 『放射能の健康への影響』大朏博善(2008年初版、2011年第2刷、ワック)
 1-3 『放射線の話』大朏博善(2002年初版、2011年第3刷、ワック)
 これらの推進派の本の主張の主な柱は以下の通りである:
 (1A) 原発の重大事故が起こる可能性は極めて小さい。
 (1B) 仮に事故が起こっても原発周囲への放射性物質の放出と範囲は限定的。
 (1C) 放射能汚染による健康への悪影響は予想より軽微。

2.「反対派の本」、この種の本の多くは「七つ森書館」から出版されている。
 2-1 『食卓にあがった放射能』高木仁三郎、渡辺美紀子(2011年、七つ森書館)
 2-2 『内部被曝の脅威』肥田舜太郎、鎌仲ひとみ(2005年第1刷、2011年第3刷、ちくま新書)
 2-3 『原子炉時限爆弾』広瀬隆(2010年第1刷、2011年第3刷、ダイヤモンド社)
 これらの反対派の本の主張の主な柱は以下の通りである:
 (2A) 原発はどんなに安全といわれても重大事故が起こり得る。
 (2B) 仮に事故が起これば、放射性物質は広い範囲に拡大していく。
 (2C) 放射能汚染はたとえ微量でも健康に悪影響を及ぼす。

 福島原発事故によってこれまで明らかになった事実は、推進派の(1A)ではなく、反対派の(2A)の主張「原発はどんなに安全といわれていても重大事故が起こり得る」という主張の柱が支持されたように見える。
 しかしこのことは、必ずしも反原発派の他の主張である(2B)や(2C)が正しいことを意味しているわけではない。
 実際に、今回起こったことを客観的に見るならば、少なくとも今までのところは、推進派の主張の柱である(1B)「事故が起こっても原発周囲への放射性物質の放出と範囲は限定的」と(1C)「放射能汚染による健康への悪影響は予想より軽微」という見方が崩れたとは言えないようである。
これについては、以下を参照:
 『原発推進と反対との岐路に立って』宮尾尊弘(2011年4月22日、日本英語交流連盟): 
 http://www.esuj.gr.jp/jitow/jp/contents/0322.htm

(メルマガ 28号から転載)

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