①どんな本か
2008年(日本語訳は2009年)に刊行された『実践行動経済学』の増補完全版で、著者曰く「最高の入門書であり完全版」と称する本です。
前著から10年以上たった行動経済学の到達点がわかります。
②本の内容は
全体は5部14章に分かれています。
第1部は、「ホモ・エコノミクスとホモ・サピエンス なぜナッジは必要か?」で、3章からなっています。
ここは旧版とほとんど変わらず、ナッジがなぜ必要か、またその思想がリバタリアン・パターナリズムであることが述べられています。
第2部は、「選択アーキテクト(選択設計)のツール」で、 5章からなっています。
ここではナッジを使うべきタイミングからはじまりナッジの設計、具体的なナッジの事例、そしてナッジの悪用であるスラッジが紹介されています。
第3部は、「お金のこと」で、 3章構成です。
ここでは、貯蓄、年金プラン、住宅ローン、クレジットカード、保険などパーソナルファイナンスに関するナッジの事例が扱われています。
第4部は、社会を見直すで、2章で構成されています。
ここでは旧著で著者が誤読されたという臓器移植のナッジに関する見解がのべられています。また、地球環境問題に関しての言及があります。
最後の第5部は、「ナッジの苦情受け付けます」とのタイトルで、6つの苦情に対する著者の回答が書かれています。
③どこが役に立つか
旧著は多くの読者を獲得しましたが、著者も言うように10年以上たったその後の成果と課題、また批判に対する回答が求められるとして刊行されていますから、行動経済学のひろがりを実感することができるでしょう。
特に、コロナ対応でのナッジの事例なども言及してるので、最近の動向までふまえて読むことができます。
もちろん、初めて手にとる先生方にとっては、第1部のナッジの意味やリバタリアン・パターナリズムという立場を知ることができる入門書として活用できるでしょう。
金融教育に関心のある先生にとっては、第3部は行動経済学の金融における活用方法を整理するのに役立つでしょう。
また、新たに付け加えられた、スマート・ディスクロージャーの話、スラッジの話なども、ナッジの学習に際して活用出来る箇所となると思われます。
ちょっと大変ですが、本書で登場するナッジ、スラッジの事例を集めて、日本の現状と照らし合わせて授業のネタとして使えるモノをピックアップするという利用法もありです。
④感想
前書きと後書きがとても面白いと思いました。
前書きは、多分セイラーが書いていると思われますが、なぜ改訂をしたのか、それを完全版と銘うったのかなど内輪話が面白い。とにかく人間くさくて思わずニヤリとしてしまう記述もでてきます。
後書きは、こちらはサンスティーンと思われますが、この10数年間の世界の変化のなかで課題はますます多く深刻化しているけれど、未来への希望を書いているところに、悲観論者の紹介者としては、ちょっと希望を見つけた気分になりました。
この本、大竹先生の『行動経済学の使い方』(岩波新書)や『行動経済学の処方箋』(中公新書)を手元に置きながら、比較参照して読むと、先ほどの授業ネタとしての活用が見えるかとも思いました。
大竹先生の本はこちらのネットワークのHP参照してください。
(経済教育ネットワーク 新井 明)
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