①どんな本か
  2018年に初版が出された一般経済史の本です。キーワードは経済成長です。
基本は講義用の教科書ですが、経済学や歴史学を学ぶ際の副読本にもなるし、一般および教員向けの教養書にもなる本です。

②本の内容は
 入り口で、経済はなぜ成長するか?人類はいかにして十万年もの間、生存してきたのか?経済は実際にいかに成長してきたのか? の三つの問いをなげかけて、それを通時的な比較、共時的な比較の二つの方法で説いていきます。
 また、経済学の基本概念と人文系社会科学の基本概念を相互に定義しながら、経済学と経済史を説く構成になっています。
 全体は序章と本論5部、終章の全7部から構成されています。
 序章では、経済史とは何かが説明されています。そこでのキーワードは、経済成長、際限のない欲望、効率性、分業などです。
 第Ⅰ部では、経済史学の方法について述べられています。
 第Ⅱ部は、主に西洋における前近代の社会の様相と発展が概観されています。そこでは前近代社会における欲望の抑制の仕組み、市場・貨幣・資本の動向が扱われています。
 第Ⅲ部は、近世です。時代で言えば封建制から絶対主義の時代です。歴史的な展開に即して、市場経済の発達、市場と経済活動の関連、経済と国家の動向、経済規範、近代への移行が扱われます。
 第Ⅳ部は、近代です。産業革命から始り、資本主義経済の経済制度、国家と経済、自然と経済、家と経済、資本主義の世界体制が扱われます。
 第Ⅴ部は、現代です。時代でいえば20世紀が扱われます。近代と現代の差異、第一のグローバル経済としての第一次世界大戦と第二次世界大戦、第二のグローバル経済の時代として20世紀末までが扱われています。
 終章では、出口の問いとして、入り口での三つの問いに対する著者なりの回答、そしてこれからの時代のいくつかの可能性が書かれ、全体を閉じます。
 
③どこが役立つか
 歴史を経済の視点から教えるということが部会で話題になりました。
 では経済から歴史を見たらどうなるか、また、経済で歴史をどう教えるかを考えるヒントが詰まっている本です。
 経済社会の変貌を際限のない人間の欲望とそのコントロールのあり方から説いてゆく方法は、経済学習に歴史のバックボーンを通すことができるという意味で、通読することで授業の厚みが増すと思われます。
 中心は西洋経済史ですが、途中に挟まっているコラムでは経済学との関連で具体的な事例(例えば琉球処分、教育勅語など)が分析されています。こんなコラムを読むだけでも授業のヒントが得られるかもしれません。
 経済史を、物質的生産や金融などの経済面だけでなく、国家、自然、家などの面から扱う点、精神活動が経済に果たす重要性などの指摘も、歴史学習の成果をどう経済学習に取り入れるかを考える手がかりとなるでしょう。
 特に、「歴史総合」を担当している、せざるを得なくなった公民科の先生にはオススメの本です。また、著者も「望むらくは好奇心のあふれる高校生諸氏にも読んでもらいたい」と書いているように、生徒に勧めてもよい本といえるでしょう。

④感想
 小野塚さんの本をはじめて手に取りました。東大経済学部で経済史の講座を担当していた方ですが、ノーマークでした。
 きっかけは、知人に紹介された『神奈川大学評論』という雑誌の101号で、「食糧の平和」というタイトルの、京都大学の藤原辰史さん(農業史)との対談を読んだことです。
ウクライナ戦争を契機として行われた、この対談が非常に面白く、小野塚さんという人はどんなものを書いているのかということで見つけたのがこの本でした。
 経歴や著作からみると、大塚久雄さんの系譜の方(岩波文庫の大塚久雄『共同体の基礎理論他六編』の編と校訂をしています)のようですが、現代の経済学の知見も含めて幅広い研究、著作を行っている人ということを知りました。
 小野塚さんのプロフィールを見ると、研究地域の料理を作るのがゼミの名物だったとのこと。対談でもこの本でも食糧問題が歴史を動かす動因の重要な要素として指摘されています。
 本書の最後のこれからの展望を、先に紹介したセイラーとサンスティーンの著の楽観論と比較することで、どちらに共感を示すか、先生方の世界観の一種のリトマス試験紙にもなるなと感じました。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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