①どんな本か
・4月から導入される「歴史総合」を学ぶという3巻のシリーズ本の第1巻です。
・高校教師(現在は校長)の小川さんと大学の歴史学者である成田さんがそれぞれの章で課題テキストとして3冊の本をとりあげ、そこからの対話と、そこでとりあげられた著者の専門研究者との対話による歴史の見方・考え方についての本です。

②本の内容は
・全体は三部、5章にわかれています。腰巻きのタイトル流に言えば、1時間目から5時間目の授業に相当する内容です。
 第1章 近世から近代への移行で、ゲストは中国近世史の岸本美緒さん
 第2章 近代の構造・近代の展開で、ゲストはイギリス史の長谷川尊彦さん
 第3章 帝国主義の展開で、ゲストはアメリカ史の貴堂嘉之さん
 第4章 20世紀と二つの大戦で、ゲストはアフリカ史の永原陽子さん
 第5章 現代世界と私たちで、ゲストは中東史の臼杵陽さん
・課題テキストとして取り上げられている本は15冊あるので、最後の5章の箇所で上げられている本だけを紹介しておきます。
 中村政則『戦後史』、臼杵陽『パレスチナ』、峯陽一『2100年の世界地図アフラシア』、いずれも岩波新書です。
・各章末に、編者の小川さんが作成した「歴史総合の授業で考えたい歴史への問いというコーナーがあります。ここも、最後の5章からピックアップしておきます。
 「日本の高度成長はなぜ起こったのだろうか。その理由を世界史の視野から考えると、どのようなことが見えてくるだろうか」
 「100年後の世界が課題にはどのようなものがあるだろうか。その課題を考えるとき、どのような歴史に着目すればよいだろうか」

③役立つところ
・歴史総合が何をめざしているのか、どのような授業を構想しようとしているのか、対話とゲストの専門家の知見から浮かび上がる本です。
・公民科だけれど、歴史総合を担当しなければならなくなった先生には即役立つ内容と思われます。また、最近の歴史学の動向を知りたいと思っている先生方にも、役立つ内容です。
・課題図書として上げられている本をどのように読み、そこから何をくみ出すのか、二人の編者の視点の違いなども含めて役立ちそうです。特に、若い先生方にとって取り上げられている古典的新書、例えば、大塚久雄『社会科学の方法』、丸山真男『日本の思想』などを読む機会になるかもしれません。
・②でとりあげた、章末の多くの問いは公民の授業でも参考になるでしょう。

④感想
・歴史と公民の接続を考えるうえで役立つ本と思いました。
・例えば、「市民革命が現代政治の枠組みを作ったと見なす公民科の学びと組み合わさることで、欧米の歴史が人類の歴史と見なされる」という指摘や、「ウエストファリア体制で主権国家体制が確立したと見るのは、19世紀の視点を現代に投影した神話」というような指摘をどう受け止めるのか、授業担当者どうしだけでなく研究者や教科書関係者が考えなければいけない課題でしょう。
・とはいえ、歴史総合の導入で、歴史を通史として学ぶ機会がいままで以上になくなることになり、大丈夫かなとも感じます。合成の誤謬にならなければよいがというのが正直なところです。
・なお、経済教育でも、現場とエコノミストが共同でつくりあげるこの種の本が必要ではと感じています。

(経済教育ネットワーク 新井 明)

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